《完結》【蒼明記・外伝】カメラ越しに映る彼女たち――― 作:雷電p
蒼一が音ノ木坂学院を訪れる数時間も前のことである――――――
音ノ木坂学院内に1つの影が揺れ動く。
腰まで伸ばし、頭の右上のところで束ねた髪と独特のチャームポイントと言えるトサカのような髪型をすることりがただ1人校舎前に立っていたのだ。
そんな彼女が何故このような場所に立っているのか。 それには理由がある。
彼女から一通のメッセージが届いたからだ。
『明朝、私が指定する教室にまで来て。 あなたに引導を渡すわ』
明らかな挑発的メッセージを見たことりは、しめたと顔をニヤけると練り合わせていた計画を予定よりも早めに実行させようと行動した。 「その言葉をそっくりそのまま返してあげるね♪」と奥歯を見せつけるような笑いを見せて意気込むと、彼女は準備を整えて音ノ木坂にへと向かって行ったのだった。
日が少し昇り始めた頃に、彼女は校舎前に立った。 そして、中に入るための入り口はどこにあるのかを探しまわる。 そしたら、1つだけ運よく鍵が空いてある扉を見つけると、躊躇うことなく校舎内に入って行った。
そこから彼女は、律儀にも自分の下駄箱に靴を入れ上履きを履いて廊下に立った。 そして、彼女が示した教室に向かって1歩、また1歩と進んで行く。 懐に忍ばせたモノを抱えながら、ことりは気持ちを高ぶらせつつも澄ました表情で前に進んだ。
「負けない………負けたくない………穂乃果ちゃんと海未ちゃんと……そして、蒼くんとの未来のために………!」
彼女の強い決意が言葉となって表わされる。
しかし、そんな彼女の傍らには誰もいなかった。 本来ならば、彼女の両隣りには親友の姿があるはずだった。 だが、2人に連絡を入れても返事が無かった。 彼女は計画の頼みの綱であった2人はさすがにこの時間帯には起きていないだろうと踏み諦めざるをえなかった。 ただ、念のためにメッセージは入れておいた。 それに気が付くか否かは不明だが、ほんのわずかな希望を抱き送ったのである。
「ここが…………」
ことりは定められた教室の前に立つ。
そして、迷うことなく扉を開けると、閉ざされた部屋の中に揺らめく1つの影を発見する。 見覚えのあるシュルエット。 昨日、その彼女から屈辱を受けたばかりのことりの中に早くもその時の怒りが込み上がってくる。
「あら………あなた
鼻で笑うかのような何とも癪に障る声をことりにかけると、ゆっくりと姿が見える場所へと移動した。 後ろで束ねた髪を左右になびかせながらことりの前に現れる彼女―――――
絢瀬 絵里は冷ややかな、意地の悪い微笑を口元に浮かばせながらことりを見ていた。
絵里の姿を視界に捉えると、明るさまな殺意を放出させ今すぐにでも飛びかかろうとしているかのようだった。
ここで決着を付ける――――――!!!
彼女の気持ちは固く立つのだった。
しかし、彼女は気が付かなかった―――――――――
彼女の送ったメッセージに2件の『既読』の文字が存在していたことを――――――――
―
――
―――
――――
憎しみの殺意を抱いたことり―――――――
冷酷な殺意を纏う絵里―――――――
両者は互いに向かい合いながら出方を待っている。
2人の距離は5,6歩程度と離れてなどいなかった。 机とイスがすべて窓側に重ねられて置かれてあったため、教室の真ん中が一種の舞台上のようにも思えてしまう。 決着をつけるには、ここはまさに絶好の場所であると言えるのだ。
ジリジリと間合いを見出そうとすることり。 現状では、ことりが圧倒的に不利だと言えるのは間違いなことだ。 昨日の傷が未だ完治出来ていないことや身体的な面においても劣っていた。 であるならば、一瞬の隙すらも見逃さずにいなくては勝機など無かった。
目を細めながら絵里を睨みつけた。
「うふふふふ………そんなに気を早まらせなくてもいいじゃない? 別に、アナタをそうするために来たわけじゃないし」
「………どういうことかな……絵里ちゃん………?」
ふふっと鼻で笑うかのような声を発すると、絵里は自らの手で頬を触れる。 そして、口元を引き伸ばして嫌な笑みを浮かべる。 何かを企んでいるようにも受け止められる表情にことりは焦る。
