神様なんかいない世界で   作:元大盗賊

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第7話 約束

 

 今の時間帯は丁度お昼時。もうそろそろ、授業で消費した栄養素が不足しているという信号が胃袋から発せられることだろう。

 

 私は、授業終わりに誰よりも早く、食堂へ足を進めていた。ただ食堂へ移動しているのは私だけではない。鈴と玲菜と一緒にいた。

 

「うーん、ISでの空中で移動するときのイメージが良く分からないなぁ。進む方向に角錐を展開させるイメージをするって教科書でも書いてあったし、中井先生も言っていたけど…。普通に鳥が飛ぶみたいすれば良いって思っていたのだけどなぁ。ねえ二人ともそこらへんどうなの?」

 

「そうねぇ。私は、もう慣れちゃったから、そんな事考えずに飛んでいるなー。しいて言うなら、自分の体のように普通に動かしているのよね。一々、考えていたら他の事に集中できないし。全員が出来るようにするための理論的な説明だから、ちょっと回りくどい説明だもんね」

 

「そうですね。私も今だとそのような事は考えずにやっていますね。私の場合は、行きたい地点に瞬間移動するような感じでやっています。教科書に書かれていることは正しいですけれど、イメージの仕方には個人差はあるでしょう。角錐をイメージしなくても出来る人はいるでしょうし」

 

 鈴と私は歩きながらそれぞれが考えていることを話した。

 

「へぇー、やっぱり専用機持ちになるとレベルが違うなぁ。実際だと同時に色々と考えないといけないでしょ?想像つかないや」

 

「そうよ、移動だけ考えていたら何もできずに終わっちゃうわ。格闘武器ならまだしも、特に射撃武器を使うなら、今の風向き、射程距離、反動制御、弾道予測は必要でしょ。後は一零停止に、特殊無反動旋回(アブソリュート・ターン)…」

 

「あーもーやめてー!!今は休憩時間なのだから!」

 

 鈴が射撃武器講座を始めようとしたところで、玲菜はもう勘弁してほしいと思っていそうな顔で鈴の話を止めにかかった。そういえば、この2人はいつ仲良くなったのか…。

 

「まあ、5月の下旬くらいから、一組と合同でISを使った授業があるみたいだしその時に慣れればいいじゃないかな。やっぱり座学で学ぶより、体で感じないと」

 

「そうですね、実際に乗ってみないと分からないこともありますし。ISを身にまとうとまるで、体が一回り大きくなったみたいに別の感覚になりますからね。その方が早めにイメージを固められると思いますよ」

 

 

 

 さて、色々と話をしているうちに、食堂へとたどり着いた。

 

「じゃあ、二人ともまたあとでねー」

 

「うん、またねー」

 

 そしていつものように、食堂前で鈴と別れ、私たち二人で先に食堂へ入る。食堂のおばさんから食事をもらい、植木鉢に囲まれたテーブル席へ座る。

 

「ふっふっふ、玲菜は今日もお仕事しちゃいますよー」

 

 そう言いながら、玲菜は食事を始める前にどこからともなく取り出したカメラをテーブルに置く。彼女は最近、ネットショッピングで自前のカメラを買ったらしく、新聞部ではよく黛さんや私から写真の撮り方を教えてもらいながら練習をしていた。

 そして、最近の彼女の被写体は織斑一夏となっている。いつの間にか、彼女と鈴で何やら取引が行われたらしく私たち2人の席は、鈴と織斑一夏が一緒に座って食事をしてする様子を見ることが出来る見晴らしの良い場所に座るようになっていた。そして、彼らが食事をしている様子を彼女が食堂に備え付けられている植木鉢の柵のすき間から身を隠して写真を撮るのが最近のルーティーンになっていた。粗方、織斑一夏に好意を抱いている鈴につけこみ、一緒に食事をしてもらう代わりに…などと頼み込んだのだろう。最近ながら、彼女の用意周到な手際には驚かされる。

 

 私はこんなことをさせるために写真の撮り方を教えたわけではないのだが…まあ彼女が意欲的に写真を撮っているわけで、別に止めようとは思わない。写真は撮る数を増やしていくことで上達するとも言われているわけであるし、きっとその方が彼女にとっていい練習になるのであろうと信じている。ただ、どこぞの黛薫子(副部長)のように物凄いマスコミ精神を志したりしないかが心配になってくる。

