神様なんかいない世界で   作:元大盗賊

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ゴールデンウイーク終わりましたねヾ(・_・)


第21話 綴られた脚本のままに

 いよいよやってきた学園祭当日。

 夜中まで降っていた雨は朝方には止み、天気は見事に晴れ。絶好の学園祭日和といったところだろうか。蒸発した雨が空気をもやもやとする蒸し暑い朝を迎えながら二組では開催時間に向けて催し物の準備に追われていた。

 

 二組の教室内はまるで異国の店のようにその様子は変化を遂げていた。

 部屋全体は主に赤と黒の配色に染められ、廊下から見てもとても目立っていた。今回のために用意したというこげ茶色の木の椅子と四角いテーブルは綺麗に並べられる。壁には中国の伝説上の生き物の龍の絵が飾られ、所々に意味は分からないものの中国語で書かれた文字が額縁に入れられていた。

 そう、誰が見ても分かるように二組では中華喫茶をやるという事で満場一致だった。喫茶店といえば大抵のクラスは単にお茶を飲むところで終わっているが私たちの場合、お茶はあくまでもオプション。看板商品は中華デザートだ。実家で中華料理屋をやっていたという鈴の意見を参考にしつつ、ごま団子、杏仁豆腐、マンゴープリンなどの代表的なお菓子がメニューに並ぶ。教室内に区切られた厨房から甘い香りが漂う中で私は最終の打ち合わせに参加していた。

 

「……本当にこの格好をしないといけないのですか?」

 

 

 

 

 チャイナドレスを着ながら、だ。

 

 

 

 

「何謙遜しちゃっているのさクリスタ! 似合っているよ~」

 

「ちょっと露出が多いような……」

 

 これを用意した張本人(玲菜)へと目で訴える。

 

「それがまたいいのだよー! もぅかわいいなぁ~」

 

 だがそれは逆効果だったようで、制服姿の玲菜は口元をにやけさせながらこちらへ向けてカメラのシャッターを切った。

 

 中華喫茶をやるからには、という玲菜のアイデアのために用意された白色のチャイナドレスは私にとってみれば恥ずかしいものだった。

 ノースリーブタイプのチャイナドレスで大胆にも背中部分に上は肩甲骨周り、下は腰までの範囲に大きな穴が開いており、背中は後ろから見えるようになっている。スカートのサイドスリットはこれもまた腰の部分の所まで入れられており、太ももは完全に露出するような設計になっている。ヒールとシニョンと呼ばれる髪型をするのは許せるが、服装については何とも複雑な心境である。

 

「まあまあ、クリスタってあんまりこういう大胆な格好ってしないしたまにはいいんじゃない?」

 

 不満げな表情をしていると、いの一番にチャイナドレスを着たいと言っていたティナ・ハミルトンが私の肩に手を置いた。

 

 

 

 チャイナドレスを着る人は主に外国人勢と自推した日本人で構成されている。なぜ、外国人勢が強制させられるかと理由を問い質したが、これも戦略のうちよ! そのほうが萌えるじゃない! と軽く一蹴させられた。

 ちなみに玲菜は隣の一組で一夏とのツーショット写真を撮る担当をする。これは正式に新聞部へ寄せられた依頼らしい。写真を撮るなど、もはや新聞部ではなく写真部であるが当の部員たちはあまりそのような事は気にしてはいなかった。当然、私にも新聞部での仕事が回ってくるのだろうと思っていたが、そのような事はなかった。いつもなら何かはやってもらっていたために違和感を覚えたものの特には気に留めなかった。

 

「それじゃあ確認するけれども、振り分けた時間ごとに学園内でのビラ配りと接客をやっていきましょ。各自自分の担当する時間は間違えないようにしてね」

 

 赤いチャイナドレスを着た鈴が皆へ最終確認をする。着慣れているのか、気にしていないのか定かではないが、彼女はいつもの調子で話を進めていく。

 

「最初にビラ配りをするのは、あやとクリスタね。最初が肝心だからお願いね」

 

