神様なんかいない世界で   作:元大盗賊

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新刊読みました!


簡単な感想としては、急ぎすぎる








第27話 過去の呪縛

 

 

 私の同居人(ルームメイト)は単純だ。

 

 別にこれは、同居人が素直で馬鹿だという意味ではない。彼女の態度を見れば、喜怒哀楽がはっきりと分かり、その時の気持ちが容易に理解出来るからだ。

 嬉しい事があったら表情はいつもより晴れやかで、指摘をしなければ独り言をずっと言ってしまうほど喜び、腹立たしい事があれば、気分が晴れるまで枕を抱き寄せプンプン怒る、といった具合だ。ころころと変わる同居人の感情の起伏には、驚かされることもしばしばあるが私はそんな同居人が好きだ。もちろん、この単純な性格には良い面も悪い面も持ち合わせているがそれは仕方のないこと。人間、誰しも完璧な人はいない。表裏はっきりしているところこそが同居人の良いところなのではないかと私は思っている。

 

 さて、そんな同居人なのだが、最近はやたらと喜怒哀楽の「怒」の感情が激しい。常に何かに怒っており、最近だと彼女担当の政府高官相手に電話でIS装備の催促を怒鳴りながらするほどだ。

 同居人をそうさせてしまった原因は___とはいえ、ほぼ彼女の感情の起伏の原因といっても過言ではないのだが___同居人の片思いをしている相手、織斑一夏だ。

 唐変木、鈍感、朴念仁、シスコン、裏ボス。そんな二つ名が裏で呼ばれている人物だ。思い返してみれば、数日前に告知されたとあるイベントを境に、同居人の様子が変わっていった。

 

『全学年合同タッグマッチ』

 つい最近に起きた学園祭での襲撃事件のように、ISを狙った事件が世界規模で度々起きているらしい。このような事態を受け急遽、専用機持ちの練度向上及び、技術向上を目的としたイベント、という事で開催するそうだ。

 さて前回のタッグマッチでは、男同士という()()()()()()()()()一夏はシャルロットと組んで参加をしていた。だが現在、男は一夏しかいない。「同性だから」という言い訳を使えない彼を狙い、同居人はタッグマッチを組もうと迫った。だが、彼はあろうことかこう言ったという。

 

「俺、もう組む相手を決めているんだ、悪い!」

 

 他に組む相手がいる。

 その事実に同居人は落胆した。

 何故私を選ばないのか?何故私以外の人と組むのか?

 そして同居人は憤りを覚えたという。

 

 

 …そもそも何故一夏が同居人を真っ先に選ぶのかという確証なしに、そう思い込んだのは謎であるが、今はそんなことはどうでもいい。問題は一夏が組もうとしているパートナーのことだ。

 

 同居人が一夏に断られた数日後。学年内にとある奇妙な話が流れ始めた。

 

『織斑君が四組の女子生徒の尻を毎日追いかけまわしている』

 

 あの絶食系で、女子に何て興味を持たないはずの唐変木が四組の子に迫っているという話に私は耳を疑った。

 どういう風の吹き回しなのだろうか。そんなことを思っていたが、それは日が経つにつれて現実味を帯びてくる話へと変化してきた。唐変木にタッグマッチのパートナーになって欲しいと迫られている人物は、日本代表候補生の更識簪。今回のイベントの参加資格を持つ者だ。とどのつまり、一夏は見知っている専用機持ちを放っておいて、見知らぬ女子をタッグマッチのパートナーとして勧誘していたのだ。

 

 普通であれば、互いに知っている者同士でタッグを組むのが普通。彼であれば、パートナーの選択肢は選り取り見取りのはずである。雪片Ⅱ型と相性の良い赤椿をはじめとして、遠距離射撃でサポートが可能な蒼雫にラファール・リヴァイブ、中距離を得意とする甲龍に黒雨。どれも連携の取れるISばかりだ。しかし、わざわざ今まで交友関係のない人物をパートナーに選ぶなど、よほどの物好きではない限り選ばないだろう。どのような経緯があって四組の更識簪へ接触したのか、私はものすごく気になってしまった。

 

 だから、私は………直接彼へ聞くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで、更識簪を選んだ理由を教えてもらえません?」