 卵サンドイッチセットを食べ終わり、鈴と織斑一夏へカメラを向けて写真を撮っている玲菜を、塩ラーメン&半チャーハンセットを食べながらそう思っていた。

 

 動物系の出汁でとったスープの香り。そして絶妙な味付けをされた豚肉と、ぱさぱさとしている卵、そしてパラパラと水分が十分に失われ、チャーハンの味がきちんと染み込んでいるお米。どれもごく一般の学生が利用するような食堂では味わえないものだろう。それほどレベルが高かった。

 

 この美味しさ、そして感動を誰かに伝えたい。そんな欲求が私の中からふと湧き出てくる。この思いを誰かに伝え、共感してほしい。そんな欲求だった。だが、玲奈はボソボソと独り言を呟きながら鈴たちへカメラを構えているため、話し相手にならず、この思いは誰にも届かなかった。

 悶々としていた私は、仕方なく楽しそうに会話をしている彼らの席へ耳を傾けた。

 

「ああ、そうだ。ねぇ一夏。良かったら私が練習見てあげよっか?ISの操縦の」

 

「おおホントか?そりゃ助かる」

 

「そのくらい気にしなくていいよ。二組の模擬戦が終わったことだし。前よりは余裕で来たからさ」

 

 鈴は声を弾ませ、頼られたことに嬉しそうに得意げに答えた。織斑一夏からすれば代表候補の彼女に教えてもらうのだ、素人の彼にとってみればまたとないチャンスだろう。

 そんな二人のやりとりを、レンゲで残り少ないチャーハンをかき集めて聞いていた時だった。突如、机を叩いたような大きな音が食堂内に響き渡った。何事か、と思いその音源を見てみると見た事のある二人組が何やら不満げな口調で鈴たちへ苦言を呈していた。イギリスの代表候補生、セシリア・オルコットと重要人物保護プログラム対象者、篠ノ之箒である。

 鈴と織斑一夏が食堂で共に食事をするようになってから度々、突っかかっては鈴に追い返されるというのを何回か続けている。そんな彼女らの原動力というのは玲奈曰く、織斑一夏を取られた事による嫉妬だそうだ。

 

「さすがにもう限界だ。我慢ならん」

 

「いくら幼馴染だと言う一夏さんと()()()()にお話されるのは別にかまいませんが、IS操縦を教えるのは別の話ですわ」

 

 どうやら、今度の彼女たちの怒っている理由は鈴がIS操縦を教えることだったようだ。おそらく彼女たちも私たちのように近くで様子を伺っていたのだろう。拳を強く握り、目じりを吊り上げて、口をひん曲げている所から察するに相当ご立腹のようだ。

 

「ああ、一夏に教えるのは我々の役目だ!」

 

「そうですわ!あなたは二組でしょう?敵の施しは受けませんわ!」

 

 一か月もしないうちにやってくるクラス代表戦。

 その対戦相手からIS操縦を教わることがこの二人が気にくわないようだ。クラスの代表であるクラス長が、他クラスの人頼りになっていては彼ら一組の面子が潰れてしまうのは避けられないだろう。毛を逆立て、シャーシャーと威嚇する猫のように彼女らは鈴へと食ってかかる。そのあまりの態度に座って見ていた織斑一夏は苦笑いをしてやり過ごす他はなかった。

 所が、肝の据わっている凰鈴音はこれほどの脅しには動じなかった。

 

「何?私は一夏と話をしていたのよ。関係ない人たちは引っ込んでいてよ」

 

 二人の話を軽くあしらい、今日の放課後は空いているかとすかさず織斑一夏へと聞く鈴。そのあからさまな態度には彼女たちが、いや彼らの成り行きを見守っていた食堂内の私たちでさえ、時が止められたかのような感覚に襲われる。

 そして、すぐに彼女らの怒声が食堂内に響き渡った。

 

 

 

「あれま、まーた始まっちゃった」

 

 思わず、カメラを構えていた玲菜がぼやく。彼女の見つめる先には、ファースト幼馴染だからと、織斑一夏の優先権を主張する篠ノ之箒と、他クラスから教わる必要性がない事と律儀に主張するセシリア・オルコットの姿があった。

