《完結》【蒼明記・外伝】カメラ越しに映る彼女たち――― 作:雷電p
「ひ、弘……くん…………!」
凛は大きく見開いて彼の姿を目の中に映し出した。
見た目、ひょろっとした長身に耳と眉が隠れるほどの長い癖毛が特徴の好青年だが、人にはやんちゃそうな笑顔を見せるので、どちらかと言えば少年のような人物だ。 また、そうした笑顔と共に兼ね備えられた人当たりの良さが人望を高め、今では音ノ木坂学院の女生徒全員から好かれるような存在となっている。
そんな彼は今、1人の少女を助け出すためにここに現れた。
彼とは比較的に小さく華奢な体をした彼女を腕の中に収める。
そして、いつものニヤッとした笑顔を浮かべて彼女を覆っていた恐怖を打ち払ったのだ。
その男の名は―――――――
「不肖、滝 明弘。 遅ればせながら、只今参上ってな!!」
―
――
―――
――――
「弘くん……! ど、どうしてここに………!?」
彼の腕の中に収まっていた凛は、突如と現れた明弘の存在に驚きを隠せずに、つい問いかけてしまう。 そんな彼女の問いに対して彼は不敵な笑みを浮かべる。
「なぁ~に、ここにかわいい美少女がピンチだって聞いてよ、ササッと駆けつけたってわけよ。 しかしまぁ、ちょうどいいタイミングでやって来れたもんだぜ♪」
それを聞いた凛は、胸の奥から何かが込み上がってくるような気持ちになり、目をうるわせ始めた。 そして、その表情を見せまいとして彼の服に顔をうずめ始める。 彼はそんな彼女に何も言わず、やさしく頭を撫でてあげたのだった。
「しっかし、なんなんだ? この有様はよぉ? 俺が不在だったこの数日間に一体何が起こったって言うんだよぉ???」
彼は首をかしげながら今自分が置かれている状況を改めて考えようとしていた。
そもそも彼は、この数日間に練習に参加することが出来なかった。 というのも、大学であまりよろしくない成績を修めてしまっていたので、その補講を受けざるを得なかったためであった。
だが、そんな彼を呪縛していた学業も本日をもって解き放たれたというわけである。
おかげで彼は自由の身となったわけであった。
そんな彼に、
それを聞きつけた彼は、全力でこの場所まで駆け抜けてきたとういうことだ。 ただ当然のことながら、彼はここ一週間近くに渡る出来事を何一つ知らない状態にある。
だが、彼の研ぎ澄まされた感覚が敏感に反応し出し、彼女たちに降りかかっているモノを大方ながらも把握し出したのだ。 彼の腕の中にいる凛、上を仰ぎ見ると階段上で尻込みする花陽、そして、動けずに床を這う蒼一の姿―――――これらの状況がすべて蒼一の家で起こっていることから原因の中心に蒼一がいるということを把握したのだ。
「なあ、兄弟………こいつぁ、へヴィな案件のようだなぁ………?」
「まったく、申し訳なんだ………今の状態じゃあ、とても対処することが出来ねぇんだ………」
「わかったぜ………そう言うことなら、また後で聞いてやらぁ。 けど、今は…………」
心ここに非ずの花陽をどうにかしなければならなかった――――――
力が抜け落ちた体は床へと崩れ落ち、その目は虚ろとなっていた。
先程のことが彼女を大きく揺れ動かしたのだろう、あれ以降、何の行動も示さないでいるのは、つまりそう言うことなのだろう。
その様子を下方から見上げる明弘は、ひとつの思いを示す。
そして、その思いは彼の腕に抱かれている小さな体に託そうとした。
「なあ、凛ちゃん。 1つだけ聞きたいんだが、いいかい?」
「うん、いいけど………どうしたの、弘くん?」
「凛は――――――花陽のことが好きかい?」
「うん……! 大好きだよ! 凛にとって、かよちんは大切な親友だもん!」
「そうか………それなら話が早いな…………」
そう言うと、彼は抱えていた彼女を降ろすと向き合い、話し始めた。
