《完結》【蒼明記・外伝】カメラ越しに映る彼女たち―――   作:雷電p

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[ 宗方家・玄関 ]

 

 

「な………に…………?!」

 

 

 俺の視界の中に入ってきたその光景に体を強張らせる。

 さっきまで何も持っていなかったその手に、ギラリと怪しげな妖気を放つ銀色の刃物が備わっていた。 それが包丁なのだということに気付くのに時間は必要なかった。

 

 

 すると、次の瞬間―――――にこは俺目掛けて距離を詰め始めたのだった!

 

 は、早い……! その一瞬の出来事に俺の両眼は反応しきれなかった! 距離を急速に縮めたにこは、その包丁を下から上へと大きく腕を振るわせて斬り上げる!

 

 

 

 ジッ――――――――!

 

 

 

「くっ―――――?!」

 

 

 空を切り裂くようなその漸撃を咄嗟に反応した体が避ける――――――だが、その際に僅かだが服に傷が付いた。 肌には達してなかったため、体に問題は無かったがあそこで迷ってしまっていたら大怪我をしていたに違いなかったぜ………!

 

 腕が上にまで振り切ったところを見計らい、床を一蹴り入れて、にこから離れるために若干な距離を取る。 その直後に、にこは振り上げた包丁を下に振り降ろしていたので、内心冷っとさせられる……!

 

 

「うっひょぉ………マジかよ…………」

 

 

 致命傷を加えさせるには十分なその見事な二段斬りを目の前で見せられたので、焦りが言葉となって口から漏れ出てきた。

 

 

 コイツァやべぇな………あの勢いと躊躇いの無さは、確実に俺を殺そうとしていやがった………! 喧嘩で培った経験と勘が無かったら、即、御陀仏様だったろうよ…………

 

 

 ゆらりゆらりと体を左右に揺らしながらこちらを凝視するにこを見ながら少しぼやく。 実際、マジでヤバかったし、余裕なんてこれっぽっちも存在しなかったんだ。

 

 これは、いつぞやに相手したクソJK狩り野郎どもとはまったくの別もんだぜ………!

 

 

 

 額からにじみ出てくる汗を拭く―――――――

 

 

 

 俺は、若干な希望を抱いてにこに声を掛けてみる――――――

 

 

 

「おい、にこ! 何しやがるんだ!! 危うく怪我するところだったじゃねぇか!!!」

 

 

 少し嫌味を含ませた口調で投げかけてみると、真顔だったその表情に変化が表れ始めた。 口元をニィ…と頬まで薄らと伸ばして笑っているかのように見せる―――――いや、アイツはマジで笑っているんだろう………目元も嬉しそうにしているんだからそうだと言えるのだが………何分、それはアイドルが……それ以前に、女の子が見せちゃいけない表情をしちゃっているから、初見さんは迷っちまうだろうな………

 

 そりゃあ、そうだ。 あんな不気味な表情を見せるヤツなんてヤバイヤツ以外に誰がいるって言うんだよ!って話なんだからよ………

 

 

 すると、にこは話をしてくる――――――

 

 

「あ~ら、残念だわぁ~………あともう少しで、キレイな赤い血が見れると思ったのに、残念だわぁ~♪ 蒼一を苦しめるヤツらには、こうしてやらなくっちゃぁいけないものねぇ~♪」

 

 

………ダメだ………コイツ、目が逝っていやがるッ…………!!

 

 

 キラキラと星のように輝かせていたにこの瞳には、黒く淀んだ何かがひそんでいるみたいで、以前のような輝きなど一つも見えるはずもなかった。 まったく信じられないかもしれないが………ああいう目をするヤツは、何をしたって動揺なんかしないんだぜ………例え、人を殺してもな…………!

 

 

 

「仕方ねぇ………全力で止めさせてもらうぜ、にこ!!」

 

 

 腕を前に構えて、戦闘態勢に入る俺。

 異性と戦うということに引け目とかを感じてしまうが、止むをえまい!

 

 こちらがやらなけりゃぁ………こっちがやられるだけだ…………!

 

 

 

 

 

 ダンッ――――――――!!

