《完結》【蒼明記・外伝】カメラ越しに映る彼女たち――― 作:雷電p
私には大切なモノが2つあります。
1つ目は、おにいちゃんです――――――!
花陽のおにいちゃんは、とってもやさしくって、カッコよくって、花陽がピンチの時にはすぐに駆けつけてくれる私の自慢のおにいちゃん! でも、ここ最近は会っていません………どこかで元気にやっていると思いますが、やっぱりいないと少しさびしいです。
そんな私にもう1人のおにいちゃんができました! 蒼一にぃです!
元々、μ’sの指導者として学校に来てくれていましたが、その姿かたちがおにいちゃんにそっくりで………それで、私のおにいちゃんになってほしいって頼んだのです。 そしたら許してくれまして、今では本当のおにいちゃんと同じように接しています♪
そして、2つ目は、親友です――――――!
私には2人の親友がいます。
1人は、幼馴染の凛ちゃん! 小さい頃からお母さんの御近所付き合いでよく会っていたのが始まりでした。 それから今日までずっと花陽と一緒にいてくれたし、私がいじめられそうになって時も、体を張ってかばってくれたりもしました。
花陽とはまったく逆の性格だけど、私はそんな凛ちゃんが好きです♪
もう1人は、真姫ちゃん! 音ノ木坂に入ってから出来た友達で、始めはクラスの人たちとは違った感じがして近寄りがたい存在だったけど、真姫ちゃんのピアノの演奏を聞いて心を動かされました。 そして、私にアイドルになる大きな一歩を踏み出させてくれた大切な親友です――――――
けど―――――――
私はこの手で、これら大切なモノたちを打ち壊してしまいそうになりました――――――
私のおにいちゃんが誰かに盗られそうになる、そう聞かされた時、私の心の中でモヤモヤと濁った感情が湧き起こって来ました。
どうして、私から奪おうとしちゃうの―――――?
花陽のおにいちゃんは花陽だけのおにいちゃんなんだよ―――――?
ねぇ、どうしてなの―――――?
私の心の中でこうした感情がうごめき、次第に花陽のすべてを呑みこんでしましました。
そしたら、目の前が急に真っ暗になったかのように見えなくなって、感情のままに、私の欲望のままに行動し始めるようになったのです。
そして、気付いた時には――――――
花陽の大切なモノすべてを傷つけてしまっていました――――――
蒼一にぃも、真姫ちゃんも、凛ちゃんも――――――みんなみんな、私の手によって傷つけてしまった――――――
花陽は―――――悪い子なんです―――――――――
けど―――――
そんな私をみんなはやさしく抱きしめてくれました。 赦してくれました。 もう一度やり直す機会を与えてくれました―――――――
そんなみんなからのやさしさが胸に突き刺さるようかのように痛くって、とっても嬉しかったのです――――――
やり直したい――――――
みんなと一緒にいられるようにやり直したい――――――――
そして、私は―――――――――
―
――
―――
――――
一時的に湧き起こった感情に呑みこまれて、自分を見失いそうになった花陽。 そんな彼女を元に戻すことが出来たのは、凛と言う幼馴染の存在だろう。
あの時、凛が駆けつけてきて来なかったら最悪の事態になりかねなかっただろう。 俺も何とかしようとしてみたが、体を自由に動かすことができずにいた。 であるから、今回ばかりは真姫のようにすべてを俺が引き受けることが出来なかったのだ。
結果的には凛が説得してくれたおかげで、花陽と真姫との関係にも修復が施されるようになったのだと考えられる。 やはり、幼馴染の親友を止めることが出来るのは、そうした同じ関係を築いている者にしか出来ないことなのだろうと、実感するばかりだ。
そして、俺は今、偶然にも――――いや、必然的にこっちに来るよう呼び寄せた明弘に、今回までのことを話していた。 明弘は俺の話を真剣に聞いており、時には、目を見開かせたり声を出したりするなどのリアクションをとった。 そして、すべてを話し終えた時、明弘の口からこんなことが呟かれた。
「あー………やっぱそうなっちまったのかぁー…………」
「やっぱって………なんだ、お前はこうなるだろうと見越していたのか?」
「ん~………まあ、兄弟の行動とかを聞いていたらそう思っちまうさ。 それに、穂乃果たちは前から兄弟のことを慕っていたんだぜ? いつかこうしたこじれた話が出てくるんじゃねぇかってよ、思っていたところよ」
