《完結》【蒼明記・外伝】カメラ越しに映る彼女たち―――   作:雷電p

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 全身の毛が逆立つ――――――

 

 

 それは言葉通りのことだ。 色濃い髪の毛から肌に薄らと生えているやわらかな産毛までが、一斉にピンと立ち上がったのだ。 まるで、縫い針のように先が鋭く、金属のように固く立ち上がるのだ。

 

 

 こんなことは初めてだった――――――

 

 

 少し冷っとさせられる程度で生じた時とはまるで別物だった。 その時は、心の奥底では『大丈夫だ』という安心しきっていた部分があったからその程度だった。 自分たちが暴漢に襲われそうになった時にもそのようなことを思っていた。 それまで使っていたこの言葉―――毛が逆立つというのはこれくらいのモノだと彼女は認識していた―――――――

 

 

 

 そう、この時までは――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「は~な~よ~ちゃぁ~ん~?」

 

 

 

 

 その時、彼女はようやくこの言葉の真の意味を知った―――――――

 

 

 

 

 

 

 決して助かることは無いのだという恐怖に向き合うということを――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―― 

――― 

―――― 

 

 

 

 

 ギロリとした目付きと大きく引き裂かれたようなその口は、彼女が彼女であるということを否定しているかのようだった。 ゆらりゆらりと体を左右に揺さぶりながら接近してくる彼女――――――μ’sの発起人にしてリーダーである高坂 穂乃果は、禍々しい姿をして花陽と凛に近づいていた。

 

 

 太陽のような笑顔と、分厚い雲さえも突き破って晴れにしてしまいそうな陽気な声、少しドジでおっちょこちょいであるがやさしい姿を見せてくれるのが彼女の善いところであり、チャームポイントとなっていた。

 

 

 しかし、今の彼女を見てどう思うだろうか?

 

 太陽のような笑顔は、見る者誰しもが震え上がってしまうほどの不気味な形相となり………陽気な声は、燃え盛る炎を一瞬にして凍らせ、氷のオブジェクトとしてしまうような冷酷な声色となり…………やさしさなど一切無くし、代わりに死を司る魔界からの使者のように殺気に満ちていた。

 

 

 これを高坂 穂乃果であると断言できる人はいないだろう………例え、共に学校を守ろうと一緒に活動し続けたメンバーであってもだ――――――――――――

 

 

 

 

「あ………あっ…………あぁ………………」

 

 

 その姿を目の当たりにした花陽は、まさに全身の毛が逆立っていた。 花陽はあまりの恐怖に立ち尽くしてしまう。 逃げ出したいほどに恐ろしい――――だが、体がまったく言うことを聞かなかった。 蛇に睨みつけられた蛙のように体を固めてしまった彼女の表情がさらに青くなりはじめていた。

 

 花陽の手を握りしめていた親友の凛も同じように、立ち尽くしてこの場から動けなくなっていた。

 

 

 2人揃ってどうすることもできない状況に立たされていたのだ。

 

 

 

 そんな無防備な2人に向かって、穂乃果は話し出す。

 

 

 

「あははっ、2人とも面白い顔をしちゃっているよぉ~? どうしちゃったのかなぁ~?? 穂乃果の顔に何か付いちゃっているのかなぁ~?? だとしたら教えてくれないかなぁ~~???」

 

 

 首が取れかかった人形のように頭部を揺らしながら彼女はケタケタと笑いだす。 まるでホラーやスプラッター映画に出てきそうな奇行生物のようだ。 恐ろしいの一言に尽きてしまう。 だが、これはまだ昼すら過ぎていない黒い雲がかかる昼間の出来事だ。 この状況を夜の暗い時にやったとしたら、この何千倍もの恐怖が攻めかかってくることだろう。 世界一のお化け屋敷も諸手を挙げてしまうほどの恐怖体験をしてしまうことだろう。

 

 

 そんな彼女はまだ話す。

 

 

 

「穂乃果ねぇ………ことりちゃんから裏切り者を排除してくれって言われてきたんだけど………あれれ~? 何でだろう………?? 2人の体から蒼君の家の匂いがするよぉ~………??? 特に………花陽ちゃんの体からは、とぉ~~~~っても濃い蒼君の匂いがするんだけど……………どうしてかな???」

