《完結》【蒼明記・外伝】カメラ越しに映る彼女たち―――   作:雷電p

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[ 音ノ木坂広報部・部室前 ]

 

 

(ガチャガチャ………カチャリ)

 

 

 

「ほな、開いたで♪」

 

「おぉ! さっすが、希ちゃんだにゃぁ~!」

 

 

 鍵が掛かっていた我が部室の扉を、希ちゃんがいとも容易く開けてくださいました。

 

 いやぁ、ホントに助かりましたわ~。 いつもだと、私だけが知るとある仕掛けで鍵を開けられることになっていたのですが………どうも、その仕掛けが不具合を起こしているらしく、万策尽きた! と諦めかけていたところだったのですよ。

 

 

「しかし希は、よくここの鍵を持っていましたね? 正門を開けた時も鍵を持っていましたが、どうしてです?」

 

 

 首を少しかしげながら、海未ちゃんは希ちゃんの行動に疑問を抱いたようです。

 

 実のところ、私も気になっていたところなのですよ。 どうして、こうも都合よく、私たちが進むところにある扉の鍵をキープさせているのかが………

 

 

 すると希ちゃんは、にやりとした表情を浮かばせてこう言いました。

 

 

 

「知っとる? ウチ、これでも生徒会副会長なんよ? この学校の教室やら施設やらの鍵は常備してるんよ」

 

「そう……ですか………生徒会ならば仕方ないですね」

 

 

 少し腑に落ちないところもあるのですが、私も海未ちゃんも一旦、納得することにしました。 しかし、生徒会というのは、そこまでの権限を持ち合わせていたのでしょうか? 第一、そうした鍵を持っているのは、ここの校長か警備員の方ぐらいしかいなかったはずでは…………?

 

 

 

 

「ほな、洋子ちゃん。 やることがあるんやろ? さっさと済ませて蒼一のところに行かんと!」

 

「!! ああ、そうでしたね。 では、早速とり掛からせてもらいます」

 

 

 希ちゃんの声に一喝打たれまして、私はそのままやらねばならないことに着手し始めることにします。 とりあえず、PCを起動させまして、内部に詰められていますあらゆるデータの方を確認させていただきますよ~っと……!!

 

 

 

 

「おや……?」

 

 

 PCデータ内を少々漁っていましたら、例の撮影された映像をスマホに変換移動してくれますツールを見つけました。 なんだ、そのことですか……と軽く受け流されがちなことのように思えそうですが、そうではないのです。 気になるものを見つけてしまったのです。

 

 

 それはと言いますと、ここにある動画の返信先である私のスマホの機体番号の他に、何故か、()()()()()()()()()()()()のです!

 

 どういうことなのでしょうか?

 ここのツールを知っているのは、私しかいなかったはずなのに、何故、私の知らない機体番号が登録されているのでしょうか?

 

 私は目を疑うように、目蓋を擦ってからもう一度画面をよく見てみることにしました。

 

 

 すると、

 

 

 

 

 

「…………………えっ? 消えてます………………」

 

 

 おかしなことに、つい先ほどまでこの画面に表示されてました機体番号が無くなっているではないですか!

 

 んんん??? まったくわけがわからんことです。 私の目の錯覚だったと言うことなのでしょうか? 確かにそこにあったものが消えて無くなると言うのは、何とも不気味な話ですねぇ……………

 

 

 

「あっ、あのぉ、洋子ちゃん………蒼一にぃと穂乃果ちゃんはどこにいるかわかりました?」

 

「あっ………」

 

 

 花陽ちゃんの声に我に返ったような思いになりました。

 

 そうでした……先にそっちのことを優先しておけばよかったですね………

 

 

 なんだか調子が狂いますね………病みあがり……いえ、解放されたばかりと言いましょうか、様々な方面に気をとられてしまったために、目の前のこともすっかり忘れてしまうだなんて、参っちゃいますね………

 

 

「ではでは………と」

 

 

 監視を行っているモニターページを開きまして、現在、盗s……もとい、監視を行い続けているいくつものカメラからの様子をじっくりと見始めます。

 

 

 全体的に、校舎内は電灯も点けないために、真っ暗で手前にある物を捉えるだけでも精一杯な光景で、これはどうしたらよろしいのでしょうかねぇ……と愚痴をこぼしたくなってしまいがちです。