「穂乃果たちかぁ………確かに、今回の一件は、ことりが主に関わっているということを花陽から聞いてはいる。 真姫にも話をしていたとなると、アイツは本気で…………」
「かもな………じゃなくて、本気の本気だろうよ。 あの3人の中でもとりわけ胸中の思いを話さないヤツなんだ、そう言う自分のことを隠そうとするヤツほど、思い切った行動に入るんだからよ」
「う、うむぅ…………」
「それに、今回は絵里やにこもおまけのように付いてくときた! かぁー!! そんなヤツらに囲まれるだなんて俺だったら嬉しくってたまったもんじゃねぇな! 全員を俺の虜にしてやりてぇもんだぜ!!」
「おいおい! そんなふざけた話じゃないだろう?」
「何を言うか! コイツは俺なりの意見だよ。 いいか? 今のアイツらは兄弟のことを自分のモノにしようと必死になってきているんだぜ? そんなヤツらが一堂に会してみろ、バトルロワイヤル並の地獄絵図が完成されるやもしれないのだぞ?」
「ぐっ……! それだけは何とか阻止しなくては………!」
「そんで、それを止めるのも実行させるのも兄弟次第ってわけ。 兄弟の選択でこの修羅場を天国にするか地獄にするか………どちらにせよ、その器量が試されるってわけよ」
「………ちなみに、解決できる策はあるのか………?」
「………ある………あるが、今の兄弟に出来るかどうかが問題だ…………」
「それは一体…………?」
すると、明弘は俺の耳元でとある策を囁く。 それはとっても完結的で、至って単純な答えだった。 だが、確かにそのやり方と言うのは、今の俺が出来るものではないということを実感させられるものだった。
「兄弟。 俺の中ではそれが一番の解決策だと思うし、アイツらにとってもいい結果をもたらすものだと思う。 だが、それは俺には出来ることであって、今の兄弟に出来ることじゃない。 もし、やるのだとしたら相当な覚悟とこれまでの過去を乗り越えることになるが―――――それでもやるか?」
明弘の真剣な眼差しが俺に突き刺さる。 コイツがこんな目で俺を見てくるのは久しぶりだな。 コイツのこの真剣さにどれだけ助けられたことだろうか。 そして、今回もコイツに助けられるのだと心の中で感じている。
だが、明弘が示してくれたその道が正しいものなのか? それだけは未だに分からずにいた。
「そういやぁ、希はどうした? 兄弟の話を聞く限りじゃ、希は凛と同じように大丈夫な感じなんだろ? そんならさ、連絡を取りつけてみて確認してみた方がいいぞ?」
そうだった! そう言えば、希のことを頭の中からすっかりと忘れてしまっていたようだ。 アイツは俺に真姫を助けるようにと助言してくれた。 アイツなら俺のことを手助けしてくるに違いないと思い始める。
「そうだな、あとで連絡をしてみる」
「おうよ。 そいつがいい。 あとは、洋子が見つかればの話だが………連絡はとれずってとこか」
「何度連絡しても返事が無い。 まさかと思うが、ことりたちに何かされたんじゃないかって思うのだが?」
「大方、その路線で合っていると思うぜ。 もし俺がことりの立場だとしたら、数多くの情報を持ち歩いている洋子と必ず接触しようとするはずだ。 誰よりも優位に立つには情報が大事だからな」
だとしたら、洋子はすでに誰かの手の中にいるのか?と聞くと、そう言うことだと明弘が大きく頷いた。 ただ、今どこにいるのかは分からない。 それこそ、ことりたちを問い詰めなくてはいけないことなのだということだった。
「―――――そんで、話は変わるんだが………凛たちは今どこに………?」
「あぁ、雨で体が濡れているということで風呂に入っているところだ」
「ダニィ?!」
明弘は急に立ち上がると、目をギラリと輝かせ始める。 あっ………コイツまさか…………
「覗き禁止だぞ」
「チッ………」
チッ…って、コイツ本気で覗こうとしたのかよ………まったく、油断も隙もないヤツだ。
「ん……そう言えば、凛と花陽が今日は泊まるみたいなことを電話していたようなんだが………兄弟、何のことだ?」
「え゛っ…………?!」
そのことを耳にすると一瞬だけ凍りつくように動きが止まってしまう。 頭が真っ白になってしまったかのようだ。 えっ、泊まるの? ウチに?? マジで???