 

 私は目の前にいる一夏へそう告げた。

 私の瞳に映る彼はひどく動揺していた。息づかいは荒く、私の耳にまではっきりと聞こえてくるほどだ。視線も私の瞳を見ずによそを向いていた。それほど知られたくないのだろうか。

 

「…分かった。クリスタにはこの事を話すよ。とりあえず、俺の首元に当てているナイフを退けてもらえないか?」

 

 仰向けに倒れ込んでいる彼は、私の右手に持っている訓練用のゴムナイフを見ながら答えた。

 

 

 

 

 格闘訓練が終わり、互いに制服へ着替えた後、私たちは一夏の部屋へと向かっていた。

 

「というか今更だけど、クリスタは本当に怪我治ったのか?結構遠慮しながら相手していたんだが…」

 

「うーん、どうでしょう。医者からなんとも言われていませんが、ナノマシン治療でヒビの入っていた手足の治癒は多分済んだと思います。今のところ痛みはないですし」

 

「…本当に大丈夫なのかそれ?」

 

 彼は先程よりも声をトーンを落とし、こちらをジト目で見る。

 現に、先程の訓練中痛みは起きなかった訳でそこまで心配する必要はないはず。動ければいいのだ。動ければ。

 

「心配性ですね、一夏は。それよりもさっきの話だけれど、何故部屋まで行かないといけないの?」

 

「…まあ、あれだ。色々と事情があるんだよ。それに落ち着いて話をするなら、俺の部屋が一番だし」

 

「色々か…」

 

 一夏は思い出したかのように私から視線をずらし、歩く方向に向いて話しながら、歩き出した。

 

 

 幸いにも専用機持ちに遭遇することなく、一夏の部屋へとたどり着き、早速彼の部屋へと入ることにした。見慣れた一年部屋の入り口を通り、奥へ進む。時刻は既に夕方となっており、部屋にはカーテンが閉められていた。

 

「あら、おかえり一夏君。今日は早めに…って」

 

「何で生徒会長がここにいるのですか?」

 

 目の前のベッドには、見慣れた人物がうつ伏せになり、雑誌を読んでくつろいでいた。いつもの制服にライトグリーンのベストを着ている楯無会長は体を起こし、何故人を連れ込んでいるのか、とでも言いたげな表情を浮かべこちらを見ていた。

 

「何でって言われても、ここが私たちの部屋だし…ね〜一夏君?」

 

「あー…クリスタ。楯無さんはよく俺の部屋に遊びに来るというか、気づいたらいるんだ。気にしないでいいよ」

 

「いやん、一夏君に無視された〜」

 

 体をくねらせている楯無会長を一旦無視し、私は一夏に従われるまま備え付けの椅子に座った。

 

 

 

 

「つまりゴーグルちゃんは、一夏君がいつもはしないような行動、簪ちゃんをタッグマッチのパートナーにしようとしている事に疑問を抱いたから、その理由が知りたいと?」

 

「そういう事になりますね」

 

 一夏に淹れてもらったお茶を飲みながら、私は楯無会長へとここへ来た訳を話す。どうやら、彼の行動には彼女が何やら関わっているらしく、話に食いついてきた。

 

「ねえ一夏君。この子にわざわざ事情を話さなくても良かったんじゃない?」

 

「うーん…。実はその、最近簪さんには無視されてばっかりで手詰まりだったし、同じ専用機持ちのクリスタに聞いたら何か手がかりが掴めるかもしれないと思ったんです。というか、クリスタ以外の皆が最近俺に冷たくて、意見を聞ける状況じゃなかったんですよね…。やっぱり大会前でみんなピリピリしちゃっているから、しょうがないのですけれども」

 

「…なるほど。まあ一夏君が簪ちゃんと組めるようになるなら願ったり叶ったりだから、この際は気にしちゃダメか」

 

 一夏の説得に折れたのか、ベッドに腰かけている楯無会長は少し考えるそぶりを見せつつも、その表情は先程よりも緩まったものになった。

 よっ、と言いベッドから立ち上がった楯無会長は閉じた扇子を私に向ける。

 

「それじゃあここまで首を突っ込んだからには、あなたにも一夏君に協力してもらうというのが条件だけれど、それでもいい?」

 

