《完結》【蒼明記・外伝】カメラ越しに映る彼女たち―――   作:雷電p

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[ ??? ]

 

 

 

 ガチャン―――――――ガチャン―――――――――

 

 

 

「………くっ………!! コイツ、ビクともしねェ………!!」

 

 

 両手足に架せられた手錠が俺の行動を妨げ続け、離れようともしない。 あらゆる方向に向かって何度も振り回したり、千切ろうともして試みるのだが、金属の軽い音が響くだけでそれ以上の進展は見受けることが出来なかった。

 

 

「これ以上、能力の上書きが出来ないのが痛手だったな………」

 

 

 本来ならば、この程度のモノなら肉体強化を最大限に活用させることで振りぬけられるのだが、この能力は身体の一部のみしか、強化することが出来ないとしている。 そのため、つい先ほど精神強化を施したことで他の部位、器官の強化はまったく持って望むことが出来ないのである。

 

 便利である一方での限定条件は、この時の俺に強い負荷として圧し掛かる。

 

 

「さて………これをどう切り抜けようか…………」

 

 

 やや途方に暮れながら仰向けになり、薄暗い天井を臨んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 すると―――――――――――

 

 

 

 カチャ――――――――――

 

 

 

 

「ッ――――――!!」

 

 

 どこかの扉の鍵が開いたような音が聞こえてきたのだ。 この部屋ではない、一歩前に出たところから聞こえてくるようで、一瞬、身体を強張らせた。

 

 トン―――――トン―――――と軽く小刻みに足音を立ててこちらにやって来ようとしていた。 一体誰が? 脳裏に過るのは、エリチカの姿――――――しかし、アイツがすぐに帰ってくるとは思えなかった。

 

 

 では、一体…………?

 

 

 その小さな足音がこの部屋の扉の前で止まったかのように感じると、ドアノブを回し始める。 ゴクッ――――と音を立てながら固唾を呑み込み、その様子をじっくりと見つめていた。

 

 

 

 カチャ―――――――――

 

 

 

 ゆっくりと開いていく扉――――――――すると、そこに現れたのは――――――――――!!

 

 

 

 

 

 

 

―― 

――― 

―――― 

 

 

 

[ 神田町内・公園 ]

 

 

 

「やっぱり、ここに来て正解だったようね………」

 

 

 わずかな茂みの中から息を潜めて、目標人物に焦点を当てる真姫が確信を抱いたような言葉を放つ。 その言葉に賛同するように、共に眺めるにこと凛もそれに大きく頷き反応した。

 この3人は、絵里を見つけ出すために編成された組で、彼女が進む道の先には、必ず蒼一がいるものだと考え、その行動を見つめていたのだった。

 

 

 しかし、誰も彼女が蒼一が居たところから出てきたということを知らない。

 

 

 

『真姫ちゃん。 こちらも絵里ちゃんのマークを確認しました。 そのまま街路地の方を進んでいくようなので、気付かれないように行動してみてください』

 

「わかったわ。 それじゃあ、そっちでも見張っててね」

 

 

 真姫は、耳元に取り付けられたインカムに向かって洋子と語りあっていた。

 彼女たちが行動を起こす直前に、もしものためにと安易な連絡手段を備えさせていた。 そのため、モニターで監視している洋子と連携しつつ、絵里の行動を把握するのであった。

 

 

「真姫ちゃん……! 絵里ちゃんが見えなくなってきたにゃ……!」

 

 

 指をさしながら小声で話す凛の言う通り、彼女たちの視界から絵里の姿が見えなくなってきていた。 「それはまずいわね…」と眉をしかめた表情で言うにこは、すぐに彼女を追いかけるようにと2人に諭した。 それに同意する2人は、すぐさま行動に出て身を隠しつつ尾行し始めた。

 

 

 

「絵里は一体どこまで行くつもりなのかしら?」

 

 

 絵里が街路地を進んでいくと、人目につかない場所にまで入り込んでいた。 当然、周囲には一般人はおらず、また物音さえも聞こえなかった。 3人は余計に慎重になりながら息を潜め、彼女が進んでいくところを監視し続けていた。

 

 

「あっ……! にこちゃん、真姫ちゃん……! 絵里ちゃんが……!」

 

 

 凛がハッとなった声を上げると、絵里がとある建物の敷地中に入っていくのが見えた。 施錠されてあった門を開き、敷地内を真っ直ぐ進んでいくと建物の中にへと消えてしまったのだ。

 

 

 

「ここって………」

 

 

 3人が目を丸くさせながら見ていたこの建物とは………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「旧……音ノ木坂小学校………!」

 

 

 

 ここ数年前に、廃校になったばかりの彼女たちの母校だったのだ。

 

 

 

「どうして、絵里ちゃんがこの中に入っていったのかにゃ……?」

 

「知らないわよ、そんなの。 けど、これで居場所がハッキリとしたんじゃないかしら?」

 

