《完結》【蒼明記・外伝】カメラ越しに映る彼女たち――― 作:雷電p
フォルダー3-1
ぴちゃ―――――――――――ぴちゃ―――――――――――――
灰色の石畳の床にひたひたと垂れ流れる水滴―――――――
静寂に包まれた夜のこの場所は、こうした小さな音すらも大きく聞こえてしまいます。
と言いますか、この場所は何も無さ過ぎなので、暇を持て余してしまう時間の方が多く、常にと言っていいほど私は顔を床と接触させて一体化しているところであります。
そこから聞こえてくるのは、
地中の音―――――
風の音――――――
水の音――――――
そして、何かが擦れ合う音―――――――
いずれも、いつも聞きもらしていたようなそんな音を耳にしているとても不思議な時間です。
私は仰向けになって、何も見えない天井をただ、ぼぉーっと眺めていることしかできません。
電灯などと言った明りと言うものが存在しないこの場所は、夜になるとクレヨンの黒色で白のキャンバスを真っ黒に染めた時と同じくらいに何も見えません。 唯一と言える明りは、私よりも倍の高さに設置された小さな鉄格子から零れ出る外からの明かり……………しかし、その明りと言うのは、最近のこの不安定な天候の前ではあまり機能を果たしてくれることなく、昼間でも薄暗く感じてしまうのです。
と言うより、いつからが日の出でいつからが日の入りなのかすら、この場所では把握できません。
正確な時間で換算しますと、今日でどれくらいの日にちが過ぎ去ったことでしょうか――――――?
あの日―――――
私が海未ちゃんの手によって気絶させられた後、誰かの手で運ばれたのだというところまでは薄らと覚えてはいます。 けれど、肝心なところはさっぱりです―――――
そして、気が付いたら―――――この場所に閉じ込められていた―――――と言うわけです。
この部屋全体は、およそ8畳程度の石畳の床と壁によって構成されていまして、天井までは私の倍くらいはありまして、どんなに頑張っても届くことはありませんね。 ついでに言えば、それくらいの高さに設置されてある鉄格子にも届きません。 そのため、外の様子など見ることができません。
出入り口とされる扉は木製―――――しかも、よく映画で見るような監獄専用の扉のようでして、内側には取っ手のようなモノはありませんし、鍵も外側からのモノらしいですね。 さらに下の方には、配膳台が置いておけるほどのスペースが施されていました。
ここに、1日3回分の食事と飲み物が置かれるわけです。
他に、この部屋にありましたのが…………私が寝るために用意されただろう枕も付きました布団一式と、正座すれば高さがちょうどとなる木製の机とノート数冊と鉛筆数本、それに削り機も用意されているという良心的な配慮。
いやぁー、心に沁みますねぇー(棒)
というか、こんな冷えっ冷えでカッチカチな床の上で正座しろと言うのは酷すぎやしません――――?! 正座すら慣れていない私にそうしろと言うのは、ちょっとした拷問ですよ? もう少しはまともな待遇は願ってもいいですよね? 座布団くらいは付けてくれませんかねぇ? あ、ダメなのですか……………
あっ、それと個室トイレも何故か付いておりました。 これは猛烈にありがたかったです。
体調の方は今のところ問題はありません。 体はちゃんと動きますし、けがや病気などの心配はございません。 ただ、限られた範囲に留まっているので決して自由とは言えませんね。 それに、まったくと言っていいほどに何もすることが無く暇をもてあまし過ぎているので、フラストレーションのようなモノが湧き起こってしまいそうになるわけなので―――――――――
よく…………壁ドンをしています…………
もちろん、1人でですよ………………寂しい…………………
そして、今――――――
私は一体どこに監禁されているのか―――――――?
