《完結》【蒼明記・外伝】カメラ越しに映る彼女たち――― 作:雷電p
フォルダー2-1
あの日――――頭に激痛が走ったあの日に、俺の世界が急変したかのように思えた。
始まりは、真姫の様子が変わったことだ。
面白半分な気持ちで俺のことを弄んできていたあの真姫が、あの数日前のは何かが違っているように思えた。
光をすべて飲み込んでしまうような淀んだ瞳と、体を縄で縛りつけてしまうかのような言葉、そして、そのすべてを取り込もうとしていたあの雰囲気―――――あれは、今まで見ていた真姫とはまったく違っていた。
だが、それだけじゃなかった。
真姫だけが変わっていたんじゃなかったんだ。 μ’sも………いや、正確に言えば、プランタンとビビのみんなの様子がおかしいように感じつつあったのだ。
特に、プランタンなんて俺が穂乃果から歌詞が書かれてあろう用紙を受け取った瞬間に、一斉に襲いかかってきたのだ! 穂乃果とことりの両方から羽交い絞めにされ、花陽が正面から抱きついてくると言う息苦しい体制に持ち込まれそうになった。
洋子のおかげで何とか難を乗り切ることが出来たものの、自力での脱出は難しいものだと感じている。
しかし何故、俺なんかに執着しようとしているのだろうか…………?
おかげで、昨日は作業に集中することができずに家に帰ってくることになった。
だが、帰ってきても真姫から執拗なアプローチによって飯を作っている時でさえも落ち着かなかったのだ。 それに、注意とかしなかったら下着姿で這い寄ってくるのだから頭がクラクラして堪ったものじゃない。
ドタバタといろいろとありながらも、ようやく静寂が取り戻すことが出来たのは、日付が変わる頃だった。
よし、これでようやく作業ができるぞ! そう意気込みを入れてから、いつもの作業場で歌詞と向き合いをし始める――――――――
――――が、
「ねぇ………蒼一………いなくならないでよぉ……………」
まるで、子猫のような微かな声で部屋に入ってきた真姫は、寝巻の状態で俺のいるところにやって来ては、そのまま俺の首に腕を回すように抱きついて来て、しばらく気持ち良さそうに眠りについてしまったのだ。
もはや、俺の気を休ませる場所は存在しないのだろうか………な…………?
―
――
―――
――――
日付が変わっての朝―――――
俺の寝床には真姫の姿が………って、もういつものことのようになっているような気がする…………
昨日は、真姫のために設けた部屋のベッドに寝させたはずなのだが、朝、目を覚ますと何故か隣でぐっすりと綺麗な寝顔と甘い吐息をこちらに向けてくれる。
ただなんと言うか……こうした寝顔を見ていると、どうも心の奥底に眠らせているカワイイもの好きの精神が呼び起こされてしまうことが多々ある。 穏やかな眠りについたその顔は子猫のような小動物を彷彿させるかの如くと言ったところだろう。 だから、ついついその頭や頬を寝ながら撫でてしまいたくなってしまうのだ。
だが、それは一歩間違うと致命傷なことが起こってしまうのだ――――――
「ふふっ、寝込みを襲うなんて……蒼一もやるようになったじゃないの♪」
そう……
それもすべてあの日から変わってしまったのかもしれない―――――――
そんな真姫の行動は学校でも変わらない―――――
俺が学校に来るやいなや、俺の腕にしがみ付いてはそのまま部室の方まで案内させられてしまう。 その途中では、穂乃果たちが俺が来るのを待ち構えているように立っていて、俺の姿を見るとすぐさま俺の周りに集まってくるのだ。 身動きが取れないったらありゃしない。 おまけに、6人の女の子たちがこれでもかというくらいに体を押し付けて来るので、込み上がってくる理性と血を何とか留めさせようと努めていた。
そんな俺の姿を洋子やリリホワのメンバーは呆れたような眼差しを送っては、溜め息を漏らすばかりだった。 すまんけど、溜め息を漏らしたいのはこっち何だけどな……………
―
――
―――
――――
その翌日―――――
今日もいつもと変わらない日常………いや、ここは題打って“非”日常とでも言っておくべきだな。 俺にとっては、こんな生活は長年経験した中でも異常なモノとして考えた方がいいのかもしれない。 ただし、そんな“非”日常に満足している俺もいるというのが不思議だ。
「ねえ、ちょっと体貸して♪」
真姫が登校するために玄関から出ようとした時、両手を広げては不敵な笑みを浮かばせてこちらが来るのを伺っているようだ。 俺は一瞬どうしようかと戸惑ったのだが、「してくれないと学校を休むわ!!」というものだから渋々体を貸すことに…………
「あぁ………いいわ…………いいわよ…………………」
深みにはまってしまいそうな甘い吐息に全身を震わせる。
真姫のされるがままの状態を続けさせていくことに、いつしか俺は諦めを感じていた。
「スンスン…………スンスン……………(ああ、たまらない……たまらない匂いだわ………)」
――――だが俺は、そうしたことを諦めさせなくてはいけなかったのだ。 俺にとっても……真姫にとっても………だった―――――――
その日は、何かがおかしい気を感じた―――――
というのも、昨日に引き続くのであるならば、真姫を先頭に6人が俺に襲いかかってくるのだが、何故か、真姫が朝とは打って変わって大人しかったのだ。 また、変なことと言えば、今日はやけに誰かに見られているような気がしてならなかった。
気のせいなのだろうか……………?
