MADMAX Fury of ArmoredCore -V-alhalla 作:ティーラ
だが問題は…『誰のために死ぬか』だ。
それをモットーに今を生き、戦って死ぬ。
オレたちはそんな存在だ。
オレ達は偉大なるあのお方のために今日も戦う!
英雄の館へ導かれるその日のために――。
錆色のニュークスACが駆ける数m先、ガラス張りのコックピットからは巨大なタイヤで巻き上げられた砂塵。これまでに見たこともない怪物級のACが鉄塊を振り回し、ウォー・タンクからはその進行を遮ろうと火炎放射が。
曰くそれは戦場、荒んだガラス越しには今まさにニュークスが待ち望んでいた戦場が見えている。
「オレたちが一番乗りだ、スリット!」
「まずジャマものを片付けるぞッ!!」
ACといえど、あれほどまでに改造を施す輩もいるのか。余程ACに情熱があるのかあるいは変態か…。
前面装甲にくくり付けられた男は呆気に取られるものの表情は変わらず、巨大改造ACとウォー・タンクをにらみつける。
ニュークスACによる最高速度が怪物級ACとの距離をつめる。遠くから見ていた時より大きく見える、あのトゲ状装甲はより一層異様で不気味に見える。
「今だッッ!!!」
ニュークスの合図でスリットが身を乗り出す。片手にサンダースティックを握りしめ、やり投げの構えに入る。
目標はバケモノACの背面装甲。片目を瞑り、標的を定める。槍を持つ右手を肩まで上げ、左手の指で到達点を予想させ――。
力任せに投げるッ!槍は男の頭髪をかすめ、曲線を描くことなく直進。
赤色の爆炎、背面装甲のトゲがバラバラと落ちる。火花が散る中、男は爆音よりも頭をかすめたことに怒号する。
「危ッねェだろオッ!」
ニタニタとほくそ笑むニュークス。コックピット内のパラメータと計器の上、ダッシュボートにはボビングヘッドの玩具が一つ。カラスの骸骨が小刻みに揺れ、ケタケタと笑っている。ハンガーユニット起動、新たなサンダースティックをスリットの専用スペースに固定。二本目を取り出しているところを確認しているとニュークスは聞き覚えのないエンジン音に左を向く。
つかの間バザードカーが横から突進。トゲ状の装甲がニュークスACにぶつかる。グライドブースト強制解除により機体が大きくぐらつく。スリットは手すりに掴まり揺れに耐える。ニュークスはすぐさま左右のフットペダルを踏みつけ離しを繰り返し、四つのノズルブースタからアフターフャイア連続噴射、姿勢制御。両手で握る操縦桿を引いたり押したり傾けたりと、バランサーシステム微調整。
ニュークスが事細かく操縦している合間、ウォー・タンクが牽引する燃料輸送車両の上部にはモロゾフが鎮座。
続けてスリットがサンダースティックを投げつける。バザードカーは騒々しく轟く音と共に爆炎に包まれるながらニュークスACとの距離を取りつつある。そんな最中、銛を当てたモロゾフは立て続けに咆哮する。
「ダアアァァ!!ダアアアアアァァッ!!」
油断していればバザードとかいうヤツラに殺されていたかもしれないのに。白塗りの野郎共はどうやら、
また突進を仕掛けるだろう、とニュークスはバザードの動向を探ろうとした途端早速突進。ニュークスAC急減速、ニュークスの直感が働く。回避行動か、はたまた銛を引き抜きたいのか、あらかじめ結んでおいた荒縄がビリビリと張りバザードカーの行動を制限し、ひたすら蛇行する。
ニュークスはニヤリと口角を上げる。ならばお望み通りにしてやろうとブーストペダルをべた踏む。ハイブーストと同時にグライドブーストを起動。一瞬にして黄土色の砂が高々と舞い、男はただただ襲い掛かるGに耐え続ける。横目にバザードカーが映り、ニュークスACと並列する形になった。
何をするかは知らないが乱暴なことはしないでほしい、と小さく願う男。
そんな願いとは裏腹にバザードカーまたしても左から突進。そしてニュークスも操縦桿を左へ傾け突進!金属同士とのぶつかり合いで多量の火花が舞い散る。バザードカーの上部装甲が銛と一緒に剥がれる。操縦者があらわになり、操縦している連中が全身包帯であることにようやく気付いた男。もはやこれから何が起こるか予想がつかない。
次に男がウォー・タンクを見上げると、モロゾフがサンダースティックを握っていた。
全身包帯野郎が先か、死にぞこないが先か……!