「うん、鈴ちゃん任せて!」

「ええ。任された以上はきちんとやり遂げますよ」

 

 ティナの言う通り、たまにはこういう格好をするのもいいか、と私は割り切った。

 

「それじゃあ皆! 気を引き締めていこう!」

 

「「「おー!」」」

 

 クラス長の号令の下、準備をしていたクラス全員で声を上げる。

 

 

 

 

 午前9時30分。

 IS学園祭が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ……織斑くんって料理得意なんだー」

 

「さようでございます。大抵の料理ならば作ることが出来ます」

 

「ねぇねぇ、織斑先生って家でもあんな感じなの?」

 

「それはノーコメントとさせていただきます」

 

「えー! けち~」

 

「お客様、ただいまを持ちまして『湖畔に響くナイチンゲールのさえずり』は終了となります」

 

「あらもうそんなに時間がたったんだ。おしゃべりできて楽しかったよ、織斑くん!」

 

「御指名いただきありがとうございました。お嬢様」

 

 

 

 

 俺たち一組のご奉仕喫茶は朝から大盛況で、学園祭開催から大忙しだ。特に俺の場合は、接客に加えて『織斑君との写真撮影』という特別オプションで写真を取られないといけない。休む暇もないくらいに俺のご指名が店内に響き渡る。

 中学の時にアルバイトをしていただけあって、多少は接客にも慣れていたことはここにきて幸いにも役立っていると思う。メニューに書かれている小難しい商品名や決められたセリフを言うことも難なくこなすことができた。

 ただ一つだけこのご奉仕喫茶について不満に思うことがある。

 

 

「はい、織斑君! あーん」

「あーん」

「きゃー! いいなあリツ! どう? やってみた感想は?」

「なんだろう、こうゾクゾクしちゃうね。何か目覚めちゃいそう」

「それじゃあ、今度は私の番ね! はい、あーん♪」

「あーん」

 

 

 

 お菓子でお腹が満たされてしまうことだ。

 

 このご奉仕喫茶のメニューには、俺という共有財産をみんなで分かち合うために通常より高めに設定されている価格で『執事にご褒美セット』というものがある。内容は執事である俺にお客さんがお菓子を食べさせるというものだ。最初の利用者の鈴を皮切りにその様子を見ていたお客さんが次から次へとこの『執事にご褒美セット』を注文していっていた。

 普通だと店員が接客中に食べ物を食べるなど、失礼極まりないことだが意外や意外好評であった。確かに接客中は立ち仕事で休む暇なんてない。それに加えてお腹も空いてくる。端から見るとお菓子を食べられるなんて楽な仕事だと思ってしまうだろう。

 

 だが、考えてみてほしい。2種類しかないお菓子を休む暇もなく延々と食べさせられるのだ。口の中もお腹もポッ〇ーのチョコの味と〇リッツのサラダ味で満たされていた。既に数十本は食べているだろうか。お菓子でお腹いっぱいになるという感覚に慣れていない俺にとっては不思議な感じだ。しばらくは、のほほんたちとのお菓子を食べる会には参加を遠慮させてもらおう。そう、心の中で思った。

 

 

 

「織斑くん! 次は8番席にお願い!」

 

「了解」

 

 先程の執事にご褒美セットを終え、俺は次に待つお客さんの所へと向かう。俺を指名しているお客様が後を絶たないから休む暇もない。

 

 

 

「ね、先輩。この方が手っ取り早いって言ったっしょ?」

 

「ええそうね。それにしても貴方はもう少し口の利き方を直してもらえないかしら?」

 

 そこにはきっちりとしたスーツ姿の男女がいた。

 

 

 

「それでは、『湖畔に響くナイチンゲールのさえずり』を始めさせていただきます」

 

 俺は一礼して、注文された紅茶をお客さんの前に置く。そして彼らの向かいにある椅子に座った。

 

 湖畔に響くナイチンゲールのさえずり。

 端的に言えば、お客様と俺が時間の許す限りおしゃべりをするというものだ。数あるご指名セットの中で楽な部類に入るものである。

 ……何せ俺も茶を飲みながら、会話をするからだ。

 