真姫だけでも大変だというのに、そこに2人もやってくるとなると、精神的負担みたいなものが上がってしまうのだが…………うむむむ………目が真っ白になってきたぁ…………
「そうか……凛たちが泊まるということになれば、ある意味、安全というものか。 ことりたちが真姫たちのところに襲いかかってくるだろう心配を考えたら一か所にまとめておいた方が、護りやすいというものだな。 ふむふむ、なるほどなぁ………」
明弘は何かを納得したかのように1人で頷き始める。 すると、こんなことを切りだす。
「よっし! そんじゃ、俺もここに泊まるからよろしくぅ~♪」
「はぁ?!」
「その方がいいだろ? もし襲ってくるようなことがあった時は、2人いた方が安心だろ?」
「た、確かにそうだが………」
「おっしゃ、それで決まりだな! そんじゃあ、今から準備してくるなぁー♪」
そう言うと、すぐに明弘は家を出て行き、自分の家に向かって行った。 なんとも行動が早いことだ…………下心とかありそうで悩むな…………
―
――
―――
――――
一方、風呂場では1年生3人が湯船に浸かっていたところだ。
「あ~気持ち良いにゃぁ~♪」
「温かくって、ポカポカしてきますぅ~♪」
「ホントね、いい感じだわ♪」
そう言葉をこぼしながら、3人は気持ち良く体を温める。
本来ならば、人1人が足を伸ばして入れるほどの大きさしかないのだが、そこに肩を寄せ合い、膝を抱えながら入ることでやっと3人で浸かることが出来るのだ。
しかし、よくよく考えてもらいたい。 ここは蒼一の家であるということを。 1人の女の子が男性1人の家で風呂に入ることもそうだが、3人の女の子が一斉に入っているこの状況こそ異様に感じなくてはならない。 それこそ、まさに彼にとっての非日常なのである。
だがしかし、今のところは目を瞑ろう。 少しばかりの癒しの時間に文句は言わないでほしいからだ。
「えへへ♪ こうやって、かよちんと真姫ちゃんと一緒に入るのは初めてにゃぁ~♪」
屈託の無い表情を浮かべながら、お湯の熱さでトロンとした声で話す凛。 その声に2人は同調するかのように頷く。 凛を真ん中に、花陽と真姫はその両隣りで浸かり、この穏やかな一時を過ごしていた。
もう先程のような殺伐とした空気など一切感じられなかった。 まるで、このお湯がそうしたものをすべて洗い流してしまったかのようだった。
「やっぱり、こうして3人でいるのが一番だにゃ~♪」
「ふふっ、凛ったら、さっきからそう言うことばっかり言っちゃって」
「だってだって! 嬉しいんだもん! 大好きな2人とこうやって一緒にお風呂に入れるなんて夢みたいだにゃ~♪」
「「り、凛(ちゃん)………」」
傍から見ると、とても恥ずかしい台詞のようにも聞こえる凛の言葉に、2人は少し頬を赤く染める。 それに、何だか照れくさそうに嬉しそうな表情を浮かばせてしまう。
「かよちんも真姫ちゃんも大好きだよね!」
「「!!」」
凛からのその一言に内心ドキッとさせてしまう。 そして、何故かお互いに顔を見合わせてしまうのだ。 凛がどうしてそんなことを話したのか、2人にはその真意はわからない。 けれど、お互いの顔を見合せた時に、何となくその理由がわかったような気がした。 そしたら、お互いの胸の奥にジーンと来るものを感じた。 なんだろう?と思いつつ、この少しもどかしくも感じるこの気持ちに応えようと凛と同じ方向に目を向ける。
