なあ、弾。シンデレラってどんな話か覚えているか?
普通シンデレラって言われたら貧しい小間使いだったシンデレラが一国の王子と結婚する話だろ。でも本当は違うんだぜ。ほら、童話ってさ原作の話は色々と大人の都合で世間には出せない内容だからそれを変えて世間に出回るって話聞いたことあるだろ。
シンデレラもそうなんだよ。本当のシンデレラっていうのはな。
一国の王子が
すげぇだろ?前者なんかどっかにいる山賊がやりそうなことだろ?でも、そうやって武器を振り回してくるのがシンデレラなんだ。こうして王冠を狙う。ホント、恐ろしい話だ。
しかもな、王冠は絶対に頭から放しちゃいけない。そりゃ、一国の王子だし国の事が大事なんだ。王冠に隠されている大事な情報を
もう何が何だか滅茶苦茶だろ?俺も良く分からない。でもこれが本当のシンデレラなんだ。んでな、俺が今演劇でその王子役をしているんだぜ。すげぇだろ?
だからよ、お前の学校祭の出し物の内容がおかしくって笑ってすまなかった。きちんと学園祭を案内できなくてごめん。
だから、さ。こんな俺を助けてくれ……。
「うぅ…」
重たい瞼を開けると視界に白銀のドレスを着ているシャルが俺を心配そうに見ていた。
「大丈夫?一夏?」
その時、俺はなんで意識を失っていたかを思い出した。そう、俺はシャルをかばってセシリアと鈴の猛攻を防いでいたら崖から落ちて…。
そして、俺はすぐさま何をしなければいけないのかを思い出した。そう、走り出さないといけないのだ。
「じゃあな、シャル!」
「ええー待ってよー!」
後ろでシャルが俺に向かって叫ぶがそんなのお構いなしに俺は脱兎の如くその場から逃げ出した。
事の発端はご奉仕喫茶で働いていた時に楯無さんがやってきたことから始まる。
生徒会主催の演劇に協力しなさいと言われた俺は接客中にも関わらず、半強制的に演劇を手伝わされることとなった。連行された俺は装飾の派手な青いジャケットに白いパンツ、そして金色に輝く王冠を身に着けさせられた。そして俺がシンデレラの王子役であること以外は一切教えられぬまま、演劇の会場である第四アリーナに作られた巨大な舞台に一人取り残された。
楯無さん曰く、台本のないアドリブの劇だから安心して、とのことらしいが蓋を開ければそれは演劇ではなく俺一人のサバイバルゲームだった。執拗に俺の装飾品である王冠を狙い青龍刀を振り回す鈴、そしてどこからか狙撃をしてくるセシリア。そんな彼女らから武器を持たない俺はとにかく逃げまくった。
途中でシャルに会い、彼女の持つ盾で一時は助かったものの彼女も俺の王冠を狙うシンデレラの一人だった。そもそも頭から王冠を外すと体に電撃が走るというまるで呪われたアイテムである王冠をシャルに渡すわけにはいかない。一瞬だけ味方がいたのだと喜んだもののそれは間違いだった。崖まで追いやられた俺たちは、鈴の投げた青龍刀によってシャルの盾は壊された衝撃で、崖から落っこちてしまい俺は意識を失っていたのだ。
「はぁ…さすがにここまでくれば…」
俺は近くに見つけた塔に登っていた。
さすが一ヶ月間第四アリーナが使用禁止にされていただけはある。立派な舞台が出来ているものだな、とつかの間の休息に俺は感銘を受けた。
普段は土のグラウンドしかなかったこのアリーナには、まるで一つの国が出来ていた。広い庭付きの城エリアと、その後ろに広がるゴツゴツとした大きな岩がある砂漠地帯。どれも実際にあってもおかしくないものばかりだ。それに、舞台に出来ているのはどれも石でできた建物ばかり。特に、俺が先程までいた城なんて今だからこそ思えるがかなり立派なものだ。
俺は塔の周囲を巻くように作られた螺旋階段を登りながらこれからの逃走について思案していた。楯無さんのナレーションによって始まってしまった、俺だけのサバイバルゲーム。武器もなく、あるとすればそこらへんに転がっている石くらいしかない。だが、そんなものでは刃物や銃を使ってくる
