神様なんかいない世界で   作:元大盗賊

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「ねぇ、叔父さんも男だからって嫌な事されたりするの?」

 少女はたどたどしく、疑問に思っていたことを目の前の男性に問いかけた。

「…うーんそうだね。正直、私も職場とかでは時々女尊男卑の風潮は身をもって感じているよ。今まで通り普通に接してくれる方もいるけれど、取引先で男だから云々とかって卑下にする人たちは少なからずいるな。知り合いにも、ISの台頭と女性優遇政策とかで職を失った人が何人もいるし、前と比べたら男であるだけで生きづらくなったかな。ホント、不思議な世の中になってしまったと思うよ」

「そっかぁ…。じゃあISが出てきてあんまりよく思っていないのかな?男の人は、女尊男卑だ!差別だってニュースでやっているみたく不満を募らせているのかなって思っているのだけれど」

「いや、だからと言って私はISが嫌いとは思っていないな。むしろMs.タバネには感謝しきれないくらいだ。私の好きなISを研究できるからね。今まで現実にはなかった、誰しもが夢にまで見た素晴らしい発明品をあれこれいじって研究できるからね。もうあれは男のロマンといっても過言ではないな」

「ふふ、叔父さんってISの話になるといつも楽しそうに話すね」

 少女は思わず手で口を押えて笑った。

 男性は、ぬるくなった紅茶を口にした後、話を続けた。

「あぁ、またついつい熱くなってしまったか。まあ、私にだって不満に思ったり理不尽に思ったりすることはある。ISの登場によって、以前と比べると科学技術は確実に進歩したし、世界や人々の常識を覆すことは良いことだ。でも逆にその分、いくつかの障害を生み出してしまった。こればかりは仕方のないことだとは私も思うよ。何か新しく、画期的なものには良い面もあれば悪い面もある。これは既に歴史が証明してくれている。ISは素晴らしいものだけれど、かなりのじゃじゃ馬だ。何せこれほど常識を変えてしまったのだからね」

 男性は少女のだんだんと不安そうな表情していく様子を見た後、少し結露の付いている窓を眺めながら話した。

「だが、別に気に病むことではないよ。この悪い問題を完全に解決していくことは難しいが多少なりとも改善したりしていくことが出来る。今回の場合(IS)もそうだ。君と私たちでこの狂った世の中を正しい方向に持っていく。ただそれだけのことさ」

 外はまだ暗く、雪が降り積もっていた。










第2話 一喜一憂

 

 

「では、今のところがきりが良いので今日は早めに終わりましょうか」

 

 今は、4時間目。丁度12時前といったところだ。この授業が終わればお昼ご飯が私たちを待っている。今日は和食に挑戦してみようか、と私は思いふけっていた。IS学園では全寮制という事もあり、全校生徒が食事をするためのものすごく大きな食堂が設けられている。

 

 IS学園は世界中から生徒を集めているということもあってか、どのような生徒が来ても食事ができるようにされている。宗教、文化が例え異なったとしてもきちんと対応をしているらしい。何が言いたいかというと…提供される食事の種類が豊富であることだ。和食・洋食・中華はもちろん、イタリア料理やフレンチまである。また、食堂に設置されているデジタルサイネージによれば、毎月期間限定である国の風土料理が出されるらしい。さすが、莫大な資金をかけて作られた教育機関である。教育だけでなく、生徒たちのために食事の面も考えているとは。どうやら、私はとてつもない場所へ来てしまったと改めて実感する。それはもう3年間だけでなく、一生ここで暮らしていたいくらいに。

 

 

 

「では、時間が余っているので、クラス代表を決めましょうか」

 

 私たちのクラスである二組の担任である中井先生は、先程の授業の教科書をまとめながら話した。どうやら、私のランチはもう少し後の事みたい。

 

 

 

 先生の話を要約するとこうだ。

 来月に行われるIS学園最初のイベント、クラス代表戦が行われるため、その出場者を決めなければならないらしい。このクラス代表戦はリーグマッチで学年4クラスの総当たり戦であるようだ。また、このリーグ戦へ出場するのはクラス代表と呼ばれる人のみで行われる。さらにクラス代表はその組の長として、生徒会の会議や委員会活動を行わなければならない。

 

「と簡単に言えばこういう事ですね、では誰がクラス代表になりますか?自推他推で構いませんよ」

 