 

「ひっ………!!」

 

 

 花陽は言葉を失う。

 穂乃果との距離は数十メートルも離れているのにもかかわらず、彼女から放たれているのかすら怪しい蒼一の匂いをかぎ分けたことに彼女は驚く――――――だが、それが原因ではない。 彼女が昨晩蒼一と一緒に寝ていたことを知られることが恐ろしかったのだ。

 

 ここ数日の穂乃果の様子を見ていた彼女は、蒼一に対するその異常なまでの執着っぷりを目の当たりにしている。 であるからして、彼女は穂乃果よりも何歩も前進した関係を蒼一との間で築いてしまったことを知られてしまえば、ただじゃ済まされないことは百も承知だった。 知られればどうなってしまうかなど、言わずとも知れたことだった。

 

 

 

 

「ふ~ん………なるほどね…………そういうことだったんだぁ……………ことりちゃんが言っていたことは本当だったんだねぇ………………」

 

 

 

 しかし、その目付きをさらに鋭くした穂乃果は何かを悟った――――――

 

 

 それに気が付いた花陽は息が止まりそうになる―――――――

 

 

 

 

 

「花陽ちゃんがぁ…………私たちを裏切ったんだぁ…………へぇ………穂乃果たちをそっち除けにして、自分だけいい思いをしていたんだぁ…………へぇ……………ねぇ、花陽ちゃん…………

 

 

 

 

 

 

 

………蒼君の唇って、どんな感じだった……………???」

 

 

「ッ――――――――――?!!」

 

 

 穂乃果のその言葉に、花陽は心臓が口から飛び出そうになるほど驚愕する―――――!!

 

 なぜ、そのことを知っているのか――――?! 誰にも知られることが無いはずなのに、どうしてそのことを穂乃果が知っているのか、疑問に思いたかった。

 

 

 けれども、それよりも何よりも一番恐ろしかったのが――――――――

 

 

 

 

 

「もう―――――わかってるよね――――――――?」

 

 

 

 穂乃果の全身から解き放たれる殺気がこの閑静な住宅街の道を包み込んでしまうほど強まっていたということだ―――――――――!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かよちん、逃げるにゃ!!!!!」

 

 

 硬直していた彼女を強引に引っ張ったのは、凛だ。

 凛は穂乃果の変化に気が付くと、条件反射の如く逸早く体を動かしたのだった。 動けずにいた花陽を何としてでも穂乃果から遠ざけたかったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「逃さないよ―――――2人とも―――――――♪」

 

 

 

 

 

 彼女との距離を数百メートルも離したところで、彼女は始動する――――――

 

 

 

 

 悪夢のようなリアル鬼ごっこの始まりだった――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―― 

――― 

―――― 

 

 

 

 穂乃果から逃げる2人は全力で走り回った。

 凛に手を引かれていた花陽も自らの力で走りだして路地を駆け回る。

 

 

 走りだしてから、もうすでに数分が経とうとしていた。

 毎朝の練習で鍛えられた彼女たちにかかれば、数分間全力で走り回ると明神からアキバ駅まで行くことが出来るだろう。 2人はそのくらいの距離を走りきったことになる。

 

 

 

 

 しかし、これで終わってなどいなかったのだ。

 

 彼女たちは未だに走り続けているからだ。 特に花陽は息切れが激しくなり、表情にまったく余裕が無くなって今にも倒れてしまいそうな状態だ。

 

 だが、休息などは与えられなかった。 今ここで足を止めてしまえば、永遠の休息を得ることになってしまうのだと知っている彼女は、何が何でも走りだすしかなかったのだ。

 

 

 

 2人の後ろを追いかける彼女が待ち構えているから―――――――

 

 

 

 

 

 

「あはははははは!!!! いつまで追いかけっこが続くのかなぁ!!!??????」

 

 

 狂気に満ちた甲高い声が辺りに鳴り響く。 それが2人に届くと、なお一層足に力を込めて走りだしてしまう。 捕まったら最後なのだという恐怖が彼女たちを焦らせる。

 

 その不用意な力の放出が彼女たちの体力をじわじわと減らしていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「あっ―――――!!」

 

「かよちん―――――!!!」

 

 

 力が落ち始めていたその直後、花陽は足を絡ませて転倒してしまう。

 凛はそれに気が付きすぐに花陽のもとに駆け寄った。

 

 

 

 

 

 

 

 ブンッ――――――――――!!!!!

