神様なんかいない世界で   作:元大盗賊

4 / 51
第3話 世界一幸運な少年

 

 

 

 

 織斑一夏。彼のことを各国のメディアでは「世界一幸運な少年」、または「ファースト」としてよく取り上げられた。なぜ運が良いかというと彼は、たまたま高校入試の会場を間違えそこに偶然あった試験用のISを見つけ触れた、ということらしい。他にも幸運な理由がある。

 

 ISはそもそも女性しか操縦が出来ない仕組みになっている。なぜ男性にはISを取り扱うことが出来ないかは、未だに原因は不明である。遺伝子でISコアが判断している、ISコアの好みではないか等々の憶測が飛んでいるが定かではない。これはISを作り出した天災(篠ノ乃束)に問いただすしか答えは導き出せないだろう。

 

 

 

 どうにかして、男性でもISを扱えるようにならないかは各国が研究・実験を密かに続けているらしいが、未だに成功例は全く報告されていない。そして、そのような状況の中での初の男性操縦者の発見である。織斑一夏の登場により、日本のみならず世界中で彼のようにISを扱える男性はいないのかという可能性を信じ、くまなく調査が行われたが結局見つからずに終わった。

 

 そして、唯一一人だけのIS男性操縦者となった織斑一夏をどう扱うかの話し合いがIS運用協定に基づいて設置された国際機関、国際IS委員会でされたという。もちろん国際IS委員会の中にも女尊男卑の思想を持つ役員は少なからずいるはずであり、世間では「ファースト」の身を案じられた。研究のモルモットにされるのではないか、急に存在が抹消されるのではないか等といった根も葉もない噂話が流れたが、彼の扱いは一旦、どの国にも属さないこのIS学園への入学をさせるという一時的な措置が取られた。

 

 なぜ深く議論がされなかったかというと、答えは明白であった。彼の姉が織斑千冬であるからだ。織斑千冬と言えば、ISの操縦技術などを競い合う大会、第一回モンドグロッソ世界大会で総合優勝を果たした「ブリュンヒルデ」であり、世界最強のIS操縦者。そしてブリュンヒルデは全てのIS操縦者の憧れ、といっても過言ではない。その実の弟である、織斑一夏を粗雑な扱いができるはずもない。

 

 さて、このようなこともあり女尊男卑の世の中でありながら、卑劣な扱いをされなかった織斑一夏のことを「とても運がいい少年」とされたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学園と第3アリーナとを繋ぐ道には、一年生を表す青いリボンを身につけている生徒たちがぞろぞろと学園へ戻っていた。そのまま部活へ向かう者もいれば部屋へ戻る者もと様々だ。その生徒たちに紛れて私と玲菜、そして新聞部副部長の黛さんとで新聞部の部室へと足を運んでいた。

 

「ふふふ、結構白熱した試合をしていて記事の書き甲斐があるわ!それにいい写真も撮れたし」

 

「そうでしたよね、織斑くんかっこよかった!クリスタもそう思うでしょ?」

 

「確かにそうだね。あの白いISのフォルムは、他企業の関係者が言う事ではないと思うけれど、スマートなデザインだと思うよ。ファーストは日本人だしあのISは倉持技研かしら?」

 

 試合を観戦していた私たちは各々感想を述べていった。

 

「お、ゴーグルちゃんもそう思う?やっぱり日本人が乗るのだから、ネームバリューのある企業が扱うから倉持技研よねぇ。それに、あの彼が持っていた武器も一本の剣だったし、打鉄を意識したISなのかしらね」

 

 黛さんはカメラで撮っていた写真をカメラの画面を確認しながら話した。

 

「黛さん、危ないので前を見て歩いてください」

 

「大丈夫大丈夫、ここは私の庭みたいなものだから。転んだりしないよ」

 

「ってISの話じゃないのですけど!」

 