 

「日に日に争いがひどくなって見えるのは私だけでしょうか?」

 

 ラーメンのスープを飲んで呟く。うんとても美味しい。

 

「まー、それは言えているかも。でも鈴ちゃんのあの態度にめげないあの二人の想いは確かだね!鈴ちゃんに対して焼きもちを焼いているのも理解できるわ。そりゃそうだよね、最近ずっと二人っきりで食事をしているもん。あーあ私も織斑くんと一緒に会話をして食事したい…」

 

 彼女が羨ましそうに争っている姿を見ていると、鈴は耳栓をしているのではないかと思うくらいに抗議の声を無視し、織斑一夏に約束だよ、と伝えて戦略的撤退を図る。

 

「焼きもちですか…」

 

「そうよー。なんたって今一番織斑くんにアタックしている筆頭の二人なんだから!篠ノ之さんは幼馴染でしょ。んで、せっしーは織斑くんと一線を交えた仲。本人たちは気づいていないようだけれど周りから見ていると織斑くんの事が好きってバレバレなのよねぇ」

 

 玲奈は写真を撮る体勢から普通に椅子に座る体勢に戻り、私に説明をしてくれた。今日の鈴ちゃんのスルースキルすごかったという感想も加えて。

 

 そもそも鈴と織斑一夏を一緒にさせてこの争いを作り出し、他人事のように見ている当の本人の肝も据わっているとは口には出さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 食堂を後にし、私たちはそのまま二組の教室まで戻る。中へ入ると、既に鈴は教室へ戻ってきていた。

 

「いやー、鈴ちゃんお疲れ!今日もご協力感謝感謝」

 

「それは何よりで。まあ、このくらいどうってことないわ」

 

 お互いに本日行われたミッションを終え、感想を言い合う二人。その後、玲菜が鈴へ何やら耳打ちをしているが、何を言っているかは問い質さないでおく。

 

「そうだ!鈴。さっき食堂で話していたことだけどさ」

 

「ん?一夏の練習を教えてあげるって話?」

 

「そうそう、それ!んでね、ぜひとも鈴に提案したい素晴らしい案があるのです」

 

 ふふん、と自慢げな表情をしている玲菜。どうやらよほどの自信があるようだ。

 

「ふーん。その案ってのは?」

 

「それはね…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後。

 新聞部での打ち合わせを終え、私は荷物を置きに自室へと戻っていた。部屋の電気をつけ、机に荷物を置こうとした時なぜか私以外の私物が全てなくなっていた事に気がついた。鈴の使っていた机は整理整頓され、また同様にベッドも綺麗にされていた。そう、鈴の持ち物がすべてなくなっていた。

 

 どうしたものなのか…。玲菜の作戦にはない行動に疑問に思いながらも、ひとまず自分の持ち物を机に置く。窓のブラインドを下ろし、いつものようにベッドに飛び込み、重力に身を任せ、ばふばふとベッドの上を飛び跳ねる。

 

 夜逃げという考えはないだろう。そんな理由は彼女にはない。ならば、部屋の変更?だが、そんな話は担任からも寮長のブリュンヒルデにも聞かされていない。全くといっていいほど検討がつかなかった。

 

 とりあえず、食堂で夕食を食べよう。後で鈴から話があるだろうし。

 

 そう思い、落ち着いたところでベッドから離れて扉へと向かう。

 ドアノブに手をかけようとした時、先に扉が開かれた。予想だにしていない出来事でびくっと驚き後ろに下がる。廊下へと押し出されていく扉の先にはボストンバッグを持つ鈴の姿がいた。

 

「鈴…?」

 

 ボストンバッグを手に持ったまま鈴は顔をうつむき、前髪に隠れて表情が見えなかった。

 すると突然、鈴はボストンバッグを足元に落とし、私の方へ歩み寄ってくる。

 

「…鈴、一体…」

 

 一体どうしたの?そう言おうとした時だった。

 鈴は、歩みを進めるとそのまま私に抱きついてきた。

 

「…」

 

 彼女は何も言わず、私の背中に回した腕の力をさらに強めていく。

 

 

 