「いいか、凛。 花陽は今、深刻な精神的ダメージを被っているはずだ。 それを治すことが出来るのは、凛しかいねぇんだ」
「えっ? り、凛が……??」
「そうだ、花陽の親友だからこそ成し遂げられることなんだぜ。 凛の今の気持ちをそのままぶつけてくるんだ! そうしたら、花陽も応えてくれるはずさ!」
「で、でも………さっきも同じようなことをしたけどダメだったんだよ………どうしたらいいか分からないよ…………」
いつも明るさを前面に押し出していた凛の表情に曇りが生じる。
確かに、凛はつい先ほど同じことを行っていた。 だが、それは花陽に届くことはなく、跳ね返されてしまっていた。 そのことが凛の中で引っかかっており、踏み出すことができずにいた。
すると、明弘は不安そうな顔をする凛の肩に手を置き、話し始めた。
「いいか、凛。 さっきはどういう感じでやったのかは知らねぇが、大事なことだけは言っておくぜ――――――凛は……凛の思ったことをそのまま行動に移せばいいんだ! 考えるな、ただその純粋な気持ちを花陽にぶつけに行くんだ!! 凛なら出来る! 必ずできるさ!!」
「!!」
その言葉を耳にすると、まるで電流が走り抜けたかのような衝撃を受け、目を見開く。 そして、彼の言ったことをそのまま心に留めると、段々と力がみなぎってくるような感覚を受けた。
こうしたものは、自分にしかできないという重圧を感じてしまうものなのだが、彼女は親友のことが好きなのだから絶対にやってみせる、という彼女自身が抱く純粋な気持ちが前へと出てくるのだ。
そして、それが今の彼女の原動力へと変化していったのだ。
「うん………! 凛、もう一度頑張ってみるにゃ!!」
「よし! その意気だ!! 行ってこい!!」
凛は、明弘に背中を押されながら前に進み出す。
握りしめた手をギュッと力を込めて、一歩、また一歩と前に進み出していった。
「かよちん!!!」
凛は急に大きな声をあげて、花陽に一気に近づく!
花陽はその声にビクッと身を震わせると、虚ろだった焦点を凛に合わせようと、顔をあげる。
だが、彼女が顔をあげるよりも早く凛は抱きついて来て、腕を回してぎゅっと彼女を包み込んだのだった。
「あ………だ、だめ………りんちゃん…………わ、わたし…………」
その唐突だった出来事に、彼女は眼を真ん丸にして驚きの表情を見せた。
また、たどたどしい言葉を口に出すと、まるで怯えているような声色で話をしたのだ。
彼女の中で、何かが大きく機能し始めているのだ。
「りんちゃん………わ、わたしは………りんちゃんのことを………りんちゃんのことを…………!!」
涙を浮かべながら彼女は悲壮な声を出す。
自らがしてしまった行為と言うのは、決して赦されるものではないと心の底から感じ始めているのだ。 長年親しんでくれていた親友を危険な目に合わせてしまったことに後悔の念を受け始めていたのだ。
だが、なんと言うことなのだろうか。 この彼女に与えた衝撃が、彼女自身に根付いていた憎悪を抜き取ってしまっていたのだ。 そして、ようやく彼女は純粋な気持ちとなって対話を行うことが出来るようになったのだ。
そんな彼女の状態に凛はやさしく応えようとしていた。
「大丈夫だよ、かよちん。 凛は怒ってなんかいないよ………凛はね、かよちんが無事なら大丈夫なんだにゃ。 かよちんが凛のすべてなんだもん! 凛にはかよちんが必要なんだもん! 嫌ったりなんか絶対にしないもん!」
「り、凛ちゃん………!!」
凛の強い気持ちを悟った花陽は、心を大きく揺れ動かした。
ああ、なんて純粋な気持ちなのだろう………こんなに太陽のような笑顔にそんなことを言われたら、私は何にも言えなくなっちゃうよ…………私はこんなにも酷くて、ずるくて、卑怯な悪い子なのに、どうして凛ちゃんはこんな私にそこまでしてくれるの………?
