神様なんかいない世界で   作:元大盗賊

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第4話 なんで俺が?

 

 

「黛さん、私は準備できましたよ」

 

「はいはーい、ちょっと待ってねぇ」

 

 黛さんは、取材に必要な持ち物を確認していた。今回の取材は、私がカメラマンで黛さんはインタビュアーをすることになり玲菜は先回りして、既に現場に向かっている。黛さんの昨日のしょげていた様子から打って変わって元気溌剌となっている。まさに手の平を返したような感じだ。

 

 すっかり織斑一夏の事に関しては、いち早く情報を知ることが得意となっている玲菜によると、どうも昨日の模擬戦の勝者となったセシリア・オルコットがクラス代表を辞退した。それに伴い、候補の残っていた織斑が自動的にクラス代表となったのだ。このことを黛さんに伝えると、すっかり元気になり、当初担当していた別の記事を別の部員へ放り投げ、当初予定していた通り織斑一夏へのインタビュー取材を行う事となった。

 

 

「よし、それじゃあ一夏君の所へ行こうか!」

 黛さんは、まるで新しくできたアトラクション施設へ行くみたいに目を爛々と輝かせて、部室から既に出ていた。遂に話題の人に取材が出来るとなって嬉しいのだろう。

 

「はい、分かりました。こちらも大丈夫です」

 

 そう私は返事を返すと、誰もいない部室の電気を消して扉を閉めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「っというわけで…織斑くん、クラス代表就任おめでとう!!!」」」

 

 辺りには火薬の匂いがかすかに漂い、女子たちの手に持っているクラッカーから飛び出した紙類が宙に舞っている。目の前のテーブルには、ジュースやお菓子類が置いてあり、俺の座っている席以外のテーブルにも同じようにジュース等が置かれていた。今俺がいる所はいつも学生が食事を楽しむ食堂だ。晩御飯の利用時間が過ぎた後、特別に許可が降りているらしく、今一組の皆やあまり見かけない女子達が俺のクラス代表就任をお祝いしてくれていた。そう、俺は今朝のホームルームで……

 

「さて一年一組のクラス代表は、織斑くんに決まりました!あっ、一続きで縁起がいいですね」

 

 とにこやかに山田先生に言われたのだ。その時は突然のことと尚且つ、千冬姉の視線を感じたので、はい頑張りますと口答えをせず返事をした。

 

 だが、千冬姉のいない今となって冷静に考えるとこれはどうもおかしい。俺は、昨日のオルコットとの模擬戦で敗れたのだ。あの模擬戦は、クラス代表を決めるものだった。本来なら、クラス代表を務めるなら実力のあるオルコットのはず。

 

「なんで俺がクラス代表になったんだ?」

 

 そう。なんで俺がクラス代表になったのかが疑問だ。

 クラス代表を決める際、クラスの皆から俺は他推された。すると、クラス代表に男が云々と異議申し立てをしたオルコットは決闘だと言い、今回のクラス代表を決める戦いが始まったのだ。負けたことは勿論、悔しい気持ちでいっぱいだ。だが、負けた以上は仕方がない。オルコットがクラス代表になるのかと思った矢先に…これだ。

 

「それは、わたくしが辞退したからですわ。まあ、勝負はあなたの負けでしたが、しかしそれは考えてみれば当然の事。何せ私が相手だったのですから。でもそれでは、大人げなかったと思いまして、一夏さんにクラス代表を譲ることにいたしましたの」

 

 右隣に座っているオルコットが俺に説明をした。そう言うと周りからは、セシリア解っているねー、だとか、そうだよねー折角男子がいるのだから持ち上げないとねーと彼女の行為を称賛する声が聞こえた。

 

 昨日の模擬戦以来、ちょっと言い方にはとげが少し残っている所もあるが、すっかりオルコットの俺に対する高圧的な言動がなくなり、180°態度が変わっていた。今日なんて、ISを使う演習の際に、俺にISの飛び方をマンツーマンで指導しましょうか、だなんて事を提案するまでに変わっていた。模擬戦前に俺と口喧嘩していた頃と今とでは、まるで別人のように変わった彼女には少し理解しがたい部分がある。

 一体何が彼女を変えたのだろうか…。まあ俺としては、一年間一緒にいるのだからクラス皆とは仲良くやっていきたいし、フレンドリーになってくれて嬉しい限り。なので、詳しく考えても仕方ないと割り切った。

 

 さて、周りではジュースやお菓子を手に楽しく談笑をしている中、俺は左に視線を向けると箒が明らかにご機嫌斜めな表情をしていた。

 

「どうしたんだよ、箒?」

 

「良かったな一夏、人気者になれて」

 