「――!!!」
全身を包帯で覆ったバザードの一人がボウガンを取り出す。何かを叫んだかと思った次の瞬間、二発の矢が発射されモロゾフの顔面を貫通、脱力したように崩れ倒れた。
あんなザマだ、命はないだろうと男はため息をひとつ―――。
ニュークスが…死んだであろうモロゾフに呟く。
動かない………………はずだった。
モロゾフが動きだしたかと思えばスプレー缶を握りしめ口元へ近づけ吹きかける。一心不乱に吹きかける様は何かに憑りつかれたかのように腕だけが動いている。
「モロゾフ!!?」
他のウォーボーイがモロゾフに気付く。
「……ぉ、オレ…を……!!!」
「モロゾオォフ!!」
「そうだッ!行けぇ‼」
エールを送るかの如くウォーボーイズがモロゾフを讃える。ウォー・タンクで指揮するエース、ACを駆けるニュークス、槍を構えるスリットなどウォーボーイズ総員が!!
「
モロゾフが…
「行けモロゾフ!行け!」
「モロゾォォフ‼モロゾォォフッ‼」
モロゾフがサンダースティックの両手で持ち
「
モロゾフが咆哮し、台座から跳躍―――。
異常爆発!!サンダースティック二本分の炸薬が弾け、バザードカー爆発。モロゾフが死なば諸共とバザードカーを道連れに爆炎の中へと消えた。
「見たかッ!!」とニュークスが。
「よくぞ死んだ!」とスリットが。
バザードカーだった残骸はもはや骨組みだけ、朱色の炎に包まれ再起不能。
「よくぞ死んだモロゾオォフ!!よくぞ死んだアアァァ!」
ウォーボーイズやエースが手指をクロスさせ果敢に挑んで死んだモロゾフを讃える。
だがまだ終わっちゃあいない。あのバケモノACが…まだ残ってる。
フュリオサがサイドミラーを見やるとあの巨大ACがグライドブーストをしている。目標はおそらく
警笛紐を引っかけ――。
重厚なホーンが鳴り響く。ウォーボーイズの気持ちを一新させ、標的をバケモノACへ切り替えさせる。
次弾装填完了した三脚ACが直進、ウォー・タンクの前から回り込んで攻撃する戦法は変わらず。激戦となるであろう最中、トレーラーの接続部から白いレースを着た
ウォー・タンクの前から割り込み、ぎこちない操縦さばきで90°半転、後ろを向いた状態でさらにグライドブースト。先ほどと何一つ変わらない。違うと言えば対戦相手、巨大AC。眼前に現れた三脚ACへ向け突進中。肩の乗っているウォーボーイが絶叫、パイロットも絶叫しサンダースティックを投げつける、引き金を絞る。ロングバレルから二発の弾丸が射出し、サンダースティックと同時に着弾炸裂。巨大ACを確実に当てたが
強引に突き進む巨大ACは三脚ACを真下にして引きずる。不釣り合いなAC同士との正面衝突では敵いっこない。パイロットとウォーボーイは脱出し橙の砂を受け身に回転する。一方で三脚ACはボロボロにひしゃげ横転、再起不能と化した。「大丈夫か!?」とスリットが気遣う。
「来るぞッ!!?攻撃しろッッ!!」
エースはいつにも増して必死に伝達。それはコックピット内にまで聞こえるほど。
「前につけろ!」
スリットが専用スペースから身を乗り出しACの前面強化ガラス越しに命令する。絶好のポジションとしてあえて三脚ACがやられた場所を選んだ。少し不安だが、と後部強化ガラスから見える戦場を見ながら指示通り巨大ACの前へと寄せる。
「良ォし、行け行け行けエエェ!!」
「食らえエァッ!」
「死ねやバケモノッ!!」
ウォー・タンクの幾重にも重なったクレーンにウォーボーイズ総員でサンダースティックや爆弾、中には槍の炸薬部だけをもぎって投げつける。巨大アームも稼働率が悪化しているらしく、動きが若干鈍くなりつつある。
ニュークスACとウォー・タンクはほぼ並列状態。男はふとウォー・タンクの運転席に、フュリオサはACにくくり付けられた男に目が行った。男は
絶好のポジションでスリットはサンダースティックを投げる。着弾炸裂、巨大ACハイブースト。爆炎をかき分け迫る巨大ACには、流石にスリットとニュークスも顔色を変えた。
「ゲッ――!!!」
「なッ――!!?」
スリットは前面強化ガラス装甲へ退避しニュークスはハイブーストを吹かす。初速段階のブーストでは間に合わなかった。巨大ACの猛突進による衝撃が背面装甲を襲い、ニュークスACが大きく軋む。巨大な体躯はスリットの専用スペースを大きくひしゃげさせた。
あのニュークスとスリットでも太刀打ちができないのか……。
フュリオサが厳しい戦況に渋顔をしている、その時だった。
「もう無理息ができないっ!」
後部座席の下からハッチをスライドさせ、レースを着た妊婦がしゃしゃり出てきた。「バッ――!!」と何か言おうとしたフュリオサだがそれをぐっと抑え冷静に命令する。
「隠れてなさいッ!」
これに対し妊婦は「はぁ??」とした表情。
巨大ACに動きアリ。どこに仕込んだ武装やら、バザードの連中が装備していた代物より異様に錆びつき特大サイズの電動丸ノコが!!!