 

 

 

 にこがまたしても先制して突撃してくる―――――!

 包丁を後ろから振りかざし、勢いをつけさせて殺傷威力を増させる魂胆だ。 問題は振り降ろしてくるタイミングなのだが――――――

 

 

 

 

 ブンッ―――――――――――!

 

 

 

―――――割と速く来たものだ!

 

 

 俺と2、3歩程度離れた地点で、振りかぶった腕を急速回転させて振り降ろし始める――――まるで、モーターでも取りつけたみたいに早ぇんだわこれが――――――けどな―――――――

 

 

 

 

 ガッ――――――――!

 

 

 

 そんな速さには慣れている俺にとっては、赤子の手を捻るようなもんなんだよ!!

 

 

 俺は振り降ろされたその腕を手首のところから押さえ、もう片方の手で、にこの体を突き飛ばした。

 

 

 

「ぐあっ…………!」

 

 

 突き飛ばされたにこは、背中から床に当たり、1度後転してから倒れる。

 

 やったか―――――?と思ってしまったが、そうでもなく、にこはすぐに立ち上がってしまう。 その様子を見ても、あまり影響はなさそうだなと判断してしまう。

 

 

 何しろ、まずやんなきゃいけねぇのが、あの包丁をどう落とすかだよなぁ………ぬるい手でやっても効果はなさそうだし、かえって本気でやればにこを傷つけてしまうし…………はぁ、こりゃあ面倒だわ…………

 

 

 もう一度、腕を前に構えてにこの突撃に備えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしたの、明弘?!」

 

 

 殺気で貼り詰められていたその空間に、真姫が顔を出してきた………!

 

 ちょいとばかし、激しくやり過ぎちまったから反応しちまったんだろうな………だが、タイミングが悪すぎなんだよ………! こんな時に、お前が出てきちゃぁよぉ――――!!

 

 

 真姫の声に反応しちまった俺は、視線を一瞬だけ真姫の方にずらしてしまう―――――それが不味かったんだ―――――!

 

 

 

 またもや、ゾッとするような感じが背中に感じると、瞬時に目線をにこに向ける――――そしたら、なんと目の前ににこが―――――――!!!

 

 

 

 ブンッ―――――――!!

 

 

 

 横一文字を描くような漸痕が空を切り裂いた―――!!

 先程までに見た漸撃の中でもとびっきりと言っていいほどのその速さに、出遅れてしまった!

 

 

 

 

 

 シュッ――――――!!!

 

 

 

「あぐっ―――――――――!!!」

 

 

 

 体の反応よりも先に刃先が俺の左の二の腕に到達していたようで、着ていた服もろとも切り裂かれた!

 瞬間的に激痛が走ったが、幸いにも傷は浅かった。 表面の肌が切れた程度だったが、それでも血は流れ出てくるものだ。 現に、腕を伝って指の先にまで血が流れ落ちていやがるんだからよ………!

 

 

 その俺を斬り付けたにこはと言うと、俺の横からすり抜けてそのまま真姫目掛けて走りだしていたのだ!

 

 

「そうはさせるかよッ――――!!!」

 

 

 腕の痛みを噛み締めながらもこの体をにこに近づけようと踏ん張る。 まだ残っている力を合わせてもアイツとの距離を縮ませることに何の問題もなかった。 すぐに、追い付くことが出来たわけだ。

 

 

 

 ガシッ――――――――!

 

 

 

 もう一度、包丁を持つその手首を掴む。 そして、そのままにこの体を引き寄せて、頭部のどこかしらを狙って気絶させるのが目的だった。

 

 

 

 これで終わりだ―――――!!