彼女の心の中で、ぐるぐると黒々に渦巻いていくモノがあった。
けれど、それさえも打ち払うかのような気持ちが彼女の中に入りこみ、浄化して行くのだ。
「凛は……! かよちんのことが………大好きなんだにゃ!!! かよちんじゃないとダメなの! かよちんがいなかったら、凛はダメダメになっちゃうの! 凛にとって、かよちんは太陽なんだよ!! だから………だから………! 戻って来てよ、かよちん!! 凛に、かよちんの良いところをもっと見せてよ!!!」
「ッ~~~~!!!!」
涙で溢れそうになっていた声であるがままの純粋な気持ちを花陽に示した!
言葉と共に、言葉よりも強い言葉で凛は語りかけたのだ!
その声は、家の中を反響するように全体に響き渡り、その言葉が、彼女の中で残響となっていた。
その残響が、彼女の中で鳴り響き続けたことで、彼女は完全に泣き崩れてしまう。
自分を包み込んでくれるこのやさしさに耐えきれなかったこと、自分がやってしまったことの重大さに気付いたこと―――――そして、大好きな親友がいてくれるということに、彼女は泣かずにはいられなかったのだ。
彼女は降ろした腕をあげて、大好きな親友の体を包むように抱きしめ返した。
「ごめんね……凛ちゃん………ごめんね……………」
「ううん、凛はかよちんが戻ってきてくれただけで嬉しいにゃ……♪」
そうして2人は、熱い抱擁を交わしてお互いの気持ちを感じあったのだった。
―
――
―――
――――
凛と花陽が抱擁を交わしている最中、2階の部屋の扉から小さく顔を覗かせている人物がいた。
真姫だ――――――
彼女は、先程からこの場所で起こっていた出来事が耳に入り、眠りから覚めてしまったのである。 彼女は扉の隙間から部屋の外を見てみると、そこには花陽と凛の姿を見た。 すると、彼女は動揺を示すようになる。 と言うのも、彼女の中ではこの2人は真姫を見放したものだと思い込んでおり、特に花陽に関しては、実際に酷い目にあわされていたのだ。 当然のことながら、怯えずにはいられなかった。
だが、花陽が床に座り込んだ時から何か変化が生じたように思えたようだ。 それから凛が花陽を抱きしめ、花陽が泣きだすまでの一部始終をその目に焼き付けたのだった。
すると、今度は彼女の中で変化が起こり始める。
自分が先程見ていた花陽とは雰囲気が異なり、いつも見ていた穏やかな表情を見せる彼女たちの姿が目に飛び込んでくると、もしかしたらと言う感情が芽生えてくる。 2人とも、いつも見ている2人に戻っているのではないかと言う憶測が飛び交い始める。 確信はしていないものの、何か惹かれていくものを感じたのだ。
彼女は静かに扉を開き始める。
その様子に気が付いた2人は、一斉に真姫の方に目を向ける。
「真姫ちゃん!」
「ま、真姫………ちゃん…………!」
凛は彼女の姿を見ると、とても嬉しそうに無垢な表情を浮かべてくる。 一方で花陽は、引きつったように青ざめた表情を浮かべていた。
それもそうなのだ。 凛は今回のことに一切関わっていなかったし、花陽は感情に呑まれてしまっていたとはいえ、真姫に手を掛けようとしたのだ。 当然の反応と捉えてもおかしくは無かった。
それは真姫も同様で、花陽と眼があった瞬間、背筋が凍るような悪寒と震えがよみがえって来ていた。 声を出そうとしても、怖くて何も言いだせないでいる。
一見、もどかしそうにも思える光景なのだが、彼女たち2人の間には塞ぎきれないほどの深い溝が生じてしまっており、それが存在しているために誰も前に踏み出すことが出来なかったのだ。
彼女たちの気持ちが擦れ違う―――――
こうした何もしないでいる時間が、彼女たちを苦しませる――――――――
大切な一言を言い出せずにいた――――――――
「かよちん!!」
深い静寂を打ち破るかのように、凛が花陽の名前を呼んだ!
