《完結》【蒼明記・外伝】カメラ越しに映る彼女たち―――   作:雷電p

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フォルダー4-12『高坂 穂乃果(前編)』

 

 

 わたし、蒼君と一緒にいることが普通だと思っていた―――――――

 

 

 まだ小さかった時からずっと、私は蒼君の隣にいて、ずっと笑っていられるものだと思ってた―――――――

 

 だって――――――

 

 幼稚園の時だって、小学校の時だって、中学校の時だって、ずっと一緒だったからそれが私の日常(あたりまえ)だって信じていたから―――――――

 

 

 でもね、わかっちゃったの――――――――

 

 わかりたくなかったのに、わかっちゃったの―――――――――

 

 

 

 いつか蒼君は、私の前からいなくなっちゃうんだって――――――――

 

 

 

 気付いてた―――――――

 

 本当は、ずっと前から気が付いていたんだ――――――――

 

 でも、気が付かないフリをし続けていたんだよ――――――――

 

 

 

 だって――――――――

 

 怖かったから――――――――

 

 

 蒼君が動かなくなって、病院のベッドに横たわっているのを見たら―――――――――

 

 

 わたし、おかしくなっちゃいそうだった―――――――

 

 

 

 

 いやだ――――――

 

 いやだいやだいやだいやだいやだ――――――――

 

 

 蒼君のあんな姿はもう見たくないの――――――――!

 

 蒼君は、ずっとわたしのそばで笑って、頭を撫でてくれるんだもん―――――――!

 

 

 わたしの蒼君を奪わないで――――――――!!!

 

 

 

 

 それからのわたしは、できるだけ蒼君と一緒にいようと思ったの――――――

 

 μ’sを始めようって思い立った理由も、蒼君と一緒にいたかっただけだったのかもしれない―――――――

 

 それが間違っていることもよくわかっているよ―――――――

 

 それでも、私は蒼君といられる理由が欲しかった―――――――!

 

 

 蒼君がいないと、わたし弱いから―――――――――

 

 

 

 

 1人じゃ、何もできないから―――――――――――

 

 

 

 

 

 そんな時だったの、ことりちゃんから蒼君を護ろうって言われたのは―――――――

 

 

 私の蒼君が誰かに傷付けられる―――――――?

 

 わたしから奪われちゃう――――――――?

 

 

 そんなのイヤだよ―――――――――

 

 

 

 だから、ことりちゃんと海未ちゃんと一緒に決めたんだ―――――――――

 

 蒼君を護ってあげようって――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 なのに―――――――

 

 どうして、みんなわたしのことを裏切っちゃうの―――――――?

 

 約束したじゃん、みんなで護ろうって―――――――

 

 

 なのに、どうしてわたしから蒼君を奪い取ろうとするの―――――――――?

 

 

 

 わたしはそれが悔しくって……悔しくって…………悔しくって…………赦せなかった――――――――

 

 みんな私のことを裏切っちゃうんだったら、みんないなくなっちゃえばいいんだって―――――――

 

 私と蒼君以外は、みんないなくなっちゃえばいいんだって―――――――――

 

 

 

 私のココロがそう叫んでいたように聞こえちゃったんだ―――――――――

 

 

 

 けど、違ってた―――――――

 

 耳を貸しちゃいけなかったんだ――――――――

 

 

 

 でも、気が付いた時には――――――――

 

 

 

 

 

 

 わたしの手は、蒼君の血で真っ赤になっていた―――――――――

 

 

 ウソだって思いたかった―――――――

 

 わたしは蒼君を護ろうとしていただけなのに―――――――

 

 蒼君を傷つけるヤツらを葬り去ろうとしていただけなのに―――――――

 

 

 どうして―――――――

 

 

 

 ワタシハソウクンヲ殺ソウトシチャッテイルノ―――――――?

 

 

 

 違う違う違う違う違う違う違う違う違う―――――――!!

 

 そうじゃないそうじゃないんだよ――――――!!

 

 穂乃果はこんなことをするためにやってるんじゃないんだよ――――――!!