「私、こういう者でございます」

「俺のもどうぞ」

 

 俺が座ると彼らは俺に対して名刺を渡してきた。

 見るからに学生ではないと思っていたがまさか企業の人間だとは。

 

「えっとIS装備開発企業『みつるぎ』渉外担当の巻紙礼子さんに泡河俊さん?」

 

 渡された名刺を見るなり、俺はそこに書かれていた名前を復唱した。

 泡河さんは癖毛のある黒髪に眼鏡をかけたのが特徴だ。きっちりというよりかはラフな感じの印象を受ける。そして、彼の上司にあたるであろう巻紙さんは赤みがかった茶髪にロングヘアーと美人の部類に入る綺麗な人だ。

 

「はい、ぜひ織斑さんの白式に我が社の装備をお使いいただけないかと思いまして」

 

 名前を確認されるや否や、巻紙さんは笑顔で唐突に話を進め始めた。

 

「あー、えっとこういうのはちょっと……」

 

 俺はその言葉を聞いた瞬間、彼らの目的が何なのかすぐに理解した。

 

 俺が白式を専用機として持つようになってから、その希少性と話題性に便乗して世界中の企業から、毎日と言っていいほど装備提供をしたいという声が後を絶たないらしい。実際に俺に言われたことはたまにあるくらいで、大抵は白式を製造した倉持技研やIS学園によく問い合わせがくる、と倉持技研の人や千冬姉が言葉をこぼしていた。

 

 今やIS産業は自動車やテレビのような一つのジャンルとして確立し、各企業の開発・研究は盛んに行われている。IS装備も同様だ。ISコアを所持できなかった企業はISではなく装備に着目してどうにかIS産業に乗り込もうとしている。現に、IS学園にあるラファール・リヴァイブの製造元はデュノア社だが、その装備の一つであるアサルトライフルは、アメリカにあるクラウス社という企業の製品だ。

 

 さて話を戻すと、俺の白式はその特性上拡張領域(パススロット)は全て雪片Ⅱ型(大飯食らい)によって埋められている。そもそも、白式自身が雪片Ⅱ型以外の装備を受け付けようとしないのだ。色々な理由もあり、これ以上の追加装備は出来ないにもかかわらず企業からのお誘い話は途切れることを知らない。確か、クリスタからも遠慮がちに追加装備の話をされたっけか。

 まあとにかくだ。またこの手の話か、と内心がっくりと肩を落とす。千冬姉からはそのような部類の話には無視をしろと言われているものの、今はそのような事ができる状況ではない。

 

「まあそう言わずに。お話だけでも」

 

 巻紙さんは両手で俺の手を握る。俺を逃がしてくれなかった。

 そうしている間に男性が鞄からパンフレットをいくつか取り出して机に並べ始めた。

 

「武装だけでなく、こちらの追加装甲や補助スラスターとかも我が社では製作しているんですよ。個人的に一押しは、この脚部ブレードですね! 俺IS乗れないからあんまり言えないですけど、脚部ブレードって結構かっこいいと思うのですけどね!」

 

 男性が熱くパンフレットに書かれている内容を言っていく。

 

「あの、本当にいいんで……」

 

「えー!? これ、かっこいいって思わないのですか!?」

 

「いや、そうは思いませんけれど……」

 

 ちらりとパンフレットの中身を見るとどれも男ならば心をくすぐられるようなものばかりが並べられていた。

 

「でしょう! それにしても織斑さんの乗る白式は剣一振りだけですけれど、正直物足りないと思いませんか?」

 

 男性の放った言葉に思わず俺はカチンときた。

 

「確かに俺のISの装備は貧弱って周りからは思われますけれど、俺はそうは思いません。正直言って俺はまだ、IS操縦者としては未熟です。だからむやみやたらに武器を増やしてしまうと俺にはとてもではないですが扱いきれませんし、そんなこと白式は許してくれません。ISの特性を生かす事もIS操縦者とって重要だと俺は思っています。それに、俺は一つの事を極めるのが得意なので」