 

 

「………おやっ! ありました、ありました! 蒼一さんは今ここにいるようですよ」

 

 

 いくつも表示されているモニターの中から1つだけを切り取り拡大させます。 それを見ますと、ちょうど中庭にあたる場所が映し出されまして、その奥の方に目を向けますと2人の影が…………

 

 

 

「蒼一!! 穂乃果!!!」

 

 

 私の背後から2人の姿を喰いつくように見ていた海未ちゃんは、とても不安げな表情を浮かばせていました。 ただ見ていることでしか出来ない自分に対して、唇を噛み締めながら悔しい気持ちを募らせているようでした。

 

 

 

 あとはお任せしましたよ………蒼一さん…………!

 

 

 

 私たちの想いを画面越しの彼に向けながら、その一部始終を見続けたのでした―――――――――

 

 

 

 

 

 

 

―― 

――― 

―――― 

 

 

 

[ 音ノ木坂学院・中庭 ]

 

 

 ボタボタと容赦なく地面に叩きつけられる雨音が、俺の高まる感情に緊張を与える。 降り付けられる冷たい雨が、体温を急速に冷やし始めるのだ。

 

 そのせいなのだろうか、身体が小刻みに震え始め出したのだ。 悪寒とも呼べる冷気が身体にまとわり付き始めた。

 

 しかし、ただ寒いというわけでもない。

 むしろ、この雨で俺の体温が持って行かれることなんて無かったのだ。

 

 

 本当に、俺から体温を奪っていたのは、一時の自然現象によるものではないのだ………!

 

 

 

 

「アハハ♪ そぉ~くぅ~~ん♪♪♪ アハハハハハ♪♪♪」

 

 

 ちょうど、目前に迫る俺の幼馴染――――穂乃果の存在こそが、俺を極寒の地にへと誘おうとしていたのだ。

 

 

 

 暗がりながらも、穂乃果は俺の存在に気が付くと名前を呼んでこちらに向かってきた。

 フラフラと左右に身体を揺らしながら前進してくる様子に、異様さしか感じられないでいた。 全身がだらしなく脱力して、とても生者の行進とは言い難いモノだったのだ。

 

 

 穂乃果が俺の前に立ち、四の五も言わずに抱きついてくると、びしょ濡れの顔を胸の中に埋め始めたのだ。

 

 

「アハハ……♪ あったかぁ~い………蒼君の身体があったかいよぉ~♪ この熱が穂乃果の身体をジンジン熱くしてくれるみたいだよ♪」

 

 

 まるで、犬のように顔を擦り付ける穂乃果は、何かを感じようと必死になっていた。 熱の籠った甘ったるい吐息を口から漏らしながら、穂乃果は口走る。

 

 

「穂乃果ね、蒼君が来るのをすぅ~~~~~っと待っていたんだよ! 蒼君はここに来てくれるんだって信じていたんだよ!! だってねだってね、蒼君はこれから穂乃果とデートするんでしょ? こんなキレイなところで待ち合わせって、とってもロマンチックだよ!! さすが、穂乃果の旦那様だよ♡ そんな旦那様のために穂乃果は、普段よりももっとキレイにしてきたんだよ!! どう……かな…………?」

 

 

 

 恥ずかしながら頬を真っ赤に染め、情熱的な言葉を持って、俺を見つめているようだった。 さも、これから恋人たちによる触れ合い、慣れ合いが始まろうとする一面を感じさせていた。

 

 

 そうであれば、なんて良かったことだろうか…………

 

 

 

 

 しかし、現実にあるのはそんな甘いものではなかった―――――

 

 虚空を見つめ、濁りきったその瞳からは生気をまったく感じ取れない。 確かに、顔立ちはいつも以上に美しく綺麗に感じられた。 誰の目から見てもそう言えるのは間違いないだろうと豪語しても構わなかった。

 

 だが、それは病的な美しさだ。 かの第六天魔王が敵のガイコツを見て、美しいと称したのと変わらない狂人的な美しさを穂乃果から感じ取れたのだ。

 

 今の穂乃果は、そのガイコツに匹敵されるだろう。

 

