《完結》【蒼明記・外伝】カメラ越しに映る彼女たち―――   作:雷電p

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「真姫ちゃん………」

 

 

 

 

 

 廊下を1人で歩いていると、うつむいたままでこちらを見ている花陽が私の前に立っていた。

 

 

「どうしたの花陽?」

 

 

 今まで見たこともない様子の花陽を見て少し疑問に思って声を掛けてみた―――――けど、向こうからの返事がまったく無かった。 それを見て、また疑問に思っていると、花陽が近付いてきた。 ゆらりゆらりと左右に揺れながらこっちに来ようとしていた花陽を不気味に感じていた。 そして、私の目の前に立つまで歩き続けると、まだうつむいたままこっちを見ないで話しかけてきた。

 

 

 

「ねぇ、真姫ちゃん………真姫ちゃんは………私の親友だよね………?」

 

「えっ……? あ、当たり前じゃない……花陽は私の親友よ?」

 

「そう………だよね………親友………なんだもんね……………」

 

 

 

 どうしちゃったのかしら………いつもの花陽じゃないみたい…………

 

 いつもよりも、たどたどしい口調で話しかけてくる花陽の様子に疑問を生じる。 第一、どうしてそんなことを聞いてくるのかがわからなかった。 真姫と花陽との関係は、あの時―――μ’sに入ると決めた時から出来上がっていた。 今では、凛と同じくらいに仲の良い親友と思っていた。 それはいつまでも変わることが無いものだとしているのだ。

 

 それをどうして今ここで確認してくるのかがわからなかった。

 

 

 そんな花陽はまだ奇妙な話をする。

 

 

 

「ねぇ、真姫ちゃん………親友なら………隠しごとはしないよね………? 花陽に……何か隠していることはないかなぁ………?」

 

「えっ………す、するわけないでしょ…………」

 

「ほんと………?」

 

「ほ、ほんとよ…………」

 

「ふ~ん………そうなんだ………そうなんだ………………」

 

 

 ぞくっとするような悪寒が体中に行き渡る。 花陽の言葉のひとつひとつが鋭い針のようになって真姫の体に突き刺さってくる。 それに答えようとするが、その突き刺さったモノが喉元にひっかかっているようでうまく言葉を話せなかった。

 

 そして、沈むように声が小さくなっていく花陽に身震いし始める。

 

 

 

 すると、それまでうつむいていた顔がやっと真姫の方に向くと、ギロリと見開いた瞳をこちらに向けてきた。 その威圧的にも思えるその視線を前に、1歩後退してしまう。

 

 恐ろしい――――その一言に尽きる花陽の表情に、体が硬直する。 まるで金縛りにでも掛けられたみたいだった。

 

 

 

「嘘だよ………真姫ちゃん………嘘ついてるよね…………?」

 

 

 ぼそぼそと聞きとりにくいほどに小さく話すその声は異様にハッキリと聞こえた。

 それは真姫が花陽の言う通り嘘をついていたからである。 花陽にも言えない嘘をついていたため、やましいと感じているのでハッキリと聞こえたのだろう。

 

 これは言い逃れできないと察した真姫は素直に自白しようとする――――――が、体が硬直したままで口が思うように動かなかった。 嘘でしょ………そう思った矢先だった―――――

 

 

 

「真姫ちゃん………花陽ね、いっぱい知っているんだよ? 真姫ちゃんが私にいっぱい嘘をついていることもね? 親友だと思ってたのに………どうして嘘ついちゃうのかなぁ……? 私、とっても悲しい気持ちだよ………」

 

「ち、ちがっ――――!!」

 

 

 ようやく口が動いたと思ったら言葉足らずに口籠り、それもタイミングが悪い時に発してしまう。 それが花陽の気持ちに油を注ぐことに―――――

 

 

「違う………?どうしてそう言うの?違わないでしょ違わないよね?真姫ちゃんは私に嘘をついているんだよ?私が知らないとでも思っていたのかなぁ?昨日見ていたんだよ?真姫ちゃんの体調が悪いからって早退した時その後ろを追いかけていたんだよ?そしたらおにいちゃんと一緒になってるし、()()()()()()の背中にのっちゃってるし…………それに――――――」

 

 

 さっきまでのたどたどしかった口調が、一変して激しい口調へと変わり次第に声量も大きくなりつつあった。 花陽の奥底に溜まっている何かが膨れ上がり暴発しようとしていた。

 表情も険しくなっていき、いつも見ているあのぬいぐるみのように愛らしくやさしい笑顔を見せる花陽はそこにはいなかった。

 

 