 

 

 

 

「「ッ――――――――――?!!!」」

 

 

 風を力づくで寸断してしまうような轟音と共に、穂乃果が2人に目掛けて何かを振り降ろした。 だが、間一髪で凛が花陽を抱えて移動したことでそれに当たらずに済んだのだった。

 

 

 

「あ~失敗、失敗……♪ 後もうちょっとで、おいしそうなハムになったのにざぁ~んねん♪」

 

 

 実に愉快な声をあげる穂乃果の手に持っていたのは、包丁―――――あのにこが持っていたのに近い鋭利な包丁を片手にしていたのだった!

 

 そんな物騒なモノをこの数分間の逃走の中でずっと持ち続けていたのだろうか? だとしたら――――いや、そうでなくとも常軌を逸している穂乃果に我々の一般常識など通用することなどありえない。 少なくとも、今の穂乃果ならその包丁を持って細切れにしてしまいそうな勢いである。

 

 

 包丁を目にした2人は腰を抜かしそうになる。 本当に穂乃果が殺そうとしていることに、戦慄するのだ。

 

 

 

「か、かよちん………いくよ!!」

 

 

 凛は立ち上がり、倒れ込んだ花陽を起こして支えながらまた走りだす。 それでも、2人は走らなければならなかった。 そうしなければならなかったからだ。

 

 

 

 再び、鬼ごっこが始まる――――――

 

 

 

 

 

 

 しかし、花陽はもう限界に近付いていた。 先程の転倒で保たれていた力のバランスが崩れたことで、全身から力がドッと流れ落ちた。 息切れもさながらよろよろと走るその姿に、もはや気力があるようには思えなかった。

 

 当然、彼女を支えている凛はすぐにその変化に気が付いた。

 凛は疲れ果てている花陽を何とか支えつつ、穂乃果の魔の手から逃れていた。 けれども、μ’s1の運動神経を持つ凛でさえも花陽を支えながら穂乃果から逃れることなど出来なかった。 広く保っていた距離もジワジワと縮まっていた。

 

 

 

「…………こうなったら………!」

 

 

 2人は1つの路地を曲がった。 その先には、2メートル程はあるだろう壁によって立ち塞がれた行き止まりだった。

 

 この状況に置いて、その自殺行為にも捉えられるような行動に移した凛には1つの考えがあった。

 

 

「かよちん、この壁を登るにゃ!」

 

 

 壁の近くにまで来た凛は、花陽を壁の向こうへ行かせようと図ったのだ。 花陽は、凛の言葉通りに行動し始め、凛に支えられながらその壁をよじ登った。

 

 

「凛ちゃん! 早く!!」

 

 

 花陽は壁の上にまで登ると、その手を凛にさし伸ばした。

 

 

 けれど、凛はその首を横に振った。

 

 

 

「ダメだよ………そうなると、穂乃果ちゃんがすぐに追いついてきちゃうよ。 かよちんだけでも逃げて………」

 

「凛ちゃん………!!」

 

 

 凛が口にした言葉の意味を理解した花陽は叫ぶ。 すると凛は、不器用な笑顔を見せる。

 

 

「かよちんは凛が護るんだよ…………だって、凛はかよちんのことが大好きなんだもん………」

 

「だ、ダメ……!! 凛ちゃんも一緒じゃなきゃイヤだよ!!!」

 

 

 花陽は凛を説得しようとするも、凛は一向に首を縦に振ろうとはしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「友情ごっこはもうその辺でいいんじゃないのかなぁ~?」

 

 

「「!!!」」

 

 

 

 時間は来てしまったようだ。

 

 

 

「かよちん!! 早く行って!!!」

 

