MADMAX Fury of ArmoredCore -V-alhalla 作:ティーラ
我々の使命は歴史を後世へ伝えていくこと。
本望この上ないことだ。
受け継がなければ――。
Prologos My name is…
俺の名は、―――。
ここは炎と…血で汚れた世界だ。
野郎ォ、殺す気かッ!!?
人が殺しあってるのよ!!?
物資不足で略奪が横行しているのです。
昔、俺は兵隊だった。武器を取り、使命に燃え…悪を倒していった。
世界は企業のため、権力のため、新兵器開発のためと戦争を続けた。目的は多種多様とあったが、いつしか人々は『すべてを終わらせるため』を目的に全世界を舞台に最終戦争を決行した。その代償が、この世界だ。
まるで世紀末の到来だ。
生活環境は劣悪と化し、水や食料は枯渇した。
みんな、緑色の毒にやられた。
平均寿命は半分になり、人口は減っていった。
銃声が、止まらねぇんだよォォ!!
神経は入り乱れ、精神は不治の狂気へと。
どうして…もう、おしまいだ。
男女の身体構造は歪曲し
人間はおかしくなってしまった。
世界は崩壊した……。
そして人々も壊れていった。
誰でもいい。
教えてくれ。イカレてしまったのは………
男は苛まれていた。背負い、耐えきれなかった現実と理性と罪悪感から。葛藤は男の足を止めさせ、無限に続く汚染された焦土と太陽からの熱波に当たり、ぼうと立ち尽くしていた。
黄土色の砂にまみれた凹凸の激しい5mほどの人型兵器、鋼鉄の巨人『アーマードコア(AC)』、だったそれは今となってはただ逃げ続けるだけの足代わりだ。
装備していたはずの武器はすでになく右腕一本、装甲は所々剥がれ、頭部パーツに至っては半分が内部機構丸見え。細々とした軽量級二脚ACという実にみすぼらしい巨人だ。
ただの道具にすぎない。俺がそういうふうに改造したのだ。
いつまで逃げ続けるのか……。
なぜ逃げるのか…。
何から逃げているのか……。
その声はゆっくりと、ゆっくりと…背後からやってくる…。脳ミソの隅から隅まで反響し残響するそれは、一種の気味の悪いエコーだ。
脊椎反射された左足が焦土にめり込む。あの声はもうしない、変わりに醜いトカゲがブーツの下敷きになった。こうすればしばらく寄ってこない。それにあいつらは、これ以上俺に手出しはできない。
――亡霊だ。
男は貴重なタンパク源を無駄に伸ばした髪と髭も一緒に口に入れながら頬張る。だがじっくりと味わっている余裕はなくなった。殺意が、それも多くの殺意が向かっていることを察知してしまった。
『
男は駆け出し、足でボロ布と一緒に砂を払う。地面、巨人の手、肩へと3回ほど跳躍しコックピットに着く。即座にスティックスイッチを下へ向け、START UPと記された押しボタンを殴る。
ハッチが閉じていく中、ジェネレータという心臓が轟々と脈を打ち始め
青白い4本のアフターバーナーをゆっくりと吹き出し、構えの姿勢に入る。
この道具唯一の特徴であり、唯一装備しているもの。
それは――――。
『生きるために………』
『
ブーストペダルをべた踏む。瞬間的で爆発的なスピードを叩き出す、グライドブーストだ。
縦長だった炎は爆炎と化し岩肌を無差別にえぐり、華奢な巨人は耳障りな軋みと叫びを上げ、その高推力に身を任せる。搭乗する男は、体に架かるGをもろに食らうがその足を離さそうとしない。
逃げなければ。
逃げ続け、生き延びることが己の本能であるから。
このか細い
「イヤッホオォゥ!」
「逃がすなよォ、傷つけンなよッ?!」
「ジョー様のために!V8を称えよォォ!」