多分、そこが重要なポイントだと言えるでしょうね。
私自身もこの場所を特定するのに、少しばかり時間を取ってしまいました。
しかし、外から漏れ出てくる
きしっ――――――――――きしっ―――――――――――――
おや、言っている矢先から
静かに近づいてくる床が軋む音―――――一糸乱れぬテンポと足に入れる力加減が上手な滑らかな歩き方です。 それに、あまり大きな音を立てずに出来るとなるのは、相当な訓練を行ってきた証拠でもあります。
この音を聞いただけで、彼女がどのような立ち振る舞いでここまで歩いてきているのかが目に見えてきそうです。
ガチャ――――――
やや鈍い金属音が部屋中に響きまして、扉が開いたことを教えてくれます。
そして、扉が開かれますと彼女の姿が現れたわけです。
「どうも、お久しぶりですね―――――――
――――――――海未ちゃん」
―
――
―――
――――
「どこか、拭いてほしいところがありましたら言ってくださいね」
「では、背中の腰に近いところをお願いします。 そこがどうも痒くて…………」
「それはいけませんね。 では、早速拭くようにしますね」
そう言いますと、持っていた手ぬぐいをお湯に付け、少し湿らせてから私の体を拭き始めてくれました。
片手に小さな明かりを持ち、もう片方にお湯の入った桶を持ってやってきた海未ちゃんは、一日溜まって汚れてしまった私の体を丁寧に拭き始めてくれます。 ここに来てからは、ちょうどこの夜が更けてきた時間に海未ちゃんはやって来るのです。
「どうして、私の体を拭いてくれるのですか?」と始めの時は聞いていました。 その返答に「女性が一日、汚い体でいるのはよくはありません。 ですから、私が綺麗にしてあげているのです」と言って意地でもそうしようとするわけです。 それに、持ってきてくれます食事も、海未ちゃんの手によって作られたもので、1つ1つが丁寧に作られているわけです。
しかし、疑問なことが―――――どうして、私を気絶させたにもかかわらず、私にこうも気遣ってくれるのでしょうか?
その答えも意外なモノでした―――――
「確かに、私はことりからあなたを取り除くようにと言われました。 ですが、私は洋子が蒼一を傷つけるような人ではないということを十分に承知していましたから、これ以上、手に掛けることはしませんでした。 しかし、ことりにとって今のあなたは
さらに、海未ちゃんの話によると、ほぼ毎日と言っていい程、ことりちゃんが海未ちゃんの家に出入りするようになったため、私を家の中に居させるのはさすがにマズイと思ってこの場所に住まわせたとか。
まあ、海未ちゃんの庇護がなければ私はどうなっていたのか分からないというわけですか…………
「それでは、穂乃果ちゃんはどうなのですか?」
「穂乃果もことりとあまり変わりません。 邪魔者は排除しようと躊躇うことなくやってくる気構えです。 今は牙を隠してはいますが、一旦その牙が抜き見出てしまえば、取り返しはつかないでしょう………」
少し訝しげな表情を見せますと、彼女が今どう感じているのかが一目で分かります。 海未ちゃんの中でも、こうした幼馴染の変化と言うのは見過ごすことのできないものなのだと感じているはず。
「では、海未ちゃんは穂乃果ちゃんたちがあのままでも構わないというのですか? 元に戻したいとは思わないのですか?」
「確かに、今のままと言うのはよいものではありません………しかし、今はそんなことよりも蒼一に迫る危機をどう対処すればよいのかを考えなければなりません。 そうなると、私がどう思おうとも今の穂乃果たちの手を借りなければならないのです! それに、例え、私1人だけになったとしても護り抜かなければなりません! どんなことがあっても、蒼一は私が護らないといけないのです!!」
海未ちゃんの話が急に蒼一さんのことに切り替わると、表情に変化が現れ始めました。 先程まで澄ましたように見えていましたが、急に目を見開かせると険しい表情を見せ、厳とした口調で話し始めるのです。 それに、殺気すらも漂わせている始末。 この様子では、海未ちゃんもまともとは言えそうにないですね………
「おや、そろそろ戻らないといけない時間ですね。 それでは、失礼しますね」
海未ちゃんは持っていた時計を目にすると、手を止めて持ってきたものを片付け始めました。 そして、すぐさま戸口に立ちここから出て行こうとしました。
「ありがとうございますね、海未ちゃん」
「いえ、今の私にはこれくらいしかできませんので…………時が来れば、出ることが出来るようにしますね」
そう言い残して、海未はこの部屋から出て行きました。
「さて……………」
私は脱いだ服をまた着直し、布団の上に横になります。
今日はもうやることが無いため、こうして夢の中へと沈ませていくのです。
ですが、ここ最近はいい夢は見ないのですがねぇ……………
あー………自宅のベッドが恋しいですぅ………………
そう心の中で愚痴をこぼしながら、私はただ1人ここで新しい朝を迎える準備をしていたのです。
【監視番号:29】
【再生▶】
(ピッ!)