これからどうしようかと思いながら塔の頂上へとたどり着くと、突如その場がライトアップされて塔の上に何がいるかがはっきりと見えるようになった。
「待っていたぞ!」
「王冠は私がいただく!」
「げっ!」
そこには二人のシンデレラが俺の事を待っていた。
一人は日本刀を手に持つ箒。そしてもう一人はタクティカル・ナイフを両手に携えるラウラだ。よりによって、俺の知っている中での武闘派が集まってしまった。
相手の手には凶器があり、今俺の手には絶望が握られている。こんなものじゃ勝てる気がしない…。
「一夏、覚悟!」
シンデレラではなく、もはや武士と化している箒が俺へ近づいていた時だった。
「待て、箒!」
突如、何かに気づき歩みを止めたラウラが箒へ叫ぶ。ラウラの叫びに反応した箒は上空に視線を動かして俺へ近づくのを止めてしまった。
上なのか?
二人に倣い、頭上を見上げるとそこには何かがこちらへ降ってきていた。いや、落ちてきていた。
「何だ!?」
それはくるくると空中で回転すると、すとっと俺の目の前に着地をする。それは人だった。
その姿はまるで忍者のような恰好であった。藍色の布の生地の服を身にまとい、太ももには短剣の鞘が巻き付けられ、首周りには同じ色のマフラーが巻き付けられていた。ついでに頭にはゴーグルが巻かれていた。
「けがはない?一夏?」
ポニーテールにされたプラチナブロンドが揺れ、聞き覚えのある声が俺の名前を言った。
「く、クリスタ!?」
その人物は二組のクリスタだった。いつも見ない格好をしていたため気がつかなかった。というか何でそんな恰好なんだ?
「貴様、どういうつもりだ!」
箒は突然現れたクリスタに憤慨する。傍から見れば完全に悪役である。
「武器を持たない王子様にニ対一で襲おうなんてちょっとやりすぎじゃないと思ってね。これで対等でしょ?」
彼女は太ももから短剣を二本抜いて構える。よくよく見てみると、それは練習用のゴムでできたナイフだった。
「邪魔をするなら、先にお前から倒す!」
箒は刀を構えると、クリスタへと近づく。
「そこを、どけぇ!」
箒は居合いに見立てた刀を中腰に引いて構え、クリスタへ素早い右切り上げを放つ。その構えは俺が知っている『一閃二断の構え』だった。
姿勢を崩さずにいたクリスタはその斬撃を後ろへ下がることによって躱す。
だが箒の攻撃は止まらない。振り切った刀をそのまま上段に構えて振り下ろす。そのあまりに早い動作に、クリスタは両手に持つゴムナイフを交差させることにより刀の攻撃を阻んだ。
クリスタはそのまま箒を押し返し、よろめいたところを回し蹴りで反撃をした。的確に刀の持つ右手を狙ったそれは箒が左腕でかばった。すると両者は互いの距離を離す。
初見で箒の攻撃を防いだクリスタに見とれていると突然クリスタがこちらへ向いて叫ぶ。
「何ぼーっとしているのですか!逃げてください!」
そこで俺ははっと我に返る。そうだ、元々はクリスタが現れたのも俺をかばうため。刃物を持っている二人から一刻も早く逃げ出さないといけない。
「嫁ならば、さっさとそれを渡せ!」
クリスタが箒の相手をしているということでラウラがナイフを両手に、俺へと走り寄って来ていた。
ここまできた螺旋階段を降りて逃げようと思ったその時、上空にいくつものピアノ線に滑車のようなものが張り巡らされていることに俺は気が付いた。
「あばよ、ラウラ!」
それを見た瞬間俺は塔から飛び降り、滑車に捕まるとそのまま近くにある城の方向へと勢いよく降りて行った。
「何、卑怯だぞ!」
後ろからラウラの抗議の声が聞こえてくるがそんなことは、今はいい。今は俺の身の安全が第一だ。
滑車でそのまま乗った俺は城の屋根の部分に降りた。
とりあえず箒とラウラは大丈夫だとして、後は撒いているはずのセシリアと鈴、そしてシャルをどうにかしないといけないな。
『さあ今からフリーエントリー組の参加です!皆さん!王子様の王冠目指して頑張って下さーい!』
ふと安心したのもつかの間、楯無さんがそのようにナレーションを入れる。
「はあ?」
フリーエントリーだって?