 

 今は楯無さんに特訓を付けてもらっているが俺の技術はまだまだだ。それに雪羅も十分に扱えていない。だからこそ、今の俺は雪片Ⅱ型と雪羅だけで十分なのだ。扱う者が少なければ覚えることも少ないから。

 ふと俺が追加武装を断ったことに対して、腕に付けている白式が喜んでいるように感じた。

 

 俺の話を聞いていた二人がポカンとしているとふと視界にメイド服を着た誰かがやって来た。

 

「あのお客様、申し訳ございません。既定の時間が過ぎてしまいまして……」

 

「あれ? まだ1、2分ほど時間があるはずだけれどなー?」

 

 男性が腕時計を見ながらメイド服を着ている鷹月さんへと視線を送る。

 

「誠に残念ながら、とっくに時間は過ぎてしまいました」

 

 鷹月さんは二人に対して綺麗な礼をする。

 

「すみません、失礼します」

 

 俺もそれに倣い礼をすると、その場から立ち去った。

 

 

 

「先輩……手を握りすぎたからじゃ?」

 

「……」

 

「い、いえ何でもないです……」

 

 

 

 

 

 

 

「はあ、鷹月さんありがとう助かったよ。白式に装備をっていう人がやたらと多くて……」

 

 俺は救いの手を差し伸べてくれた鷹月さんへお礼を言った。

 

「いいのいいの、織斑君も大変ね。企業の人に質問責めになって……。うーん……午前の限定品も売り切ったし次休憩に入っていいわよ。校内を色々と見て回ってきたら?」

 

 ここで言う限定品とは俺がお客さんに対して何かをする関連の商品だ。4種類ほどあったはずだがもう売り切ってしまったようだ。

 

「え? いいの? まだ予定の休憩時間前だけれども……」

 

「そうね、まあちょっとくらいなら平気かな? 織斑くんにはみんなよりも仕事を多く頼んじゃったし」

 

 さすがクラス一のしっかり者。忙しいのにもかかわらず俺のことまで考えてくれるなんて……。嬉しい限りだ。

 

「そっか、じゃあお言葉に甘えようかな……」

 

 確か旧友の弾がもうそろそろで学園に来る頃だよなぁ、と時間を見て俺は思い出す。ちょっと予定より早いけれども、電話をしようかと思っていた矢先だった。

 

「では一夏さん、わたくしと参りましょう?」

「ああ、セシリアずるいよー僕も!」

「待て、そういう事なら私も!」

「よし! 行くぞ、一夏!」

 

 俺が休憩に入るという言葉を聞いてか、可愛らしいメイド服を着ているセシリア、シャル、箒、ラウラが名乗りを上げてきた。仕事より俺に構うとは完全な職務放棄である。

 

「こらこら、皆で行かれたらお店が困るでしょ? じゃんけんで順番を決めたら?」

 

 とここでお店の事を考えて鷹月さんがじゃんけんの提案をする。確かにこれは名案だ。

 

 

 

 ん……? 

 でもみんなと一緒に見て回っていたら休憩時間が終わるよな……。ごめん……弾。

 互いをにらみ合いながら恐ろしく真剣な表情でじゃんけんをしている彼女達の様子を見ながら、俺はIS学園に向かっているだろう友へ謝罪の言葉を投げかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お昼を過ぎ、今は午後1時になったところ。

 二組の中華喫茶はまあまあの客入りであった。廊下には未だに織斑一夏をめがけてやってきた数多くの生徒の長蛇の列が見える。だが、二組の教室内から溢れ出る甘い香りに誘われて列から何人もの生徒を引き抜くことに成功していた。これも玲菜の計算のうちだという。中々の策士である。午前のビラ配りを終え、今は教室内で接客を行っていた。そろそろ私の休憩時間がやってこようとしていた時、見かけたことのある人物が入店してきた。

 

「ねぇ、ハーゼンバインさんっている?」

 

 前に見かけた時と同じ制服姿の生徒会長がそこにはいた。

 