「…わかりました、協力しましょう」

 

 この人の関わっているということは、こうなってしまうことも織り込み済みだ。真相が分かるのであればどうってことはない。

 

「うん、よろしい♪あなたの仕事ぶりならもう知っているから安心だわ」

 

『感謝』と書かれた扇子を広げて、私に見せた楯無会長はそのまま言葉を続ける。

 

「私が一夏君に頼んだことは、私の妹の更識簪の専用機製作を手伝ってほしいっていうことよ」

 

 

 

 

 楯無会長の話はつまり、こういうことだ。

 楯無会長の妹である更識簪は日本の代表候補生。それなりに実力もあった彼女には専用機が与えられた。そのISの名は打鉄弐式。第二世代打鉄を進化させた、他国よりも開発が遅れていた日本発最初の第三世代ISだ。この打鉄弐式は未完成品であったものの、開発元の倉持技研と協力し、作り上げていく予定であった。()()()()()()()()()。そんな最中にIS界に衝撃を与えた事件が起きた。

 

 そう、()()()()()の存在が確認されたのである。何故男でもISを使うことができたのか、世間だけでなく業界からも注目が彼に集まった。そして真っ先に行われようとしたことが、データ収集だ。

 いくら研究を重ねても実現することができなかったIS操縦の謎。何故女性でないといけないのか、何故男性ではダメなのか。それを紐解く鍵になりうる織斑一夏という存在は、研究者、開発者にとってみれば非常に貴重で、大事なものだった。彼、織斑一夏が日本人ということもあり、日本企業の倉持技研はそのデータ収集に名乗りを上げ、彼に与える予定のIS、白式の開発を最優先事項として作業を進めたのだ。()()()()()()()()()()()()()()

 

 こうして、白式のために人員は割かれ、打鉄弐式を共に作り上げていこうという話は綺麗に水に流されてしまった。そして更識簪に残されたのは未完成のISと僅かながらの少ないデータのみ。企業に見捨てられた彼女は一人ただ黙々と打鉄弐式の完成を目指しているという。白式と見捨てた企業を恨みながら。

 しかし、ISは自由研究のロボット製作のようにそう易々と製作が行えるものでもなく、未だに完成の目処は立ってないという。

 

 

 

「簪ちゃんはさ、四組のクラス代表なのだけれども専用機が未完成だから、これまでの行事には一切参加していなかったのよね。夏の臨海学校の時も欠席していたし…」

 

 楯無会長はいつもとは違って覇気のない声で話し、お茶をすする。

 

「今回のタッグマッチにはもちろん、簪ちゃんにも参加するように言われていたのだけれども、今のままじゃ恐らく参加する気は無いわ…。だから、先生方も行事に一切参加しようとしない簪ちゃんに目をつけていて、今後何らかの措置を取るつもりなの」

 

「…だから、一夏に頼んでタッグマッチに参加させるように仕向けて、何としてでもISを完成させるようにしたかったと」

 

「そういう事よ」

 

「なら何故、貴女から妹さんに話をしないのですか?IS製作を手伝うとか」

 

「それは………」

 

 すかさず楯無会長へ疑問をぶつけると、彼女は言葉を詰まらせた。

 

「あー、実はなクリスタ。楯無さんと簪さんの姉妹仲が悪くてさ、そういうのは出来ないというか、上手く伝えられないんだ」

 

「なるほど、そういうことでしたか。深く聞き過ぎてしまい申し訳ありません」

 

「いや、気にしないで。何も知らないから当然よ」

 

 一夏のフォローで、触れてはいけない話題を聞いてしまったと気づいた私は楯無会長へ謝る。当の本人は半笑いで受け答えをしているものの妙にしおらしく、彼女はよっぽど妹との関係を気にしているようであった。

 

「それに簪さんは一人でISを作ろうとしているからさらに厄介なんだ。他人に手伝ってもらう事を頑なに拒んじゃう。楯無さんが一人でISを作ったと思い込んでいるみたいで、それに対抗して…」

 

「一人でISを!?というか、楯無会長ってIS製作をしたことがあるのですか!?」

 