「まあまあーわかるよ、玲菜ちゃん。私だって彼がイケメンだとは思うけれど、何と言うか、こうアイドルが学校にいるみたいに感じちゃってね…近づきがたいというか何だか見ているだけで満足しちゃうわ。もう、見ているだけでお腹いっぱい。今日も写真を見ているだけで十分だわ」

 

「もう、先輩もクリスタも織斑くんに関しては淡泊だなぁ」

 

 私は二人のやり取りを見ながら、あの時の試合を思い出していた。今でもはっきりと彼の使っていた武器は覚えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後となり、快晴の空が頭上に見えている第3アリーナでは一組のクラス代表を決める模擬戦が行われようとしていた。アリーナの客席には、人の数はちらほらといた。制服のリボンを見る限りでは、一年生しかいないだろう。

 

 私は、玲菜と一緒に新聞部としての取材を兼ねて第3アリーナへやってきている。隣に座っている玲菜は、生織斑君はいつ出てくるのかな、とそわそわしていた。

 

 入学してから一週間弱が経過し、食堂でファーストを見たいと良く玲菜と一緒に昼食を食べるのだが、未だにファーストの近くの席に座ったことがない。なので、いつも遠くからファーストを見るだけでいつも留まっている。運悪く遭遇しないこともある。噂の男性操縦者のブームは過ぎ、初日よりかは、廊下に人が溢れかえるほどの人だかりは出来なくなったが、食堂では近くに座りたいという人たちで今でも数多くいる。私たちは、うまく近くに座るというタイミングを逃し続けていた。

 

「あれ?先輩も見に来たのですか?」

 

 模擬戦の開始を待っていると玲菜が後ろを振り返り誰かに声をかけていたので、私も倣って後ろを見ると新聞部副部長の黛薫子さんがいた。確か2年生はこの時間帯だと授業が入っていると言っていたような…。

 

「黛さん、今日はまだ授業が…」

 

「あ~、今日はちょっと模擬戦が気になっていたら体調が悪くなって欠席にしたのよね。げほげほ、おっとマスクしなきゃ」

 

 そう黛さんは言うと、懐からマスクを取り出し、顔に付けた。よく、無事にアリーナまで来られましたね…。

 

「それじゃちょっと横に座るね」

 

 よっこらせと、黛さんは私の隣に座った。少々呆れながらアリーナの前方へ目を移すと、青を基調としたISがアリーナ上に現れていた。

 

「あ!早速ISが出てきたよ!オルコットさんのISだよね。すごいなぁ」

 

「お~ あのISは、イギリス製第3世代ISのティアーズ型だね。現物を見たのは初めてだわ」

 

「先輩物知りですね!」

 

「ふふん!整備科のエースを舐めちゃいかんよ、これくらい知っていて当然!」

 

 玲菜からの尊敬の眼差しを向けられた黛さんは、少し照れていた。

 

 

 ・AME社製第3世代型IS蒼雫(ブルー・ティアーズ)

 

 現在、選定が行われている欧州連合の統合防衛計画(イグニッションプラン)にて他国より優勢のティアーズ型ISの一つ。ティアーズ型はBT兵器と呼ばれる自立機動兵器が最大の特徴である。この蒼雫(ブルー・ティアーズ)の場合だと他には、大型レーザーライフル“スターライトMk-Ⅲ”と近接格闘用のショートブレード“インターセプター”を装備している遠距離攻撃型のISである。

 

 私も他国のISについては、今まで公開されているデータを見ているだけあったので現物を見たのは初めてだった。

 

「第3世代?打鉄とかと何か違いがあるのですか?」

 

「そりゃ、もちろんあるわ。打鉄とかラーファル・リヴァイヴの第2世代型ISは後付武装(イコライザ)によるISの多様化を目標としたものよ。例えば、打鉄だったら近接ブレードとアサルトライフルが標準装備でしょ?それらに加えて元々持っていない何かの武装を付け足したいってなった時に後付武装を使うのよ。んで、第3世代型ISの特徴としては、操縦者のイメージインターフェースというものが使った特殊武装を再現させようとしているのが、この第3世代型ISってなわけ。あの蒼雫(ブルー・ティアーズ)にだってそういう装備があるはずよ」