 

 

 

 確信を抱きつつもう片方の腕がにこの頭部目掛けて突き進むのだった―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ――――――?!」

 

 

 

 

 ぴたっ―――――――

 

 

 

 

 

 しかし、その腕はにこの頭部に到達するその手前で止めてしまう――――――

 

 

 

 

 

…………やっちまったなぁ……………

 

 

 

 心の中で自分がしてしまった重大な過ちに一言ぼやいてしまった……………

 

 

 

 

 俺は、腕を到達させる瞬間に見ちまったんだよ―――――

 

 

 

 

 

 にこの―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()をよぉ―――――――――

 

 

 

 

 

 

 反則じゃねぇか―――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 それで俺は、抱いていた戦闘意識を解かしてしまい我に返ってしまったわけさ………

 

 

 

 ばかだなぁ………俺は…………こんな時でも、女を傷つけんのを躊躇うだなんてよ………………

 

 

 

 俺の腕は最後まで、にこの顔に当たることは無かった―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 代わりに―――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゴスッ――――――――!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「がはっ―――――――!!」

 

 

 

 にこの重く圧し掛かるような拳が俺の頭部に直撃してしまったわけだ…………

 

 

 

 

…………情けねぇな……俺…………

 

 

 

 

 

 意識が………とおの…………く…………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―― 

――― 

―――― 

 

 

 

「明弘ぉ!!!」

 

 

 にこちゃんの攻撃を受けた明弘は、壁に叩きつけられてそのまま動かなくなってしまったわ!

 

 死んでしまった………?! い、いえ……刺された様子もないし、さっきのじゃあ外傷は見られない………気絶した………のかしら………?

 

 と、とにかく、何とかしなくちゃ………でも、どうしたらいいの――――――?!

 

 

 明弘を助けに行こうとしても、目の前にはにこちゃんがいるの………! 到底、近付くことすらできないわ。 今、私に出来ることとしたら、とにかく逃げることしかなかったわ。

 

 

 私はリビングに入って、そこの窓から外に出ようとしたわ。 ちょうど、外に靴を置いていたから逃げ出すことはできそうだった。

 

 

 

 

 

 

 バンッ―――――!!

 

 

 

 

「ッ―――――――?!」

 

 

 背後の扉が勢いよく開かれると、そこからにこちゃんが飛び跳ねるように出てきたの! 一瞬だけ振り向き、その様子を目にした時には、にこちゃんは空中を高らかに跳び、ニヤけた表情を見せながら私に向かって落ちてきたの!

 

 

 

 

 ドッ―――――――!!

 

 

 

「あぁ!!? …………がはっ?!!!」

 

 

 

 落ちてきたにこちゃんの体がそのまま私に当たり、体制を崩してそのまま床にへと倒れてしまったわ。 そこに畳み掛けるように、にこちゃんの体が私の体の上にあったため、私が倒れた衝撃と共にその体重が衝撃となって私の体を痛めつけてきた。

 

 胸と腹の間の鳩尾近くにちょこんと座ると、そこから持っていた包丁を振りかざして私の顔目掛けて降ろしてきたわ!

 

 

 

 

 ドンッ―――――――――――!!

 

 

 

 

「ッ――――――!!!」

 

 

 

 痛ましい音が鳴り響くとともに、その刃先は私の顔に当たらず、その横を僅かに逸れて床に突き刺さった。 間一髪で刺さることは無かったわ。

 

 

 けど、それまでのにこちゃんの一連の動作に私の心臓は強い鼓動を打ち立て、まるでその膜を突き破ってしまうと思ってしまうほどだった。 迫りくる恐怖と目の前にある恐怖がともに私を震え上がらせようとしていたわ。 現に、私の体は怯え、動かしたいのに動けないような状態でいる。 もう既に、私は恐怖に屈服してしまいそうになっていたのよ。

 

 

 

 

 

 だけど………いつまでも、このままではいられなかったわ…………

 

 蒼一に助けられ、明弘にも助けられているのに………私は何をやっているのかしら………? こんなところで燻っているようじゃ、誰も助けることなんかできないじゃないの………!

 

 

 今、私に出来ることを精一杯やらなくちゃ…………!

 

 

 自分の胸を強く叩くように私は気合を入れ直す―――――――

 

 

 もう、逃げたりなんかしない―――――――

 

 

 迷ったり、目を逸らすことはしたくない―――――――!

 

 

 わたしは……私の手でそれを成し遂げたいのよ――――――!!

 

 

 

 

 

 

 気持ちが全身にいきわたった時、体が自由になる。 気持ちが乗った私の体がにこちゃん目掛けていく!