四輪駆動車が2台、続けて頭部がない二脚AC4機が雄叫びを上げながら男を追う。白塗りの狂った兵士たち。彼等は今日も明日を生きるため、狩りに出る。
ウェイストランド……水と食料を求めて国が争い、その中の狂った上官がすべてを無に返そうと核のボタンを押した場所。放射線が飛び交うこの地は、正に死の大地。
石油のため、水のため、食料のため。そしていつしか人々は『生き延びるため』が共通の目的となった。
それでも尚、人々は…戦うことでしか生き延びることができなかった。
「殺れ殺れェ!ハッハー!!」
「捕まえろオォ」
「ほぉらほらほらほらァ~~!」
愉快さや嬉しさ、無法さなど理由は様々だがヤツラは狂喜の歓声を集団で行うことで、一種の一体感を見出しているのだろう。まぁ、今の自分にはただの障害でしかない。逃げるしか…ないんだ。
兵士たちは歓喜の叫びと共に、爆発物を取り付けた槍(サンダースティック)を巨人に浴びせ続ける。背面装甲からバリバリと鼓膜が破れるような激雷音は止まることを知らない。徐々に削りとられる装甲値に目をやる。計器は0を表示した瞬間、巨人がよろめく。アフターバーナーは途切れ途切れになり、制御不能になったそのスキを見逃さなかった兵士は槍に力と念を込め投げつける。その衝撃は巨人のバランスを完全に崩し、前転横転、勢いで脚部や装甲はプラモデルを分解するように木端微塵にされる。爆発と回転を繰り返し、黒煙と砂埃が混じる中、ひしゃげた巨人は金属同士が擦り合う音を最期にようやく焼けつく砂漠に死んだ。
だがそれでも……男は生きていた。かき分ける砂の中から這い出る男は頭からの出血で汚れながらも逃げようとする。生ける者からも死せる者からも逃げ続けようと、決めたから。
これからももっと逃げてやる――。
這ってでも逃げてやる――。
ヤツラがパーツにありつけて、歓喜している間に逃げてやる――と。
白塗りの兵士の一人が這いつくばる男の背を蹴り、ロングバレルの銃を後頭部に押し付ける。ガタがきている銃とはいえ0距離では、もう…。メンテナンスを損なった銃特有のカチャリと乾いた音が最後の警告だと聞こえた気がして、男は硬直した。
もう逃げられない。
だが、俺の本能は止むことなく叫び続ける。
灼熱の太陽に照らされながら、白塗りの兵士たちは砦へ、彼らが言う故郷へと帰還する。彼らを乗せる四輪ビークルには鎖で繋がれたスクラップと四肢欠損なしの男を引きずる。ビークルの中では兵士たちが和気藹々と賑わっている。強引に引っ張られながらも男の本能は変わらぬままでいた。童話に出てくる目印のためのパン屑のように頭から点々と垂れる真っ赤な血液だけが、それを理解していた。
刃は男の頭皮を過り、鋏が閉じる。髪は少し硬めで抵抗力があるため鋏の閉じる音は鈍く、重々しさを感じさせる。落ちた髪を一目散に回収している白塗りの子供。見た目はそれこそ子供。だが今この状況だからこそ、あえて言うならば
そして男は絶えずやってくる痛みに唸るしかなかった。
男の背中には無数の刺青が掘られている。背中の痛みは火傷を負ったように持続し、頭をぶつけた時のものを超した。タトゥーマシンからのスクリュー音と振動は激痛をより鮮明にさせる。彫り師兼医師であるメカニックは脱脂綿に吸収した墨と血液を美味そうに
男はうすら笑う中でこう思った。
こりゃぁ逃げねぇとな――。