するとどこからか大きな地響きが聞こえ、気が付くと俺のいる屋根の周囲には多くの女子生徒がいた。
「織斑君!大人しくしなさい!」
「私と幸せになりましょー王子様!」
「王冠をちょうだい!」
俺に迫りくる女子たち。中には一組の人もちらほらと見かけた。って悠長に観察をしている暇なんてない。俺はすぐさま屋根から飛び降りて身を隠せる場所を探し始めた。
どこか…どこかに…。
走れども見晴らしのいい城の庭には隠れられる場所なんてなかった。どうにか見つけないと。後ろからは大きな地響きが聞こえてくる。
目を皿のようにして周囲を見ていると突如、足が何かに掴まれた。
「おわぁっ!」
そしてそのまま視界が地面へと近づいていき、地面に吸い込まれる。何者かによって引っ張られた俺が目にしたのは木や鉄で作られた演劇舞台の骨組みだった。
「さあ、こちらへ。」
演劇舞台の下側に連れてこられた俺は、とりあえず足を掴んだその人物の言葉に従い舞台セットの下を潜り抜けていく。しばらくついて歩いていくと、見覚えのあるロッカールームにたどり着いた。
「ここなら見つかりませんよ?」
「はあ…はあ…」
先程までの疲れがどっと押し寄せ、息を整える。そして俺の足を掴んだ張本人に目線を動かした。
「どうも…あれ?どうして巻紙さんが?」
そう、そこには喫茶店で会話をしたばかりの巻紙さんがいた。見たことのある笑みを浮かべながら、彼女は話し始めた。
「はい、この機会に
私は走っていた。
力強く踏み切るときになる音と自分自身の荒い息づかいが光に灯された無機質な白色の廊下にこだまする。目指すべき場所は、『IS学園地下特別区画 保管庫』だ。
遡ること一時間ほど前。
IS学園への入場者のチケットの確認をし終え、生徒会主催の演劇のために、校内には生徒の姿をあまり見ない学園内を巡回していた時の事だった。
「布仏さん!!」
私の名前を呼ぶ声の方を振り向くと風紀委員の腕章を付けた生徒がいた。
「その、先生が倒れていて…!」
風紀委員の後をついていくと現場には意識を失い、倒れている先生がいた。意識のない先生の脈を測ると、生きていることがすぐにわかった。
「意識を失っているだけね」
「…そうでしたか」
風紀委員の子はほっと胸をなでおろす。
「布仏さんすみません…私動揺しちゃって…どうすればいいかわからなくって…」
「まず落ち着きなさい。他の風紀委員を呼んで、先生を医務室に運びなさい。私はこのことを先生方に報告するわ」
「わ、わかりました」
携帯電話を使い、誰かに呼びかける姿を見て、私は走り出す。そして、すぐさま治安維持担当の先生方へ連絡を取った。
「布仏虚です。大至急、地下にある無人機の部屋を調べてください!」
お嬢様は、今回の学園祭で必ず騒動が起きるだろうと予測を立てていた。何せ襲う理由は山ほどあるのだ。特に白式は
だが、IS学園には狙われるような格好の餌はまだある。お嬢様は万全なセキュリティの下ではその可能性は低いと織斑一夏よりも優先度を下げるとおっしゃっていたが、今回ばかりはそういかないようだ。
IS学園地下特別区画。
ISを取り扱う唯一の教育機関として知られるIS学園は
そしてその地下には、あの無人で動いていたISが今なお保管されている。国際IS委員会の指示で保管されているもののいつ狙われてもおかしくない状況であった。
そして意識を失っていた先生の首には地下への入り口にもなるIDカードがぶら下がっていなかったことを確認した時に、私の頭にとてつもなく嫌な予感がよぎった。お嬢様は今、第四アリーナで織斑一夏の護衛についている。こうなれば、私が食い止めるしかないのだ。