すると、凛は花陽の手を握って立ち上がり、真姫のところへと駆け出す。
「真姫ちゃん!!」
次に、凛は真姫の名前を呼び、完全に開ききっていなかった扉を開いて、中にいた真姫を見つけては、その手をもう一方の手で握りだした。
そして―――――――
「握手するにゃ!!」
そう言って、無理矢理にも2人の手を繋がせたのである。
2人はその一連の行動にただ翻弄されて、凛のペースに乗らされていた。
2人にはこの意味が理解できずにいた。
すると、凛が話し始める――――――
「かよちん……真姫ちゃん………凛はね、2人にどんなことがあったのか知らないけど………2人がケンカするのはよくないにゃ! 凛はかよちんのことも、真姫ちゃんのことも大好きだにゃ……凛の大切な親友だにゃ………だから、凛の大好きな人同士が傷つけあうところなんて見たくないんだにゃ……!!」
「「凛(ちゃん)…………」」
「だからね………ちゃんと2人でゴメンなさいをして、仲直りの握手をするにゃ……!」
2人の顔を見ながら話していると、無意識に目からぽろぽろと涙が零れ出てきていた。 凛は関わっていないはずなのに、こうして自分たちのためにここまでしてくれる凛の姿を見て、2人は心を打たれる。 凛から伝わる切実な願い―――――3人と一緒にいたい――――――ただそれだけのために、彼女はここまでしてくれたのだった。
互いに握った手に汗が流れ始める――――――
「「あ、あのっ……!!」」
先程まで、視線すらも合わせることができずにいた2人は、同時に顔を見合わせ何かを話し始めようとした。 だが知っての通り、同時に話し始めたのでどちらが先に話すか迷うことになる。
「は、花陽……!」
一呼吸置いた後、先に切り始めたのは真姫の方だった。
体を小さく震わせながらも花陽の目をしっかりと見ていた。 もう逃げないという覚悟を抱いて―――――
「ご、ごめんなさい………! 私、花陽に嘘をついてたの! 隠し事をしていたの………! このことを花陽にもそうだけど、みんなにも言いだすことが出来なかったの………だからごめんなさい………! 最低よね、私………花陽の親友失格よね…………」
「!!!」
目を逸らしたかった――――けど今、目を逸らせば、それこそ自分が嘘をついているように思われてしまうと彼女はじっと親友の目をまっすぐに見つめていたのだ。 溜まったモノによって目を麗せながら―――――
その言葉を聞いて、花陽は驚きの表情を見せる。
真姫の口から出た言葉に衝撃を受けると、まるでそれを否定するかのように首を大きく横に振った。
「ちがうよ………違うの真姫ちゃん………! 先に謝らないといけないのは、花陽の方だし、親友失格なのは花陽の方なんだよ………! 真姫ちゃんのことを親友だと思っていたのに、私のその場の感情に流されて真姫ちゃんにあんな酷いことをしちゃったの………私の方が全然酷いんだよ………私なんか人として酷いんだよ…………」
そう言うと、花陽はその場で泣き崩れてしまう。 自分が犯した過ちを反復させるかのように思い出しては後悔をしていた。 例えそれが、一時の気持ちに身を任せてしまったとしても、自分がやったのには変わりがないものだと分かっていたからだ。
そんな花陽を真姫は強く抱きしめ始めた。
ありったけの思いを乗せて、強く強く花陽の小さな体を包み込んだのだった。
「花陽は悪くないの………! 私が花陽をそこまで追い詰めてしまったんだから私の責任なのよ! それに、私は花陽のことを憎んでいたり、酷い子だなんて思ってないわ。 だって………花陽は私の数少ない親友なんだから………!!」
「ッ………!! ま、真姫ちゃん………は、花陽のことを赦してくれるの…………?」
「当たり前じゃない!! 花陽は………私の親友だもの!!」
「ッ!!! う、うぅ………うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!!!」
真姫のその言葉を耳にした時、花陽は大きな声で泣き始める。
