《完結》【蒼明記・外伝】カメラ越しに映る彼女たち―――   作:雷電p

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フォルダー3-7

 

[ 矢澤家 ]

 

 

 

 

 こころちゃんたち3人が眠りに落ちてしまうほど、夜が更け始める頃―――――

 

 

 俺は未だに、ここ矢澤家に居座っていたままだった。

 

 

 

 自分の身が危うくなりつつあるのに、何故にそこに留まっているのか―――――?

 

 

 正直な話を言えば、この時間帯に至る途中途中でここから立ち去ることが出来る隙間は存在していた。 その僅かに生じた瞬間を活用すればよかったものの、そのことに俺はまったく見向きもしないで、ただ時を待っていたのだ。

 

 

 そう、俺はここで……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 にこと決着を付けるのだ……………!

 

 

 

 

 

 

 

 

――

――― 

―――― 

 

 

 

「そ~いち~………♪」

 

 

 しっとりと体にまとわりつくような声で俺の名を呼ぶにこ。

 その声の性質と同じように、にこは俺の背後に差し迫っては、細く小さな体を持って俺の背中に覆い被さった。

 

 

 

「ようやく、2人っきりの時間になれたわね………♪」

 

 

 ふふっ、と小悪魔のような笑みをこぼすと、背後から俺の顔を触れる。 白く透き通るような肌の色、その手と腕が俺の顔に触れると、肌の滑らかな質感がよく伝わってくる。 真姫や花陽の肌に触れた時とは違ったその感触は、また新たな魅力を肌で感じさせようとしているかのようだ。

 

 

 だが、そんな魅力ですら今の俺には動じることが無かった。

 

 代わりに伝わってくるのは、俺しか見えていないその盲目な心と、我がモノにしようと画策しようとする感情などが混ぜ合わさって俺に伝わってくるのだ。 そのため、俺に絡みつくように触れるにこの細い腕が人類最初の誘惑を起こした悪魔の蛇のように思えて仕方が無かったのだ。

 

 そして、耳元で囁く熱のこもった吐息――――その1つ1つの吐息が俺の神経を敏感に反応させるのだ………!

 

 

 

「はぁ――――はぁ――――こんなに……蒼一を近くでっ………感じていられるだなんて………! はぁ――――はぁ―――――! 幸せよ………幸せの最骨頂にいるようだわっ……!!!」

 

 

 にこの呼吸が荒々しくなりはじめると、その体の動きも激しさを増させる。

 

 俺の髪の中に顔を突っ込ませているのだろうか? 鼻で吸う音が聞こえてくると言うことは嗅いでいるのか……?

 

 思わず汗が噴き出してくる。

 

 すぅーっと顔から首筋に垂れてくるその汗が、胴体に辿り着く前に温かく湿った何かによって拭きとられる………

 

 

 

………舌か……?!

 

 

 

 拭きとったんじゃなく舌で舐めとったと言うのか……!! それも一回だけじゃない、流れてきたところを何度も何度も舐め始める。

 

 

 まるで犬のようだ………匂いを嗅ぐと言い、舌で舐めると言い……その動作そのものが犬のように思えるのだ。

 

 

「あなたの匂いをもっと私に嗅がせて………あぁっ!!いい……いいわ………いいわよ……!堪らないわ、この感じ。力強い刺激的なこの匂いが私をキュンキュンさせるわ……!それに………この味……ん~、少ししょっぱい……けど、それがいいのよ。なんていい味なのかしら……男なんだからこれくらいの味でないと私を満足なんかな出来やしないんだから♪ そ・し・て………♡」

 

 

 にこの腕が動き出す。 それまで、俺の顔を散々舐めるように弄くり回していたその腕を、今度は服と肌とに僅かに空いたの隙間に入れ込み、俺の肉体を胸部から撫で回し、弄くり始める……!!

 

 

「あぁ………ああぁ………はあぁぁぁん!!なんて……なんていい体なの!!この手が肌に触れた瞬間、私の中に熱くほとばしるモノがあふれ出てきたわ!!蒼一の引き締まるような筋肉を手にしただけで、もうにこはメロメロよ♪やっぱり、いい体だわ!にこ好みの素晴らしい体よ!もっと、もっと私に感じさせて頂戴ッ!!!」

 

 

 恐ろしいほどに激しくなるにこの興奮状態は、その声さえも抑えきれないほどに沸騰した。 それを囚われながら見ている俺ですらこれをどうしたらよいのかと、肝を冷やしてしまう。 ここまで我を忘れ、欲望を垂れ流しているにこを見たのは初めてだ。

 

 

 顔はここからでは見ることはできない、だが、彼女から感じ取れるモノはμ’sでいる時とは、まったくの別人であり、面影など微塵の無いものなのだと言うことがよく分かるのだ。

 

 

 

 

 

 そして、にこにそうさせてしまっているのが俺なのだと言うことに、自分の胸を苦しく責め立ててしまうのだ………!!