 

 私は、その両手をにこちゃんの包丁を持つ手首に目掛けて掴み出す。 幸い、床に突き刺さった包丁が思ったよりも奥に突き刺さったみたいで、引っこ抜けずにいたらしいの。 それを好機と踏んで私は抑えに出たの。

 

 

 

「放しなさいッ!!!」

 

 

 顔と顔との距離が顔1つ分しかないほど接近した中で、鬼よりも恐ろしい形相で私を睨んでくるにこちゃんが叫ぶ――――――けど、放さなかった。 絶対に放したくなんかなかったから――――――!!

 

 

 だって、にこちゃんは―――――――!

 

 

 

 

 だから、意地でも放すわけにはいかなかったのよ―――――!!!

 

 

 

 今ある力をすべて出し尽くすほどに、腕に全神経を集中させる。 唸るように声をあげて私を威嚇してくるにこちゃんを見つつも、その集中を解くわけにはいかなかった。

 

 解けば、私が死ぬ―――――!

 

 これは私の命を掛けた戦いでもあり、これからは逃れられないものだったよ――――――!

 

 

 奥歯を噛み締めて、その勢いを止めようとした。

 

 

 

 

「いい加減諦めて、にこに()られなさいよ!!!」

 

 

 憎しみを含ませた言葉を私に浴びせてくるにこちゃん…………その言葉が、私をさらに力付けさせる。

 

 

 違う………私の知っている…………私のにこちゃんはそんなことは言わないんだから…………!!

 

 

 絶対ににこちゃんを元通りにしてあげたい……! 私は、その一心でにこちゃんの腕を握り締めたの。 まだ、こんなところで終わりたくなかったもの………!

 

 

 

「にこちゃん!! お願い! 元に戻ってよ!!!」

 

「はぁ?! 何を言っているのかしら?? これが私よ? これが本来の私であり、いつもの私なのよ???」

 

「違うわ………私の知っているにこちゃんはこんなことはしないわ!!」

 

「うるさいわね!! アンタには関係ないでしょ!! 蒼一を独り占めしようだなんてそうはいかないわ! 今からアンタを殺って蒼一をその呪縛から解放してあげるのよ! そして、私が蒼一をたっぷりと癒してあげるの。 私の愛情がたぁ~~~っぷり詰まったこの体で、蒼一を包み込んであげるのよ♪ その邪魔をするのなら……どんなことだってしてあげるわ!」

 

 

 

 不気味な笑みを浮かばせながら邪気に満ちた言葉を羅列させていくにこちゃん。 違う……違うんだから…………! 私はそんなにこちゃんを否定して、立ち向かおうとする。

 

 

 

「違うわ………やっぱり、にこちゃんはいつものにこちゃんじゃないわ。 にこちゃんはそんなことは言わない。 私の知っているにこちゃんはそんな怖い顔なんかしない。 私のにこちゃんはそんなやさしさが一切ないような表情なんてしないんだから!!」

 

「うるさい!! アンタに、私の何が分かるっていうのよ!!」

 

「わかるわよ、それくらい!! 今、にこちゃんが何を思っていることくらい、何を思って行動しているくらい、痛いくらいに分かるんだから!!! だって、私はにこちゃんのことが―――――大好きなんだから!!!」

 

「んなっ??!!!」

 

 

 

 その一言を言い放つと、にこちゃんはその動きを一瞬だけ止めてしまったわ。 動揺したのかしら……? だとしたら、好機なのかもしれなかった。

 

 

 けど――――――

 

 

 

「ふ………ふざけないでよ…………こ、こんな時に………アンタは一体何を言っているのよ…………? わ、私が好きなのは…………そ、蒼一……なんだから…………そ、それ以外の……みゅ、μ’sなんて…………μ’sなんて………………」

 

 

 

 明らかににこちゃんの中で何かが変わろうとしているその瞬間に目を離すことが出来なかったの。

 

 

「そうよ、にこちゃん。 にこちゃんは私と同じ、蒼一が好きなのよ。 そして、μ’sのことも好きなはずよ」

 

「そ、そんなはずは………そんなはずじゃ…………!!」

 

「目を覚ましてよ、にこちゃん! にこちゃんは人を傷つけるような人じゃないでしょ! そんなに自分を苦しませないで!!!」

 

 

 私の呼びかけに、にこちゃんは自分の頭を押さえ付けて唸り始める。 自分との葛藤がにこちゃんの中で繰り広げられているんだわ。 本当の気持ちと偽りの気持ちとのぶつかり合いが繰り広げられている! お願い………負けないで………!