だが、それだけではないのだ。 今にも襲い掛かろうかと身構えていることりに対して、絵里はそんな素振りなど一切見せないでいるのだ。 無防備なのだ。 その何も無いのにも関わらず、余裕な表情を見せつけている絵里が恐ろしく思えていたのだ。
すると、そんな彼女の口から言葉が囁かれた――――――
「ねぇ………未明の蒼一はどうだったかしら…………?」
「ッ――――――――――!!!!!」
ゾクッと体を震わせる言葉に目を見開く。
ありえない………何故、そのことがバレているのか、ことりにはさっぱり理解することが出来ないでいた。
あの時は、誰にも見られないで侵入したはず………あのことを知っているのは彼と彼女のみしかいなかったはずだ…………なのに、何故、目の前にいるこの女が知っているのだとことりは戸惑いを隠せなかった。
「あら、答えないのかしら………? そう……少しだけ聞いてみたかったのよね、蒼一はどういう姿で、どんな匂いがして、どんな味がして、どんな感じがしたのか………そのすべてを聞いてみたかったのに……残念ね」
「な………なんでそのことを知っているの……………?!」
「何で? 何でって………アナタがそういった行動に出るのだろうって思って先回りしていただけよ。 蒼一の部屋から出てきた時はとても嬉しそうだったじゃない………ねぇ?」
「ッ~~~~~~!!!」
絵里の言葉を耳にして、焦らずにはいられなかった。 まさか、あの時のことを最初から最後まで見られていただなんて思いもよらなかったからだ。
絵里はさらに言葉を続ける――――――
「あらそうそう、アナタが駒にしていた花陽とにこは残念だったわねぇ~。 あんなに簡単に使えなくなっちゃうだなんてかわいそうね? どんな気持ちだったかしら、奪われていくその気持ちは?」
「ッ――――!! だ、黙れっ!!!」
ことりはさっきよりも激しく体を震わせ、叫び付ける。 ことりに動揺が走る。 これまで、ことりは自分の意とはそぐわない結果が出てきて焦っていた。 真姫を消すことに花陽とにこを遣わせたが、結局、失敗に終わるどころか、自分の手元に戻ることは無かったのだ。
ことりの中では、すでに当初の計画は泡沫の如く消え去ろうとしていたのだ。 それが悔しくて悔しくて堪らなかったのだ。
「あらあら、でもよかったわねぇ~。 アナタにはまだ2つも駒が残っているのだから………」
「なにを言っているのかなぁ……………?」
「ん? 何か変な事でも言ってたかしら? 私はただ、穂乃果と海未も自分の手駒として私を潰そうとしていたのでしょう?と言っているだけよ?」
「ッ~~~~~~~!! ち、違う――――――!!」
絵里の言葉が突き刺さると、嫌悪な表情を浮かべつつ、ただ唸っていた。 それはまるで、はい、その通りですと言っているような顔つきとなり、ことり自身もそれをすぐには否定しようとはしていなかった。
冷静でいようと必死に感情を抑え付けようとしているのに、絵里の言葉が一々癪に障って気が立ってしまう。 今すぐにでも跳びかかって、そのうるさい口を黙らせてやりたいと頭に血が上る。
それが絵里の挑発であるとも知らずに――――――――
顔を真っ赤にさせて怒りを露わにすることりを見て、ニヤリと笑い出すと、絵里は立て続けにことりに話を仕掛けていく。
「あら、さっきのことが違うとなると…………アナタは蒼一をどうしたいわけなの?」
「決まってる! 蒼くんは私のモノ! ことりのモノなんだから、誰にも渡さないよ!!!」
「困るわねぇ……私も蒼一は欲しいと思っているのよ…………もちろん、私のモノとしてね………♪」
「それだけは赦さない!! アンタみたいな女なんかにことりの蒼くんを渡すなんてとんでもないよ!! 私はアンタを殺して、蒼くんをアンタの魔の手から救ってあげるんだから!!!」
「魔の手………ふぅ~ん、酷いのねことり。 私のことをそんなふうに言うだなんて………私は純粋に蒼一のことが好きなのよ?大好きでダイスキで堪らないのよ。ずっと、傍に居てほしい………ただそれだけの気持ちなのよ?」
「嘘だ!! アンタはそうやって人を騙そうとするんだ!! そんな見え透いた嘘なんかで私を納得させようだなんて無理な話なんだから!!」
