IS12巻が発売されるらしいので、執筆速度が1.1倍上昇しました。
あれから次の日。
今日の午前の授業はない。なぜなら、その時間を使って身体測定をするからだ。身体測定は確か春頃、IS学園の入学前に行われた。そして今回を含めると二回目の測定となる。何故二回行うかというと、主な原因はISスーツにある。
ISスーツは、自身の身体に走る微弱な電気を読み取り、その情報をなんとかシステムっていうISのシステムに送る役割がある。これによって、俺たちIS操縦者はまるで自分の身体を動かすようにISを動かしている。
んで、このISスーツは仕組み上、結構サイズがピチピチであり、正確な情報の伝達を行うに当たって随時身体データを新しくする必要があるらしい。
だけど、何故俺が身体測定係に選ばれないといけないんだ!?
あまりの理不尽さに怒りを通り越して悲しみに包まれていると、扉が開く音が聞こえた。
薬品の匂いがする保健室に入ってきたのは山田先生だった。
「遅くなってすみません、織斑くん。少ししたら皆さん来ますからね~。はい、これメジャーです」
山田先生は小走りで俺の所に駆け寄ると、メジャーを手渡した。紐が柔らかいタイプで、ふにゃふにゃしているやつだ。これは確実に身長と体重を計るとかではないやつだ。
「山田先生…これは一体どういうことですか?」
「どうって身体測定ですけれども…」
山田先生に尋ねるが何ともひねりのない普通の答えが返ってきた。俺が聞きたいのはそうじゃない。
「いえ、これで俺に何を測れとおっしゃるのですか?」
「ああ!そのメジャーで織斑君にはみんなのスリーサイズを測ってもらいます!いいですか、このデータはISスーツには大事なデータなのですから」
言っちゃったよ!この先生!
びっくりしているのも無理はないですよね、と山田先生は申し訳なさそうに言い始める。
「織斑君に測定係をやらせるのは私もどうかと思ったのですが、生徒会の決定事項でしたので…」
山田先生は苦笑いで言った言葉に、俺は言葉を失った。生徒会…これで思い当たる節の人物は一人しかいない。
確かに、最近は忙しくて生徒会に顔を出していなかった。それがこの報いなのか!?いや、だとしても許される行為ではない。それよりも、違和感あるなら抗議してくださいよ!
っていうか教員よりも生徒会の権限が大きいってこの学園どうなっているんだよ!
「ねえ玲奈。本当に一夏が身体測定するの?」
「うん、のほほんちゃんがそう言っていたし、そうっぽいよ。でもどうせ、私たちの番には山田先生あたりがやっているっしょ」
「確かに…それもそうね」
IS学園の不条理さを嘆いていると、ある天才的な発想が俺の頭の中に浮かんできた。これはそう、中学での数学のテスト中に、忘れていた公式を思い出した時の感覚に近かった。
「先生!あの、一ついいですか?」
「はい、何でしょうか?」
「まず、俺スリーサイズの測り方を知りません!」
そう、俺は測り方を知らない。それもそのはず、アパレルショップの店員をやったことのない俺にはさっぱりだった。というか、男が女性のスリーサイズの測り方を知っているほうが珍しいほうだろう。今じゃ、法律で厳しく罰せられる世の中。下手に知っているといろいろやばいことになる。
「ああ…。それもそうですね」
山田先生はポン、と拳を手のひらに打ち付けて納得する。よかった!これで俺が測定をすることはないだろう。
「じゃあ、簡単に測り方を教えますので覚えてくださいね!」
だが、俺の予想とは反した答えが返ってきた。
いいですか、と山田先生は張り切って、自身の体を使い俺に測り方を教え始めた。どうやら、俺には逃げ道など残されていなかったらしい。
山田先生に測り方のノウハウを手短に教えてもらっていると、遂にその時が来てしまった。
「あ、織斑くんだー」
「えーほんとに織斑くんが測定するの(笑)」
「やっほー、おりむー」
保健室の扉が開かれ、ぞろぞろと見慣れた体操着姿の1組のみんなが入ってきた。というか、さっき笑いながら言ったやつ誰だ!