「とりあえず、部屋に入りましょう?」

 

 私は彼女の頭に手を置く。

 微かに震えた嗚咽の声が漏れ出ていた。

 

「……うん」

 

 私の提案に、いつもの鈴とは思えないほど弱々しい返事が返ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼休み、玲菜が鈴へ提案した秘策を説明していた。要約すると、鈴が織斑の練習後のフォローをするというものだ。

 

 織斑のIS練習は、毎日行われておりその練習には篠ノ之、そして最近になってオルコットが参加をしている。これは、私の観察もとい監視によるものだ。そこへ、鈴がやってきても食堂での一件を考えると彼女が彼へIS操縦を教える、という彼女が望むような展開にはならないだろう。

 

『そこで、ぜひとも鈴には織斑くんが練習後にいる男子更衣室へ行ってもらうっていう私の名案なのです!あ、タオルとスポドリを持っていくとさらに好感度がアップかな?』

 

『なるほど、そうすることであの二人には邪魔されないっていう算段ね』

 

『そういう事!クリスタが言うには、二人はさっさと着替えるために戻っちゃうみたいだからその時に織斑くんが一人っきりになるのよねー。だからその時が二人っきりになれるチャンスなわけ!そこで、ISのことを教えるもよし、幼馴染話に花を咲かせるもよし、告白しちゃうのもよし、だね!』

 

『ちょ、なんでいきなり告白しないといけないのよ!』

 

『えー違うのー?てっきり織斑くんにIS操縦を教えるって言っていたから、二人きりになって大好きな織斑くんへ告っちゃうのかなと』

 

『す、するわけないでしょ!まあ、いいわ。その提案に乗るわ』

 

『うんうん、ぜひとも頑張って!あ、男子更衣室までの先生方に見つからない、最短で行く道のりはクリスタが知っているから聞いちゃってね!』

 

 こうして鈴は放課後、織斑一夏の練習後を見計らい男子更衣室へ行ったそうだ。

 

 

 

 

 

 

「そしたら、彼が篠ノ之さんと同じ部屋で生活しているという発言を聞き、慌てて荷物をまとめて彼のいる部屋まで行ったと」

 

 私は鈴の座るベッドの隣に座り、今までに起こった事の経緯の整理をしていた。

 

「そう。あの幼馴染と部屋を変えてもらおうと思ってね」

 

 先程より、落ち着きを取り戻した鈴は私への説明を続ける。

 彼曰く、同居している篠ノ之さんは幼馴染だから男女同室でも安心しているらしく、それならば同じ幼馴染の私が彼の部屋に入ることが出来るのでは、と考え颯爽と荷物をまとめて彼の部屋へ突撃訪問したそうだ。

 先日のクラス代表決定戦と時もそうだが、彼女の行動力には目を見張るものがある。思い立ったが吉日ともいうべきだろうか。自身の意思を貫き通すために、唯我独尊とでも言わんばかりの自身に噓偽りを行わない姿勢には尊敬に値する。そんな彼女だからこそ、わずか一年で中国のIS専用機持ちに慣れたのではないだろうかと思ってしまう。

 こうして、善は急げとばかりに彼のいる部屋へ行った鈴は、ふと昔に約束したという言葉を彼に思い出させたという。

 

「ほんと意味わかんない!なんなのよ、あのバカ一夏!何が『鈴の料理スキルが上達したら毎日俺に飯を奢ってくれる』よ!ありえない!」

 

 鈴は胡坐をかき、枕を抱き寄せながら愚痴った。

 ”私の料理スキルが上達したら一夏に毎日酢豚を作る”それが、彼女と一夏との間に結ばれた約束だった。当時まだ日本にいたころ、彼女の料理の腕前はお世辞にも上手だとは言えなかったらしい。事あるごとに彼女の作る酢豚を食べてもらっては織斑一夏から味付けをあーだこーだ言われてもらったりしたそうだ。

 そして、彼女が日本から離れることになった時に互いにそう約束していたそうだ。

 

「日本の言葉で「毎日俺に味噌汁を作ってくれ」というプロポーズに倣ってあなたが彼に作ってあげたい、酢豚に置き換えてプロポーズをしたと。あなたらしくなく、粋なことを言いますね」

 