 いたのは―――――――

 

 

 

 

 

 

「――――どうして()()()()()()と一緒に住んでいるのかなぁぁぁぁ!!!!??? どうしておにいちゃんとキスしちゃっているのかなぁぁぁぁ!!!!???」

 

 

 

 

 満ち溢れた憎悪に吞まれた花陽だったモノだった――――――

 

 

 

「ねえ?どうしてかな?どうして真姫ちゃんは花陽のおにいちゃんと一緒に住んでいるのかなぁ?キスしちゃっているのかなぁ?おにいちゃんは花陽のだよ?わかるよねわからないはずないよねだって真姫ちゃんは頭がいいもんねすぐにわかっちゃうんだもんね?なのにどうして花陽のおにいちゃんを私から奪っちゃうの?ねえ答えてよ真姫ちゃん?私からおにいちゃんのすべてを奪ってどうする気だったの?親友の私を悲しませるつもりだったの?酷いね真姫ちゃん酷いよ真姫ちゃん私は真姫ちゃんのことをずっと親友だと思ってたのにどうしてそんなことをしちゃうのかなぁ?!」

 

「あ………い、いや…………」

 

 

 耳鳴りのように突いてくる花陽の集中的な言葉の数々に、真姫は自身の心臓が急速に委縮してしまいそうなほどの恐怖にさいなまれる。 さらに、瞬きを一切せずに真姫を凝視する魚のように大きく見開いた眼差しが彼女に与える恐怖を増大させる。 真姫は灰色よりも深く黒ずむほど濁りきった瞳の中に吸い込まれ、まったく動けなくなってしまう。

 

 いいわけすらも言えない状況だった。

 

 

 

「真姫ちゃんは私の親友……凛ちゃんと同じくらい大事で大事で大切な親友だよ………でも、そう思っていたのは私の勝手な思い違いだったんだね………真姫ちゃんは私を裏切った………親友だと思わせて私を油断させてその隙に私のおにいちゃんを奪っちゃったんだよね真姫ちゃんは本当に頭がいいからこのくらいのことも簡単に考えちゃうもんねすごいねすごいねそんな真姫ちゃんは本当にすごいと思うよ――――――――殺したくなっちゃうほどにね」

 

「ひっ―――――!?」

 

 

 花陽の体から発していたドス黒い憎悪が一変して赤黒い殺意へと変貌し始める。

 その変化に気付いた真姫だが、逃げようにも体がまったく言うことを聞かずその場を動こうとしなかった。 いや、動けないのだ。 威圧する強い眼光が彼女を縛りつけていたのだ。 彼女が花陽の眼光に晒されている間、彼女は動くことも話すことすらもままならなかったのだ。

 

 

「安心してね真姫ちゃん、真姫ちゃんは私の親友だから痛みが続かないようにすぐに終わらせてあげるね。 痛いのが長く続くのはイヤだもんね、だから花陽の最後のやさしさをあげるね―――――」

 

 

 そう言うと、花陽は両手を伸ばして真姫の喉元を掴もうとする。

 その片方の手が喉元のとある部分に向かっているのを真姫は瞬時に理解した。

 

 喉骨だ。

 その部分に強烈な圧迫をかけて折ってしまうことで呼吸を止め、死を遂げさせることを可能とする部位だ。 医学の道に進もうとする彼女にはそうしたことを瞬時に理解した。

 だが、それは花陽が言うように楽に死ぬというものではない。 呼吸が出来なくなった瞬間、苦しみもがき、なんとかして呼吸をしようとのたうち回ってから力尽きていく恐ろしいものなのだ。 そう、よく動物を―――鶏を殺傷する際に用いられる遣り方………なんとも恐ろしく、残酷な遣り方だろうか…………

 

 それをも理解していた真姫は、花陽がどれだけ自分のことを怨んでいるのかを知り、また絶望する。 味方だと、親友だと思っていた彼女から怨みと非難を被り、そして、その彼女に命を奪われるなどということに絶望せずにはいられなかった。

 

 

 何の抵抗もされることなく喉元に辿りついた彼女の両手は、真姫の喉骨を捉える。 それは同時に、真姫の本当の死へのカウントダウンが始まったと言っても過言ではなかった。

 

 徐々に両手に力が入っていき首を締め始める。

 

 

 

「うっ――――あっ―――――――――!!」

 

 

 

 次第に、息苦しくなっていくのを感じていくと視界もぼやけてくる。

 いつか夢に出てきたのと同じような光景が目の前に広がっていた。 抵抗しなくては、そう自分に言い聞かせるが恐怖が全身を覆っているため体がまったく動じなかったのだ。

 

 

 

「うふふ………これで………()()()()()()は花陽のモノになるんだね………。 さよなら……真姫ちゃん――――――」

 

 

 彼女の手が真姫の喉骨に触れ、力を入れ始める。

 

 不気味にせせら笑う彼女の表情が、真姫の最後の光景となろうとしていた――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(パンッ!!!)