「はーい、皆さんお静かに。それではみなさん一人ずつ下着姿になって測定します」
俺にとって死刑宣告に近い言葉が俺の耳に入ってくる。もう俺にはどうしようもなかった。それでは、と山田先生は俺の手を引いて、黄緑色の布で覆われた仕切りに入っていった。
「あ、私は奥で記録していますから、織斑君は数値を言ってくださいね」
「ええ、ちょっと山田先生…」
仕切りの中に取り残された俺は、手を山田先生に突き出して助けを求めるも、そそくさと奥へと入っていく。こういう時は助けてくれないんですね。
そして、運命の時は刻々と着実に近づいていた。
「出席番号1番!相川清香、行っきまーす!」
「ああ、待った!ちょっと待った!」
俺の気持ちの整理が全くついていない。今来られては…。
「へへーん、もう遅いよーだ」
しかし、相川さんは待ってくれなかった。布で覆われた仕切りの外から声が聞こえるや否や、バサッと布をはためかせて密閉空間へと侵入する。すぐに俺は大声を上げ、顔を両手で覆った。
「何々?もしかして照れているの?」
目に覆っている指の隙間からチラリと彼女の姿を見る。相川さんは両手を後ろに組み、ニヤついた表情で俺に話しかけてきていた。
彼女は黄色い下着を身に着けていた。上半身や腕には無駄な肉はなく、くびれのあるお腹にはうっすらと腹筋が見える。ほっそりとした足が彼女の…って何じっくりと見ているんだよ俺は!
「ほーら、観念して私の体を測りなさい!」
相川さんはさらに近づいて、一向に動こうとしない俺に催促をする。というかこの子は何で、下着姿なのにこんなにも堂々としているんだよ!
そんなことを思っていると俺の頭の中にまたしても何かが降りてくる感覚が襲ってきた。
そういえば、なんで俺はこんなにも恥ずかしがっているのだろうか?
それは異性の下着姿を見ているからだろう。誰でも恥ずかしくなるのは当たり前だ。逆に今の状況でなんとも思わない奴がおかしい。
だが、考えてみろ。何故相川さんがこれほどまでに堂々としているのか。答えは単純明快、俺がいっつもみんなの下着姿を
そう、ここIS学園では当たり前の恰好、ISスーツだ。ISの仕組みのせいで、俺たちは実習の際、これを着て授業を受けてきた。ISスーツはその特性上、水着のような格好になってしまう。いわば常にみんなの下着姿を見てきたに等しい。下着姿かISスーツかの違いでしかないのだ。今更俺の目の前で下着姿になろうが、それは今までの日常と同じ。訓練機で操縦を教わるために近くに相川さんが来ているのと一緒だ。そりゃ、一々下着姿同然で男である俺がいるからと恥ずかしがっては授業にならない。
そもそも、ISに乗る国家代表の人たちはテレビで中継されて、全世界の人にその姿を見られる。それなのに、ISスーツを見られることに対する羞恥心を感じてはIS操縦以前の問題だ。話にならない。言わば、これが今の俺たちの生活の中での当たり前な日常なのだ。
「…?」
つまり、今の状況はIS実習をしているか身体測定をしているかの差でしかない。だから相川さんは、俺に裸体に近い姿を晒すことに抵抗感などないんだ。だってこれは今まで過ごしてきた日常と同じだから。当たり前にやってきたことに対して今更違和感を覚えるはずがないんだ。
そう考えていると、俺自身ずっと恥ずかしがってきたことが、何だか馬鹿馬鹿しくなってきた。俺は一体何にくよくよしていたのだろう。これはいつもの光景であって、日常の一部。ただ単に俺と彼女との距離が近いだけ。
そして俺はただ単にみんなのスリーサイズを測るだけだ。バストとウエストとヒップの数値を測り、それを山田先生に報告する。ただそれだけのことだ。何ら特別でも、異端なことでもない。訓練機を教えるかスリーサイズを測るか、それだけの差だ。何も恐れることはない。
目の前におっぱいがあろうがそんなのいつものことだ。いつも見ていたじゃないか。それが近いか遠いかの差だ。でかかろうがちいさかろうがそんなバストの数値だけを見て欲情する奴がどこにいる?