 そして、冷たい雨に濡れられて白くなりつつあったその肌と対称的な瞳の漆黒が、穂乃果の心の闇の深さを物語っているかのようだった。

 

 

 そんな穂乃果の口から出た数々の言葉を理解できるはずもない。 当たり前だ、俺が穂乃果にこのようなことを語った覚えなど無いからだ。

 

 穂乃果は妄言を口にしているのだ。

 穂乃果の脳内では、すでに完成されているであろう『理想』のビジョンが、今、『現実』のものとなって見えているのだろう。 その様子はまるで、書き綴られた物語のヒロインであると言うことを信じて疑わないかのような喜び様だった。

 

 

 しかし、それは間違いだ。 穂乃果の妄想にすぎないんだ。

 

 

 

 俺が穂乃果の身体を隅々まで見まわし、思いを巡らせている間でも、穂乃果は俺の顔をジッと見つめては、一ミリも動かずに妄言を口にし続けたのだ。

 

 絶えることなく続くその言葉に、ようやく俺は行動に出る。

 

 

 穂乃果の両肩を掴むと、その身体を前後に揺らす。

 

 

「穂乃果っ………もう……やめろっ………!」

 

 

 眉間にシワを寄せた渋い表情で擦り切れるような声で呼び掛ける。

 その募り積もり、はち切れ飛び出さんとする感情を抑えながら出てくる言葉は、なんて、か細く息苦しいモノなのだろうか………自身へ対する憤怒と、彼女に対する悲愴が詰み重なり、俺の心を踏みにじろうとするのだ………

 

 この辛い気持ちを乗せた言葉が穂乃果に向かう―――――

 

 

 

 だが―――――

 

 

 

 

「何を言っているの? 大好きな旦那様に愛に愛がたぁ~~~っぷり詰まった愛の言葉で、穂乃果の気持ちを全力で伝えているんだよ♡ それを蒼君は喜ばないはずがないでしょ? だって、蒼君は穂乃果のことが大・大・だぁ~~~~いすき何だから、何度だって言ってあげちゃうんだからね♪」

 

 

 穂乃果の言葉は留まることを知らずに流れ出てくる。

 

 

 それを聞くと、何ともやるせない気持ちとなり、ギリッと歯を食いしばって抑えていた感情が飛び出た。

 

 

 

「穂乃果!!! 俺は、お前の旦那なんかじゃない!!!!」

 

 

 力の籠った怒号が飛び出すと、穂乃果はようやくその口をぽっかり開いたまま固まった。 すると、大きな瞳を見せていた目をさらに見開かせて、瞳の深層部に潜む何かを見せつけた。 間近で見せるその闇に、俺は無意識の内に引き込まれ、身体をどっぷり浸かってしまいそうになる。

 

 それでも、理性を何とか取り戻して再び向き合うと、一呼吸吐いてから言葉を続けた。

 

 

「俺は、お前にここで待っていろとも、これからデートしに行こうとも言っていない………お前は勝手にここに来て、勝手にここで待っていただけだ……それをお前の都合のいい解釈で変換させるんじゃない……! すべては……お前の妄想だ…………」

 

 

 現実を直視させるような言葉を投げつけた。

 それを聞いた穂乃果は、一瞬、首を締め上げたような声をあげると、顔をうつむかせて狼狽し始めた。

 

「そんなはずないよ…」と小さな声で連呼させながら、身体を激しく震わせ始めた。 穂乃果の心は大きく揺れ動き始める。 彼女の中の『理想』が音を立てて崩れ始め出したのだ。

 

 穂乃果は、俺の両腕にしがみ付くと、歪み崩れ落ちそうな表情で仰ぎ見て尋ねてきた。

 

 

 

「ね、ねぇ………蒼君は……穂乃果のこと……好きだよ……ね………?」

 

 

 擦れ震える声が俺に届く。 蜘蛛の糸を掴むようなその言葉と表情は、『今の』穂乃果にとって最後の希望のとも呼べるものに相違ないだろう。 今にも、泣き崩れてしまいそうな表情に心を痛ませてしまう。

 

 

 

 だが、俺はそれでも心を鬼にして、彼女と向き合わなければならなかった。

 

 

 

 

 

 

 故に、

 

 

 

「俺は……穂乃果のことは好きだ………だが、お前じゃない。 『今の』穂乃果は、俺の知っている穂乃果じゃない………だから、好きにはなれない…………」

 