 

 凛はそこから数歩前に出て穂乃果に近付こうとする。 出来るだけ時間を稼げるようにとそうしたのだろう。

 

 

 だが、その凛の姿を見てほしい。

 ただでさえ小さいその体が穂乃果を目の前にしてさらに小さく委縮してしまう。 全身が震えており、足なんて立っているのがやっとのようで、簡単に崩れてしまいそうだ。 表情に自信など一切見受けられない。

 

 けれど、何かを覚悟したかのような顔つきで彼女は立っていた。

 大切な人を護りたい――――その一心でこの無謀のようなことをしているのだ。 絶対に逃げたり、負けたりしたくなかった。 大切な親友を自分の力だけで助けることが出来なかったあの日の出来事が今でも歯痒い気持ちでいる。

 

 だからこそ、今ここで大切な親友を護りたかったのだ!

 

 

 

「勇敢だねぇ~凛ちゃんは。 でも、いつまで持つのかなぁ~♪」

 

 

 黒く淀んだ瞳を彼女に向けながら不気味な笑みをこぼす。 手に持つその刃物が禍々しい得物として凛に向けられようとしていた。

 

 花陽はその様子をただ無力に思いながら見つめていたのだった。

 

 

 

「大丈夫だよ、花陽ちゃん。 凛ちゃんが終わったらすぐに同じところに連れて行ってあげるからね♪」

 

 

 殺人鬼さながらな言葉をサラッと言い放つ穂乃果。 この一帯に包まれたおぞましい空気が一気に深まっていく。 凛もその深みへと沈みかけていたのだった。

 

 

 それを感じた穂乃果は勝ち誇ったような表情を見せ、じわりじわりと近付く。

 

 

 

「それじゃあ、サヨナラ―――――凛ちゃん♪」

 

 

 最後の会話をするような言葉を投げ掛け、穂乃果は地面を力強く蹴り飛ばす。

 

 凛もまた迫りくる穂乃果を止めるために全身に力を込める。

 

 

 

 2人の距離は急激に狭まった。

 

 

 一方は、殺気にあふれ刃物を振りかざす穂乃果―――――

 

 もう一方は、決意を持って無防備に構える凛―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 運命の一瞬が訪れようとしていた――――――――――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バギッ――――――――――――!!!

 

 

 

 

 

 

「「「!!!?」」」

 

 

 

 

 鈍い金属音がこの一帯に響く――――――――

 

 

 

 

 穂乃果の振り降ろした包丁が刃の付け根から折れたのだ!

 刃はそのまま空中を何度も回転してから道端に落ちていった。

 

 

 この場にいる誰もが目を見開き硬直する。 ありえもしないことが現実に起こってしまったのだ、驚愕するのは当然だった。

 

 

 しかし、何よりも驚いたのは――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふざけるのも大概にしろ、穂乃果。 お前は一体、何をやっていやがるんだ………?」

 

 

 

 

 

 凛と穂乃果の間にいつの間にか現れていた蒼一に対してだったのだ―――――!!

 

 

 

 

 

 

 

――

――― 

―――― 

 

 

 

「どうやら、間一髪間に合ったみたいだな…………」

 

 

 凛と穂乃果の間に入りこんだ俺は、双方を見渡した。

 この場に居る3人全員が俺を見て驚きの表情を示しているようだった。 そりゃあそうさ、花陽がよじ登った壁に登ってから飛び出して、突然のように2人の間に入ったのだから驚くに決まっているさ。

 

 

 

「蒼くん!!」「蒼一にぃ!!」

 

 

 凛と花陽の視線が俺に集中されているように感じた。

 さっきまで、怯えていた2人から安堵と希望の表情がうかがえる。

 

 一方で、穂乃果は驚愕したような表情を俺に見せており、未だにこの状況を把握できていないようにも見えたのだ。 まったく、一体何をやっているのやら…………

 

 

 