これはいつものこと、教えるか、数値を調べるか。それだけでしかない。
覚悟を決めろ!羞恥心を捨てろ!俺はこれからスリーサイズという数値を測るということだけに集中するんだ!
「お、織斑くん…?」
「ああ、すまん。んじゃ、メジャーを巻くから脇を開いて…」
「…う、うん」
相川さんが腕を広げ、無防備な胴体が露わになる。
俺はメジャーを手に、彼女に近づき、胸の辺りに顔が来るようにひざ立ちの体勢にする。目の前に形の綺麗な相川さんの豊満なおっぱいがあるが、これも日常だ。こいつの数値を測るだけ。ただそれだけだ。
先ほどよりも落ち着きを取り戻した俺は、息を飲み込み、メジャーを彼女の背中に回した。
『いいですか?バストを測る時は、こんな感じで胸の一番高い所を測ります。この時にメジャーは、床と平行になるように測って下さいね。あと、測るときは強く締め付けてはいけませんよ!』
ブラジャーを軽く締めるように力を加えて、メジャーの数値を見る。
数値は、82か。
『ウエストは、お腹の細い部分です!大体おへその上あたりですよ』
ブラジャーから手を離し、相川さんの腰のあたりにメジャーを巻く。
これは62。
『ヒップはお尻のふくらみが一番大きい部分を測ります!』
ちらりと彼女の横から見て、お尻の形を確認し、メジャーをまわす。
最後は、84か。
なんだ。簡単じゃないか。
俺はすぐに彼女のお尻から手を離し、山田先生の所へと報告するべく仕切りを開いた。思っていたよりも簡単で俺は安心した。
そうだ、これはいつもの日常。何も心配する必要はないんだ。
(特に…問題はないよな…?)
脱いだ体操着を空いているスペースへと置いた篠ノ之箒は、自身の体をチェックしておかしなところがないか確認した。
彼女は今日という日を迎えたことが残念でならなかった。なぜならただでさえ、日に日に成長していくスリーサイズを測られるのがいやでしょうがなかったのにも関わらず、その測る役が一夏と聞いたからだ。彼女なりにプライドはある。自身の体を男子に、あまつさえそれが想い人に測定されることは彼女として、たまったものではなかった。
だが、それ以上に一夏があの生徒会長の計らいによって1学年全員のスリーサイズを測らなければならないと耳にしたとき、耐え難い憤りを感じた。噂話曰く、いつもなら保健室の事務員たちがやるものを、彼女の権限によって変更されたのだ。そもそも、女子の身体測定に男である一夏が関わることがおかしい事には気づいている。きっと、あの生徒会長のことだろう。面白半分で任命したに違いない。そう、彼女は結論づけていた。
しかし、一夏があの会長に口答えをしたところで、彼女が簡単に首を縦に振るような人物でもないのは明らかな事実である。だからこそ、余計に今の世間の縮図のようになってしまっている一夏に対して怒りを覚えていた。
彼女としては彼には、もう少し男として自覚をもって堂々と、そしてしっかりとしてもらいたいと願っていた。
だからといって、彼女は一夏に対して失望しているわけではない。
彼女の理想と現実はかけ離れているものの、今の彼にも良いところがあるのは彼女自身も理解していた。第一に誰に対しても優しいというのが一夏のいいところだ。彼女も彼の優しさによって、昔に助けられた思い出があるわけであり、それは今でも変わらない事は日常から感じ取れていた。それに彼は思いやりも持てるし、相手の立場をきちんと考えられる。
それが今の織斑一夏だった。自分の理想とは違う一夏。でも、それが彼の良いところであり、今の彼が悪いとは、全く思っていない。
そこはもっとこう…折り合いをつけてもらえばいい。全部とは言わんが、いいとこ取りをしてもらえば私としては十分だ、うん。
すぐにでなくとも、彼には私の理想に近づけさせよう、と一夏との人生設計プランが綿密に計画されているのは誰にも言えない秘密である。
「次の方、えっと篠ノ之さんですね。どうぞー」
山田先生に呼ばれ、思わず体をビクつかせる。
どれだけ身体測定が嫌と言っても、これは学園側が決めた行事であり、逆らう事は許さない。たとえ計測者が男であっても。
意を決した彼女は早鐘のように脈打つ心臓を抑え、仕切りの中へと入る。
「し、失礼する」
中に入ると、一夏が丸椅子に腰掛けておりこちらを見ていた。
「んじゃ、メジャーを巻くから脇を開いてくれ」
入るとすぐに、彼はメジャーを手に指示を出してきた。改めて、下着姿の自分が一夏と二人っきりの状況になっている事実で彼女をより恥ずかしくさせた。
だが、ここまできてしまったのだ…。覚悟を決めるしかない!