地下の扉を開けた私は独房室を潜り抜け、各種設備に繋がるエレベーターのある通路へと走って行った。
通常ならば監視カメラによって
通路を右に曲がり、はるか遠くにエレベーターの扉が見えてきた。口の中が乾きながらもつばを飲み込み、さらに走るスピードを上げる。
その時だった。
エレベーターが動いている…?
扉の上についているランプが下から上へと動いていたのだ。
誰かが乗っている…!
エレベーターの遠くで私は歩みを止めた。
学園祭では通常ならば一般の人は入場出来ないようになっている。だが、例外として生徒に配られる「招待券」と協賛企業への「招待状」があれば話は別である。その限られた人たちが学園へ来ているもののとてもではないがその人数は多く、入場口では招待券等の確認をしていただけで精一杯でだった。来場者全員に金属探知器を通過させてはいたが詰めが甘かったと私は今更ながら後悔した。
ISが二機並べるほど広い廊下に私の上がる息の声がこだまする。段々と今いる階へ近づいてくるエレベーターに私はただ、遠くでその様子を見ているだけだった。
ちん、というエレベーター特有の効果音が廊下に響き渡り、エレベーターが私のいる階に止まる。
胸の鼓動がはっきりと自分の耳に聞こえ、思わず太ももにしまっている護身用のナイフに手を当てる。
エレベーターの扉が開かれる。その中にいたのは……。
一人の男だった。
黒い髪に黒いスーツ。眼鏡をかけ、日本人よりかは外国人の血が流れていそうなその顔つきに私は見覚えがあった。
相手は目の前に私がいることに驚いたようで、思わず歩みを止める。
「おお、こんな所にIS学園の生徒さんが!いやー助かり…」
「ここは関係者以外立ち入り禁止ですよ、『みつるぎ』渉外担当の泡河俊さん」
エレベーターから出て陽気にふるまうその姿はある意味私からすれば異様だった。私によって言葉を遮られ、じっと押し黙ると彼はお辞儀をした。
「それは申し訳ない。俺、実は好奇心旺盛な方でして…。地下への入り口を見た瞬間に思わずその衝動が抑えきれなくなったのですよ」
顔を上げ笑顔で彼はそう答えた。
「私をバカにしているのですか?扉には立ち入り禁止と書かれていたはずですが、大の大人が常識をわきまえない行動をするなんて」
「とんでもない、あなたをバカに何てしていませんよ。俺は差別をしない主義なので」
身振り手振りを使い彼は大げさに表現した。
「よく、企業の人間になれましたね。聞いてあきれますよ」
「全くの正論に完敗です。認めましょう。それはそうと、出口まで案内してもらえません?あまりに広い空間に迷ってしまって」
「そこで止まりなさい!」
オーバーリアクションをしながら私へ近づこうとする彼を私は太ももに手を当てながら止めた。
「どうしたのですか?」
「これからあなたの身柄を確保して事情聴取されてもらいます。あなたはどうやってここに入ったというのですか?そもそもあなたがここにいることはおかしなことです。この空間は普通ならば…部外者は入ることが出来ません。それに教員と一部の生徒以外が侵入すると通報されて、直ちに通路にはシャッターが…。」
「どうやって?そりゃあ、これを使ったからだよ」
すると、彼は懐からIDカードを取り出す。
「それは……!」
そのカードには女性の写真と『榊原菜月』という名前が書かれていた。それを見た瞬間、私は彼を睨んだ。
「やはりあなたが…!ここがどこだかわかっているのですか!?」