 

 と、答えた。

 

 

 

「ッ――――――――――――!!!!!????」

 

 

 それを聞いた穂乃果は、言葉にならない小さな悲鳴をあげた。

 ドッと肩から力が抜け落ちてしまったかのような絶望が穂乃果に向かって投げ落とされた。 穂乃果にとっては、意図しなかった『現実』を直視させることになる。 こうでもしなければ、穂乃果は永遠とこのままでいることとなる……それだけは、どうしても許せないのだ。

 

 

 

 

 

 

 たとえ、この後に起こるリスクに直面することとなっても…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パキンッ―――――――――

 

 

 

 

 

 ガラスが砕け散るように、穂乃果の『理想』は灰塵と化っした瞬間だった――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、新たな『幻想』が彼女の心を覆い尽くしたのだ―――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うそだ…………ウソだ…………ウソダ……………」

 

 

 

 うつむいたままの穂乃果は小さな声で何かを連呼し続けた…………

 

 

 

 

 すると、次の瞬間――――――

 

 

 

 

 

 

「ッ~~~~~~~~~!!!!!!!」

 

 

 全身に激痛に駆け回る!!

 

 言葉にならない程の痛みのもとを見てみると、穂乃果が俺の両腕をありえない力で握り始っていたのだ! そのあまりの激痛に、俺は顔を歪ませる他なかった!

 

 それに、力付くで握られたことで、俺の腕がみるみる赤く膨れ上がってくるのだ! それが、赤から紫へと変色し始めてからは、さらなる痛みに苦悶した。

 

 

 すると……彼女は、うつむかせていた顔をあげると、先程とは比べものにならないくらいの歪んだ表情を晒したのだ! そして、ケタケタと薄気味悪い声をあげ始め、次第にその声が大きくなりつつあると、終いには、大きく高笑いをあげたのだ……!!

 

 

 

「ふっ………あはっ………あはははははははははははは!!!!! そうだよ! そうだったんだよ!! 私の蒼君はこんなこと言うはずないもん!! 私の蒼君は穂乃果にやさしいんだもん!! いつもやさしいことを言ってくれる、穂乃果のとってもとっても大好きな蒼君なんだよ!!!

 

 

 

 でも…………アナタは………だれ………?

 

 

 

 どうして、蒼君みたいな顔をしているの………?

 

 

 

 どうして、蒼君みたいな声をするの………?

 

 

 

 

 わかったぁ! そうやって、穂乃果のことを惑わすんだね………?

 

 

 

 

 それに……このニオイは何かなぁ………? ホカのメスのニオイ………あれれ……おかしいなぁ……???

 

 

 蒼君のカラダからは穂乃果のニオイしかしないハズなのに………ドウシテ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 穂乃果のコトを裏切ったヤツらのニオイがこんなにもスルのかなぁ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 星が叩き落とされたかのような声が轟く。

 同時に、穂乃果の身体から禍々しいほどの妖気がにじみ出始めたのだ!!

 

 ドス黒いオーラが穂乃果を覆い隠し始めると、俺の身体にも付着し始め、背筋を凍らせた。 まるで、ありとあらゆるものを覆い尽くし、食い千切らんとするその妖気は、次第にその勢力を増大させていったのだった!

 

 

 

 

 

 

「……………ニセモノめ……………」

 

 

 

 暗闇の中からポツリと呟くような声が聞こえたようなのだが、襲い掛かってくるコレが俺を苦しめるため耳にすることが出来なかった。

 

 

 

 だが次の瞬間に、すべてを圧倒されつくしてしまうような状況に、怖じ気付きそうになった―――――

 

 

 穂乃果は、右手を離すと、瞬時に後ろに手を回して、ギラリと妖しげに光るモノを手にすると、風が吹き荒れるかのような速さで振りかざし、俺に目掛けて振り落としてきたのだ!!!

 

 

 

 

 

 

「蒼君のマネをするニセモノめ!!!! 殺してやるっ!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 瞬間に見えた穂乃果の表情が――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人ならざるモノとなって、俺に向かってきたのだ――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

(次回へ続く)

 




ドウモ、うp主です。

次回、穂乃果と蒼一との決着が……?

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