《完結》【蒼明記・外伝】カメラ越しに映る彼女たち――― 作:雷電p
[ 音ノ木坂学院 ]
放課後のことである――――――
「ま、真姫ちゃん………」
「にこちゃん………」
蒼一に付き添われて対面を果たす2人。
先日の騒動以降、初めてとなるこの顔合わせに、にこは大分怯え気味であった。
それもそのはず、にこは真姫に襲いかかったのみならず、殺そうとまでしようとした張本人である。 ただ、その時のにこは正常ではなく、狂気が彼女のことを包み隠していた。 だが、それでも自分がやってしまったという事実を抹消することなど出来やしなかったし、その時の記憶もハッキリとしているのだ。
それ故に、にこは真姫に対しての罪悪感を深く感じていたのだ。
モジモジと手をこまねきながらもどかしい時間が過ぎていく。
そして、声を掛け始めたのは―――――――――
「真姫ちゃん、ゴメン!!!」
――――言うまでもなく、にこだった。
「私、真姫ちゃんにとんでもないくらい酷いことをしまったと思ってる! こうして謝っても謝り切れないし、私も悔いても悔い切れないの………! 謝っても赦してくれないのはわかるけど………でも、謝りたかった!! 真姫ちゃんにだけは、こうやって謝りたかったの………!! だから………だから…………ごめんなさい!!!」
にこは真姫に向かって、深々と頭を下げて謝った。
真っ直ぐに謝ろうとする誠意と真剣さとともに、身体を震わせる怯えた小さな姿が見られた。 それは、にこが真姫に刃を突き立てたことが今でも心に残っており、自分の本心が決めたことではないのだが、それをにこ自身が食い止めることが出来なかったことへの後悔の表れだ。
そんな自分の感情に、にこは怒りを覚える一方で、真姫に嫌われてしまったのだと感じる恐怖を抱いていた。
にこと真姫との関係というのは、先輩後輩といった学校でのしがらみとは違ったものが存在していた。 親友と言うべきなのだろうか? ただ、それほどまでに近しい関係であることは信じられていた。
その関係すらも断ち斬ってしまったのだと、にこは涙ながらに感じ、謝り続けたのだ。
すると―――――――
「にこちゃん……顔を上げて…………」
真姫が声を掛けてくるので、にこはその通りに下げた頭を上げた。
(ぎゅっ………)
「!!!?」
その一瞬の出来事に、にこは目を疑った。
なんと、真姫がにこを抱きしめたのだ! にこの顔が上がったところを見計らった真姫は、瞬時ににこの身体を抱きしめに行ったのだ。 その行為に驚きを隠せずにいたにこは、湧き上がってくる感情を言葉にできずにいた。
「………もう………心配かけないでよ………」
少し、抱きしめる力を強めた真姫は囁いた。
「にこちゃんが私に襲いかかって来た時、正直、怖かったわ………にこちゃんが私のことを怨んでいるんだって思ったから余計に恐ろしく感じちゃった…………でも、私はにこちゃんのことが大好きだから……諦めたくなかった………絶対に、にこちゃんは元に戻るって信じていたから…………!!」
「ッ~~~~~~!!!!」
真姫の囁いた言葉に鼻をすすり、涙で潤った声が含まれていた。
その言葉と共に彼女の感情を知ったにこは感極まる。
赦されないと思った………絶対に、拒絶されるとまで感じていたのに、こうして自分を赦してくれるだなんて思ってもみなかったからだ。 それがとても嬉しくて、ただ嬉しくて思わず泣き出してしまう。 真姫もつられるようにすすり泣き始めた。
お互いの肩が涙で濡れる。
2人はお互いの顔を見合わせてこう言い合った。
「「ありがとう………そして、これからもよろしくね……にこ(真姫)ちゃん……!!」」
硬く険しかった互いの表情が解れ出し、自然と笑みが零れ出ていた。 そして、額と額をコツンと重ね合わせてこの嬉しい一時を全身で感じたのだった。
「うふふ♪ どうやら、ハッピーエンドのようやね♪」
「真姫ちゃん……! にこちゃん……! よかったぁ………」
「やっぱり、2人は仲良しなんだにゃぁ~♪」
「あぁ~百合ぃ~♪ 美しき百合ぃ~♪」
「………お前ら………ちゃんと隠れて見ていろよ…………」
2人だけのものだと思われていたこのやりとりは、外野たちにじっくりと見られていたと言うことを数分後に発覚し、2人はこれほどまでにないほどに赤面するのだが、それはまた別の話―――――――
―
――
―――
――――
[ アイドル研究部・部室内 ]
「そんじゃあ、ここまでの状況について大方だがまとめさせてもらうぜ、兄弟!」
「あぁ、頼んだ」