「そうね、早くそのことを洋子に伝えなさいよ」

 

 

「わかったわ」と相槌を打つと、早速、真姫はインカムに話しかける。 だが――――――

 

 

 

「……おかしいわねぇ?」

 

「どうしたの、真姫ちゃん?」

 

「それが、全然連絡が取れないのよ………」

 

「はぁ?! ちょっと貸してみなさいよ!」

 

 

 ありえないと言わんがばかりの表情で、にこは真姫からインカムを乱暴に取ると、自分でも試し始めてみた。 しかし、何度応答をかけても反応は無く、聞こえてくるのは砂嵐のようなノイズのみだった。

 

 

「だめだにゃぁ……にこちゃん、携帯も繋がらないにゃぁ………」

 

「ッ―――――!? そんなはずないでしょ?!」

 

 

 凛のその言葉に疑いを抱いたにこは、スマホを取り出し画面を確認してみせた。 だが、そこに書かれてあったのは『圏外』の2文字が………

同じく真姫も自分のも確認してみるのだが、右に同じくであった。

 

 

「どういうことよ……? どうして、繋がらないのよ……?」

 

「まさか……ここら辺とかが、呪われてあったりとかするのかにゃぁ……?」

 

「ばっ、バカなことを言わないでよ、凛!!」

 

「でも、そうでなかったらどうやって説明するの? 幽霊とかじゃないと説明できないにゃぁ~!!」

 

「落ち着きなさいよ、凛! いいかしら? 電波が使えなくなるのには、他にも理由があるのよ。 例えば………そうね、妨害電波とかかしら? そうしたものを使えば、この現象にも説明がつくわよ」

 

「なるほどね……蒼一がいる場所を特定されるわけにはいかないから、わざわざそんな手の込んだことをしたってわけね」

 

「逆に言えば、そうせざるを得ない理由があるとしたら……?」

 

 

 

 3人は顔を見合わせると、小さく頷く。 互いに目を鋭くさせて、その真剣さを露わにしていた。

 

 

「それじゃあ、早速、中に入って蒼くんを助けに行くにゃぁー!!」

 

 

 意気込んだ凛は、目を炎のように燃えたぎらせて、すぐさま中に入っていこうと突っ走っていこうと門をくぐっていこうとした。

 

 

 

「「待ちなさい、凛!」」

 

 

 しかし、その行動は2人の声により静止せざるを得なかった。

 門の近くにまで来て立ち止った凛は、不服な表情を浮かばせて真姫たちに話す。

 

 

「どうして止めるの?! 早くいかないと、蒼くんが大変なことになっちゃうんでしょ!? 猛ダッシュしていかないと………!!」

 

「だから、少し落ち着きなさいよ、凛。 あなた1人だけで先走っても上手くいくとは限らないんだから」

 

「それに、相手は絵里な訳なんだし、にこたちが行ってどうなるかってのも分からないじゃないの」

 

「じゃあ、どうすればいいの? 時間も限られているはずだし……もう、凛は我慢できないよぉ~……!」

 

 

 凛は、ムスッとしながらも真姫たちの正論を聞き耳に入れてはいたが、かなり待ちきれない様子で、その場で足踏みし続けていた。 凛にだって分かっている。 この状況はとてもではないが、有利とは言えないことを穂乃果と対峙したことで身体に沁みついていた。 穂乃果よりもはるかに凌ぐ絵里と対峙すればひとたまりもないことは十分理解していた。 けれど、それでもどうにかしたいと言う気持ちが前に押し出ているため、歯止めが効かなくなりつつあったのだ。

 

 

 だが、その気持ちを理解できない真姫たちではなかった。

 

 

「だからこそ、落ち着きなさいって言っているのよ、凛」

 

「無暗やたらに突っ込んで行っても、絵里の思うつぼよ。 こっちもちゃんと考えて行動しないといけないわ」

 

 

 2人の真剣な眼差しと口調が落ち着かない凛の心を抑え始める。 それを感じた凛は、動かしていた足を止めて2人に近付いていく。 凛が近くに来たあのを確認すると、にこが口を開く。

 

 

 

「2人とも、分かっていると思うけど、相手はあの絵里よ。 ちゃんとした考えを持って行動しないといけないわ。 そこでね、私に考えがあるわ」

 

 

 にこから提案が出されると、他2人の顔が一気に彼女に近付く。 2人とも真剣な表情で聞き耳を立てる。

 

 

 

 

 しかしそれは、意外とも捉えられる考えだった。

 

 

 

 

 

「凛、あなたはすぐにここから離れて洋子に連絡を入れなさい」

 

「えぇっ?!! どうして凛がそうしなくちゃいけないの!!?」

 

「いいから聞きなさい。 まずはね、数を揃えた方がいいと思ったのが1つの意見よ。 さすがに、この3人でいくのも大変だと思うからね。 次に、絵里と対等にやりあえる人がいた方がいいと思っているの。 明弘か希、この2人だったらどれぐらいかは分からないけども、時間を作ってくれると思うの。 そして、数が多くあれば、蒼一を探すことが出来ると思うからよ」