「お疲れ様です。私に何か用でしょうか?」

 

 私は仕事を他の人に任せ、生徒会長へと近づいた。

 

「うふふ、随分と可愛い恰好ね。後で薫子に写真を頼んじゃおうかしら」

 

「……黛さんになら既に何枚も撮られているので、きっといい写真があると思いますよ」

 

「あらそうなの。じゃあ後で言っておこ♪」

 

 会長は右手に持つ扇子を口に当てて笑みを浮かべる。

 会長の姿を見て、少し前にやってきた黛さんの事が思い浮かんでくる。満面の笑みを浮かべ、多少ヨダレを垂らしながら、私の珍しい格好を写真に収める姿を。

 

「それで、私への用とは?」

 

「ああ、そうそう。それでね、あなたには生徒会出し物の観客参加型演劇に協力してもらう旨を言いに来たの」

 

「あの演劇に、ですか?」

 

 以前に取材したときに意味深に言っていた生徒会主催の演劇のことだ。だが、当たり前のように協力させようとしている所には引っかかる所があった。

 

「ですが、私が……」

 

「”私が参加してもメリットがない”と言いたいのかな? ふふ、お姉さん、あなたの言いたいことはすぐにわかるわ」

 

 どうやら心の中を読まれたようだ。

 

「もちろん、協力をしてくれるならば報酬を用意するわよ」

 

 そう言うと会長はポケットの中に手を突っ込み、ある一枚の紙を取り出す。いや、それはただの紙ではなかった。

 

「じゃーん! もし協力してくれたならこれをプレゼント!」

 

 会長が左手に持っていたのはバーガーショップ『ハッピーアメリカン』の特別優待券だ。だが、ただの優待券ではない。一日20食限定の”伝説のバーガーキング”が購入できる特別優待券だ。

 

 伝説のバーガーキング……本店限定のその商品はあまりの人気に開店前に行われる注文予定者が引く抽選くじで『当たり』を引かなければ食べられることが出来ないという代物だ。国産黒毛和牛の肉を使用したミートパティとコロッケ、目玉焼き、レタスをこれでもかと挟んだ8段にも及ぶそのバーガーは名前の通り”伝説”並に注文することが出来ないのだ。だが、どこかで手に入れることができるという特別優待券を使えば話は別になる。開店前に店員へそれを渡せば無条件で伝説のバーガーキングを注文できるのだ。

 インターネット上では高値で取引されるほどのこの券をなぜ会長が持っているのかという疑問が頭に浮かぶ。

 

「知っているのよ、あなたが夏休み中にこれを何度も食べようとしていたことは」

 

 なぜ私が夏休みに伝説のバーガーキングを食べようとしていたのを知っているのだろうか……? だがそんなことより、もしここで協力をすれば念願の伝説のバーガーキングを確実に食べることが出来る。

 

「どうする~?」

 

 左手に持つ優待券をひらひらと左右に動かして会長は私を見つめる。私は会長の持つ優待券に視線が釘付けになる。協力しますという言葉を発しようとした時に、私はその言葉を飲み込んだ。

 そもそも、生徒会主催のこの観客参加型演劇というものの詳細は未だに知られていない。分かっていることとすれば、一ヶ月前から第四アリーナを貸し切りにするほどの大きな舞台が用意され、題材が『シンデレラ』という事しかわかっていない。

 詳細を知りたければ、会場30分前までに入場しなければわからないという、何とも胡散臭い謳い文句だ。中身の良く分からないものに、あっさりと協力するのはいかがなものかと思念する。

 

「うーん、意地っ張りねぇ。しょうがないわ。今ならもう一枚優待券を付けちゃうよ?」

 

 会長は手品のように指を動かして一枚の優待券を二枚の優待券へと変化させた。

 

「ぜひ協力させてください」

 

 息をつく間もなく即答する。私の頭の中では、伝説のバーガーキングをいかに効率よく食べられるか、というシュミレーションが何度も繰り返された。

 

「よろしい♪ 素直な子は、私好きよ」

 

 

 

 


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