「――早くッ!!!」
電動丸ノコは運転席へ向ける。ギリギリところでフュリオサがかわし直撃を免れた。だが入りきらない丸ノコが運転席のビラーを切り裂かんとつんざく金属音、そして鋭い火花がフュリオサと妊婦に襲い掛かり、小さな熱傷を持続させる。両腕だけでは防ぎきれない。
「
このままでは…。
ならば、あのお方のために……!!
決心したニュークスはACのブーストを停止。1、2秒滑空し砂の上をスライド移動する。残存スピードを殺さず左脚部を軸に反転。ドリフト成功、再度グライドブースト起動。後ろ向きの状態でピッタリと巨大ACの真正面、対峙する形になったところを確認したニュークスは右操縦桿のスイッチカバーを上げる。円形のロックオンサイトに巨大ACを入れる――。
《
機械音声がスピーカーから聞こえる。ノイズ混じりの特に意味のないコンピュータボイスにニュークスは体感する。
そう……これが――。
戦場なんだッッ!!!
ニュークスはカバーで被さっていたスイッチを親指で――押した。
ガトリングガン――!!今までの騒音と比べ物にならない爆音。大口径三連ロングバレルから発射される圧倒的な弾幕が巨大ACの装甲を削り取る。ニュークスACからは大量に排出される薬莢がカーテンの如く幕を形成し攻撃する。
だがそれでも相手は巨躯の使いどころを熟知しているらしい。重装甲個所は確実に跳弾、キンキンキンキンと。
「びくともしない…!!?」
唇を噛みながら操縦するニュークスはどこかに弱点があるはずだと薄目で探る。
巨大アームがクレーンに振り降ろす。枝木を折るかのように容易くクレーンはひしゃげその衝撃で何人かが投げ出された。残ったウォーボーイズ五人が絶え間なくサンダースティックと炸薬をぶつける。
十はいた戦闘員が今や…。
「あの
エースの的確な判断。指をさしたアームは輸送しているACが目的か、クレーンを取り除こうと動作している。
スリットが三本目のサンダースティックを投げ飛ばす。硝煙が消えるとモーターの内部らしき機構が露出し、スリットもニュークスも直感で『弱点』だと察する。
ニュークスがハンガーユニットを起動、すぐさまスリットがサンダースティックを持ち出し構えに入る。続けてニュークスは親指を離しガトリングガンを停止、左操縦桿スイッチカバーを上げる。
《
珍しくノイズが無い機械音声にふとスピーカーを見たが、ロックオンサイトに再び目を移す。
何故鳴るのか分からない、今でさえ不明な点だ。
ACの調子の問題か?それともコアの異常か?
意味なんてないコンピュータボイスのはず……。
戦う事、強さ、勝利、戦うことへの喜び……。
頭を振るニュークス。余計な雑念は戦場では不要だ。
鋭い火花は止まずに襲い続け、妊婦は来た道を戻るように後部座席の下へ潜る。
ニュークスは内部機構を[LOCK]、コンピュータパネルが表記する中ゆっくりとスイッチを親指に近づける。スリットは指で目標を定める、サンダースティックを持つ手に力が入る。
ウォーボーイの一人がアームをよじ登り炸薬を投げつけ、爆発。男とスリットとニュークスはアームが大きく揺れるのを直視する。
スイッチを、サンダースティックを…押した!投げた!
赤黒い炎と緑のパルス弾が合わさり、二種類の配合色がモーターに引火。金属部が融解し、丸ノコがガクッと歪んだかと思えばニュークスACの頭部へ向けて落ちて来た。男とスリットは突然のことで頭を一気に下げる。サンダースティックの炸薬部と頭部パーツのオブジェが一刀両断された。
炸薬がゆっくりと巨大ACの真下へ落ちる中、地に着き、弾んだ瞬間にゴーグルをかけたあんぐりと開口した頭骸骨が笑ったように見えた――。
爆発!爆発!!爆発!!!
巨大ACは内部からも爆炎に包まれ、アームはウォーボーイを道連れにあらぬ方向へ跳躍。横転前転と繰り返しながらあの巨大なボディを持ったバケモノACは、再起不能になりバザードカーと一緒にウォー・タンクを置き去りにした。
「
スリットは高々と腕を上げ、自分が倒したことをアピールする。
「オンナを取り戻そうぜッ!!」
勢いに乗るスリットとは裏腹に、ニュークスは考えていた。
戦い続けたい…と。
もっと体感したいと。
もっともっと戦って、戦い続けたい――。
ニュークスは戦い続けることへの執着心を身に沁みこませながら90°反転ドリフト。ウォー・タンクを追い、ワイブスを取り戻す任務へ戻した。
はいッ年内には間に合ったYO!!
それに今回短いんだ、ごめんね。
とはいえ間に合った間に合った(何言ってんだ)
いやはや・・・オノマトペ難しいッたらありゃしないよ!
というわけで
これからも
『MADMAX Fury of ArmoredCore -V-alhalla』
のほど…
よろしくお願いします♪