「そんなの言わなくても分かってるよ―――――」
「そんなの当たり前じゃない―――――」
「「大好き(だ)よ――――!!」」
『うふふふ―――――♪♪♪』
すると、何だか気持ちが1つになったみたいで自然と笑いが込み上がってくるのだ。 とても不思議な一時のようだった。
「あっ! そう言えば、頭を洗うの忘れちゃった! ちょっと洗ってくるね!」
そう言って、1人だけ湯船から飛び出して行き、手にシャンプーをたくさん出して頭を洗い始める。 付け過ぎのようにも感じるのだが、彼女にとってはそれが普通なのだろう。 気持ち良さそうに指を動かして洗い始めていたのだ。
湯船に2人しかいなくなると、わずかな静寂が包みこむ。
少し、気まずい空気が立ちこめようとした時、真姫が花陽の手を握り始める。 花陽は少し驚いてしまうが、真姫から伝わってくる気持ちを感じてやさしい気持ちを抱き始める。
すると、真姫が耳元で何かを囁き始めた――――――
「花陽、あなたに話したいことがあるのだけど――――――」
―
――
―――
――――
夜――――
良い子は寝静まる夜の11時近くの蒼一の家の中。
誰もが寝てしまっているのだろうと思ってしまうこの時間帯に、行動を起こす人物がいた。
「ふっふっふ………さぁ~て、かわいい寝顔でも拝ませていただきますかぁ~♪」
明弘である―――――
彼は家に帰った後で、寝具を持ってきては蒼一の兄貴の部屋で寝静まるはずだった。
だが、この明弘、すぐに寝静まるような男ではなかった。 彼はみんなが寝静まるこのタイミングを見計らって、1人行動を起こすのだった。 その目的はただ一つ―――――
「かわいい後輩ちゃんたちのすんばぁ~~らしき寝顔とちょっとエッチな寝巻姿を見ちゃいましょう♪」
と言った、下心丸出しのくだらない目的なのだ。
とは言うものの、彼のように行動を起こす男性と言うのは大半だと言っても過言ではないだろう。 学校の修学旅行でよくある好奇心旺盛・欲望ダラダラな男子諸君が、そうした好色目的で女子部屋や女湯に侵入しようと試みることはよくあることだ。 ある意味でハメを外すという目的で行動しているのだ。
そんでもって、この男・明弘もその類に準ずるもので、とりわけ女好きである彼にとってこの状況はまさに、待ってました!と言わんがばかりの状況。 美少女3人が半径10m以内に居ながらもその警戒態勢は微々たるもの。 その頼みの綱とされている蒼一は、未だに思うような行動も起こせない上に感覚も鈍っている。 これをチャンスと言わずして何と言えようか! ギラリと目を光らせる彼の表情には、いつもよりも4割増しの笑顔が浮かんで見える。
「さぁ……作戦開始だ………!」
まるで、どこぞの伝説の傭兵の如く、行動を起こし始める明弘。 部屋を出て真っ先に、蒼一の部屋に行きつくのだが、そこは安定のスルーである。 触らぬ神に祟りなし、そっちに一歩でも近づけば警報が鳴ってしまいそうで怖いくらいなのだ。 ここでそんな無能兵士のような失態は犯すわけにはいかない。 彼は急ぎ彼女たちが寝静まる部屋に向かう。
ゆっくりと扉を開けると、真っ暗な部屋の中に一際目立つベッドが見える。
「おぉ~♪ あれこそまさにアガルタへと続くゲート♪ まさに、俺のことを待ってくれていたかのように居座ってくれているじゃないかぁ~♪」