 何やら機嫌が悪いようだが、何故そうなのかはさっぱりわからない…。クラス代表になってしまった以上はきちんと役割を果さなければならない。そう思うか、と問いかけるも箒はふんっと顔を背ける。そしてムスッとした顔をしたままジュースを飲んでいた。こうなったらどうしようもないと俺は説得を諦めた。

 

 折角だからと用意されたジュースを飲もうとした時だった。突然のフラッシュを焚かれて、一瞬目を背けてしまった。フラッシュが発生した方向に目を向けると眼鏡をかけた上級生らしき人と、カメラを持っているあまり見かけない人がいた。

 

「はいはーい新聞部でーす。話題の新入生、織斑一夏くんに特別インタビューをしに来ちゃいましたー!ああ、私は新聞部副部長2年の黛薫子だよ。よろしくねー!はいこれ名刺。ほら、セシリアちゃんも受け取って!」

 

 どうやら、オルコットの方も突然の事で戸惑っていた。髪を後ろにまとめている上級生、黛さんからとりあえず、お互い手渡してきた名刺をもらった。

 

「それで、取材中にカメラとかで写真を撮るのだけど、カメラマンが…」

 

「私は一年のクリスタ・ハーゼンバインと言います。さっきは突然驚かせてごめんね」

 

 カメラを持っていた人、クリスタさんが俺たちに挨拶とお詫びを言ってきた。プラチナブロンドというものだろうか。とにかく、そういう髪の色と目の色をしているし日本の人ではないようだが、丁寧な日本語を使うよな…。オルコットもそうだが、この学園で日本語が達者な海外の人には未だにびっくりしてしまう。これもISが日本産だからなのだろうか?それよりも頭につけているゴーグルが気になる。

 

「はいはい!二人のアシスタントをしています同じく新聞部一年二組の桜田玲菜です!よろしくねー!」

 

 そして、この髪をサイドテールにしている人は、二人のあいさつをしている間に俺の座る席辺りで人払いをしていた人だ。この3人が新聞部の関係者らしい。

 

「さて、挨拶が済んだことだしちょっと失礼っと」

 

 新聞部のクリスタさんを除く二人は俺の座っている席の対面に座り、インタビューが始まった。俺の右隣には先程と同じようにオルコットが座っているが、何故か左にいた箒も頑なに動かないでいた。どうしたものか…

 

「じゃあ早速インタビューを始めるよ!」

 

 俺の心配事も気にせずインタビューが始まってしまった。これで良いのか、先輩。

 

「昨日の模擬戦は注目の専用機持ち同士の試合ということもあり、関心の集まる試合でした!一年の主席のセシリアちゃんに食らいつく、初の男性操縦者織斑君!全体を通して見ている私たちがわくわくする試合内容でしたよ!ということで、そんな模擬戦に勝利を飾ったセシリアちゃん!織斑くんとの試合はどうでしたか!?」

 

「そうですわね、私と一夏さんとでは実力には大きな差があったのは明確。ですが、彼が一次移行(ファーストシフト)をせずに私の攻撃を耐えたことには驚きましたわ」

 

「ほうほう。だから、戦闘の途中でフォルムが変わったのですね。それにしても、最適化(パーソナライズ)をしている間だったのによく動けられましたねー」

 

「まあ、あれは時間がなくて仕方なくそのまま出たのですけどね。とにかく必死になって戦っていただけですよ」

 

 正直、あの時の無茶ぶりには従うしかなかったよなとあの時の事を思い出した俺はしみじみとする。

 

「それに一次移行(ファーストシフト)をした後は、私をあれほどまで追い込んだのですわ。彼には、伸びしろはまだあるので是非ともクラス代表戦では活躍していただきたいですわね。ですが、模擬戦で私が全て武装を使い切ったと思い込んでいたことはよろしくなくってよ」

 

「ははは…」

 

 どうやら、オルコットにはあの時の俺の考えが図星であったようだ。まさかミサイルを装備しているとは思ってもみなかった。

 

「なるほど…。そんなセシリアちゃんから期待を寄せられているクラス代表の織斑君!初のISでの戦いだと伺っていますがどうして学年主席に食らいつけるほどISが操縦できたのかな?」

 

「あー、ISが操縦とかよくわからなかったけれど、その代わりに剣道場で箒に稽古をつけてもらったからかな?多少は昔の勘を取り戻すことが出来たし。な、箒」

 

「ああ。こいつがあのまま模擬戦をするならあまりにも不甲斐ない結果に終わると思ったからな。私が多少はマシに戦えるようにした」

 

「おいおい、そこまで言わなくてもいいだろう…」

 