「なあ、一夏…」
「ん?」
「その…よろしく頼む」
「ああ、これは実習と同じなんだ。変な心配はいらないよな」
「…?」
何を言っているんだこいつは?
トンチンカンな発言をする彼に彼女は理解できなかった。
(よし、いけますわ!)
セシリア・オルコットは、今日という日を待ち望んでいた。なぜなら、彼女は身体測定が行われる今日のために準備を進めてきたのだ。
一夏が身体測定係をやらされるという情報を入手したのは約一週間前。
しかし、彼女はそこであることに気がついた。これは夢にも思わなかった、またとないチャンスなのだと。
彼女としては、今後一夏にはオルコット家へと招き入れようと考えている。オルコット家の当主である彼女を支える存在として。そして、良き夫として。もちろん、オルコット家へ迎え入れるとなると一緒に生活をするということになり、それはすなわち一緒にお風呂に入ったりもするということになる。
いつもなら湯加減をメイドであるチェルシー・ブランケットに任せていたが、これは彼にやらせよう。
彼が調整したお風呂に浸かり、1日の疲れを癒すのだ。これほど嬉しいことはない。そして時には、特別な日と称して彼に自身の体を洗わせたりするのもいいだろう。そうなってくると必然的に彼は彼女の体を見ることになる。一糸まとわぬその姿を。
しかしながら正直に言うと、そんなことは恥ずかしくて出来ないのが本音だ。自身の裸体を想い人である彼に見せるなんてとんでもなかった。今そんなことをしようとしたら、きっとブルー・ティアーズで彼の体に蒼い閃光が走るだろう。
そうなってくると、今回のこの機会は良い練習になるのではないか?
気持ちを落ち着かせるためにベッドから体を起こし、ティーカップに紅茶を注ぎながら彼女は思った。今回は身体測定で下着を着けているものの、状況としては自身の理想とほぼ似ているシュチュエーション。この機会を皮切りにして、羞恥心を克服する練習をしよう。バスケットの中ある差し入れのクッキーを頬張りながら、決意を固めた。
そうなれば、その日までにやることはただ一つ。より自身の体に磨きをかけることだ。
「次の方、えっとオルコットさんですね。どうぞー」
山田先生の声が聞こえ、彼女は黄緑色の仕切りへと押し入る。その一連の動作にはもう、迷いは見られなかった。
彼女が仕切りに入ると、彼はそこにいた。その空間のちょうど真ん中あたりに置かれた椅子に座っていた彼は、ジッと彼女の体を見る。
この1週間、チェルシーの手助けもあり、いつも以上にスキンケア等を行なってきた彼女にもはや死角はなかった。この一瞬のために努力をしてきたのだ、今なら誰にも負けない、そんなプライドがあった。
「その…一夏さん。どうですか?」
一夏にジッと見られながら、恥ずかしさを押し殺して聞く。今にも頭がパンクしそうな彼女が考えた最大限の言葉だった。
彼はメジャーを手に、椅子から立ち上がると口を開いた。
「91って素数か?いや、違うか…」
「…?」
思わず彼女は首を傾げた。
(本当に一夏がやっているんだ…。)
シャルロット・デュノアは、身体測定をし終えた生徒の様子を見て困惑していた。
