食堂での取材を終えた私たちは、取材のデータを部室のパソコンに移してから今回は解散することとなった。
「いやー、なかなか書きがいのある記事が書けそうだわー。やっぱりこうなると信じてよかったよ、うんうん。織斑君のコメントなんて書いてしまおうかしら…」
「うふふ…織斑君に話しかけちゃった…ふふふ…」
帰り道では、どうやら二人は歩きながら先程の余韻に浸っているようだった。邪魔してはいけないと思い、私はそそくさと先に写真のデータを移して自分の部屋へ戻ることにした。
寮の入り口に行くと、寮母と二組の担任の先生の中井先生が話をしていた。わざわざ先生がここに来るのは珍しいなと思いながら、私は二人に挨拶をして自分の部屋に戻ろうとしたら、寮母に呼び止められた。
「あら、おかえりなさいハーゼンバインさん。丁度良かったわ。今担任の先生があなたに用があったのよ」
「夜にごめんね。ハーゼンバインさん。ちょっとお話があるのだけれどいいかな?」
「はい、特に急ぎの事はないでの大丈夫ですよ」
「ありがとう。じゃあちょっとついてきて」
私は、夜になって伝えなければいけないことは何だろうと疑問に思いながら、中井先生の後をついていった。歩いていくと、行き先はどうやら生徒指導室だった。
「生徒指導室…?」
「ああ、そんなに心配しなくても大丈夫よ。丁度開いているところがここなだけだったから」
「なるほど、そうでしたか」
既に生徒指導室には明かりがついており、中井先生の後を追い、中へ入ると二人の人物がいた。
「ふん、お前もよくここまで頑張ったものだな」
「まあ、それなりに努力したので…」
一人は、一年の生徒のようだった。髪がツインテールになっており、制服には改造が施されて両肩が露出していた。見かけない生徒だった。
そしてもう一人は、本学の教師にして第一回モンド・グロッソ世界大会で総合優勝を果たした人物だった。
「…ぶ、ブリュンヒルデ」
「ふん、まだにそう言うやつがいるとはな。ここでは、織斑先生と呼べ」
オーラというものだろうか。ブリュンヒルデから放たれる気とあの眼光にはいまだに慣れない。
「はい、すみません。これから気をつけます」
「何か別の事を考えていたか?まあいい。それとお前も気を付けるんだぞ凰」
「うぐっ、ごめんなさい」
どうやら、ぶ…織斑先生とこの生徒は顔見知りらしく、それほど互いに壁を感じない程度に会話をしていた。
「あの、織斑先生。そろそろ本題の話に移りませんか?」
中井先生がここで、話が逸れないように忠告をした。
「ん、ああそうだな。それでだ、ハーゼンバイン。紹介する。こいつは明日二組へ編入する凰鈴音だ」
「中国代表候補生の凰鈴音よ。よろしくね」
「初めまして。二組のクリスタ・ハーゼンバインです。こちらこそよろしくお願いします」
「さて、お前を呼んだのは他でもない。お前の部屋が一人部屋ということは確認済みだ。そこで、凰をお前の部屋に入れることを互いの紹介を兼ねて説明をしようと思ってな。わざわざ呼び出した」
「なるほど、そうでしたか。初めて生徒指導室へ通されてびっくりしていたので、訳が分かり安心しました」
「ふむ、急な呼び出しをした事は申し訳ないと思ってる。ああ、それとついでに他に用があってな。凰から要望があるのだが」
「クラス代表戦っていうリーグ戦があるのでしょ?代表候補生がやって来たってことで私があなたの代わりにクラス代表をやるから譲ってもらえないかなーってね。私がクラス代表になったら、大船に乗ったつもりでいて大丈夫よ。優勝に導いてあげるわ」
どうやら、私に話したいことは他にもあったようだ。確かに、テストパイロットと代表候補生では実力も乗るISの性能も段違いだろう。方や企業に認められた人と、方や国に認められた人だ。だが、私は織斑のISとの戦闘データを採取して、あの武器の詳細を調べなければならない。この事は単なる調査を行うだけだし、派手にやらなければ良いわけだ。これを調べられれば大きな利益になるだろう。あの人も喜んでくれるはずだ。だから私は…簡単に首を縦に振るわけにはいかない。
「なるほど。私は二組のクラスメイトからの推薦を受けてクラス代表になったのです。おいそれとクラス代表の座を手放すことは、彼女たちの期待を裏切ります。簡単には同意はできませんね」
「ふーん。中井先生からは専用機を持っているだけの理由で、いやいややらせれたって聞いていたけれど、そんなことはなかったか。なーんだ交渉決裂ねぇ」
「ふむ。まあお前が簡単にクラス代表の座を譲るような奴だとは思ってはいなかったさ。さて、ここからが本題だが、凰も二組の一員になるわけだ、凰のクラス代表になりたいという意見も尊重しなければならないだろう。そこでだ。ここは一つ、模擬戦でこのクラス代表がどちらになるかを決めてはどうだ?」