 一夏の発言に私は思わず、声のトーンを上げる。

 何せISは精密機械の塊。生半可な知識や技術でISを作ろうなどしたら永遠に完成などしないのだ。IS学園でさえも実際にIS開発に触れるのは三学年になってからで、楯無会長が専用機をもらった時期を考えると少なくとも一年生の時にISを作った事になる。

 

「え?ああ、私がロシアの国家代表になった時に今のISを渡されたんだけど、それが未完成品だったからそれを組み上げただけよ。といっても薫子や虚たちの意見をもらいながらだけどね。それに七割方は完成していたのもあるわ」

 

「なるほど…あらかた出来ていたISをブラッシュアップした感じですね」

 

「そうね、そんな感じかな。それに作ったISはきちんと企業の人にも見てもらったし…。それと比べたら簪ちゃんの方がよっぽど凄いわ。四割も満たさない程の完成度のISを作り上げようとしているもの。PICやスラスターの制御から追加武装…。正にISを一から作り上げているのに等しいわ。本来ならその道のプロがやる作業を全部一人でやっているのよ。私を追い越そうとして…」

 

「追い越そうと……?」

 

 楯無会長はほとんど中身が残っていない湯呑みを両手で持ち、弄ぶ。

 

「そう、あの子はいつも私を追い越そうとしているの。小さい頃から私の後についてきて、私がやった事を真似て絶対に越えようとするのよ。料理とか編み物、それに華道…とにかく何でもね。昔っから変わっていないのよ、あの子。おっちょこちょいな所も変わらないけどね。私から勝負を仕掛けているつもりはないのに、あの子が勝手に対抗心燃やしてさ。お姉ちゃんを超えるって意地張って…。でも気づいたらあの子が私と距離を置くようになっちゃって…。いつからだろうね、あの子と面を向かって話をしたのは…。私は私、簪ちゃんは簪ちゃん。私と背比べをしなくてもいいのに…」

 

 彼女は顔を俯き、ただじっと手に持つ湯呑みを見ていた。

 彼女の言葉一つ一つには、昔の懐かしさや妹への思い、そして哀愁で満ちていた。

 

 

 

「兄弟ってそういうものだと思いますよ」

 

 突然の声に楯無会長ははっと驚き、どういうことと一夏へ聞いた。

 

「俺も末っ子だからわかるのですけど、やっぱり上の兄弟と比べたくなるものですよ。特に何かが秀でているなら。楯無さんは勉強も出来るし、ISに関しては国家代表でトップクラス。生徒会の仕事もテキパキこなしていて、正に完璧な人って感じで。俺も上兄弟が千冬姉だから結構苦労したんですよ」

 

「織斑先生で?」

 

「ええ。千冬姉も楯無さんみたいに文武両道で、小さい頃から千冬姉は俺の憧れであり目標みたいなものなんです。最初は千冬姉みたいになりたいって思って千冬姉がやっていた剣道場に行ったぐらいですし。でも、頑張れども千冬姉には勝てる部分は全くなくて、結構劣等感は感じていました。まあ、最初の頃の話ですが」

 

「今はどうなの?」

 

「うーん。千冬姉にもできない部分があるって気づいた時には、じゃあそこを強みにしようと思って考え方を変えましたね。年の差が大きいっていうのもあるんですけど、俺は結構千冬姉に守られてばっかりだったんです。何つうか親代わりというか保護者の立場で。だから、俺はいつもそれが嫌でいつか俺が千冬姉を守ってみせるって張り切っていたんですけど、今は千冬姉にはできないところから千冬姉を守って見せるって思っています。いつかは俺が千冬姉を守るって決めているんですけどね」

 

「そっかぁ。一夏君ってホント織斑先生が好きよね」

 

「そうですか?家族だし、普通だと思いますけどね」

 

 一夏とのやり取りで楯無会長は口に手を当てて、クスクスと笑う。表情も少しずつ笑顔も戻り、いつもの会長になりつつあった。

 

「湯呑み、片付けますよ」

 

「ああ、ありがと」

 

 飲み終わった湯呑みを一夏へ渡し、ベッドに戻った楯無会長は私の方を振り向く。

 

「ねえ、ゴーグルちゃんって確かお兄さんがいるよね。どう?やっぱり昔からお兄さんと競ったりした?」

 