ことりの心底を探るような言葉で語りかけてくる絵里に、過敏かつ激しくぶつかることり。 そこに冷静さなど微塵たりとも感じられることはなかった。 ただ、怒りに身を任せて感情が高鳴るだけ言葉を発しているようにしか思えなかったのだ。
絵里は更なる言葉を突き出す。
「なら、私を殺してみなさい?」
「ッ――――!? あはっ……アハハハハハハ!!! 気でも狂ったのかなぁ!!!??? そんなにことりに殺されたかっただなんて思いもしなかったよ!!! いいよ………今すぐに楽にしてあげるよ…………」
今日一番の狂気を身に纏うことりのその手には、ナイフが取り出されていた。 刃渡りはそんなにないが、心臓を突き刺し、命を奪うのには申し分の無い長さだった。 それが今、絵里に向けられてる。 じわりじわりとその距離を縮め始める。
すると、急に絵里が手を突き出してことりの行進を静止させた。
「ただし、条件があるわ」
「条件?」
「私を殺した後にアナタが何をするのかだけは聞かせてもらうわ」
「………アハッ!! 条件と言って難しいことでも言うのかと思ったけど、なんだそんな簡単でどうでもいいことが聞きたかったんだぁ~? へぇ~…………いいよ、教えてあげる………」
ことりは狂気染みた表情から笑って見せると、嬉しそうに話しだす。
「そうだね………まず、絵里ちゃんをここで八つ裂きにして殺しちゃってから………他の邪魔なヤツらを殺しに行っちゃうよ。真姫ちゃんに花陽ちゃん、それににこちゃんも………あぁ、ことりの邪魔をしてくれた凛ちゃんと希ちゃんも一緒にヤっちゃいましょう♪そして、誰もいなくなってから蒼くんをことりだけのモノにするの………うふふ、蒼くん……あともう少しだよ……あともう少しで、迎えに行くよ………♡」
「へぇ~……なるほどねぇ………ことりもちゃんとみんなを消してから手に入れようとするのね………下らないわねぇ」
「ハァ………?」
「まったく下らないわね。 ことりのことだから、もっと芸のある話かと思ったら、とんだ子供染みたお話しね。 安っぽ過ぎて欠伸が出てしまいそうだわ」
「!!! ………ふふふ………ふふふふふ…………何が下らないって言うのかなぁ………絵里ちゃん?」
「全部よ、全部。 全員1人1人殺していくだなんて気の遠くなるような話ねぇ………そうする必要もないのに………バカみたい」
「………うふふふふふふふ………あはははははははは!!!!! やっぱりそうなんだ!! アンタみたいなヤツはそうやって私を見下して、蔑むんだ!!! もういいや、今すぐにでも殺してあげるよ!!!!!」
絵里の言葉がことりの逆鱗に触れた。 さっきよりも強い殺意を抱き、ナイフに力を込め始める。 息を荒々しくさせ、目を血走らせながら彼女のことを凝視していた。
しかし、絵里は至って冷静であり続けていた――――――
「あはははははははは!!!! さあ、絵里ちゃん。何か言い残すことがあったりするのかなぁ?遺言でもあったりするのかなぁ?ことりが聞いてあげるよ?聞いてすぐに忘れてあげるけどね!!!」
「そうね………それじゃあ、最後に…………穂乃果たちも殺しちゃうのかしら?」
「殺しちゃう殺しちゃうよ♪ことりの邪魔をするのなら誰だって排除するよ、殺してあげるよ!!誰にも渡さない、渡すつもりなんかこれっぽっちも無いんだからね♪あはははははははははは!!!!!!!!!!!!」
我を失ったみたいにケタケタと壊れるくらいに笑いながら平然と、親友の殺害を予告することり。 共に蒼一のために行動しようと約束を交わしたのにも関わらず、彼女は感情に流され易々と口にしてしまったのだ。 なりふり構わず排除しようとする彼女を誰も止められないモノだと思われていた―――――――――
――――――――――――が、
「うふっ……うふふふふ………だと言っているわよ――――――
――――穂乃果、海未―――――――」
「――――――えっ――――――?」
ことりの口から狂気の言葉が途切れる。
一瞬、頭が真っ白な状態になったように彼女はすべての行動を停止した。
そして、彼女はゆっくりと後ろに顔を向け始める…………するとそこに…………
「ッ―――――――――――?!!!」
彼女がいるはずもないと思っていた、親友が2人。 彼女を凝視して立っていたのだった―――――――
【監視番号:37】
【再生▶】
(ピッ!)