その光景に興奮を隠すことのできない彼は、少しばかり息が上がっている。 もうすぐで、彼の欲望が満たされようとしていると考えれば、当然のように思えるのだが、それはそれで如何なものかと思ってしまうこの状況。
彼はここでも気を赦すことなく、忍び足でじわじわと近付き始める。 へっへっへ……とまるで悪党のような声を発する彼は、さっきのような凛を助けた時のようなカッコよさが微塵にも感じられなかった。
そして、いよいよベッドの横に付くとゆっくりとしゃがみこんで寝顔を見ようとする。
「…………あり………?」
だがこの時、明弘は疑問を感じてしまう。
「…………1人分の体しか見えない……だと………?!」
そう、彼はここに来るまでまったく気が付かなかったのだ。
ベッドの上にいるのは、3人ではなく、1人しかいないということに………! しかも、顔のところが布団に覆われていて、誰なのかが分からないでいる………!
欲望に夢中になってしまったからだろうか、彼はその現状に気付くことなくここまでやってきてしまった。 まさかの失態、彼がここに来ることをすでに知られていたのだろうか? いや、そんなはずはない。 それなら3人ともいなくなっているはず………! けれども、そうでないとすれば一体…………?!
「いや待て、逆に考えるんだ…………1人でも十分じゃないか………!」
なんだろう……まるで、悟りでも開いてしまったかのようなこの余裕。 ただただ、この男は女の子がいればそれでいいという感じになってしまっているのだろうか? だとしたら、これこそまさに変態であると言えるだろうな。
いや、彼はすでに変態であった…………
「ではでは、御開帳ぉ~♪」
息を呑んで静かに顔に掛かった布団を取り除き始めると、その素顔が明らかに………!
「こ、これは――――――!!
―――――――凛ちゃん―――――!!」
意外! それは、凛ッ!!
目元をトロンとさせて、すやすやと眠りについているその寝顔は、まるで子猫のように愛くるしく、思わずガッツポーズを決めてしまいたいほどの素顔だった。 この男・明弘は、生まれてこの方、女の子の寝顔と言うものを生で見たことは無かった。 実際には、その機会は何度かあったモノの、すべて見逃してしまう失態を犯しっぱなしであった。
だが! この時、この瞬間! 彼は生まれて初めて女の子の寝顔を見ることが出来たのだ。
しかも、明弘自身が太鼓判を押す美少女揃いのμ’sの中から凛の寝顔を見れたのは何とも嬉しいことだろうか! やはりここで、ガッツポーズを取らざるを得なかった。
「はぁ~♪ マジかぁ~~~♪♪ これが寝顔と言うヤツかぁ~………萌える! これは萌えざるを得ないというヤツ!! た、た、たまらん…………!!」
息を乱しているこの変態、これでも声は通常の10分の1以下に抑えている模様。 ついでに、理性も抑えている模様。 ただ、欲望は垂れ流しの模様である………
「うへへ………このほっぺた、めっちゃやわらかそうだなぁ~♪ どれどれ………」
そう言いながら、彼は人差し指で凛の頬をチョンチョンと押してみる。