「ほうほう、剣道場で練習をしていたと…。デビュー戦で学年主席と対等に戦えるとなると、今後の活躍が楽しみですねー。それはそうと、模擬戦の最後の場面なのですが織斑くんの敗因は何だったのかな?攻撃を受けていなかったのにシールドエネルギーが0になったみたいだけれど」

 

「あぁ…あれですか?あれは俺がただISの性能を理解していなかっただけですよ」

 

「なるほど…と言いますと?」

 

「俺のISに自分のシールドエネルギーを消費して発動する武器を持っていましてね…。それを発動していたみたいで…」

 

「あちゃー、それは盛大にやらかしてしまいましたねぇ」

 

「あはは…今度使うときはきちんと性能を理解して使うつもりですので」

 

「ふむふむ、同じ失敗をしないように頑張ってもらいたいですね。それではついに最後の質問になりました…。ズバリ織斑君、クラス代表になってのコメント、抱負をどうぞ!」

 

 うわ。質問の受け答えだけならいいのだけれど、こういうの俺苦手なのだよな…

 

「えと…まあ頑張ります」

 

「えぇー。もっとこう良いコメントを頂戴よー。” 俺に触れると火傷するぜぇ” とかさ!」

 

「自分、不器用なので」

 

「うわ、前時代的」

 

 そんなことを言われても困るな…。苦手なのだから仕方がない。というか、俺に触れると…ってやつも結構前時代的だと心の中でツッコんだ。

 

「まあそこの所は私たちが何とか見繕うから安心して!」

 

「はぁ…」

 

「じゃあ二人とも、インタビューお疲れ様!ありがとね~」

 

 怒涛の質問攻めだった。と言えば良いだろうか。黛先輩からの質問に受け答えしている時間が何だか長く感じてしまった。やっとインタビューも終わった、俺が一息入れようとしたときだった。

 

「あの、私からも一つ質問良いですか?」

 

 声が聞こえてきた方を見ると、インタビュー中に写真をいくつか撮っていた人からだった。確かハーゼンなんたらさんだっけ。

 

「あら、ゴーグルちゃん何かあるのかい?」

 

「はい、私が少々気になっていることがありまして。織斑さんについてなのですが。大丈夫ですか?」

 

 どうやら俺に対してだった。まあ、特に断る理由もないし対応することにした。

 

「いいですよ。どうしました?」

 

「あなたのISはもしかして暮桜の後継機か何かなのですか?武器も一振りの剣というところが同じでしたので少々気になっていたのです。」

 

「暮桜…?それ織斑先生のISか。どうなのだろうな。ああ、ちなみに俺のISの名前は白式だ。まあ、白式の武器は雪片弐型をしかないし、武器の性能も同じだからもしかしたら織斑先生のISと何か共通するISなのかもな」

 

「なるほど、私が勘違いしていたようですね。ありがとうございます」

 

 カメラを持っていた…名刺をもらっていないから忘れたけど…ゴーグルさんは疑問が解けたのか、満足そうな表情をしていた。誤解が解け、何よりだ。

 

「さて、インタビューも終わったことだし、取材用に二人だけの撮りたいのだけれど、二人とも写真いいかな?」

 

「散々写真なんて取られているので大丈夫ですよ」

 

「え!?ふ、二人だけで、ですの?」

 

「そうだよ~ 握手とかしていると良いかもね。じゃあ立って立って」

 

 そう黛さんから言われて、俺とオルコット互いに握手をするような形で立たされて写真を撮られることとなった。

 

「それでは、撮りますね」

 

 そうゴーグルさんが声をかけて、カメラのシャッターを押すと、写真が撮られたときには近くにいた女子たちが俺たちの周りにいた。ちゃっかり箒はいつの間にか俺の隣にいた。

 

「ちょっと皆さん!?何故入り込んでいますの!?」

 

「まあまあ…」

「セシリアだけ抜け駆けは許さないよ!」

 

 どうも、他の女子たちも記念写真に写りたかったようだった。

 

「…まあ仕方ないわ。これにて新聞部の取材は終了です!皆、パーティにお邪魔してごめんねー」

 

 黛さんはそう言うと、ゴーグルさんと駄々をこねているもう一人の部員を引っ張って食堂から出て行った。

 

 こうして、嵐のように暴れまわり颯爽と去っていった新聞部の介入もありながらパーティは終わり、箒のご機嫌は部屋に戻ってからやっと軟化したのは、それはまた別の話。

 

 

 







こんにちは! 元大盗賊です!




今回は、主人公目線以外で挑戦をしてみました!たまに、こういう進め方で行かせていただきます。

原作キャラの言葉使いとか難しいのなんの(;´・ω・)

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