「何よ、あんたも私のことを馬鹿にする気?」

 

 鈴は頬を膨らませ、こちらをギロリと睨む。

 

「とんでもない、そうじゃないですよ。とってもロマンチストだなって思っただけです。そんな約束ができて羨ましいなって」

 

 鈴みたいな素敵な約束をしてみたい、と少しだけ拗ねてしまう私がいた。

 私にだって誰かとの約束くらいしたことがあるものの、彼女ほど胸がときめくようなものではない。

 

「そう…ならいいけど」

 

 観念したのか、鈴はぷいと私から目をそらす。顔をしかめ、眉をひそめる彼女の暗い表情は今の彼女には似合わない。なぜかそう思った。だから、私は靴を脱ぎ捨て彼女の後ろへ回り込んだ。

 

「…なによ?」

 

「えいっ」

 

 そして、そのまま彼女に抱き着いた。

 

「ちょっと何するのよ!離れなさい!」

 

「えーいいじゃないですかーさっき抱き心地が良かったんですよ」

 

 暴れる彼女をなだめながら全身で彼女の体を味わう。私よりも少しだけ体格の小さい彼女の体は私の両腕にすっぽりと収まり、柔らかな肌や髪や服からこぼれ落ちる匂いを堪能する。

 

「鈴が暗くなっているのは似合わないですよ。あなたは元気な方が似合っています」

 

「…。私だっていっつも元気はつらつな完璧超人じゃないわよっと」

 

 ふと少しだけ思考を停止させた鈴は、不満気に話すと私の腕からするりと抜け出す。

 

「というか、あんたらしくなくじゃない。どうしたのよ、急に抱き着くなんて」

 

 鈴はベッドに座っている私を向き、仁王立ちするように立つ。

 確かに鈴の言う通り、いつもはこんなスキンシップは取らない。だが、あの時。鈴が私に抱き着いた時に一瞬だけどこか懐かしい感覚を覚えたのだ。それの正体はいまだに思い出せないでいる。

 

「んー。…なんとなく?」

 

 私の返答に鈴は眉をへの字にする。

 

「はい?何それ」

 

「私自身もよく分からないんですけど…。あれです。鈴が元気になればいいなぁって。そっちの鈴が可愛いし」

 

「何言ってんのよ、バカじゃないの。あんなんで元気になるわけないじゃない。むしろ暑苦しくて嫌だったわ」

 

 どうも彼女は気に入ってくれなかったようだ。少しきつく抱きしめすぎただろうか…。

 

 「…まあでも、ありがとね」

 

 

「…何か言いました?」

 

「…!何でもないわよ!あーあバカ一夏のことがなんかどうでもよくなったし、食堂に行きましょ。あんたもまだでしょ?」

 

 時刻を見てみれば、既に19時を回ろうとしておりラストオーダーまでのタイムリミットは始まっていた。

 

「そうね、行きましょう」

 

 いつもの鈴に戻ってくれて一安心した私は脱いだ靴を履き、準備をする。先に扉へと歩いていった、鈴は何かを思い出したかのように私に提案を持ち掛けてきた。

 

「あのさ、クリスタ」

 

「んー?何ですか?」

 

「クリスタってさ、確かISの整備出来るんだよね」

 

「ええ、出来ますけど。それがどうかしましたか?」

 

鈴は手をモジモジと遊びつつ、視線を右往左往させる。

 

「今度のクラス代表戦でバカ一夏をとことんぶちのめしたいからさ、ISの調整に付き合ってくれない?…その私そういうの上手じゃないから」

 

 扉に寄りかかり、上目遣いでこちらを見ていた。

 結局のところ、彼女の行動の先に行きつくのは彼の存在だった。言わずもがな、協力しないわけにはいかない。それに女の子の約束を都合よく解釈をする輩にはお灸をすえなければならないのだ。

 

「ええ、もちろん協力しますよ。約束です」

 

「うん、約束ね!」

 

 鈴は笑顔で私に応えてくれた。

 やはり、彼女には笑顔が似合っている。

 

 

 




いつもアクセスありがとうございます!  元大盗賊です。




今回の話は、元々温めていたものでしたので早めに書き上げることが出来ました!





それではみなさん良いお年を(`・ω・´)ゞ

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