明弘を中心にここまでの経緯を確認するため、俺と希、真姫、花陽、凛、にこの合わせて7人が情報の照らし合わせを行い始めた。
事の発端は、真姫の下駄箱にメッセージと写真が送りつけられていたこと。
↓
その次に、洋子の失踪。
↓
その後から立て続けに真姫、花陽、にこと襲いかかってくるというのが、大事に関しての大まかなかたちである。
そして、この経緯の中で必ず存在していたのが――――――ことり
どうやら、今回の発端である真姫への嫌がらせを始めたのはことりのようで、それを真姫とにこが確認している。 また、ことりの近くには穂乃果、海未が付いているということ。穂乃果に襲われた花陽と凛はその様子を確認しているし、俺も穂乃果の口からことりの影を認識している。 そして、海未がこれに関わっているのだろうと希がそう言っている。
ただ、海未がことりと共に行動しているということは、正直分からないでいる。
確かに、あの3人は俺も認知する幼馴染だ。 常に3人でいるのが当たり前な光景なのだからそうであってもおかしくはない。 だが、だからと言って海未がこんなことをするのだろうか、と疑ってしまう俺がいる。 また、できればそうでないことを祈りたいと思っていた…………
そして最後が――――――
「えりちやね………」
深刻そうに話しだす希の口調に何か暗い影を落とすようなモノを感じとれたような気がした。
それもそうだろう、今回の一件に、ことりとは別に関わっているエリチカがいるということは、親友である希にとっては辛いものだろう。 多分、ここ数日の間ずっと見てきて何かしらの変化に悩まされていたに違いない。
「私は……ことりよりも絵里の方がよっぽど怖いと思うわ…………」
「にこもそう思うわ。 絵里ったら、見た目はあんなに澄ましたような顔をして見せているけど、その中身はドロッドロよ………そうでなかったら、あんな過激な歌詞なんて書けるはずないんだから…………」
そう真姫とにこは口々にエリチカについて語る。
2人はエリチカと同じ、BiBiのメンバーだ。 それもあって、お互いの気持ちと言うのは何となくだが分かっているようなのだ。 そんな2人から聞かされるエリチカの素顔と言うのは、俺が想像していたよりも深刻なのだろう…………そんなエリチカが、もし、ことりと接触していたとしたらどうなることだろうか………? 言わずもがな、悲惨なことが起こることは目に見えていた…………
「足取りを調べたいところなんだけどなぁ………だが、何故か絵里どころかことりたち4人全員が学校を欠席しているのって言うのが、何とも腑に落ちねぇ………」
頭をかきむしりながら話す明弘は困り果てた渋い表情を見せる。
明弘の話は俺も気になっていたところだ。 今日は何故か、この4人揃って欠席しているだなんて思いもよらなかったからだ。 担任の先生に聞いても深く事情を探ることができず、あやふやな解答しか見つけることができずにいた。 いずみさんにも話を聞きたかったが、生憎、今日は出張でこの学校にはいないそうだ。
こうした情報が制限された中では、俺たちは憶測を持ってこの先のことを語らなければならないので、そうした意味を含めながらも頭を悩ませることになる。
(bbbbbbbbb…………)
「ん、メールか?」
久しぶりに携帯が震えだすと、その中身を早速確認してみることに………
「ッ――――!! 海未ッ――――!!!」
まさに丁度考えていた内の1人からメールが届いたのだ!
それに思わず声を上げてしまい、この場に居た全員に衝撃が走り抜けた。 その内容がどのようなモノなのかを全員が息を呑んだ。
「ッ――――――――――?! んな!! なんだとっ?!!」
「どうした、兄弟!! 何が書いてあったって言うんだ!!?」
「………これを見てくれ…………」
海未からのメールを見た俺は、その内容により顔をしかめざるを得なかった。 そして、その内容をみんなに見せると、言葉にならないほどの驚嘆が口から漏れ出たのだ。
そこにはこう書いてあったのだ――――――――
『この後、ウチに来てください。共に、食事でもどうですか?』
本文はこの一文だけ――――――――
だが、メールはこれだけで終わっていなかった――――――――
添付ファイルに―――――――――――――
鎖で繋がれた洋子の姿が映し出されていたのだ―――――――――――――
(次回へ続く)
ドウモ、うp主です。
今回も長いスパンを設けて話を書いていくつもりです。
最初のお相手は………海未ちゃんです。