 そうそう、そう言えばさっき穂乃果の持っていた包丁の刃が折れて飛んでいったみたいだな。 アレはだな、こっちに来る前に希から何か固いものを持って行くようにと言われ、その場で、小さなフライパンを手渡されたのだ。 希曰く、今日の俺のラッキーアイテムなんだとか………半信半疑な気持ちで仕方なく持って行ってみたものの、まさか初っ端から活躍してくれるだなんて思ってもみなかった。

 

 勢いよく振り降ろされた包丁が盾のように構えたフライパン目掛けて吸い込まれていったのだ。 するとどうだろう、フライパンの強度で負けた包丁は根元から折れてしまったのだ。 これにより、穂乃果は唯一の武器を無くしてしまったことになるのだろう。

 

 さすが、ウチのスピリチュアルガールは一味違うようだな。

 

 

 

 

「そう………く………ん……………?」

 

 

 覇気を失った穂乃果は呆然と俺を見続けていた。

 

 しかし、なんて酷いなりだろうか………その顔を見た時、一瞬誰だ?って思っちまうほど酷い表情をしていたから戸惑っちまった。 けど、微かに感じた穂乃果独特の雰囲気が伝わってから、ようやく穂乃果なのだと認識することが出来たのだった。

 

 

 

「お前………一体何をしていやがるんだよ……………」

 

 

 複雑な気持ちを抱えたまま、俺は穂乃果に問いただす。

 今の俺は、穂乃果に対してどんな気持ちで接したらよいかが分からなかった。 変わってしまったことを哀れめば良いのだろうか? 凛たちに対して振りかざした殺意に対して怒ればよいのだろうか? それとも――――――やさしくすればよいのだろうか?

 

 

 沸々と湧き上がるこの気持ちがハッキリとしないまま穂乃果に向けた。

 

 穂乃果はどんな俺の気持ちを汲み取るのだろうか?それが心配で仕方なかった…………

 

 

 

 すると、穂乃果は1歩……また1歩と後退し始めた。 体が震えだしているその様子を見る限りでは怯えてしまっているようにも見えたのだった。

 

 

 

「や……やだよ………そんな怖い顔をしないでよ…………穂乃果は……蒼君のためにやってたんだよ………? だから………穂乃果を褒めてよ………? 穂乃果はいい子だよね…………?」

 

「…………………」

 

 

 

 どうやら………穂乃果には、俺が怒っているように見えてしまっているらしいな。 けど、逆に言えばそれは穂乃果自身にも何か後ろめたいようなモノがあるのだということに気付くことになる。

 

 

「穂乃果………ハッキリ言おう。 今のお前は全然いい子なんかじゃない。 とっても悪い子だ」

 

「ッ―――――!!? そ、そんな…………!!」

 

「お前がやろうとしていたことはなんだ? お前の仲間を消そうとしていたんだぞ? それが本当に正しいことだと思っているのか? 俺が喜ぶと思ったのか?」

 

「だ……だって、そうしないと………蒼君が苦しんじゃうって、ことりちゃんが…………」

 

「誰が苦しむもんか。 もしお前がことりの言葉通りに事を行っていたら、俺は………お前のことを一生軽蔑することになってたぞ………!」

 

「!!!?」

 

 

 穂乃果の表情が段々と余裕が無くなっていくのが見えた。 俺を見ていた瞳は虚ろい始め、赤かった顔色も段々と青白く変化したのだった。 明らかな動揺が見てとれたのだ。

 

 

「………や………イヤ………穂乃果は………穂乃果は蒼君を喜ばせたかっただけなのに………蒼君を助けたかったのに………嫌われちゃったよ…………蒼君に嫌われちゃったよぉ…………う、うわああああああああああああああ!!!!!!!」

 

 

 俺の一言が身に沁みたのか、穂乃果は狂い出すように泣き喚く。 穂乃果は穂乃果なりの正しいことをやろうとしていた。 そうやって、俺の気を引こうとしていたこともその言葉から感じ取れた。

 

 だが、俺はそんなことは決して赦さなかった。 例え俺のためだからという名目で、他人を傷つけること―――ましてや、自分の仲間を傷つけることを平気でやってしまうようなことを俺は良しとはしなかった。

 

 だから俺は、穂乃果に対して厳しく接してしまう。 それは、親友であり幼馴染であるが故になお一層厳しくしてしまうのだった。

 