 

 

 

 後悔しても後悔しきれない、やっちゃいけないことをしちゃった――――――――

 

 絶対に赦してはくれない………蒼君を殺そうとしたことは決して赦されることじゃないかった―――――――

 

 

 それがとっても苦しくって……辛くって………息だってすることが出来なくなっちゃうほど痛かったんだ―――――――――

 

 

 とても耐えきれなかった―――――――

 

 だから、いっそのこと、私が死のうと思って自分に刃先を向けたの―――――――

 

 

 これで苦しまずに済むんだ………って―――――――――

 

 

 

 

 でも―――――――――

 

 

 蒼君が私を強く叩いたの―――――――

 

 

 

 とっても、とっても悲しい顔をして―――――――

 

 

 ねえ――――――

 

 どうして、そんな顔で穂乃果を見るの――――――?

 

 穂乃果はこんなに悪いことをしちゃったんだよ―――――――――?

 

 それなのに、どうしてこんなに強くって、温かく穂乃果を包み込んでくれるの――――――――?

 

 どうして、こんな私を赦してくれるの―――――――?

 

 

 どうして、こんなわたしのことを愛してくれるの――――――――?

 

 

 

 わからない―――――――

 

 けど、ちょっとだけわかりたいって思った―――――――

 

 もっと、蒼君のことを知りたいって―――――――

 

 それで、蒼君にちゃんと伝えたいの―――――――

 

 

 穂乃果のこの気持ちを――――――――

 

 

 

―― 

――― 

―――― 

 

 

 俺の目の前に、泣きじゃくる穂乃果の姿がそこにあった。

 

 生ぬるい雨にずぶ濡れ、それに泥も跳ね返り掛かってきていたから、余計に穂乃果の姿が汚くなって見えた。

 

 

 けど、それは俺にも掛かってくる言葉だ。

 俺だってそうだ。 こんな雨の中を傘もささずに飛び出ては、ただがむしゃらになって穂乃果と対峙していたのだ。 当然、身体全体がいろいろなもので汚れている。

 多分、穂乃果よりも酷いだろうと思う。

 

 

 だが、そのおかげで俺は、こうして無邪気さに満ちあふれた笑顔を取り戻すことが出来たんだ。 それに比べちゃあ、汚れなんて比較対象にならないくらいにちっぽけなことだった。 ましてや、穂乃果を取り 戻すためならこの命を賭けたってよかったんだ。

 

 穂乃果が俺を刺し殺すことが出来た、あの瞬間だって覚悟はできていた。 今の俺じゃあ、穂乃果を取り戻すことが出来ないのだと、半ば諦めかけていた。 そして、せめてもの俺の命を賭けて穂乃果を元に戻して欲しいと願いを込めたのだ。

 

 全身から力を抜きだし、流れ行くままにこの身を運命に預けた――――――

 

 

 

 けれど、俺が目を瞑った時に、何かが俺の中に入り込んできたような感覚を抱いた。 何だ?と思う間もなく、それ全身には広がってゆき、深く眠る記憶の中に潜っていったのだ。 そしたら、とある光景が映し出されたんだ。

 

 

 そう、それが穂乃果と一緒に出かけた、あの遊園地での出来事だったんだ――――――

 

 

 どうして、あの時のことが映し出されたのだろうか?

 穂乃果との思い出なんて他にもたくさんあったじゃないか。

 

 なのに、どうして………あの時のことが想い出されるんだ………?

 

 

 

 

 

 

 

『私たちは………全力で蒼君の夢をかなえることが出来るように頑張るから!!!』

 

 

 

 

 

 そっか………答えなんて、こんなにも単純なことだったじゃないか…………

 

 

 

 

 

 穂乃果、俺は…………

 

 

 

 

―― 

――― 

―――― 

 

 

 

 俺たちの身体に降り注がれていいた雨も止み、雲の隙間から小さな星々が顔を出していた。

 その豆電球にも似たような小さなスポットライトが、俺たちを照らし始める。 そのわずかな光の中で、穂乃果のことを見つめ直す。 まだ、薄汚れた顔を晒しながらも、とても穏やかな表情となっていたので心の底から安心した。

 

 ちょっとだけ、安心しきったからなのだろうか、俺はいつものように穂乃果の頭を撫で始める。 髪の線に合わせるようにやさしく撫で始めると、穂乃果は顔を少しだけ赤らめ、うつむきがちになった。

 

 

 

 すると、俺たちの方に向かって駆け走ってくる足音が聞こえ始める。 地面に溜まった水を勢いよく弾き飛ばしながら近づいてくる人影が見えるようになる。

 

 

 

 と、その時――――――

 