「模擬戦…?昨日、一組で行われたようにですか?」
「ああ、そうだ。その方がお互いに納得のいく決め方になるのではないか?まだクラス代表戦までは3週間弱ある。クラス代表者の名前の変更は、後一週間後までなら可能だ。何、遠慮することはない。もし行うのであれば、すぐにアリーナは確保しよう。模擬戦で互いを切磋琢磨しあう事は悪くない」
「…分かりました。そうですね、その方がどちらがクラス代表に相応しいか決められると思います」
「そうこなくっちゃ。模擬戦楽しみにしているわよ」
「よし、ならば四日後第四アリーナで模擬戦を行うことにする」
「あれ…もう私が説明することがありませんね…」
さて、こうして一組の模擬戦に引き続き、二組でもクラス代表の座を賭けた模擬戦が執り行われることとなった。
あれから次の日になり、二組の朝のホームルームでは転校生の凰鈴音が紹介され、それと同時に、この模擬戦の話について説明がされた。二組の皆は急な話であったので、聞かされた時は戸惑っていたはいたものの、誰も反対することなく満場一致で模擬戦を行うことに賛成だった。
「また、専用機での模擬戦が見られるのかぁ…楽しみ!」
「うんうん、クリスタの専用機、まだ見ていないから楽しみだなぁ」
「二人とも!お互い仲良くやっていこうね!クラス代表戦の本来の目的はデザート無料券の入手なんだから!」
「そうそう、模擬戦で満足しないで、クラス代表戦でのデザート無料券確保を目指して頑張ってね!」
そう、このクラス代表戦で優勝をすれば、優勝をしたクラス全員へ食堂で使えるデザート無料券がもれなく送られる。今食堂ではデザート関連のキャンペーンで和菓子フェアが行われている。日本の茶菓子と呼ばれる甘い菓子を始めとして、焼き菓子、豆や米を使用した菓子などが期間限定で販売されている。それが無料で食べられるとあって私もこの報酬は嬉しい。とまあ、二組の皆は模擬戦に関してはそれほど考えておらず、クラス代表戦の優勝景品の方が気になっている様子だった。何だかんだ、うちのクラスって単純ね...私も含めて。
とにかく、私は模擬戦に向けて自分のISの調整を行わないと…。
「はい、これで授業は終わりです。皆さん、きちんと予習復習をしてくださいね!」
6限目の授業が終わり、この後はホームルームを終え、放課後となる。ただ、最近の俺にとってこの放課後はまだ、俺が休める時ではなくなっている。放課後になると…
「「一夏(さん)!」」
「訓練の時間だ、行くぞ」
「さあ、一緒に参りましょう」
「あ、ああ。でも先に荷物をだな…」
「ああ、分かっている。部屋に戻ってから訓練をするぞ」
「じゃあなんで二人とも俺の腕をつかむんだ…?俺は逃げたりしないぞ?」
俺は箒とオルコットに両腕を完全にホールドされて今日もアリーナへ連行…いや一緒に向かい、IS操縦の練習をされに行く。
クラス代表戦まで、あと3週間を切ったところ。オルコットとの模擬戦以降、箒との訓練の場は剣道場からアリーナへ変わった。俺の専用機が届いたこともあり、より実践的に訓練を行ったほうが良いという考えからこうなった。箒はというと、毎回のように訓練機の使用許可を得て一緒に訓練を行っていた。そして、最近になり、オルコットも俺たちの訓練へ参加するようになった。これが俺への負担をより拍車にかけた。2対1で二人からボコボコにされる日々がここ毎日辺りが暗くなるまで続く。これがクラス代表戦まで続くとなると、俺の体が保つかどうかが心配になってくる。たまに、オルコットからは、IS操縦の基本的な技というものを教わるのだが、これが良く分からない。横文字と論理的な言葉を羅列させられて、その時はうんうん、と分かったよう気ではいるが毎回次の日にはそのことをよく覚えていない。
「今日こそは、
「一夏!今日もその怠けた体を鍛えてやる!」
なんて今日も色々と言われながら訓練するのだろうと思っていた。だが、俺たちが向かっている所は、いつものアリーナの更衣室へ向かう道とは違っていた。俺を連行する二人は見知らぬ扉へ向かい、そのまま俺と一緒に中へ入っていった。
「ここは一体…」
中へ入ってみると、部屋全体が薄暗く、橙色の灯りが灯されていた。大きな3Dモニターが部屋の周りに浮かび上がっており、各モニターにはそれぞれ二つ椅子が用意されていた。真正面の3Dモニターには山田先生と見知らぬ教師がその椅子へ座り、何やらコンソールを叩いていた。その後ろには、千冬姉が仁王立ちで画面を見つめていた。すると、千冬姉が振り返り俺たちの方へ向いた。