「ッ~~~~!!! な、ななな……何ぃ~~?!! このやわらかさ、マシュマロの如し!! プニプニとしたこの感触がマジで堪らないのですが、こ・れ・は!!! こ、これが凛の肌………! ぐっ………! 俺としたことが………凛には外見上の素晴らしさは、あのスラっとしたスレンダーボディとボーイッシュな髪だけだと思っていたが、この感じは………! い、いかん……! これは凛を再評価しなくてはいけないようだな………!」
何を思い立ったのかサッパリわからないが、ろくでもないことだというのは明確だ。 ただ、凛に直接の影響は無いものだ問うことを期待するしかなかった。
「そ、それじゃぁ………も、もうちょっとだけ…………!」
そう言うと、さらに凛の頬をつんつんし始める。 どうやら気に入ってしまったようだ。 というか、これで我慢してくれるのであれば、それはそれで安心なのである。
そんな時だった――――――
(パクッ)
「ほへっ………?」
無意識の中に入っていたはずの凛が、急に動き出して、明弘の指を咥え始めたのだ! これには、さすがの明弘も素っ頓狂な声をあげてしまう。
「な、ななななな??? 何が起こっているんじゃぁー!?」
何が起こっているのか。 それは見たとおりだ。
明弘がこうやって取り乱している中で、凛はその咥えた指をちゅぱちゅぱと吸い始める。 まるで、赤ん坊がおしゃぶりに吸い付くように、母親の乳を吸い上げるかのようにやさしく吸い始める。 彼は、自分の指を咥えて吸い付くその姿に体を震わせ、喜びを感じていたのだ。 しかも、その吸い付きが何ともやさしくテクニシャンな感じで、吸い上げた瞬間の指全体を凛に預けてしまうかのような感覚と言うものは刺激的で、彼の理性を激しく刺激させた。
「は……は、はうっ………!! り、りんちゃ………! あうっ………!!」
そのあまりにも気持ち良すぎるその行為に、彼は喘ぎ声を出してしまう。
凛を愛でるはずだったのに、逆にやられてしまう明弘。 だが、その表情には喜びに満ちたいい笑顔が見えたそうだ――――――――
―
――
―――
――――
では、他の2人は一体どこに行ったのだろうか―――――?
明弘が行動し始める数分前に、彼女たちは揃って行動に出ていた。
そして、同じように誰にも気づかれずに、とある部屋に向かって歩き出していた。 静かに扉を開けて中に入ると、真っ暗な部屋の中をゆっくりゆっくりと進んでゆき、ベッドの上で寝ている彼の前に立った。
「ん―――――? んんっ――――――??」
何かの気配を感じ取ったのか、彼は寝返りを打ちながら、自分の近くに這い寄ってきた者たちの方に顔を向ける。 眠気もあり、その顔をハッキリと認識することが出来ない彼は、次第に目覚めていく感覚を研ぎ澄ませながらその影を見始める。 そして、脳に血液を循環させようと体を起こし始めると、彼女たちは同時にベッドの上に上がってきた。
「んんっ――――――????」
ちょっと、何だかおかしいと感じた彼は目を見開く。 すると、ようやく彼に這い寄ってきたのは誰なのかを知ることが出来たのだ。
「真姫――――!! 花陽―――――!?」
「よく眠れているかしら、蒼一♪」
「こ、こんばんは、蒼一にぃ………♪」
窓から差し込んでくる月光が部屋の中を静かに照らし始める。
そして見えてきたのが、いつしか見せた少し陽気でお茶目な表情をする真姫と、困ったような顔を見せながらも内心楽しんでいるかのように見える表情をする花陽が、彼のベッドの上で四つん這いになりながら這い寄ってきていたのだ!