だが、練習が終わり、その帰路に辿り着き家の中に入ると、真姫は持っていたカバンを玄関に投げ捨ててぶつかるように俺に抱きついてきたのだった。 それはとても荒々しく呼吸をしては、俺のありとあらゆるところを舐めまわすように触れてきた。
そして、終始俺の名前を口にしていたのだった―――――――
―――――曇りきったその瞳を向けて―――――――――
―
――
―――
――――
そのまた翌日、定時の登校―――――
いつものように職員用の玄関からひっそりと入っていくのだが………アイツらは…………?
「…………………」
…………ん? やけに静かだな………?
いつもならば、校舎内に入った瞬間に襲いかかってくるのだが………誰もいないのか………?
これはしめた! と思い、そそくさと中に入り部室へと直行する。
誰からも襲われることが無いこの当たり前な時間を大事にしていきたいものだと、ただただ深く思うのだった。
「あっ! 蒼一ぃ~!」
しばらく廊下を歩いていると、後ろの方からやけに元気な声が飛び込んできた。
振り返ってみると、希を先頭に海未と凛が歩いてくるのが見えた。 このメンツなら大丈夫だろうと、一瞬だけ焦りだしていた心を落ち着けて、3人の方に体を向けた。
「あぁ、お前たちか。 今から部室に行くのか?」
「そうやで、ほんなら蒼一も一緒に行こか?」
「そうだな、少し落ち着きながら行きたいもんだな」
「何かあったのですか、蒼一?」
「いや……ただ気分的にゆっくり行きたいだけさ………」
「そうですか…?」と首をかしげながらも海未たちは了承してくれた。
すると、凛が「それじゃあ、いっくよぉ~♪」と元気いっぱいに声を上げて歩きだしたので、俺たちはその後をついて行くように歩きだした。
この歩いている間、凛と希の面白い話題を提供され、その内容に対して海未がツッコミを入れるというほのぼのとした時間を過ごすことを俺に与えられたのだ。
そうだよ………俺はこういう時間を大切にしたいって思っているんだよ…………誰にも邪魔されることのない至福を含んだこの空間を………
(bbbbbbbbb―――――)
ポケットの中に仕舞いこんでいた携帯が震えだしたので、それを手にした。
相手は………洋子か……?
あっちから連絡を入れて来るのは、めずらしいなと感じながらも電話に出た。
「もs『もしもし!! 聞こえてますか蒼一さん!!!!』…………」
こちらが話すよりも先にあちらからの声が俺の声をさえぎった。
「あ~……どうした洋子? 急ぎの用なのか?」
先程の大声を耳元で聞いてしまったためか、耳鳴りがし始めており、頭にガンガンと響くモノがあった。 そのためか、自然と力の抜けた声になってしまうのだ。
『大変なんですよ、蒼一さん!! この状況はとってもマズイです………周りを火で囲まれるくらいに………前門の虎、後門の狼みたいな………MS(モビルスーツ)が紫色の服を着たお爺さんに素手で敗れるくらいにマズイ状況なんですよ!!!』
ペラペラと早口に話し始める洋子の言葉に、脳が活性化し始める。
というか、最後の例えはなんだよ? 東方不敗か? まあいい……洋子が焦っているのはよくわかった気がする………
「すまん……最後の例えはいらない気がするのだが………とりあえず、何か問題が起こったって言う認識をすればいいんだよな?」
『つまりそう言うことです』
「だったらそう言えばいいのに…………」
心に思ってしまっていたことがそのまま口に出てきてしまう………少しだけ呆れてしまいそうになっていた。 だが、洋子は俺のことなど気にも留めることなく話を続けたのだ。
『いいですか、蒼一さん! これからいくつかの質問をしますので答えて下さい!!」
「お、おう………構わないが………?」
いきなり何を言い出すのやらと思おうとするよりも早く、洋子が話をし始める。
『わかりました。 では、最初に――――あなたの近くに居るのは、海未ちゃん、希ちゃん、凛ちゃんのリリホワメンバーでよろしいでしょうか?』
ん? と疑問に思いながらも俺は周りを見渡す。
確かに、海未、希、凛は俺の近くに居るのだが、よくそれがわかったなぁ、と驚きを抱いた。
「ん。 そうだが……よくわかったなぁ、俺の隣に3人いるってことがよ」
洋子にも希のようなズピリチュアルなモンでも備わっているんじゃないかって思ったよ。
『さらに聞きます。 その御三方に変わった様子はありましたか? 答えにくい場合は、“はい”か“いいえ”で答えて下さい!』