心に引っかかっていた重荷が取り除かれたかのように感じたからだ。
真姫は、自分のことを憎んでいるのではないか?と先程からずっと思い続けていたのだが、本人の口から出てくる言葉はその真逆。 そんな言葉を耳にしては、感情を大きく揺さぶらざるを得ないのだった。
流れ落ちる大粒の涙が彼女たちを浄化させていく。
そんな2人の様子を見て、凛は大きく頷くと2人を抱きしめた。 「えへへ♪」と言って、2人の顔をくっ付け合いながら嬉しそうな表情を見せていた。 ただよく見ると、目に涙を浮かばせていた。 どうやらこの様子を見て貰い泣きをしてしまったのだろう。 人一倍、やさしさを抱く彼女はまるで自分のことのように感涙していたのだろう。
「これで仲直りだね――――♪」
凛がそう言うと、2人の表情が明るくなり思わず笑みがこぼれ出た――――――
うすらと輝く滴を流しながら――――――
―
――
―――
――――
3人が微笑みながら抱き合っていると、ぎこちない足取りで階段を上ってくる蒼一たちがいた。 まだ、脚にしびれが残っているのか、明弘に支えられながらも何とか凛たちのところにまで行くことが出来た。
「蒼一……!」
「蒼くん……!」
彼の姿を見つけると、真姫と凛は反応を示した。 だが、花陽だけ反応を示すことなく、怯えながら彼のことを見つめていた。
すると、そんな彼女を見た蒼一は声を掛ける。
「花陽―――――」
彼に声を掛けられると、彼女は体をビクつかせた。 彼女の脳裏に過ったのは、先程の彼に対する行為―――――彼を傷つけ、真姫を傷つけようとした一連の行動を思い起こしたのだ。 それに対する怒りがぶつけられるのだと、そう感じてしまったのだ。
「花陽――――すまなかったな」
けれど、彼の口から出てきたのは彼女に対する謝罪の言葉だった。 その意外な言葉に花陽は目を丸くしていた。 彼は言葉を続ける―――――
「俺が不甲斐無いが故に、花陽をここまで追い詰めてしまって申し訳なかった。 俺は花陽の本当のおにいちゃんじゃない………だから、俺は花陽のことをちゃんと知ることが出来なかったんだ………俺だって花陽が本当の妹であってほしいと思う。 だが、それは到底不可能なこと………血が繋がってないことや花陽の本当のおにいちゃんの存在が大きな隔たりとなっているんだ…………
それでも………! もし許されるのならば、俺は花陽を妹として見続けていきたい………そして、小泉 花陽という1人の女の子としても見続けたいんだ………!」
「
蒼一の胸中の思いが花陽に伝わると、グッと胸に来るモノが彼女の中に現れ始めた。
それに、彼女の蒼一に対する見方に変化が生じ始めたのだった。
「俺のことをまだそう言うふうに、言ってくれるのだな…………」
蒼一は穏やかな表情を浮かばせると、彼女の頭をやさしく撫で始める。
その大きな手を通して伝わってくる温もりとやさしい気持ちが彼女の心に触れた。 それは彼女自身が張り詰めた線を解くようで、不安に駆られていた心が癒されていくようだった。
「あっ………あぁ……………」
彼女の口から言葉にならない声が漏れ始める。 そんな彼女に彼はまた語りかける――――――
「花陽。 俺はキミのやったことすべてを赦すよ。 だって、花陽は―――――俺の大切な女の子だから―――――」
「っ~~~~!!!」
実に、穏やかな表情で語りかけるのだろうか。
彼のその言葉に、彼女の募り続けた感情が崩壊した。 全身から溢れ出す気持ちが涙となり、声となって出てきたのだ。 それを止まらせる術など存在しなかった。 彼女は思いのままに、感情を出し続けたのだった。
そんな彼女を蒼一は静かに抱き寄せて、包み込むように抱擁する。
そして彼もまた、彼女に知られないように涙を流すのだった――――――――
「おかえり――――――花陽」
(次回へ続く)
ドウモ、うp主です。
次回で花陽編と共にFolder No.2も完結となります。
次回はこれまで比べてシリアスをかなり削ることにしようかと思います。
代わりに入れるのが……………
次回も頑張ります。