 この人なら私のプライベートの事も調べ上げているだろうと思っていた私は、特に驚きという感情は生まれなかった。

 

「昔ですか?そうですね…」

 

 ふと私は兄について思い返してみる。

 私には6歳年上の兄がいる。今は企業に勤めている真面目なサラリーマンだが、昔はヤンチャな悪ガキだったと聞いたことがある。聞いたというのは私が物心つく頃には、兄は学校の寮住みで普段は家に帰ってきていなかったからだ。会えたとしても、私にちょっかいを出すくらいだ。正直に言ってしまえば、私が兄について思う事はあんまりない。

 

 物心つくと言っても私には中等教育を受けていた以前の記憶が曖昧で、寮に入る前の兄の記憶は思い出せないのだ。それこそ、幼い頃の私はどんな子だったかなんて知る由も無い。だが不思議と昔の事は思い出せなくても何とも思っていないし、知ろうとも思わない。

 

 

「…そうですね。私の兄は能天気なやつなんで私は何とも思っていませんでしたね」

 

「ふーん、そっかぁ。まあ人それぞれだし必ずしも同じじゃないよねぇ」

 

 私の取り繕った言葉を信じたようで、楯無会長はぐっと背伸びをするとそのままベッドに背中から倒れこんだ。

 

「………楯無さん何やっているんですか?」

 

「何ってそりゃ、一夏君の匂いがするからそれを堪能しているの」

 

「…そりゃここは俺の部屋ですからそうですよ。というか、変なことしないでください!」

 

「いいじゃーん、減るものじゃないんだしー」

 

 湯呑みを洗い終えた一夏は、ベッドでゴロゴロとごねる楯無会長のあられもない姿にため息をつき、まあいいかと最終的に諦めた。

 

 

「…二人ともありがとね」

 

 ふと、体を起こした楯無会長は神妙な面持ちになり、感謝を言葉にした。

 

「何ですか、急に?」

 

「私、ちょっと気を張り詰めすぎたみたい。気持ちが楽になったわ」

 

「…まあ、誰しもそうなっちゃう時はありますよ。とりあえず、俺が何とかして簪さんにタッグマッチのパートナーとして認めてもらわないと…」

 

「…そうね。所で簪ちゃんの様子はどうなの?」

 

「いやぁ、叩かれました」

 

 一夏は頭に手を当てて、半笑いする。

 そりゃ、知り合いではない男に言い寄られたら手を出してしまうのも分からなくもない。

 

「え!?あの子そういう非生産的な行動にはエネルギーを使いたがらないはずなんだけど…」

 

「それだけしつこかったということなのでしょう。これまで迫ってみて何か賞賛はつかめそうなの?」

 

「いや、これっぽっちといって。何かいいアイデアないかな、クリスタ?」

 

「話を聞く限りでは、IS製作は1人で行いたいという強い意志がある以上、製作を手伝うという選択肢はまずないかな。でもこのままでは、タッグマッチまでに間に合わないのは目に見えている。やれることは、簪さんにあなたがタッグマッチのパートナーとして認めてもらい、IS製作を急かしていく以外に方法はないでしょう」

 

 現状、やれる手立てはこれしかないのだ。

 いや正確に言えば一つだけ強硬手段は残っている。それは、彼女にこれまでの真実、今置かれている状況を伝え、タッグマッチ参加のためにIS製作を手伝うというものだ。だがただでさえ姉妹関係、そしてIS開発に関して彼女は精神的ダメージを受けているはず。これ以上彼女を追い込んでも依頼主の楯無会長はそんなことを望まないだろうし、その事実をそのまま彼女が受け止めるとは分からない。

 

「やっぱ、そうなっちゃうかぁ…。どうすりゃいいんだよ…」

 

 望んでいた答えを導き出せなかったからか、一夏は髪の毛を右手でがしがしと乱暴にかき乱す。

 

「でも、一夏ならきっと彼女にタッグマッチのパートナーとして認めてもらえるよ」

 

「どこにからそんな自信が湧いてくるんだよ…」

 

「うーん…女の勘かな」

 

 私はわざとらしく、人差し指を立ててウインクをした。

 

 

 

 

 

 

 


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