「代表ってことだし、IS操縦に慣れている人がいいよね」

「クラス代表戦ってことはやっぱり代表候補生が出てきちゃうのかな?」

「他のクラスには代表候補生もいるし、強そうだよね…。うちらのクラスにいないのが残念…」

「えぇ~ちょっと怖いなぁ」

 

 口々に生徒たちがお互いにクラス代表についての話をし始めた。誰しも不安で潰れてしまうそうといった表情である。

 

 しばらく時間が経ったが、やはり簡単には候補者は出なかった。それもそのはず、クラス代表として戦うという事となれば、必然的にIS操縦の上手な人がクラス代表には適任であろう。また、1組と4組には代表候補生がいるという情報もあり、IS学園に入学したての生徒が格上の相手となるとなかなか挑みしづらいところもある。それにこのリーグ戦では、多学年からも見られるらしい。他人から受けるプレッシャーは計り知れないだろう。

 

 他の人の様子を見ていると、突然肩を叩かれた。

 

「ねぇ、クリスタってそういえばテストパイロットだよね?なんとかって会社の」

 

 振り返ると、後ろの席の桜田玲菜が小声で声をかけてきた。

 彼女はこのクラスで最初の顔見知り程度にまで仲が良くなったクラスメイトである。入学式のホームルーム後、動物園のパンダの如く扱われている人気者『織斑一夏』を一目見ようと私を誘ってきたのがきっかけだ。

 

「ええまあ…やっていますよ。ちなみに会社名はフォルテシモ社」

 

「そうそれ!ドイツの企業ってよくわからなくてさ。それでね、テストパイロットだし専用機とかって持っていたりしないかな?」

 

 サイドテールにしている茶髪が少し揺れ、顔を傾けた。

 

「あぁ…まあ。一応…持っていますよ」

 

 小声で言ったつもりではあった。だがこの一言が決定的であった。いや、それだけで十分であった。正直に言うと、私はクラス代表になろうとは思わなかった。なぜなら、今後の活動の事を考えると、あまり目立たない方がよいし面倒な仕事を任されるのではと思っていたためである。

 

 ふと周りに聞こえていた話し声が自然となくなり、突然の静寂が訪れた。その後、机やいすの音が教室内に鳴り響き、皆が私の方に目を向けていた。私の見えない位置にいる人の視線もハイパーセンサを使わなくてもわかるくらい物凄い物だった。

 

「えっ…」

 

 あまりにもすごい視線を浴びて思わず私はたじろいでしまった。

 

 助けを求めて中井先生の方を見ると、彼女はにっこりと私に微笑んでいた。さすがに担任の先生が専用機の有無を知らないはずもなく、皆の反応から見て察したのであろう。きちんとクラスの全生徒の気持ちがわかっていますね…。

 

「なるほど…では他にクラス代表に立候補する人はいますか?」

 

 中井先生が他の生徒に分かり切った質問を投げかけるが返答がなかった。私の発言は、自推の発言として捉えられたようだった。

 

「そうか、ハーゼンバインさんってテストパイロットだったよね!」

「という事は、IS稼働時間もある程度はあるよね!」

「ハーゼンバインさん、もったいぶらなくても良かったのだよ」

 

 他の生徒からは私たちのクラスに救世主がいたという喜びと、もっと自信を持ってという励ましの言葉で教室内が満ち溢れる。玲菜からは、クリスタ、クラス代表就任おめでとう!と早めの祝福の言葉をもらった。私にとっては嬉しいような嬉しくないような複雑な気分だった。

 

「それでは、クラス代表は決まりましたね。クリスタ・ハーゼンバインさんよろしくお願いします」

 

 中井先生が満足そうにそう言い終わる頃にチャイムが鳴りだした。

 

 

 

 

 

 時は過ぎ、本日の授業も終わり自分の荷物を整理していた時だった。

 

「クリスタ!今日は大丈夫だよね!じゃあさ、部活動に興味ない!?」

 

 必死な形相で強引にお誘いを聞いてきたのは玲菜だった。

 

「部活動?確かそれって、学校の課外授業みたいなものでしたか?」

 

「うーん、まあそんな感じかなぁ。同じ興味とか同じことをしたい人同士が集まって色々やる団体みたいなものよ!」

 

「なるほど…。それで玲菜が興味を持っているという団体とは?」

 

「それはね、新聞部!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先輩、興味を持ってくれた人を連れてきましたよ!」

 