『あら、思っていた以上に勘だけは鋭いようなのね、ことり』
『絵里ちゃん………そこで何をしているのかな………?』
『何って? さあ、何のことかしらね?』
『とぼけないでよ、絵里ちゃん。 私がやろうとしていることに何か手を加えたでしょ?』
『あらあら、何のことか分からないわねぇ……?』
『洋子ちゃんのデータのことだよ………パソコンにあったデータが無くなっていたんだよ? それって、絵里ちゃんが持って行ったってことだよね………?』
『私が持っていたからと言って、何の得があるのかしらね?』
『そんなの分からないよ…………でも、ことりにとってもよくないことを企んでいることは明確だよね?』
『よくないこと………ねぇ…………ウフフフフ………それって、あなたの
『!!?』
『あら、動揺しちゃうの? フフン、この程度で動揺しちゃうのなら、あなたは私の敵ではないわね。 さっさと消えて鳥籠の中で、静かにさえずっていればいいのよ』
『ッ―――!! ふ、ふざけないで!!蒼くんを自分だけのモノにしようだなんてそうはいかないよ! 絵里ちゃんの思い通りになんかさせないんだから!! 蒼くんを渡さないんだから!!!』
『ウフッ、また、何か思い違いをしているようね………』
『なに…………?!』
『蒼一を自分だけのモノにしようとしているのは、ことりだって同じじゃないのかしら? あんなにベッタリとくっついちゃって………何かしら? 蒼一に自分の匂いでも付けているのかしら? 鳥類なのに犬みたいなことをするだなんて、ちょっとかわいそうに見えるわねぇ』
『ッ―――――!!!』
『あら、その顔は何かしら? フフフ………でも、残念よねぇ………あなたがやったその行為は蒼一にはまったく届かなかったようね………今の蒼一は、真姫のことで頭がいっぱいになっているはずよ? あなたが嫌う真姫に先を越されちゃったのよ? さぞかし、自分の苦労が無意味だったということが理解出来たじゃないかしら?』
『う、うるさい!!! あの女がいなければ………蒼くんは………今頃蒼くんは………!!』
『あなたに振り向くとでも思ったのかしら? アハハハハハ!! なんて頭がお花畑なのかしら? 滑稽だわ、そんなことあるわけないでしょ?? あなたみたいな赤みが抜け切れていない小娘ごときに蒼一がなびくはずがないじゃないの』
『だまってよ……………』
『大体、蒼一はあなたのことを友人としか思っていないわよ? 幼馴染なんだから、その関係がずっと変わることなく保たれ続いてきたんだから、普通に考えてその一線を越えるようなことがあるけないのよ』
『うるさい…………だまれ…………………』
『それとも何かしら?
『だまれっ!!!!!!!!!』
『………あらあら、どうやら逆鱗に触れちゃったようね』
『あんたなんかに………アンタなんかに何が分かるっていうの!!! 蒼くんを否定し続けてきたアンタに一体何が分かるっていうのよ!!!!!!!』
『っ―――! ふっ、痛いところを付いてくるじゃない。 けど、あなたには決して分からないはずだわ………私の気持ちなんて……………』
『なにぃ…………?』
『いいわ…………何だか冷めちゃったわ。 今日はこの辺で引いてあげるわ。 でも、もし次あった時に私に立て付くようなことがあったら………容赦はしないわよ―――――――――』
(プツン)
【停止▪】
(次回へ続く)
どうも、うp主です。
現状について見ることにします。
《正気》
真姫、花陽、凛
《狂気》
ことり、穂乃果、絵里、にこ
《???》
希、海未
メンバーはこんな感じですね。
後は、明弘が協力関係で、洋子は囚われの身であるということです。
そして、このファイルで大方の話を完結させていく予定です。
次回もよろしくお願いします。