 

「ほうほう」

 

「そして現在絶賛各国が研究・開発をしているのだけど、最近になって開発が始まったばかりだからどこも試験段階の状態のISらしいのよね。まだまだ問題が山積みみたい」

 

「へぇ~、そんな貴重な第3世代型がIS学園にあって大丈夫なのですか?まだ研究とかしていないといけないのじゃ…」

 

「その研究のために、各企業は稼働データとかが欲しいのだけれども、そこでうってつけなものがこのIS学園なわけよ!何せ、学園で未来のIS乗りを育成しつつ、さらに学園で行われる公式試合とかのイベント行事で稼働データが集まりやすいのよね」

 

「なるほど、そういうことでしたか!ありがとうございます!」

 

「いいのいいの、これくらい」

 

 玲菜は黛さんにお礼を言った。一方黛さんは、少し笑顔で手ぶりをしながら答えた。

 

 あの蒼雫(ブルー・ティアーズ)だと、BT兵器がイメージインターフェースによる兵器である。6基のBT兵器を所有しており、この複数のBT兵器でオールレンジ攻撃を行うことが出来るらしい。

 

 

「ねぇクリスタ、気になったのだけれどクリスタもテストパイロットだからやっぱり第3世代型のISを使っているの?」

 

「あ、それ私も思った。そこの所どうなの!?」

 

「いいえ、私の持っているISは残念ながら第二世代のものですよ」

 

「そっかぁ、残念」

 

「あれま、残念。第3世代型ISだったら弄ってみたかったのに」

 

「それは無理です。上からの指示で私のISは私以外が行うことはできないので」

 

「むぅ、けち!」

 

 黛さんが拗ねてしまったが、無視した。どうしようもなかったからだ。そんな様子を見ていた玲菜は苦笑いしていた。そうこうしているうちに周りが騒がしくなったと思うと、アリーナには白というよりかは灰色に近い色をしており、所々青い配色が施されているISがISのカタパルトデッキから飛び出し、ふらつきながらもどうにかして体勢を安定させようとしていた。

 

 

「おお、あれが織斑君のISね!なかなかかっこいいじゃない!って私は別の場所に行くからゴーグルちゃんはそこから写真をお願いね!」

 

 黛さんは、別のアングルで写真を撮るために他の良い位置へ移動していった。私は自分の持っているカメラをファーストのISに向けてシャッターを切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 食堂で夕食を食べ終えた後、私は自室へと戻った。本来、IS学園の寮は二人部屋が基本であるが、私は人数調整の影響もあり、私一人のみで使う事となっている。そのため、広く部屋を使えているので嬉しい限りだ。部屋の扉を閉めた後、私はだらしないと自覚しながらも、ベッドへダイブした。数回ベッドの上で跳ね、布団に抱きつき今日の疲れを癒す。誰にも見られないという特権から、入学した翌日からこの行為を行っていて夕食を食べた後、いつもこうしている。

 

 今日はIS学園に来て一番の発見をしたではないだろうか。ベッドの上でそう思い、あの模擬戦について考えていることがまとまらない。

 

 結果から言うと、セシリア・オルコットが勝利を収めた。黛さんは、初の男子クラス代表になるか、という記事を用意していたらしいがそうではなくなり残念そうにしていた。試合の内容だが、セシリア・オルコットによる一方的な勝利ということではなかった。そうファーストもきちんと対抗していたのだ。

 