 

 

「蒼君の隣にいていいのは、穂乃果だけだよ……! 蒼君と一緒いることが出来るのは穂乃果だけなんだよ………!! なのに………なのに…………!!」

 

 

 穂乃果は涙でぐちゃぐちゃになった顔で最後に俺を見た。 なんて、悲しい目をするのだをうか………絶望の一途を辿っていくようなその表情に俺は、一瞬だけ釘付けになる。

 

 

 すると、穂乃果は何かを悟ったような表情をしてから俺の前から姿を消した。

 

 

 待て!と言って引き留めたかったのに、追い付くことが出来なかった…………

 

 

 

 

 

 そうして俺は禍根を残すことになってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぎゅぅ―――――――――

 

 

 

 俺の背中から抱きしめられるような感触を抱く。 後ろを振り向くと、凛が俺にくっ付いていたのだった。 震えていた足は半ば崩壊しかけており、俺を支えにしてやっとの思いで立っている様子だった。

 

 

 

「………怖かった………怖かったよぉ……………」

 

「よくやったな、凛。 怖かったろ? もう大丈夫だ」

 

 

 凛は大粒の涙を大量に流して泣きだした。 あの穂乃果に対して、勇敢にもたった1人で立ち向かっていったのだ。 そんな無謀にも捉えられるような行為をこの小さな体でやってのけようとして見せたのだ。

 けれど、凛は女の子だ。 恐ろしい光景を前にして身をすくめてしまうこともあったはずだ。 それでも、凛はやってみせようとしたのだ。 俺はそんな凛を誇りに思い、讃えるようにその怯える小さな体を抱きしめてあげたのだった。

 

 

 

 

 

 

「蒼一にぃぃぃぃぃ!!!!」

 

 

 花陽もまた壁から下りてきて俺の体に抱きついてきた。 一番怖い思いをしたのは、やはり花陽だ。 穂乃果からの殺気が花陽に集中していたのだ、怖くないはずもなかった。

 

 俺は花陽の体を抱き寄せ、凛と一緒にその全身を包み込むように抱き締めてあげた。 それで安堵してしたのか、2人の気持ちを押し留めていた感情が一気に崩壊してしまう。 2人はまた大きな声で泣き叫んだ。

 

 俺は2人の顔が見えないかたちで抱きしめていたので、どんな表情をしているのか分からなかった。 けれど、体の芯から伝わってくる気持ちと言うのは、とても穏やかなものだったのだ。

 

 

 

 

 

 

―― 

――― 

―――― 

 

 

 

 2人が泣き止んだその時、1人の訪問者がやってくる。

 

 

 

 

「およ? どうやらうまく言った見たいやな♪」

 

「希………!」

 

 

 ウチのスピリチュアルガール希が俺たちの前に颯爽と現れては、ニッコリと微笑んでみせる。 一体、どこからやってきたのかまったく見当もつかないところなのだが、その不思議な感じによって俺は助けられているのかも知れなかった。

 

 

 

「ふふふ、ウチの言った通り、ラッキーアイテムはよう役に立ったとちゃう?」

 

「おかげさまでな。 ホント、お前には助けられたぜ」

 

「そう言ってもらえると、ウチも嬉しいわ~♪ もっとウチを頼ってもかまわへんのやで? 蒼一をちゃぁ~んと助けてあげるで♪」

 

「そん時はそん時で頼むわ」

 

 

 そう言ってやると、言葉には出さなかったがとってもいい表情で俺を見つめてきたのだった。 そんなに嬉しいのだろうか?と少し疑問にしたくなるのだが、それはそれで置いておくことにしておこう。

 

 

 

「そんなら、ほな行こか?」

 

「ん? どこにだ?」

 

「そんなの決まっとるやん! 蒼一の家やで♪」

 

 

 

 そう不敵な笑顔を見せつけると、希はそのまま歩き始めたのだった。

 

 

(次回へ続く)

 




ドウモ、うp主です。

どうにか、花陽と凛を助けることが出来た蒼一はようやく彼女のもとに行きます。


次回もよろしくお願いします

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