「そうだな………“いいえ”だな。 特に、変わったことなんかないぞ?」
『そうですか………それはよかったです………』
それはどういう意味を含んでいるのだろうか? 洋子が一体何を考えているのか、俺には理解することができなかった。 ただ、わかることと言えば、電話越しから伝わる激しい息切れ……何か焦っているようにも思えたのだ。
『次にですね、最近、真姫ちゃんの様子で変わったことはありませんか?」
「っ――――!! それはどういう意味なんだ………?」
『特に深い意味はありません。 ただ、蒼一さんの視点からして、真姫ちゃんがどういうふうに見えているのかを知りたいのです』
洋子の言葉に思わず声を荒げてしまう。
それは、洋子が俺と真姫が同棲していることを知っているのではないかという憶測が脳裏をよぎったからだ。 まさか……いや、洋子ならありえなくもない話かもしれない。 何せこの学校の様々な情報を手にしている人物なのだ。 俺たちの状況くらい把握出来ていてもおかしくは無い。 ただ、それが本当ならば俺の予定が狂ってしまう! 出来ることならば、もう少し時間をおいてから話をするつもりだったからだ。
このことは少し追求したい……だが、この場で聞くのは忍び難いものがある。 海未たちがいるからな…………
「そうか…………それじゃあ、結論から言うとしたら昨日からおかしいと感じている」
完結的な言葉を持ってその問に答えることで収めることにした。
『そうでしたかぁ………やはりあの一件が影響しているからなのでしょうね………』
“あの一件”………? それは一体何を指しているものなのだろうか…………?
「何か知っているのか?」
『そのことについては、“はい”と答えておきましょう………いずれ、お話しを致しましょう』
深い意味を含ませたその言葉に阻まれ、その真意を確かめられなかった。
だが、これは致し方ないことだと割り切るほかなかった。
「…………わかった。 それについては、洋子に任せる」
『話しがわかってもらえてうれしいですよ』
俺的には、いずれとは言わずに今すぐにでも聞き出しておきたいことなんだが………そう言うわけにもいかなさそうだな。
『次に、これは私からの警告です。 しっかりと聞いてもらいたいのです………いいですか?』
「警告………? それは一体何なんだ?」
洋子が改まって何かを聞き出そうと声を整えた。
この感じからすると、これからが本題なのかもしれない………気持ちを整える。
『とりあえず聞いて下さい。 いいですか、蒼一さんは穂乃果ちゃんたちのぼうs「そおぉぉぉぉいちぃぃぃぃぃ!!!!!」』
「っ―――――!!?」
通話を遮るかのような声が辺りに残響した。
この声は………まさか……!!
そう頭の中で理解し始めていたその時、正面から猛突進してくるモノがこちらに近づいていた! 正面を言っていた凛は、それを抑えることができず横に逸れ、それはそのまま俺の胸元に向かって飛び込んできたのだった!!
その特徴的な黒髪のツインテールをふわりとなびかせながら、彼女は強く抱きついてきたのだ!!
「に、にこ!!? な、なにをするんだぁ!!!?」
そう、それは紛れもない、にこだったのだ。
「はぁぁぁん、そういちぃ~~♪ どうして、にこのところに来てくれなかったのよぉ~~~? にこねぇ~、ずぅ~~~っと待っていたのよぉ~~~? 蒼一が来るんじゃないかって、もう来るんじゃないかって、もう来るんじゃないかって、体をウズウズさせながら待っていたのよぉ~? おかげで、もう体が……この衝動が止まらないでいるのよぉ~~~!!!」
「ちょっ……何を言っているんだ、にこ!? いいから離れろ」
「いやよぉ~、にこと蒼一はもう運命の赤い糸で全身をぐるぐる巻きになるまで結ばれているのよ? もう離れるわけないじゃない?」
目尻をとろんと垂れ下がらせ、顔を赤く染めた彼女の口から次から次へと言葉が飛び出してくる。 酒にでも酔っているんじゃないだろうかと錯覚してしまいそうなその一方的な会話が俺を困らせていた。
濁り淀んだ瞳がこちらを伺っていた。
このにこはいつものにこではない―――――そう判断するのに時間など必要なかった。
それに、この感じはどこかで触れたことがありそうなものだった。 いつだっただろうか………? まったく思い出せずにいたのだった。
ただ、その前ににこを払い除けようと必死にもがき続けた!!