『あら、意外にも早起きなのね、あなたたち』
『絵里ちゃん…………』
『絵里…………』
『あらあら、2人とも怖い顔をしちゃって。 どうかしたのかしら?』
『とぼけないで!! ことりちゃんにあんな傷をつけたのは絵里ちゃんなんでしょ?!』
『あぁ……なんだ、そのことね。 うふっ、いい声で鳴いていたわよ………うふふふふ………』
『ッ―――――――!!!!!』
『ふっ、強そうなパンチね。 けど、そんな鈍足じゃ私には届かないわよ?』
『うるさい!!! よくも……よくもことりちゃんを………!!!!』
『穂乃果、落ち着きなさい。 今、私たちが挑んでも絵里には勝てません』
『ふ~ん、あなたは冷静なのね、海未』
『堪えているだけです………どうしたらアナタのその汚らわしい口を一生開かせないようにすることだけを考えているのです……………』
『さすがね、3人の中でも………いえ、あのμ’sの中でも手強いかもしれないわね………』
『それで、お話しと言うのは何でしょう………そのために、私たち2人だけを呼んだのでしょう?』
『そうね、それじゃあ、率直に言わせてもらうわ。 アナタたちはどうしてことりなんかと一緒にいるのかしら? どうして、自分たちだけで行動しようとしないのかしら………?』
『『!!!!』』
『………あら? もしかして答えられないのかしら?』
『そんなわけないよ!! ことりちゃんは私たちの友達だから! 親友だから一緒になっているんだよ!!』
『そうです! そのために私たちは一緒に………』
『だからどうしたのよ? 一緒に行動したからと言ってその先は、どうなるか知らないんじゃないの?』
『そ、それは………すべてが終わったら、蒼君を穂乃果たちのモノに………』
『バカね、蒼一は1人しかいないのよ? 3人に行き渡るだなんてそんな都合のいい話なんて無いわよ?』
『ぐっ……?!』
『それに、アナタたちのその儚い夢が叶ったとしてもアナタたちは満足できるの? ずっと、傍に居られるわけじゃなくて“共有”というかたちでアナタたちのモノとなるのよ? そんなの我慢できるのかしら?』
『『……………!』』
『私は嫌よ。 蒼一が誰かと一緒に共有するだなんて、バカげてる。 蒼一を自分だけのモノにすることが本当の幸せを見つけられるのよ? そうは思わないかしら…………?』
『『!!!!!』』
『それに………アナタたちの言う親友は本当に“共有”するって約束してくれているのかしら?』
『『えっ…………??』』
『私だったらアナタたちのようないい捨て駒は、ボロボロになるまで使い切ってから切り捨ててしまうのだけど………どうなのかしらね?』
『そ、そんなことないよ………! ことりちゃんはそんなことをしないよ………!』
『そ、そうです! そんなのありえることではありませんよ………!』
『あら、そんな強気に言っているようだけど、内心かなり動揺しているようね。 何か引っかかるようなことがあったりするんじゃないかしら?』
『『………………』』
『………ふふっ、まあいいわ。 その答えはこの後に分かることなんだから』
『ど、どういうことですか…………?!』
『ここに呼んだのはアナタたちだけじゃないわ。 あの子も呼んだのよ。 まあ、今頃、私を排除できるのだろうと喜んでいるのでしょうけどね』
『どうするつもりなんですか………私たちをここに呼び寄せてまで、あなたは一体何をするつもりなのですか?!』
『アナタたちは、私とあの子のやり取りでも聞いていればいいわ。 でも、もし居ても立ってもいられなくなったら、あの子と一緒になって私に襲いかかって来ても構わないわ。 けど、どうするかは全部アナタたち次第よ――――――』
(プツン)
【停止▪】
(次回へ続く)
ドウモ、うp主です。
連続投稿は辛いです…………眠い。。。。。。。。。。
次回もよろしくです。