「オルコット、篠ノ之。二人ともご苦労」
「ええ、これちふ…織斑先生の指示だったのですか?」
まあ俺としては、あの過酷な地獄を見ずに済むから良い。
「ああ、そうだ。ここから見る模擬戦は良いものだぞ」
「模擬戦…?今日って確か鈴と今の二組のクラス代表とのクラス代表を決める模擬戦ってやつか?」
そう、先週の頭に二組にやって来た転校生がやってきたという話が話題に上がったのだが、その転校生が鈴だったのだ。鈴は、箒が引っ越していったのと入れ違いで小学校5年の時にやってきて知り合った。箒がファースト幼馴染なら、鈴はセカンド幼馴染と言ったところだ。その後、中学2年の時に急に中国へ戻ってしまい、音信不通の状態になってしまった。そんな鈴は、転校生が噂された日の朝のホームルーム前に一組に現れ、二組が優勝するとすごく似合っていないかっこつけていた宣戦布告をしに来て、俺と久しぶりに再会を果たした。その後、鈴とは食堂で色々とお互いの近況報告をし合っていた。確かその時だっただろうか。
「そういや今度、今のクラス代表の子と模擬戦をして、クラス代表がどっちになるかって勝負をするのよね。素直にここは、代表候補生の私に任せればいいのにー」
そんな事を言っていたが、まさか今日の事だったとは。
「そうですわ、一夏さん。これから見る模擬戦に出るISのどちらかは必ずクラス代表戦で戦いますわ。相手のISを知るいい機会でしてよ」
「そうだぞ、一夏。相手のISの対策を練ることは決して悪くない。試合を観戦して、しっかりISの特徴をとらえるぞ」
「だから、わざわざここまで連れてこられたのか…」
「ああ、二組のISの動きを見るのもそうだが、私から一度、お前たちに言っておきたいことがあってだな。わざわざ来てもらった」
どうやらこのことは箒もオルコットもこのことは知らなかった様だった。
「一度言っておきたい?それって一体…」
「二人のIS、アリーナ内へ入ります!」
いつになく口調が真面目な山田先生の声が聞こえると、モニターにはこれから対戦する鈴のISと現クラス代表の人のISが写し出されていた。
鈴のISは全体が紅のような褪せた赤い色をしており、時折黒い色が塗られていた。両肩には、何やらとげの付いた球体が浮遊しており、あれで殴られたら痛そうだ。
それに対して、現クラス代表のISはというと。
「あれ?顔が見えない」
そう、顔がISによって覆われていたのだ。それだけではなく、全身がISに覆われており、皮膚が露出している部分が見当たらなかった。配色は全体的に白く、所々黒や黄色に配色されている。顔にはきちんと目や口らしき部分があり、額にはv字のアンテナらしきものが装飾されていた。また肩の部品が、そり上がっているのと背中に剣を背負っているのがとても印象的なISだった。
「なんであのISは全身にISが覆われいるんだ?」
ISの専用機持ちには日本の首相のような国家の代表が各国に一人だけ存在する。言わば国の顔とも言える存在だ。なので、ISを装着するなら、普通は自分の顔など隠す必要なんてないはず。教科書に書いてあったからそうだ。
「それは、あのISが
「へぇ。そんなISの種類があるんだ。でも何でわざわざ装甲で全身を覆う必要があるんだ?ISって絶対防御があるんだし、そうそう怪我はしないと思うが…」
「そうですわね、ISに乗っていたら絶対防御が発動して、操縦者は身の危険から守られますわ。ただ、それ以外にも理由がありまして…」
「やっぱりそうか、んでその理由って?」
「それは、他人から自分自身の姿を知られたくないからな」
「え?自分を?どういうことですか、織斑先生!ISっていうのはスポーツ競技なんだし、わざわざ顔を隠さなくてもいいんじゃ…」
「ああ、スポーツ競技としてなら必要ないな。そんなもの」
「スポーツ競技じゃないならって...じゃあ...」
「あのISは元々軍によって開発されたISでな。それに、今日この模擬戦でわざわざお前たち三人をここへ連れてきたのはあのISについて伝えるべきことがあるからだ」
「あのISを私たちに…ですの?」
「織斑先生、それはどういう…」
俺たちが困惑していることなんてお構いなしに、模擬戦が始まるアナウンスが流れた。
「クリスタ・ハーゼンバイン。彼女と特にあのIS『サンドロック』には注意しろ。あのISは元々アラスカ条約違反で開発中止になって凍結措置のとられたISだ」
皆さん、こんにちは! 元大盗賊です。
本来なら、この話も4話に入れておきたかったのですが長すぎて、分割しました。元々構想していたものでしたので、今回はいつもよりかは投稿が早いはず…!
それにしても、話を重ねるごとに文字数が増えていく…。