 

 

 私は祈るようににこちゃんが元に戻るようにと願ったの――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 けど――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

 にこちゃんはいきなり気が狂ったような叫び声を口にしだしたの!

 

 

「に、にこちゃん………?!」

 

「うるさい!! うるさいうるさいうるさいうるさい………さっきから私の中に入り込んでくるこの忌々しい感じ………邪魔よ!! 消えてしまえ!!!」

 

「ッ―――――!!」

 

 

 常軌を逸していると言っていいほどに、にこちゃんは叫び出した。 私の体の上に乗りながら叫ぶので、その衝撃がじんじんと体に伝わってくる。

 

 

 痛い―――――肉体が痛むとともに、にこちゃんの変わっていく姿を目の当たりにしていくのが私の心に突き刺さっているみたいで痛く感じたわ。 そして、その叫びが狂気に満ちているのにもかかわらず、悲壮な想いを感じてしまうの。

 

 

 

 

 にこちゃん………あなた…………!

 

 

 

 

 

「にこちゃん、目を覚まして!!」

 

 

「うるさい!!!!」

 

 

 私は残る力を振り絞って、にこちゃんの体を揺さぶってみたのだけど………ダメだわ。 私の手を振り払い、持っていた包丁を強く握り締め直したの!

 

 

 そして、その手を高らかに上がる――――――

 

 

 もうダメだと感じた私はその場で目を瞑ってしまった――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうして私に何も言わないのよ―――――()()()()()――――――」

 

 

 

 

 

 

「えっ……………」

 

 

 

 

 

 

 

 微かに聞こえたにこちゃんの声に反応した私は、薄らと目を開くと――――――――

 

 

 

 

 瞳をにじませて悲しそうな表情をしていたにこちゃんが――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああああああああああああああああああ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 私目掛けて包丁を降ろした――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――させるかよ」

 

 

 

 

 

「「っ―――――!!!?」」

 

 

 

 一瞬、何が起こったのか分からなかった。

 

 もうダメなんだと諦めかけていたその瞬間、私に向かってきた刃先が私に届くことなく動きを止めてしまう。 それだけじゃない、にこちゃんの体もその動きを静止せざるを得なくなったの。

 

 

 

 彼が―――――――

 

 

 

 

 

 明弘が――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 にこちゃんの腕を掴み止めたの―――――――――

 

 

 

 

 

「ッ―――――!! は、放しなさいよ…………!!」

 

 

 力を振り絞るような声でにこちゃんは話すけど、明弘は顔色一つ変えずにその腕を握ったままだった。 よほどの力が掛かっているのだろうか、にこちゃんは暴れるように腕を振るうのに明弘の腕は微動だにしなかったわ。

 

 

 

「だが、断る。 俺はな、にこ………お前がどんな気持ちを抱こうが、蒼一のことが好きになったからって、俺には関係ないことだ………だが、今お前がやろうとしていることとお前の気持ちが相まっていないことに口を挿まずにはいられないんだ………!!」

 

「っ―――――!?」

 

「自分でもわかっているはずだ。 己の中に迷いが生じていることに…………だがっ! 止められないのだろう………その気持ちが………!! なら、今楽にしてやるさ……………」

 

「ふ………ふざけないで………!! 私は………わたしは迷ってなんか………!!」

 

 

 

 

 

 

 

「今は、静かに眠れ――――――――」

 

 

 

 

 

 

 バチッ――――――――――!