一夏が測定係をするという噂は数日前から流れていた。だが、彼女にとってその噂話は、いまいち信じがたかった。そもそも、彼はそのようなことには参加しない。きっと彼なら顔を赤く染めながら断っているだろう。というか、むっつりな彼が堂々と女の子の体を見られるはずがなかった。彼のことを把握している彼女にとって、このようなゴシップは根拠のない誰かの妄想だろうと思っていた。当日になるまでは。
「それではホームルームを終了する。ああ、それと織斑。お前はこの後、やることがあるから保健室に行け」
授業が免除され、少し浮ついた空気がまどろんでいた朝のホームルームで、織斑先生はそのようなことを口にした。
「はあ。俺も身体測定をするんですよね?」
「ああ、もちろんするさ。何だ?まだお前は女子に混じって受けようと思っているのか?」
「あ、いや…そういうわけでは…」
「分かればいい。お前にはちょっと手伝ってもらうことがあるだけだ」
何も気にすることがなければ、よく見る姉弟漫才の一部だ。だが、彼女はある違和感を覚えていた。織斑先生の表情だ。いつもの口をキュッと結び、鉄仮面のように硬いその表情ではなかったのだ。どこか口調も弾んでおり、何かと嬉しそうでもあった。
一夏の身体測定係という噂、浮ついた空気、そして満面の笑みを浮かべる織斑先生。
まさかそんなことあるはずがないよね、と喉に何かが引っかかる違和感を覚えつつも、彼女は二人のやり取りを見ていた。
その後、彼が織斑先生に連れられ保健室へ向かわされると、教室に残っていた山田先生から衝撃的な一言が告げられたのだった。
「えー織斑君には、皆さんの身体測定をする係の手伝いをしてもらうために保健室に行きました」
織斑君に下着姿を見られる、と教室で一組の皆が騒ぐ中、デュノアは一人動揺もせず、皆の様子を眺めていた。
これは天然要素がたっぷりと含まれる山田先生のよくある勘違いだと安心しきっているわけではない。もちろん、その言葉を聞き彼女はあの噂は本当だったんだと驚いた。だが、他のクラスの子たちほど大げさに驚くほどでもなかった。なぜなら、彼に見られることに対しての抵抗感を持っていなかったからだ。逆に、また見てもらえるとどこか懐かしさを感じてさえいた。
だが待ってほしい。これまで自分は勢いに任せて彼に迫っていたが、これではただの痴女なのではないか?ふとそんなことが彼女の頭の中によぎる。
いいや、違う!絶対に違う!
彼女は1人頭をブンブンと振り、要らぬ考えを払い飛ばす。
そもそも、一夏が悪いのだ。…僕の裸を見たのが。
彼女はそう決め込んだ。
まだ男としてIS学園にいたあの頃。僕がシャワーを浴びている時に、ボディーソープが足りないからと無頓着に扉を開けた彼が悪いんだ。いくら僕が男だったとしてもあの行動は良くない。
親ぐらいしか裸を見られていなかったのに…とあの頃は屈辱を味わったが今は許している。何せ、彼には
彼女は強く決意を固め、今度の彼の反応を楽しみにしていた。
(クラリッサが言っていたのは、まさにこのことだったのだな!)