 

 

 にこが提示した3つの考えに凛は理解をした様子で、うんうんと頷いていた。

 

 

「そうかぁ! 確かに、そうすれば上手くいくかもしれないね!」

 

「でっしょ~! 私としても、いい考えだと思ってるわ♪」

 

「にこちゃんにしては、だけどね」

 

「ちょっとぉ! その一言は余計よ!!」

 

 

 真姫からの余計な一言に、それを瞬時に跳ね返すにこのやり取り―――――この緊迫しかかった空気の中でのこうしたコント染みた会話は、彼女たちの緊張を解すのにはちょうど良いモノだった。 お互いの口から笑い声が漏れだし、余裕のある表情となったのだ。

 

 

「それじゃあ、にこちゃん、真姫ちゃん! 凛、先に行ってみんなに伝えてくるね!」

 

「だったら、これを持って行きなさい。 私が持っていてもここじゃあ使えないし」

 

 

 そう言って、真姫は耳に付けていたインカムを凛に渡す。 凛は早速それを耳に付けると、よし!と意気込んでちょっぴり嬉しそうに笑って見せた。

 

 

 

「じゃあ、行ってくるね!!」

 

 

 残った2人に対して、元気に片手を大きく振りながら走っていく凛。 その様子を2人はその姿が見えなくなるまで、ずっと眺めていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、行きましょう……にこちゃん」

 

 

 突然発せられた真姫からの一言。 それに驚くと思われたにこは、平静を保ちながらその言葉を軽く受け流した。

 

 

 まるで、そう言われることを分かっていたみたいに。

 

 

「あら、もしかして気付いてたのかしら?」

 

「当然でしょ? にこちゃんがあんな回りくどいような考えを言うだなんて考えられなかったからよ………それに………」

 

「それに………?」

 

 

「私たちは、絵里もあわせての『BiBi』なんですもの………仲間が大変な時には、ちゃんと駆けつけてあげないといけないじゃない?」

 

「ふふっ、さすが私の真姫ちゃんね♪ にこの考えていることをちゃんと分かっているんですもの」

 

「だから言ったじゃないの、『にこちゃんにしては』ってね♪」

 

「言ってくれるじゃないの♪」

 

「でも、私の身体はもう蒼一に預けているから、にこちゃんのモノにはならないわよ」

 

「あら、奇遇ね。 にこも蒼一に預けちゃっているのよ」

 

 

 冗談交じりに言い合う2人から笑いが零れ出す。 とても穏やかで、清々しい気分になれるようなそんな感じであった。

 

 

「お互い、好きな人が同じって大変ね」

 

「あら、そんなの心配ないじゃないの。 同じなら一緒に愛してあげなくっちゃね?」

 

 

「そうね」と真姫が言い返すと、またしても笑いが漏れ出す。

 お互い、同じ人を愛したことで関係が崩れかかったのにも関わらず、こうして繋がっていることにどうしても呆れたような笑みがこぼれてしまうのだ。 そして、今や2人は彼にとっての大切な存在としてここにいる。 それに、お互いの気持ちも分かりあっている。 こうしたかたちでも構わないとまで思い合う仲となっていたのだ。

 

 それ故に、にこと真姫は、あのような状態にある絵里を何とかしてあげたいと感じていたのだった。 ユニット仲間として、友達として彼女を助けたいと言う気持ちが強くなっていたのだった。

 

 

 

「凛には悪いけど、これでいいのよね?」

 

「いいのよ。 これは私たちのやらなければいけないことなの。 にこたちでしっかりとけじめを付けてあげなくっちゃ」

 

 

 

 そう言うと、にこは門に手をかけて敷地内に入っていく。 真姫もそれに続いて建物に向かって歩いていくのだった。

 

 

 

「「待っていなさい、絵里――――――!!」」

 

 

 

 堅い決意に包まれた2人は、大切な人を助けるために歩んでいくのだった―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―― 

――― 

―――― 

 

 

[ ??? ]

 

 

 

ガチャン――――――――

 

 

「ふぅ、やっととれて楽になったぜ」

 

 

 手足に架せられていた手錠の鍵が解けて、晴れて自由の身となることが出来た俺は、準備運動がてらに手首足首をグルグルと回してちゃんと動くかどうかを確かめていた。

 

 特に、手首に掛かっていた負担はかなり多く、現に手首には手錠の痕がくっきりと残って見えるのだ。 それでも、深刻なケガとかには発展することは無く、思うように動くので今のところは問題なかった。

 

 

 

「しかし、ちょうどいい時に来てくれて助かったな。 礼を言うぞ―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――亜里沙ちゃん」

 

 

 

 

 

(次回へ続く)

 




どうも、うp主です。


1年ぶりに登場しました亜里沙ちゃんです()

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