 

 

 

 

 

 

 

「うぐっ―――――?!」

 

 

 

 一瞬、何かが炸裂するような音が鳴りだすと、にこちゃんは声をあげ体をのけ反らせたの。 すると、力が抜け落ちたみたいにその体が傾き始め、ぐだっと明弘の体に寄り掛かるように倒れ込んでしまったわ。

 

 

 

 

「真姫………大丈夫か………?」

 

 

 明弘の声で我に返った私はようやく体に掛かっていた緊張を解き、落ち着きを取り戻した。 それから明弘は私の体からにこちゃんをどかして、ソファーの上に横たわらせた。 その様子を見ると、眠るように気絶していたわ。

 

 

「明弘、何をしたの……?!」

 

「見ての通り、気絶させてやったのさ………昨日、花陽が持ってきたスタンガンが置いてあったから使わせてもらったってわけさ…………うっ! いててて………」

 

「だ、大丈夫なの!?」

 

「なぁ~に、こんなもん大したこたぁねぇわ。 そんなことより、真姫の方はどうなのさ? お前さんはどこも怪我なんかしてないのか?」

 

「へ、平気よ………幸いにも、刃が刺さらなかったから怪我をすることは無かったわ………」

 

「そうかぁ………ソイツァよかったわ………」

 

 

 そう言うと、明弘は安堵の表情を見せると少しはにかんでいるようにも見えた。 どうしてそんな表情をするの?と聞いてみようかと思ったのだけど、顔が少し青くなっているように見えたので聞くことを躊躇った。 ぶつけたところがまだ痛むのではないかと心配になったので、これ以上困らせるようなことはしたくないと思ったからよ。

 

 

 それにしても、あの時のにこちゃん…………なんだか―――――――

 

 

 

 

「―――――悲しそうな顔をしていたな」

 

「えっ―――――?」

 

「真姫も感じていたんだろう?」

 

 

 私が言おうとしていたことを、明弘がすっと言葉にし出したの。 私の考えていることがわかったのかしら? 私は言葉にすることなく、そのことを内に秘めた。

 

 

 

「ブッ飛ばされる直前に、アイツ、悲しい顔をしやがっていたんだよ………しかもよ、あの一瞬だけ正気に戻っていたようにも見えたわけよ。 なんと言うかさ………アイツもアイツなりに戦っていたんじゃないかって思っていたのさ…………」

 

「にこちゃんが………?」

 

 

 そう言われると、思い当たるような節があるようにも思えた。

 

 私に包丁を振り降ろそうとした時、一瞬だけにこちゃんが私の名前を呼んだような気がするのよ…………

 

 

 

「にこちゃん、本当はこんなことをしたくなかったんじゃ…………」

 

「だといいかもな………その答えは、元に戻った時にでも聞いてみれば分かるんじゃねぇか?」

 

「元に戻るって…………まだ戻ってないの………?」

 

「さあな。 けど、そういうことはお前さんがよく知ってんじゃないのか? どうすれば元に戻るのかなんてよ?」

 

「あっ…………」

 

 

 明弘のその言葉を耳にした時、ふと、あの人のことを思い出す。

 

 

 

 

 

 

 そして、にこちゃんにもやはり必要なのだということに気付かされる―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 蒼一、にこちゃんを助けてあげて――――――――――!

 

 

 

 

【監視番号:34】

 

 

 

【再生▶】

 

 

 

(ピッ!)

 

 

 

 

『くふふふ…………絵里ちゃんはまだ私の存在に気が付いていないようだね♪』

 

『さすがに、休日のこの時間に私がいるだなんて思ってないだろうね』

 

『蒼くんの連絡を一応全員見たって感じだったし、警戒すること無くこっちにきちゃったのかなぁ?』

 

『うふふふ………残念でした。 私がここにいるんですよ~♪』

 

『絵里ちゃんは~ことりにとっても~蒼くんにとっても危険だと思うの。 だからね………………』

 

 

 

 

 

 

 

『おとなしく消えちゃってくださいね♪』

 

 

 

 

 

(プツン)

 

 

【停止▪】

 

 

 

(次回へ続く)




ドウモ、うp主です。

今回は主に明弘たちの視点でこの話を進めてみました。


次回は、りんぱなのところになりますね。

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