目いっぱい腕を引き、兵士のバランスを崩す。肘、肘、肘と鎖で手が使えないなりの格闘で5人をひるませる。吹っ飛んだ兵士の一人が窯をひっくり返し、炭燃料が部屋に広がる。一瞬にして逃げるスキができたのを突いた男はそのまま一方通行の洞窟を駆ける。出口はどこだと進む中、たどり着いた一部屋。金属加工中の兵士が2人、自分のACが無残にも変わり果てた姿へと改造中だった。後ろからは追手が迫っている、時間はない。ACコアパーツKT-105を滑るように乗り越える。兵士約10人がハイエナのように跳躍し、飛び越え、追いかけてくる。
この地獄の窯から逃げなくては。
日の光と草木が若干が見える場所に追い込まれた。透明な水が浸る部屋で天井が格子状。前からは白塗り、後ろからも白塗り。一方通行故に退路が途絶えた。これで登れと言わんばかりに置かれたチェーンで天井へ、頭髪も体毛もない白塗りが次々と足を掴もうと寄って集ってくる。端から見れば、どこかの国の地獄を題材にした小説の一幕のように慌ただしい。天井の格子を掴み、モンキーバーの動きで回避して――。
あの声は女児の形となって語りかける。格子の間から覗き込むように。疑問符を浮かべる少女。
あの娘は死んでしまったはず。
生きているはずがない――。
「今だ捕まえろォ!」
水中で口から空気をこぼしているとまた聞こえてくる。
どこだ?出口は、出口はどこだ!!?
亡霊がこの期に及んで訴えかける。亡霊もヒトの形を装い、この逃げ道を男と真正面から迫り狂言する。
男は亡霊を払い退け、ひた走る。ひたすら逃げ惑う。
男は少女でさえも払い退ける。亡霊の数が次々に増え、男は…。
払い退け払い退け…目の前にドアが…出口が!
目の前まで来た少女の顔に驚き、少女を払う。ドアを力任せに全開させる。
崖。
落ちずに済んだ。少女からの警告で寸部のところで止まれた。まだ生きている。
見上げると2つの大きな岩山が青い空と一緒にあった。その一つの岩山には先ほどの焼印のような、ハンドルに髑髏の浮き彫りがあり、頂には草木が見える。工事用クレーンが起動している。編み込まれた太いワイヤー4本がカタカタと上昇していることから現役で動いているのだろう。不安定な立地故にタワークレーンのほとんどが斜めに立っている。
「いたぞ、あそこだァ!!」
見つかった!?だが逃げ道はもうない――いやまだある。
泥まみれで力ないACが数m先、下から出現する。4本のワイヤーで縛られたACは片腕が硬直しているように見える。上手く跳んで、あのアームに両手首の鎖をかければ…!時間はない、今やるしか。
逃げろ。生きるために、逃げろ!
男は二、三歩戻り助走と覚悟を決める。歯を食いしばり全速力で走り、ジャンプした。崖を跳ぶのと同時に兵士約10人分の腕が伸びる。
走馬灯にも似たスローモーションがアームと鎖を磁石のように吸い寄せ……見事に引っ掛かった!だがその衝撃で泥まみれのACは振り子運動を発生させ、男は崖の方へ吸い寄せられる。白塗りの餓鬼と兵士がゾンビの形相で待ち構える。数cmまで引き寄せられた男はまたしても足を掴まれるが兵士の顔面を蹴り、崖下へ落としやる。
「――――――――ッッ!!!!」
ジタバタしながら落ちて行った兵士が何かを叫んだ気がした。再び振り子運動で引き寄せられ、マジックハンドとフックが男を確実に掴みかかる。
遠ざかっていく日の光。
狂喜の声は、強くなっていく。
逃げられない、逃げられない、逃げられない。
逃げられない、逃げられない、逃げられない。
逃げられない、逃げられない、逃げられない。
逃げられない、もう逃げられない……だが…。
それでも男は、己の本能に呼びかける。
そして本能は止むことなく叫び続ける。
今作品を投稿して、今後の読者層によって投稿スピードを変えようと考えてます。
私も仕事あるし(´・ω・`)