さすがの蒼一もこの状況は想定してなどいなかった。 あっても真姫だけがやってくるものだと感じていたのだが、まさか花陽がくるだなんて…………
じわりじわりと這い寄ってくる彼女たちを見ながら、彼は冷汗をかきつつどうしようかと悩む――――――
けれど、寝起きでいい考えなど浮かぶはずもない。 であるから、よくある定番の質問を投げかけるのだ。
「お、お前たち………何をしに来たんだ………?!」
「何をしにって………うふふ♪ それを私たちの口から聞いちゃうわけ? もう、分かっているくせに……♪」
「わからない………分からないから聞いているのだろうが………!」
とは言うものの、何となく察しがついてしまっている彼の脳裏には、ちょっとした危険な匂いが立ちこめていた。 それをそのままやるのだとしたら、ちょいとばかし危ない気がしてならなかったのだ。
「蒼一にぃ…………もしかして、来ちゃダメ……だったですか…………?」
「あ、いや………ダメと言うか、なんと言うか………だな…………」
目をうるわせながら上目遣いで話してくる花陽に対して、あまり強気に言いだせないのは、男の性というものが邪魔をしてしまう。 純粋な心で彼に問いかけてくる上に、弱々しい小動物の如きその性格が悩ませるのだ。
そんな狼狽し続けている蒼一に対して、真姫が襲いかかる――――!
「えいっ♪」とかわいらしい声を発するその裏腹、彼女は獲物を狩りたてる猛獣の如き性格で彼を押し倒す。 そして、彼の胴の上に跨り、起き上がれないようにガッチリと固定されてしまう。
「ぐっ……! またこの構図かよ…………」
「うふふ♪ 蒼一はこういうのが好みじゃないのかしら?」
「残念だが、そういう趣味は持ち合わせちゃいないのさ」
さすがの蒼一もそうした変態思考は持ち合わせてなどいない、明弘と比べても十分にまともな人間の部類には値するだろう。
「ねえ、蒼一――――」
少しだけ気分を落とした感じの声で真姫は話しかける。
こうなった時の真姫はやけに真剣な表情となり、まともな話をしはじめようとするのだ。 それは彼も重々承知であり、彼女が何を語るのかを静かに聞き始めた。
「私ね、決めたの―――――いえ、正確に言えば花陽と決めたことなのだけど…………私たち、蒼一のことを助けてあげたいと思うの」
「助けたい………?」
「そうよ、蒼一が人を愛することが出来るようになるために、私だけじゃなくって花陽にもお願いしてみたのよ。 そしたら、快く引き受けてくれたわ」
「真姫…………花陽はいいのか、それで?」
「うん………私、蒼一にぃのためにしたいの。 真姫ちゃんにも、蒼一にぃにも迷惑をかけちゃったから………出来ることなら何でもしたいの!」
「花陽…………真姫、そうなるとお前は………」
「いいのよ。 そう、これでいいのよ。 私は、ただみんなと花陽とも一緒に居たいと思っている。 こんなことで関係を絶ちたくないし、絶たせたくないの。 これは私の我がままでもあるのよ………」
そう言うと、真姫は体を蒼一の上から退いて、彼の横に座り込む。 代わりに、花陽が彼の目の前にやって来ようとした。 蒼一はまた体を起こして、今度はその場で正座して待った。
花陽はその場で自分の胸に手を重ね、大きく深呼吸を行って気持ちを整える。 ドキドキと大きく鼓動する心臓の音が自分でも分かるくらい大きく聞こえる。 分かっている、彼女は自分が今からしようとしていることの意味を十分に理解していた。 真姫から話を聞かされたその時から、彼女はもう決めていたのだ。
そして、勇気を振り絞るように彼女は彼に語りだす――――――
「蒼一にぃ………! 私、真姫ちゃんと比べてもあまり前向きじゃないし、弱虫だし、ちょっと嫉妬深かったりするけど………でも、蒼一にぃのことを誰にも負けないくらい大好きなの………! それに、花陽は………蒼一にぃを本当のおにいちゃんとしても………そして、1人の男の人として、
「花陽………!」