 

 

 

 

「「!!?」」

 

 

 廊下の奥から何かが炸裂するような音が鳴り響いた。

 そのあまりにも大きな音であったため、花陽は驚いて真姫にかけていた両手をパッと放してしまう。 また、それまで見続けていた視線も彼女から逸らした。

 

 幸運なことに、視線を逸らしたことで真姫は弱々しくなるものの体を自由に動かすことが出来た。 花陽からの呪縛から解き放たれた真姫は、その瞬間を見逃さずあわててこの場を立ち去った。

 

 

「ま、まてっ!!!」

 

 

 不意を突かれてしまった花陽は、普段は絶対に言わないであろう口調で真姫を追いかけようとするも見逃してしまう。 「くっ…!」と苦虫でも噛むような表情を見せると、あと一歩のところで仕留め損ねたと言わんがばかりに地団太を踏み、怒りを床にぶつけていた。

 

 

 

 

 だが、彼女はここで終わろうとしなかった。

 しばらくすると、彼女は歩き出してこの場を立ち去る。 明確な目的地に向かって歩み出したのであった―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

―― 

――― 

―――― 

 

 

 

「ハァ――――――ハァ―――――――ハァ――――――!!」

 

 

 息を激しく乱しながら学校を後にし、なんとか蒼一の家へと戻ることが出来た真姫は満身創痍だった。 それは肉体的にというよりも精神的にきているモノが大きく、先程の花陽のあの行為が彼女を深刻なまでに追い込ませたのだった。

 

 

「どうして…………一体、どうして花陽があんなことを……………!?」

 

 

 花陽が真姫を殺そうとした――――それが彼女を大きく動揺させる要因となり、パニックに陥らせることとなる。 彼女にとっては思いがけないことだった。 何故ならば、まさか自分の親友にそのようなことをされるだなんてありえもしなかったからだ。 ましてや、あの温厚で綿毛のようにふわっとした雰囲気を出し、頭から足のつま先にかけるまで、天使のようなやさしさにあふれていたあの花陽が、憎悪の塊となり果てて殺そうとしたのだ。

 

 

 彼女にとって、とても信じ難い事実だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

(rrrrrrrrr…)

 

 

「ッ―――――!!?」

 

 

 ポケットの中に入れていた携帯が音を鳴らした。

 その音に反応して体をビクつかせてしまう。 彼女は手を震わせながら着信相手の名前を確認する。 それを見ると、すぐに着信ボタンを押して電話に出る。

 

 

 

「もしもし……!」

 

 

『あっ! 真姫ちゃん、やっと出てくれたんだね♪』

 

 

 電話越しから聞こえてきたやわらかい声――――ことりだ。 彼女はその声を聞いて心の中で安堵の声をあげる。 花陽と言う拠り所を失った今、最後の拠り所であることりにすがるのは当然のように思えた。

 

 

「聞いてことり!! 花陽が………! 花陽が……!!」

 

 

 花陽が私を殺そうとした――――彼女はそう言いたかった。

 

 だが、言えなかった。 それは、未だに信じられなかったからだ。 目の前で、実際に首を絞められたにもかかわらず、それはただの悪い夢なのだろうと感じているのは、彼女はまだ花陽のことを親友と思い続けているからだ。 そんなはずはない――――そう自分に言い聞かせて、現実逃避しようとしていたのだ。

 

 

 

『落ち着いて、真姫ちゃん。 一体何があったのかちゃんと話してよ?』

 

 

 冷静に受け答えをしようとすることりの声を聞き、我に帰るような気持ちで落ち着く。

 乱れていた息も整え、ゆっくりとさっきあった出来事について話し始めた。

 

 真姫は落ち着いた声で話をするが、それでも内心乱れ続けたままだ。 途切れ途切れな短文をいくつも口にこぼしては、それを汲み取る聞き手が1つの文章として再構築してからやっとその内容を理解することが出来る。

 書く言うことりは、それを理解したうえで彼女の話を聞いていたのだ。

 

 

 

「――――ということがあったの……。 私、どうすればいいのか………わからないわ…………」

 

 