ラウラ・ボーデヴィッヒは満足していた。身体測定のために下着姿になっている彼女は今、一夏の前に立っていた。彼女がこれほどまでに自信たっぷりになっているのは、部下であるクラリッサから教えられた下着を身に着けているからだ。
『隊長、一つよろしいでしょうか』
「どうしたクラリッサ」
それはある近況報告をしていた時のことだった。
近況報告。IS学園というドイツから離れた場所にいる彼女が唯一、部隊の様子などを知ることができる重要な機会だ。シュヴァルツェ・ハーゼの隊長として、部下の心配をするのは当たり前のこと。部隊の訓練状況や、任されている試作品やISの運用の報告、そして隊員の体調まで。気になることは多くある。それらを、実質的な取りまとめをしている副隊長のクラリッサと生の声で会話をすることにより、部隊の状況を把握していた。ゆえにこの近況報告はラウラの密かな楽しみでもあった。
また逆もしかり、クラリッサを含めた隊員全員もこの近況が楽しみであった。隊長であるラウラが乙女として可愛らしく成長していく隊長の様子を知ることができる唯一の機会でもあるからだ。このことは、隊長には秘密である。
『いえ、以前に隊長へお伝えしきれなかった重要な情報のことなのですが…』
「そういえば、後の報告で資料を見つけてくると言っていたやつか。それで、その伝えきれなかったこととはなんだ」
クラリッサは、こほんと咳払いをして一呼吸を置く。
咳ばらいを聞いたラウラは、右手に持つ携帯端末を強く握りしめ、彼女の発する声に集中した。
『はい、私が入手した情報によりますと、女の子は恋をすると意中の相手に下着を見られる機会、パンチライベントが発生します』
「パンチライベント…だと…」
パンチラ。その聞き覚えのない言葉にラウラは思わずゾッとする。
『はい。ゆえに隊長はいついかなるときでも、織斑一夏に見られてもよい下着を装着せねばなりません』
「なるほど、確かにそれは重要な情報だ…」
まだ見ぬパンチライベントに彼女は危機感を募らせた。
だが、ここでラウラは一つ疑問に思うことがあった。
「ところでクラリッサ。その…見られてもよい下着とはどのように精査をすればいいのだ?」
よくシャルロットに連れられて買い物に出かけるラウラだが、いまだにファッションセンスはシャルロットに頼っていた。そろそろ自分で決められるようにしないとね、とシャルロットは話すのだが、まだ自分自身の持つセンスに自信がなかった。そのためか、どのようなデザインが良いかわからなくなっていた。
『なるほど、そうでしたか。ならば、私から一つ提案があります』
「提案だと…言ってみろ」
『はい、それは………縞パンです!!』
縞パン。クラリッサはそう強く訴えた。
曰く縞パンには夢がある。
曰く縞パンには見るものを魅了する効果がある。
曰く縞パンは男の好感度を上げる至高の下着である。
彼女の言葉にラウラを強く胸を打たれる感覚を覚えた。そして、それと同時に良い部下を持ったことに深く感謝した。
そして、ついに部下の言っていた”パンチライベント”が起きようとしていたのだ。一連の流れを見ていた、クリスタは真に受けないほうがいいよと、言っていたが今回ばかりはそうとも言っていられない。優秀な情報屋から仕入れた全女子の身体測定に織斑一夏が測定係となる情報。待った甲斐があるとはまさにこのことだった。
クラリッサがいの一番に薦めた水色と白で彩られた下着を身に着けているラウラは自信ありげに立っていた。無駄な装飾が施されていない、布生地に描かれた縞があるだけの下着。これで、嫁も喜ぶに違いない。そう思っていた。だが、肝心の
2㎝間隔にバランスの取れた良いボーダー柄だな、とぶっきらぼうに言うと、脇を開いてくれとメジャーを手に話した。
思っていたよりも反応が薄い。何がダメだったのだろうか?彼女は疑問に思った。
第一に嫁は自身の下着を見て感想を言ったことから、注目を集めたのは確実であった。すなわち、縞パンの魅せる効果があったことは確認された。ならば色がダメだったか?