今にも泣き出しそうな雰囲気の中、一滴の涙も流すこともなく彼女は最後まで言い切った。 これは彼女にとって一世一代とも言える大きな出来事とも言えるものだった。 そうした意味で、人生2度目となる彼女自身の願望が飛び出てきたのである。
そして、彼もまた彼女のこの心のこもったこの問いかけに、全力で応えようとする。
以前、彼女と約束したことに応えるために―――――――
「花陽…………俺には、人を愛するという気持ちが分からないでいる………だが、花陽を大切に思い気持ちだけはハッキリとしている………! そんな俺でも構わないというのであれば、俺は………花陽を受けとめるよ…………!」
「!! うん………!! これからもよろしくね、蒼一にぃ……あっ、蒼一さんって呼んだ方がいいのかなぁ………?」
「ふふっ、花陽は今までどおりでいいんだよ。 そのままの花陽でいいんだよ」
「蒼一にぃ………! うん! それじゃあ、改めまして………よろしくね、蒼一にぃ……!」
「ああ、こっちこそよろしくな、花陽――――!」
そう言うと、蒼一はその腕を大きく広げた。 そして、花陽はその腕の中に勢いよく飛びこんでゆき、彼の体をギュッと抱きした。 彼はやってきた花陽の体を包み込むようにやさしく抱きしめた。
そのまましばらく抱き合うと、花陽は顔をあげて彼の顔を見る。
ドクンドクンと心臓がはちきれんばかりに大きな鼓動を立てて、彼女の緊張をピークに到達させたのだった。 顔全体が赤くなり、息も乱れ始め、体も震え始めた。 そんな中で、彼女は最後にやっておきたいことがあった。
それを今、ここで行おうとしたのだった―――――
「そ、蒼一にぃ…………」
思いのほか震えが止まらず、彼女は彼の名を呼ぶ。 彼はそんな花陽にやさしく語りかけるのだ。
「花陽………思ったことをそのまま、行動に移すんだ…………」
彼のその言葉が励みとなると、彼女は最後の最後に残った勇気を振り絞る―――――!
そして―――――――――
「んっ――――――!」
彼と唇を交わしたのだった――――――
そのやさしすぎる一瞬の口付けに、彼女はすべての想いをこめたのだった――――――
彼との唇が離れると、彼女は全身から力が抜け落ちてしまい倒れそうになった。
そんな彼女を支えたのは、真姫だった。
真姫は、彼女の横から支え始め、抱き寄せたのだった。
「やったわね、花陽――――」
真姫はやさしく微笑むと、花陽もまたそれに返すように微笑み出す。
「えへへ………これで私も真姫ちゃんと同じになったのかな………?」
「そうよ、花陽も私と同じ―――――蒼一の大切な人になったのよ――――――」
「蒼一にぃの大切な人―――――! えへへ、嬉しいなぁ……………」
花陽はそう言い残して、静かに眠り始めた。 今日あった出来事すべてが負担となって体に襲いかかってきたのだろう。 グッタリとして、すやすやと良い寝顔を見せていた。
「それじゃあ、私たちもそろそろ寝ましょうか―――――」
真姫はそう言うと、今度は彼女が蒼一と唇を重ね合わせる。 とてもシンプルな一瞬だけの接吻――――彼女にとってはそれで十分な気持ちだったのだ。
「おやすみ、真姫――――――」
「おやすみなさい、蒼一――――――」
2人はそのまま、体を仰向けになって静かに眠りに付いた。
3人が寝るには、彼のベッドは少し小さく感じられたのだが、それでも3人とってはそれで十分だった。
彼の両隣りで寝る彼女たちは、彼がちゃんと支えてくれるということを信じ切っていたので、安心して寝ることが出来たのだった。
そして、また試練の日がやって来ようとしていた――――――――
(次回へ続く)
ドウモ、うp主です。
今回の話で、花陽編。及びFolder No.2はこれにて終了です。
続きまして、Folder No.3へと移行されます。
物語は急速に変わっていく……………彼女たちの運命はどう変わっていくのか…………?
そして、眠りについていた彼女が目覚める――――――