 先程起こったことすべてを話し終えた。 話し尽くすと、全身から軽くなるような脱力感を感じ始める。 話したことにより、現実に向き合いつつあった彼女は、改めて襲いかかってくる恐怖に打ちひしがれそうになるのだった。

 

 

『そんなことがあったんだ………大変だったね、真姫ちゃん………』

 

 

 心配そうな声で話しかけてくることりの声が、まるで心を撫でるように落ち着きを与えてくれる。 ことりが私の支えとなってくれると信じ切っていた。

 

 

『まったく、花陽ちゃんも酷いことするよね! あんまりだよ―――――』

 

 

 

 

 

 

 

――――そう、信じ切っていた――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()―――――♪』

 

 

 

「えっ―――――――?」

 

 

 

 

全身から血の気が引いていくのを感じた。

 

 

 

 

 

 

【監視番号:24】

 

 

 

【再生▶】

 

 

 

 

(ピッ)

 

 

『なに………これ…………?』

 

『花陽ちゃん、これはね蒼くんと真姫ちゃんの写真だよ。 すごいでしょ、よく綺麗にとれていると思わない?』

 

『い…いや………それよりも、これはどういうことなのかなぁ………どうして真姫ちゃんが蒼一にぃの家にいるの………?』

 

『それは簡単なことだよ、真姫ちゃんが蒼くんの家に住んでいるからだよ』

 

『えぇっ?! そ、そんなの初めて聞いたよ!!!』

 

『うん、ことりもね初めて聞いたんだ。 でも、これを見てすべてを納得しちゃったんだ。 私の蒼くんを真姫ちゃんが奪ったんだって…………』

 

『真姫ちゃんが………蒼一にぃを………花陽の蒼一にぃを………どうして…………』

 

『花陽ちゃん、その気持ち分かるよ。 大好きな蒼くんを親友と呼んでいた女に取られちゃったんだもんね? 知らないうちに、自分の手から奪われていたんだよね? そんなの悲しすぎるよね………』

 

『真姫ちゃんは何も言ってなかった………花陽には、何も………隠し事とかしないでほしかった………私は真姫ちゃんにとって何だったんだろう…………』

 

『花陽ちゃん………追い打ちをかけるようだけど、これも見て…………』

 

『っ―――――!!!? そ、そんな………うそ……………』

 

『これをみて酷いと思わない? 真姫ちゃんはね、私たちには内緒でこんなことをしていたんだよ? 蒼くんからハジメテを奪っちゃったんだよ? これは許されないことなんだよ?』

 

『許されないこと…………真姫ちゃんが……私の蒼一にぃを……………』

 

『そうだよ、花陽ちゃん。 真姫ちゃんは花陽ちゃんのおにいちゃんを奪い取っちゃったんだよ? 花陽ちゃんのてから一方的に奪い取っちゃったんだよ?』

 

『おにいちゃんを………()()()()()()()()()()………真姫ちゃんが…………!』

 

『でもね、まだ取り戻すことが出来るんだよ?』

 

『!? ど、どうすればいいの!!?』

 

『そんなの簡単だよ―――――真姫ちゃんを消しちゃえばいいんだよ♪ 蒼くんの隣にいる真姫ちゃんを消しちゃって、そこに花陽ちゃんが座ればいいんだよ。 そうしたら、おにいちゃんを独り占め出来るんだよ♪』

 

()()()()()()を独り占め………! 真姫ちゃんがいなくなれば、花陽だけのモノに………!!』

 

『そうだよそうだよ、その意気だよ花陽ちゃん! 花陽ちゃんのその手で、花陽ちゃんの手から奪い取ったあの忌々しい女の喉骨をポキッて折っちゃってよ。 そしたら、花陽ちゃんの手には蒼くんだけが残るんだよ…………ね、簡単でしょ?』

 

『カン……タン………? 真姫ちゃんの………アノ女の息を止めたら、おにいちゃんハ花陽のモノになるんだネ…………?』

 

『うん、そうだよ花陽ちゃん。 花陽ちゃんなら出来るよ! 花陽ちゃんのその手で大好きなおにいちゃんを取り戻してきてね!!』

 

『ウン………ワカッタヨ、ことりチャン…………花陽ハイイ子ダカラ、チャンとヤッちゃうヨ…………』

 

『うん♪ 本当に良い子だね、花陽ちゃんは――――――♪』

 

 

 

 

 

 

 

(―――――プツン――――――)

 

 

【停止▪】

 

 

 

 

 

 

(次回へ続く)

 





ドウモ、うp主です。

最近、若干鬱気味になりかけています。
疲れているのかな?早く寝て状態を元に戻さないといけないね。


次回もよろしくお願いします。

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