 玲菜の話によれば、ファーストは幼馴染である箒という人物から今日まで剣道場で稽古をつけてもらっていたので、IS操縦はぶっつけ本番であるようだ。言ってみれば、片や代表候補生、片や素人の男性。稼働時間も経験も大きく差が開けている。普通だったら、代表候補生のセシリア・オルコットの圧倒的な勝利を収めるもの。私がファーストと立場が同じであったならば、セシリア・オルコットの奏でる円舞に踊らされていただろう。ISの初めての操縦でやることは、まずは体がISに慣れること。その次に、PICに慣れることが大事になってくる。基本的にISに乗ると、地上ではなく空中にいることが多い。そこで、ISの基本システムのPICを使い、浮遊を行う。だが、ファーストは、その慣れる段階を飛ばし、いきなり模擬戦を行った。

 もちろん、最初はまだ慣れていないのかファーストは攻撃を躱すことが出来ずに被弾をしていた。だが、時間が経つにつれて攻撃を躱していくようになった。仕舞いには、セシリア・オルコットがまだBT兵器とライフルを同時に扱えないことまで見抜いていたようだ。BT兵器を破壊するほど操縦をしながら考える余裕が出来、剣を扱うことが出来ていたというあの成長の早さに驚かされた。

 

 

 

 私はベッドから降り、机に向かうと試合の時に使っていたカメラに手を伸ばした。あの試合で驚くこと事は他にもある。ファーストの驚異的な成長速度に関してだけではなく、操縦していたISに関してもある。

 カメラで撮った写真をまた見たくて、アルバムを開く。セシリア・オルコットと対峙しているところ。腕を身体の前に交差させて、レーザーライフルの一撃を防御しているところ。一次移行(ファーストシフト)した後の姿。数多く撮った写真の中、一番気になっているところの写真を見つけた。

 

 その写真にはファーストが手に持つ近接ブレードの左右に割れた中から青白い光を放つ剣を出現させ、対戦相手に目掛けて飛んでいるという写真だった。模擬戦では、一次移行(ファーストシフト)へ移行した後にこの剣を持ち、攻撃を行おうとした後にシールドエネルギーがなくなり、試合が終了した。ファーストはその間、攻撃を回避していたためシールドエネルギーを削られたりしていない。一振りの剣を武器にして戦い、シールドエネルギーを消費する武器で思い当たるものは一つしかない。

 

「あれは“雪片”。どうしてあの武器をファーストが扱っているの…」

 

 そう、かつてブリュンヒルデが愛用し、第一回モンド・グロッソで優勝に導いたIS“暮桜”の武器。私が何回もモンド・グロッソでの試合を見たからわかる。そして、その単一仕様《ワンオフアビリティ》は……

 

「これ…絶対に零落白夜よね…」

 私はぽつりとうわ言のようにつぶやく。零落白夜は自分自身のシールドエネルギーを消費することで相手のエネルギーを、もちろんシールドエネルギーをも全て消滅させるまさに諸刃の剣。エネルギーを失った相手へ攻撃することにより大きなダメージを与える。それが零落白夜の効果だ。暮桜だけのだと思っていた雪片をあのISが持っていることがさらに私を混乱させた。彼が操縦しているISは“暮桜”ではない。

 

 私の見間違いで何らかの別の武装という可能性も否定はできない。ただ、自分自身のシールドエネルギーをも消費してまで使う武器があることには変わりはない。()()()()()()()()()()()()()()ということで監視するわけにはいかなさそうだ。織斑一夏とそのISに関しては詳しく調べる必要がありそうだ。次の予定までには調べておかないといけない、そう私は肝に銘じた。

 

 

 




皆さま、こんにちは!

元大盗賊です。

いきなりですがこの場を借りてお礼を…
この小説への感想、お気に入り登録、誠にありがとうございます!見てくださっている人がいるだけでなんかこう、モチベーションが違いますね!

次の話も出来るだけ早くに書きたいと思いますので、これからも「宇宙に憧れて」をよろしくお願いします(・∀・)ノ



P.S 投稿間隔を出来るだけ開けないって難しいですね…。始めは読者側だった私は「この小説更新おっそ!」とか思ってましたが、いざ筆者側の立場になって気持ちが理解できました。大変ですね。ストックなんて作れません><

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。