「にこ! 何をしているのですか!!? 蒼一が嫌がっているではないですか!!」
「にこっち、それ以上はアカンって! そないなことをしたらアカンよ!!」
「にこちゃん! 止まってよ~~!!」
俺の様子を見ていた海未たちは一緒になってにこを俺の体から離れさせようとしてくれていた。 だが、海未たちの力をもってしてもにこはビクともしなかった! というか、逆にもっと強く抱きついてくるのだった!!
「もぉお!!!! アンタたち邪魔よ!!!! 私と蒼一との仲を邪魔しないでくれる!!!!!」
(ブンッ!!!)
空を切るような音が唸りあがった。
にこの何かがキレたのだろうか、にこの体を掴んでいた海未たちの手を彼女の腕から出た一振りによって振り払ったのだった。
その一瞬の出来事に、海未たちは「きゃぁ!!!?」と叫び声をあげてはその場で倒れ込む始末だった。 またそこに、にこはそのまま腕を振りかざして海未たちの方に向かっていこうとしたので、俺はそれを何とか喰い止めようと抑え込もうとする。
だが、あまりにも乱暴な動作をするため1人で抑え込むには心許なかった。 そのためか、いとも容易く振り払われてしまう。
その時、所持していた携帯が飛ばされ、床に鈍い音をたてて落ちていったのだった。
「蒼一は私のモノよ…………誰にも渡さない………誰にも邪魔させない………」
ブツブツとひとり言のように話をするにこに危険を感知すると、もう一度にこを抑え込もうとする………だが―――――
「あああもう!!! 邪魔しないでくれる!!!!!」
(ブンッ!!!)
にこはもう一度腕を振り回して俺の手を払い除けようとした。 こちらは当たるものかよ、と掴んでいた手を放して逃げようとしたのだが――――――
(ガッ!!!)
「ぐはっ!!!?」
そのあまりにも早い動きに反応することができずに、にこの腕が頭部側面に直撃してしまったのだ。 いくらにこの華奢な体といえど、力を込めれば相当な打撃となる。 それが頭部に当たってしまったため、その反動で倒れてしまう。
「ッ――――!!? そ、蒼一!!?」
そんな俺の様子にいち早く気が付いたのは、皮肉なことに原因を作ったにこ本人だった。 にこはそのまま座り込んで俺の上半身を引き起こしては、頭をにこの膝に乗せ、にこが打ち当てた個所をやさしく撫で始め「ごめんなさい……ごめんなさい……」と瞳をうるわせながら謝ってくるので、怒る気が抜けていってしまった。
仕方ないなと溜め息をついて、俺も仰向けの状態だったが腕を伸ばしてにこの頭に手をおいて「大丈夫だ……心配すんな」と撫でてあげた。
その時見せたにこの顔は、あの日―――部室で見せてくれた時と同じような顔をしていたようにも見えた。
―
――
―――
――――
その後、落ちてしまった携帯を手にしたのだが、電源が落ちていた。 どうやら、先程の衝撃によってバッテリーとの接触不良でも起こしたんだろうと思いつつ電源を入れ直す。
幸いなことに、データはまだ死んではいなかったようだ。
ただ、さっきの通話は終わったけどな……………
「洋子は俺に何を伝えようとしていたのだろうか………?」
それが気になっていたので、電話を掛けてみることにしたのだが、何度やっても出てくる様子もなかった。 仕方ない、またあとで聞くとしようかと割り切り、この場に留まっていたにこと海未たちを連れて部室に行こうとした。
しかし、よく見ていたら海未の姿だけが消えていることに気付いたが、この後の練習中に戻ってきたので、特に気にしてなかった。
その他で練習中に変化があったとしたら、真姫に続いてにこも大人しくなっていた。
さっきのこともあるから仕方のないことだろうと思い、これも気にすることもなかった。
翌日―――――
部室に来て、開口一番に海未から聞かされたのは――――――
「
――――という唐突な話だったのだ。
【監視番号:21】
(データが保存されてあったはずなのだが、削除されて聞くことが出来ない)
(次回へ続く)
どうも、うp主です。
今回は蒼一視点でこれまでの流れを見ていったわけです。
さて、次回は違う視点からこの物語を見ていきましょう……………