 

 

 

 

 

 

 

 もう、我慢が限界に来ていた―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はにこの伸ばすその腕を掴み、その行動を静止させる。

 このような状態になっても、にこ自身が持つ力は左程と言っていいくらいに弱かった。 その体相応の体力であったことで、俺はすぐに止めることが出来たのだ。

 

 

「にこ………もう止めるんだ……………こんなことをするのは、お前らしくないぞ………」

 

「私らしくないですって……?アハハ、何を言っているのかしら蒼一。私がにこよ?アナタのすぐ隣に居るこの私こそにこであって、本当の姿なのよ?これが本来の私なのよ!」

 

 

 まったく臆することなく俺の言葉を絶ち切ったにこの言葉には、かなりの自信を感じ取った。 腹から出る言葉で俺の聴覚を刺激するのだが、それのどこまでが本心なのかまではハッキリとすることはできなかった。

 

 

 

「違うな……俺の知っているにこはこんなヤツじゃない………」

 

「だから、何を言っているの?………私のことを感じてみて?ほら、分かるでしょ?蒼一が触れているのは、私。アナタのことを誰よりも愛して止まないアナタが愛しているにこなのよ!」

 

 

 飛び付くような速さで、もう片方の手で俺の手を掴むにこ。

 そうしたことにより、ようやくにこの表情を見てとることが出来た…………

 

 

 

 だが、その表情を見るやいなや、俺は顔をしかめてしまう。 俺の思った通りの表情だ、今のにこは俺の知っているにこではなかった………光を失い薄暗く濁りきったその目で辺りを見渡し、笑っているのかすら怪しい薄気味悪い表情を浮かべているのだ。 こんな酷い醜態を人前で見せるようなことをにこは絶対にしない………

 

 その変わり果ててしまった姿に思わず、心がギュッと締め付けられるような苦しみが走ったのだった。

 

 

 

「やっぱり違うな。 お前の顔を見て確信したよ、お前は俺の知っているにこじゃないし、俺の好きなにこでもない………まったくの別もんだ………」

 

「なっ………?!」

 

「俺の知っているにこは、μ’sの誰よりも他人思いでやさしく気配りが出来、好きなモノに対する強い信念を持っているみんなに愛されるようなすごいヤツだ………だが、俺の目の前に居るのは何だ? 自己中心的になり周りのことがまったく見えなくなっちまって、自分の気に入らないヤツに対して刃を向けようとする。 挙句の果てには、自分の信念である『みんなを笑顔にする』ということすらも曲げてしまうようなヤツを俺はにことは呼ばない…………」

 

「!!!」

 

 

 俺の言葉が突き刺さったのだろうか、にこは目を見開いたまま体を硬直させた。

 そして、掴んでいるその手を放すとゆらゆらと体を揺らしながら後ろへ後退し台所の近くにまで下がった。 先程まで見せていた覇気は空前の灯のように思えた。

 

 

 

 

「にこ、お前は何のためにμ’sに入ったんだ? お前の信念であるみんなを笑顔にすること、そして、アイドルになることを夢見て入ってきたことを忘れたか? お前はそんなんでいいのかよ? お前の信念って言うのはそれっぽっちのモノだったのかよ!!!」

 

 

 

「う、うるさいっ!!!」

 

 

 

 投げつけられた癪にさわる言葉に怒りを感じたのか、にこは怒鳴り散らす! 思わず体をぶるっと震わせてしまうほどの声に目を細める。

 

 すると、にこは頭に手を押しつけるようにして俺の方に目を向け始める。 曇っていた瞳に新たな感情が芽生え始めたようだ。 それは穂乃果と対峙した時と同じような感じが………

 

 

 

「さっきからゴチャゴチャとうるさいことを散々並べ立てて………鬱陶しいのよ!!信念?アイドル?そんなの関係ないわ………μ’s?あぁ………あんなのどうでもいいわ…………今の私には蒼一がいればいいの、蒼一だけがいてくれたら私はそれでいいの。蒼一が私のすべてなの……誰にも渡さないわ……もし私の邪魔をするなら………この手で消してあげるわ…………」

 

 

 

 にこは台所の方に手を伸ばすと、おもむろに包丁を取り出す。 鋭く研がれた切れ味が良さそうな包丁を手にしたにこは、その先を俺に向け始める。

 

 強烈な殺気を感じ始める―――――

 

 

「にこ…………」

 

「誰にも邪魔はさせない………誰にも………誰にも…………!」

 

 

 包丁を手にしながら、にこは自分に暗示を掛けるかのように何度も同じような言葉を発する。

 

 だが、それはあまりにもおかしな光景にもとれるのだ。 殺気を発していながらも何故かそれを俺に向け無いのだ。 では、何故包丁など手にしたのだ? それを持って俺を脅迫するのか刺しに来るのではなかったのだろうか? それとも、また真姫たちのところに行こうとしていたのだろうか?