「ああ、もちろん知っているよ。世界の頂点に君臨し、常識を覆した”IS”を未来ある若者へ教育する場のIS学園ってね」
「ならなぜ…」
「そもそもさ、人の常識って儚いものだよね。君もそう思わない?」
「はあ?」
あまりも唐突すぎる会話をし始めた彼に私は思わず聞き返した。
「いや、まあね。つまりはISってすごいなあという話さ。初めてISがMs.束によって学会で発表された時に聴衆者たちはみんな腹を抱えて笑ったそうだ。『そんなことありえない』『子供が絵に描いたような作り話をしても話にならない』ってね。そりゃそうだよね、実際にその場にはISを用意しないで理論だけをペラペラ言っただけだもん。今じゃあ”常識”だけれどもシールドエネルギーやPICという概念はその当時の人たちにはなかったのだ。当然だよね。僕もきっと説明をされても分からなかったと思う」
唐突に語り始めた彼に私は困惑した。一体何が目的なのだろうか?時間稼ぎ?それとも増援を呼ぶために?だが、既に地下への入り口は封鎖されているはずであり、新たに人がやってくる可能性は低い。もはや袋の鼠だ。
さらに、今の彼は両手に何も持たなっていない身一つの状態である。とてもではないが、無人機を奪っているようには見えなかった。それもそのはず、彼は無人機の情報のパターン31に飛びついてやってきた輩。無人機がどこにあるか初見ではわからないのだ。となると失敗したという可能性も考えられる。なら彼の目的は一体何なのだろうか?
「だが人類は知ってしまったのだよ、ISというご馳走の味に。それを初めて味わう人類にとってそれはそれは、美味しかったのだろうね。もう骨までしゃぶり尽くすくらい夢中にさせる味を人類は忘れることが出来なかった。君も美味しかった料理の味は覚えているだろう?もし忘れていても大丈夫だ、君の体がきちんと覚えている。そして、欲深い人類は一度美味しいと感じたものをもう一回、もう一回と何度も食べ続けるだろう、例え
トチ狂ったという言葉がまさにこれのことなのだろうか。
彼は私に向けてまるで、子供が自信満々に自らが持つとびきりの知識を親兄弟にでも披露しているかのように楽しげに話しかけてきた。その行為に私は悪寒のような寒気が体に走る。
「そして世界は変わったんだ、それまでの常識を捨て去ってまで。ISに乗れるというだけで男と女の立場は逆転。"レディファースト"だかって言葉があったらしいけれど今じゃあ全く聞かなくなったね。そりゃまあ、女が先を行くのは当たり前になったんだし当然だよ。世の中はISを扱いたいがために女を持ち上げた結果が今の世の中さ。でも何だか、ISを使いたいがために上の人たちが女を利用しているようにも僕は思うけれどね。だとしても、君みたいなIS学園に入学出来た生徒は幸運だね、今の社会だとどこへ行っても歓迎してくれるよ」
「……」
彼は息つぐ間も無く、喋り続ける。
「そして絶対にありえないと豪語していた研究者たちは手のひらを変えたようにMs.束にごまをすり、戦車や戦闘機は鉄くずと化し、当時世界のパワーバランスの要であった
あまりにも気味の悪い長々と話していた話が続く中、私の耳に付けている通信機から反応があった。
『布仏さん!大変です!無人機のある部屋への何者かによって侵入されたという痕跡が確認されました!恐らくその侵入者によってだと思います。現在、無人機のある部屋までのルートを辿って先生方が捜査しています!あなたも侵入者を注意して下さい!』