「おぉ、玲菜ちゃんお疲れ様~ その子が昨日言っていた興味を持ってくれそうな子かー」

 

「はい、そうですよ!それに、今日うちのクラス代表になったのです!」

 

「あら、すごい子を連れてきたのね」

 

 私が今いる場所は玲新聞部が使っているという部屋。

 玲菜に半ば強引に連れてこられた。それにしても前から目を付けられていたとは…。私が初日の自己紹介の時に写真撮影を趣味にしていると言っていたからだろうか。だが、その疑問に答えてくれるものはいなかった。

 

「ねぇ、玲菜。まだ入学してから日が浅いのにどうしてこの部活動に入っているの?」

 

「ああ、それはねIS学園への入学が決まったときには、新聞部と連絡を取り合っていたのさー。私ね、こういう感じの部活に憧れていたのだよね!」

 

 玲菜は胸を張って答えた。

 

「でもどうやって連絡を?」

 

「そりゃ、もちろんSNSだよ!よく○witterで見かけて興味を持ったのだよね~。あ、IS学園関係のSNSだから結構人気あるよ!」

 

 時代も時代ですから、よくある話ですね…。

 

「そうそう、自己紹介をしていなかったね。私は2年で新聞部副部長の黛薫子でーす。よろしくね。噂のゴーグルちゃん!」

 

 黛さんは私の頭部に付けているゴーグルを見ながら元気よく私の肩を叩いた。

 

「初めまして、1年2組のクリスタ・ハーゼンバインです」

 

「うんうん、よろしくね。そっかゴーグルちゃんはクリスタって言うのね。ちなみに、何で、この部活に興味を持ったの?」

 

「そうですね…。メディアに関わる部活動と聞いていたので、色々と学園のことをよく知ることが出来そうでしたし、何より私の持っているカメラが使えそうかなと…」

 

「ほうほう、カメラを持っていたとは…。ちなみにどこのカメラ?」

 

「私のカメラは○コンですね」

 

「おお、ホント!?私も○コンだよ!今度見せてよ!」

 

「ええ、構いませんよ」

 

「やったー!いやー玲菜ちゃんも勧誘ありがと!いい子を連れてきたね~ これで撮影できる人が増えたわ。助かった~」

 

「いやーそれほどでもー」

 

 どうやら、新聞部の方には受け入れられたようで安心した。これで、学園関係者とお近づきが出来るかもしれない。そう思っていると、この部屋へ部員と思われる人が入ってきた。

 

「…あれ、人が増えている。ってそれより薫子!めちゃくちゃ美味しい情報をゲットしたよ!」

 

「ん?どうしちゃったのよ。まゆちゃん?」

 

「それがね…。1年1組のクラス代表者を決めるっていう模擬戦を来週月曜に第3アリーナでするみたいなの!対戦カードはイギリス代表候補生のセシリア・オルコットと、噂の男性操縦者、織斑一夏との闘いみたい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 

 辺りには雪も積もり、肌寒い季節になっていました。
日は沈み、街もすっかり暗くなり辺りには街灯に光がともり始めています。

 そんな街のある小さな屋敷の居間には二人の人がいました。少女はプラチナブロンドのように白く長い髪をしており、少し不安な表情を浮かべています。もう一方は短く整えられた髪の男性でした。男性はにこやかな表情を浮かべています。
その二人は暖炉の近くに設置してある机に向かい合って座っていました。机にはいくつかの紙媒体や電子端末が置かれています。

 男性が今日も良い紅茶だとお茶を飲んでいると、少女は手に持った湯気の立っているカップを見ながら話をします。

「私も思うのです。ISに乗らないのに高圧的な態度をとる女性の人たちや男性へのひどすぎる待遇…。これではまるで、ISが登場する前の話にあった“男尊女卑”と同じ…いやそれよりもさらに酷いのではないかって。ISは女性の立場を優遇させるための道具ではないと思います。ISはもっと…もっと人々を良い方向へ導くものだと思うのです。男女の立場がとか、競技スポーツのためだけだとか…そういうものではないのです。だから、私にもできることがあるのであれば、やらせてください」

「なるほどね。君の考えは大体わかったよ。でもね、これからの生活では苦しい思いをさせてしまうかもしれない。私だって君にはあまりこのようなつらい道には正直言って進めたくはない…それでも?」

「それでも…少しでも変わるなら…良いのです。それで私の願いが一歩でも近づくのであれば。 …この可笑しな世界を変えたいのです」

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