 

 

 いや、そうでもないのかもしれないようだ――――――

 

 

 俺はにこの姿を凝視する。 すると、よく見れば、手にしていた包丁が小刻みに揺れているのだ。 それに、俺に向けられていた視線も、まるでピントがずれたかのようにおぼろげになっている。 明らかに何かに動揺しているように捉えることが出来るのだ。 これは何かの兆しなのだろうかと、眉間にしわを寄せた。

 

 

 

 いや、待てよ………確か、真姫が―――――――――!

 

 

 

 戸棚に仕舞われていた書籍を取り出すかのように、真姫がにこに襲われた際に何かに動揺していたと言う記憶を思い起こした。 同時に明弘も同じようなことを話していたことを考えると、にこの中で何かが生じているのではないかと推測した。だとしたら、真姫たちが言っていたことと、こころちゃんがさっき言っていたこととの辻褄が合う。

 

 

 少しばかり、揺らして見るか?

 

 

 

「………もう止めるんだ。そんなのは、お前には似合わない………人から笑顔を奪うような行動なんて、お前には似合わないさ…………」

 

「う、うるさいうるさい………! 蒼一に何が分かるっていうのよ!」

 

「わからねぇな……確かに、そこはお前の言う通りかもしれない。 けど、ただ分からないからってそのままにしておくのは俺の性に合わないのさ。 ましてや、お前みたいなヤツはな」

 

「ッ―――――!?」

 

 

 俺は一歩前に近づく。

 

 その一歩を踏み出しただけで、にこはまた動揺を示し始める。

 

 

 

「来ないで………来ないでよ…………来たらこれを投げるわよ………!!」

 

 

 また一歩前に踏み出すと、にこは悪あがきでもするかのように握る包丁を投げようと振りかぶる。 脅しか、それとも本気なのか………いずれになるのか、今のにこからは見てとることはできない。 けれど、例えどちらであろうと俺の気持ちは変わることはないだろう。

 

 俺はまた大きく前に踏み出す。

 

 

 

「投げられるなら投げてみやがれ………! 俺は………それを全力で受け止めてやる………!!」

 

「ッ―――――!!」

 

 

 諸手を広げて豪語すると、にこの動揺はピークに到達しそうになる。

 にこの体全体から殺気が抜け落ち、どこに向ければ良いのか分からない気持ちを中空に浮遊させているような迷いが生じているように思えた。

 

 

 

 あともうちょっとで、にこに辿り着く―――――!

 

 

 

 この必然が生み出した情景を無駄にさせないために、俺は最後の踏み込みをしようとする…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガラっ―――――――――

 

 

 

 

 すると、どういうことだろうか…………俺の背後で閉じていたはずの襖が開いた。 それは同時に俺の集中をそちらに向けざるをえなくなったのだ………!

 

 

 

 

 

「う~ん………おねぇ………さま……………?」

 

 

 

 襖から顔を出したのは、目元を擦りながら眠たそうなしぐさを見せるこころちゃんだ。 俺たちの声がよほど響いたのか、眠っていた彼女を起こさせてしまったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ッ――――――――――!!!?

 

 

 

 その刹那、その僅かな間に先程と同じくらいの強烈な殺気が一閃を駆け抜けた。

 

 まさかっ!!と血相を欠いてにこの方を見ると…………

 

 

 

 

 

 

 あろうことに、振りかざしていた腕がこちらに向けて伸びているではないか………!

 

 

 

 それに…………握られていた包丁は……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………中空で勢いよくまわり続けてこちらに向かって来ているのだ……………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………それも、こころちゃんに向かっていたのだった…………………!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ―――――――?!!」

 

 

 あのバカッ!!! あまりにも唐突なことに驚いてその衝動で腕を振りかぶったと言うのか………! なんて愚かなことをしやがるッ―――――――――!!!!

 

 

 

 中空を勢いよく回りだす包丁はそのまま真っ直ぐに目標に向かって行こうとしていた。 目標となる当の本人は気付いていないし、投げた張本人は今になってその過ちに気が付いているかのようだった………!!

 

 

 

 

 くっ…………! このバカがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は全身に力を込め始めると、そのすべてを足の俊敏性に集中させる。 あの刃が到達する前に何とかしてやらねばならないのだから………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 ならば、この運命―――――――変えさせてもらう!!!!!

 

 

 

 

 

 

 俺は願いを込めながらこの無茶な行動に出るのだった―――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グサッ――――――――!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 深紅の鮮血が服を染めていく―――――――――――――

 

 

 

 

 

 

(次回へ続く)




ドウモ、うp主です。


今週中にこの話に決着が付きそうな気がします(曖昧)



次回もよろしくお願いします。

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