 穂乃果の身体目掛けて飛び込んでくる1人の姿をようやく捉えることが出来た。 透き通ってしまうほどに細くやわらかい長髪をなびかせながら、穂乃果のことを抱きしめるこの姿は、言わずもがな俺たちの良く知っている親友だ。

 

 

 

「穂乃果っ―――――!! 穂乃果っ―――――!!!」

 

 

 荒れた息遣いで穂乃果を抱きしめる親友―――――海未は、自分の服が汚れるのを気にも留めず、ただひたすらと大切な親友を思いっきり抱きしめてあげることに集中しきっていた。

 

 一方、穂乃果はと言うと、突然、海未に抱きしめられたことの動揺を隠せず、海未のことを面と向かい合わせることが出来ずにあった。 難しい顔をしながら、何と言って話せばよいのだろうかと思い巡らせていたりするのだろう。

 それもそのはずだ。 海未によると、穂乃果は海未のことをないがしろにしたのだから………

 

 

 それなのにも関わらず、海未が真っ先に穂乃果の胸の中に飛び込んで来ては、心配そうな声で穂乃果のことを叫ぶのだ。 それが更なる戸惑いを生み出させたのだ。

 

 

 すると、今度は海未が涙を含ませた声で語りかけてくる。

 

 

「よかったですっ……! 穂乃果が無事で、よかったですっ………!!」

 

 

 その声を聞いて、穂乃果は一瞬だけ身体を震わせた。 穂乃果は、てっきり自分は叱られるものだと感じていたのだから。 あんなことまでしたのだから、当然の報いを受けても仕方が無いとまで感じていたんだろう。

 

 だが、そんなことなど無かったのだ。 海未は穂乃果のことを怨むどころか、穂乃果のために泣いていたからだ。

 ここに来る前も海未は、穂乃果がこうなってしまったのには自分にも責任があるのだということを話していた。 そして、穂乃果がどんな状態にあろうと、必ず受け入れてあげるとまで断言したのだ。

 それほどまでに、海未は穂乃果のことを想っていたのだ。

 

 

 そんな海未に、穂乃果は声を震わせ、たどたどしくも海未に語りかける。

 

 

「どう……して………? ほのかは……うみちゃんに………とってもひどいことをしたんだよ………? なのに……どうして……………?」

 

 

 涙がぽろぽろと零れ落ちるなかで語られた弱々しい言葉を耳にした海未は、さらに強く穂乃果のことを抱きしめ出す。

 

 

 

「決まっているじゃないですか!! 穂乃果は私の親友じゃないですか!!! それ以外に、何の理由がいるのです!!!」

 

「っ~~~~~~~~!!!」

 

 

 迷いの無い力の籠った言葉が穂乃果の胸に突き刺さったかのようだ。 海未のその言葉を耳にした穂乃果は、海未の身体に腕を回して抱きしめ、大きな声で泣きだす。 その声に釣られてか、海未も声を上げて泣き出し始める。

 

 

 とても、悲しくも喜ばしい声だった――――――――

 

 

 2人は互いに向かい合い、言葉を一切交わすことなく見続けていると、にこっと頬を上げ微笑する。 ただそれだけで、互いの気持ちを通わせ合えることが出来る。 それは、親友だからこそ成し得る行為。 互いの想いが同じだからこそ成し得ることが出来るのだ。

 

 

 しばらく、2人は笑い合う―――――――

 

 

 

 崩れたピースが元の場所に収まるように、2人のカタチも元に戻っていくようだった―――――――

 

 

 

 

 

 

―― 

――― 

―――― 

 

 

 

 海未がこっちに来てからしばらく経つと、洋子たちの姿も見えた。 どうやら、別件の方は方が付いた様子だ。

 だが、洋子が少し眉をひそませていたのが気になっていた。 何かあったのだろうか? このことには、あまり詮索を加えることはせず、時間が経つ頃には、気にも留めなくなっていた。

 

 

 洋子の姿と共に、その後ろを歩いてきたのは、凛と花陽だ。

 2人は洋子たちの後ろに隠れ、少しおびえた様子を伺わせてこちらに近付いてきていた。

 

 一方、穂乃果も同じように身体をビクつかせていた。

 それもそのはずだ。 双方との間には溝が敷かれていたのだ。

 