ラウラは両腕を上げながら、今度は水色ではなく、ピンク色にしようと決意した。
(やっと身体測定も終わりそうね)
凰鈴音は、前に並ぶ行列の人数を見ながら身体測定が終わりそうだと思い始めていた。
彼女は二組が何かと不遇な扱いを受けていることを常日頃から感じ取っていた。隣の一組の担任はあの世界に名を轟かせている『織斑千冬』だ。さらに、クラスには男性IS操縦者の織斑一夏含めた豪華な専用機持ちたちが顔を連ねる。なぜこれほどまでに一組に集めてしまったのかは謎であり、3組に至っては専用機持ちのいないど素人しかいない。ペース配分に問題があるのは明らかなことだが、このことについて彼女の担任である中井先生は、これでバランスは取れているわよ、とはぐらかすだけで先生方には問題意識を持っていないことは目に見えていた。
実際、先月頃に行った学園祭では一組のメイド喫茶がぶっちぎりの売り上げを誇り、2組から4組の売り上げはどんぐりの背比べのような違いしかない程度だった。
クラス長として一度、委員会にてこのことを愚痴にこぼしたことがあった。この際、四組や三組も同じことを言いだし、一組のクラス長である一夏を取り合うという、少しでも間違えればあわや大惨事になる一歩手前のところまで発展してしまうほどだった。
そんな鬱憤があった彼女がまたしても屈辱を味わう出来事が起きた。朝、身体測定が行われる日のホームルームでのことだった。
「それで身体測定を受ける順番ですが、配布した資料のようになっています。くれぐれも順番を間違えないようにしてくださいね」
凰鈴音が配られた紙を見て、思わず目を見開いた。
既にこの時には、一夏が身体測定係をするということは伝えられていた。彼女がいち早くその項目を見つけると、スリーサイズを測る項目の一番目に一組という文字が書かれていたのだ。ついでに二組はその項目において、最後の順番であった。
また一組なのか。
彼女は思わず心の中で舌打ちをする。千冬さんの計らいなのか、はたまた学園を牛耳る生徒会の仕業なのか。いったい誰が犯人なのかと考え込んでいるとホームルームを終える鐘が鳴った。
「それでは皆さん、身体測定の準備をしてください。ああ、それと凰さんは、この後私のところに来てくださいね」
中井先生がメガネをくいっと上げて話を締めくくると、自身の名前を呼ぶ声が聞こえた。
なぜ呼ばれたのだろうか?全く見当もつかなかった彼女だが、言われたとおりに、中井先生のところに行く。すると、先生は耳打ちをするように彼女の耳元に口を近づけた。
「二組がスリーサイズを測る最後でしょ?凰さんは、二組のクラス長としてみんながいなくなった後に、測定係をしていた織斑君の分を測ってもらえるかしら?」
私が…一夏のを測る…それはつまり二人になるという…。そもそも、最後に二人っきりになったのはいつ以来だろうか。
そんな疑問が浮かぶ。協力者のこともあり、食堂で一夏と二人っきりの場面を作り出そうとしてもいつも誰かかしらの乱入者が現れてしまう。それに、何かと今学期は周りでいろんなことがあり、落ち着いて一夏と話せる機会がなかった。
「!!」
「ふふふ、じゃあお願いね」
物思いにふけっていた鈴はすぐに意識を現実へと引き戻す。
鈴の顔を見てほほ笑んだ中井先生は、そう言い残すと教室を後にした。
ま、今日ぐらいは許してあげてもいいんじゃないかな?
ニヤついた表情を隠しきれていない彼女は、初めて二組の待遇に感謝した。
「鈴さーん。織斑君の数値を測ったら教えてくださいね」
「はい!わかりました!…ほら一夏!制服脱いで」
「あれ、ここは……え、鈴?なんでお前がメジャー持っているんだ?」
「なんでって、あんたの身体測定をするからに決まっているじゃない。わかったならさっさと脱ぐ!」
「あ、ああ…。わかったからそうせかすな」
「ごめんなさいね、凰さん。クラス長だからってこんな仕事押し付けちゃって」
「いえ、いいんです!これくらい…ってちょっと!なに裸になろうとしているのよ!馬鹿!」
「あだっ」
投稿期間が長くなると文字数が増える…。
不思議だなぁ。