私は山田先生の言葉に耳を疑った。既に侵入されていた、つまりはコアは盗まれていたのだ。ならば共犯者がいるのだろうか?そのために私を足止めに?私の中には新たに浮かぶ疑問が現れ、心の中を乱していく。
「常識も所詮は集団生活の中でしか生きていけない人間に必要な、統一意識を持たせるために作り上げられた脆くて儚い先入観。今まで誰もが否定するような”非常識”だとしても、誰かがその"非常識"と思っている事がいかに素晴らしいかが他人に共感されてそれが波のように同じコミュニティ内で広まっていけば、やがて誰しもが当たり前と感じる”常識”になる。って僕は思うんだ」
彼は、激しい運動した後のように何度も何度も大きな呼吸をした。よくここまで話し続けたものだ。
「こんな長々とした話を…」
「そうだ!せっかくだから、IS学園の生徒である君の意見でも聞いてみようか。君にとって常識ってなんだと思う?」
彼は笑顔で私に問いかけた。
「…無言みたいだね。せっかく他人の意見を聞けるいい機会だと思ったけれども、時間になってしまったよ残念」
隙を見せないようにと無言を貫き通していると、彼は残念そうに肩をすくめた。
ふと、後方からISの移動している音が聞こえてきた。振り返ると、緑色のラファール・リヴァイヴを身にまとった教師の人たちがいた。
「布仏さん、後ろに下がって!後は私たちが!」
武器を手に展開させながら一人の教師が言い、教師の後ろに私は移動して距離を置く。
「いやー、さすがIS学園。ラファール・リヴァイヴをこうも生で見られるとは思いませんでしたよ。豪華なお出迎えですね」
「あら、それは光栄ね。不法侵入者さん。武勇伝にでもしてちょうだい」
状況を把握出来ていないのか、それとも元から可笑しいのか定かでないが、彼はおどけながらも降参のポーズよろしく両手を高く上げる。
「それにしても、IS学園の人って過激ですね。俺を地上に戻すのではなくて、その場で殺すなんて」
彼は自分に向けられているラファール・リヴァイヴの手に持つ銃を見ておどける。
「あら、そんな非人道的なことしないわ。このトリモチはあなたに怪我をさせるようなものじゃないから安心して。それに、あなたの言う通りこんな狭い所で立ち話をするよりは広い地上に戻った方が良いじゃないかしら」
「おおそれはよかった」
両手を上げる彼はなぜか安心しきった表情をした。
「はっ、随分と頭のねじがイカレてる野郎じゃんか。ここはIS学園だ!お前みたいなヘラヘラ笑っている何も出来ない男がノコノコやって来るような場所じゃないんでね!相手にするのが間違ったな!」
もう一人の教師がそう言うと、トリモチ弾を彼へめがけて発射した。対人用に作られ強い粘着質を持ったトリモチが彼の体の自由を失わせ、そのまま整形し地上へと運ばれ、一件落着となるはずだった。
…そう、はずだった。
彼の体にはトリモチは全く着いていなかった。それもそのはずだ。何せ
「感心しませんね、そのような態度は」
私たちはあまりにも非現実的な光景に言葉を失った。
「教師であろうお方が来賓にそのような応対をするのは良くありませんよ。まあ、あなた方が教えてくれた地上へのルートは確保したので帰らせていただきます。
私たちの耳には何も情報が入ってこなかった。ただ、視覚情報だけが私たちの脳に行き届いていた。
彼の右腕には赤黒い装甲が取り付き、右手には緑色に光る大きな剣が握られていた。剣の持ち手に付いているコードはそのまま彼の背中にある大きくも美しい竜の鱗のようなものががいくつも重なったかのような羽根に続いていた。
彼は、まるで……
小説を描くにあたってまず最初にこの場面が思いつきました。