 ちょうど昨日のことだ。 穂乃果が凛たちに危害を加えようとしていたのは………そのことがあったために、双方は互いに歩み寄ろうという姿勢が見られなかった。

 

 

 

 

 しかし―――――――

 

 

 

「ほ、穂乃果……ちゃん…………!」

 

 

 意外なことに、先に行動に出たのは花陽だった。 洋子たちの影から姿を現し、穂乃果の前に出てくるとは誰も予想できなかった。 かく言う、俺自身も目を疑うような光景に驚く。

 しかしまだ、花陽は震えたままだ。 膝をガクガクと震わせながらも前に出るその姿は、見るものを不安がらせる。 居ても立ってもいられなく思いつつ、花陽の方に向かおうと一歩踏み出す―――――すると、花陽と目があったのだ!

 偶然か――――? いや、必然的に目があったんだ!

 花陽は俺の目に向かって訴えかけているようだった―――――私だけで、やってみる―――――と。

 

 それを感じてしまっては、俺は引かざるを得ない。 何てったって、花陽のわがまま(お願い)だ。 応えてやるのが、義兄として……そして、花陽の大切な存在として…………

 

 

 花陽は、1歩。 また1歩と前に踏み出る――――――

 

 穂乃果は、怯えて1歩前に下がった――――――

 

 

 縮まることが無いこの距離―――――無言の進退―――――

 

 

 そんな沈黙の中のことだった――――――

 

 

 

「穂乃果ちゃん………! 待って………!!」

 

 

 力一杯振り絞った声が響く。 穂乃果の耳にもちゃんと届いており、その足が止まったのだ。

 花陽は、まだ怯え続けながらも勇気を振り絞って声をかけた。

 

 

「花陽はね………ついこの間までね、みんなを傷つけていたの。 みんなにたくさん迷惑をかけちゃったの。 その時のことを思い出すと、今でも心が張り裂けそうになっちゃうの。 だから、穂乃果ちゃんが、今どんな気持ちなのかってのも分かる気がするの………とっても、苦しいことなんだって分かっているの………

 

 でも、こんな花陽でもね、みんな受け入れてくれたの………傷つけちゃった真姫ちゃんも、凛ちゃんも、蒼一にぃも……みんなこんな私を受け入れてくれたの………!

 

 だからね……花陽も、穂乃果ちゃんのことを受け入れるよ………だって、穂乃果ちゃんは私の友達で、憧れの先輩なんだもん……! 穂乃果ちゃんたちに出会わなければ、花陽はずっと弱虫のままだった……スクールアイドルにも成れなかった………でも、そのきっかけを与えてくれたのは、穂乃果ちゃんなんだよ!

 

 だから………だからね…………」

 

 

 花陽は、1歩1歩前に進みながら穂乃果にやさしく語りかけていた。 自分が犯した過ちと向き合ったからこそ語れる重圧のある言葉だ。 だが、それはとってもやさしく聞こえるのだ。 花陽の元々の気質だからそうなのだと思うが、花陽から出る『助けたい…!』という必死さが溢れ出てくるのだ。

 

 その言葉に、誰もが動きを止め聞き入ってしまう。

 

 それは、穂乃果も同じだった。

 

 

 

 そして―――――――

 

 

 

「また、一緒に練習しよう………花陽も足を引っ張らないようにがんばるから………」

 

 

 

 花陽は穂乃果のすぐ目の前に立って、冷たいその手を握り締めた。

 

 するとまた穂乃果は、ぼろぼろと大粒の涙を零しながら花陽の前で泣き崩れた。 穂乃果が花陽に支えられると言う普段ならば考えられないような光景がそこにあった。 そんな穂乃果を花陽も涙を流しながら共に分かち合っていた。

 

 

 そして、そこに凛もやってきて―――――――

 

 

「穂乃果ちゃん! 凛も穂乃果ちゃんのことを怒ってないよ。 凛は、穂乃果ちゃんが大好きだから! 絶対に嫌ったりなんかしないよ!!」

 

 

 大きな声で叫びながら穂乃果の身体に泣きながら抱きついた。

 

 

 

 

 俺たちは、その様子をただじっと見守ってあげるのだった―――――――

 

 

 

 彼女たちが笑い合えるその時まで―――――――――

 

 

 

 

 

(後編に続く)

 




どうも、うp主です。

あまりにも長過ぎてしまったので分割しました。

翌日に更新するかも………?

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