神様なんかいない世界で   作:元大盗賊

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第9話 変わりゆく時間

 

 

 橙色に灯された薄暗い廊下を私はISの部分展開し、篠ノ之の捜索をしていた。

 

 

 

 

『扉がロックされているから、そう遠くまでは行っていないはずだ。万が一戦闘中のアリーナの近くまで行かれては困る。全くあいつは何を考えているのだ…。とにかく頼んだぞ』

 

 ブリュンヒルデに頼まれた私は特に断る理由もなくあっさりと了承した。そして、玲奈と一緒にいた一組の人たちへ事情を説明した後、人混みの中をくぐり抜け再びアリーナへと戻っていった。

 

 封鎖されている区間はある程度把握している。元々、アリーナの構造を知っていたという事もあるが、アリーナの管理システムへアクセスしても確認できていた。解放されている区間から見ると、彼女がする行動として選択肢は絞られてくる。先生方のいる安全な管制室からわざわざ飛び出したのだ。あのまま、一般の生徒と一緒に出口へ避難することはないだろう。

 

 それに彼女は織斑一夏へ執着しているという傾向があるようだ。同じルームメイトでもあり、幼馴染でもあるということは知っている。そんな彼女がアリーナで起きている騒動に巻き込まれている彼がことを心配しないわけがない。そうであるならば、残された選択肢としてアリーナで行われている騒動を直に見に行ったとしか考えられない。

 

 

 

 

 

「ISによる襲撃か…」

 

 私はブリュンヒルデから聞かされた話を思い出し、言葉をこぼした。

 

 篠ノ之を捜索するにあたり、現在アリーナ内で起きている状況を説明された。

 何でも、アリーナ内に進入した正体不明のISが今回の騒動の発端であると。さらに、それはアリーナの遮断シールドを破損させる程の威力を持つ武器を持っているとの事だ。今は織斑と鈴の二人が迎撃にあたっている、とも言われた。

 

 クラス代表戦にISを使って襲撃するという話は全く聞いていない。つまり、亡国企業ではないどこか別の人たちによって起こされたものだろう。でも一体何が目的なのだろうか…。

 ISの奪取?だが、装着しているISを奪うことは非常に困難だ。もし奪うならば、IS学園の整備室などに置かれている練習用のISを狙ったほうが容易である。人の目につくイベント中に行うなど無謀に近い。

 そうなると、私と考えが同じように、織斑のISとの戦闘データの収集?しかし、わざわざ単騎でIS学園へ乗り込むまでのリスクを伴ってまでするだろうか?帰還して戦闘データを回収する事は困難、さらにIS操縦者とISが捕まってしまえば戦力を失うという問題があり、最悪自分たちの組織がばれてしまう。これといっていいほど敵ISの目的の見当がつかなかった。

 

 

 私は目的地であるISの二つある発射口の一つ、Aピットへと到着した。予想としていた通り、Aピットへの道のりは封鎖されておらず、そのまま入ることが出来た。そして、不用心にもAピットの入り口、つまりアリーナへのカタパルトは封鎖されていなかった。Aピットの地面には土埃が積もっており、元々置かれていた備品があちこちに飛散している。しかし、ここには篠ノ之はいなかった。

 

 そしてここからアリーナ全体を見渡すことが出来た。

 

 アリーナの中は酷い有様であった。グラウンドの所々から黒煙が出ており、時折炎が見える。ぽっかりと空いたアリーナの天井に配備されていたシールドバリアからはグラウンドに立ち込めている煙が外へ流れていく。その真下には大きなクレーターが出来ており、中心には今回の騒動の原因であろう黒いISがいた。そして、そのISはそこから少し離れた上空にいる鈴と織斑をじっと見つめていた。

 

『全力でって…』

 

『零落白夜…雪片Ⅱ型の全力攻撃だ。こいつの攻撃力はきっと高すぎるのだ。でも、相手が無人機なら全力で攻撃が出来る』

 

 ふと、部分展開していたハイパーセンサより二人の会話が聞こえてきた。

 

 無人機?一体何をバカげたことを言っているのだ。そう、あまりにも飛躍していた解釈をしている彼に私には少し困惑した。

 

 ISは女性が乗ってこそ動くもの。第一あの黒いISも全身装甲ではあるが、人の形をしている。夢物語であるような素晴らしいものは今までに発表もおろか開発・研究もされていない。それもそのはず、ISコアはブラックボックス化されておりその仕組みが分からないまま運用されている。何故ISは女性にしか反応しないのか、という疑問もこのブラックボックス化されていることが原因である。なので、人以外ましてや機械にISを動かすなどもってのほかだ。

 

 こうして彼への考えに疑問を持つ間に2人は鈴が龍砲を最大威力で攻撃、織斑が零落白夜での攻撃をしようと作戦を立てていく。それにしても、あの黒いISは二人が作戦会議中にも関わらず、全く攻撃をしようというそぶりが見えなかった。何故だろうと思っていた矢先だった。

 

 

「一夏ぁ!」

 

 ふと大きな声で織斑を呼ぶ声が聞こえてきた。そしてハイパーセンサが捉えたのは私のいるAピットとは反対側のBピットの端から叫ぶ篠ノ之であった。

 

「男なら、男なら!その程度の敵に勝てなくて何とする!」

 

 

 

 彼女はきっと織斑へ激励をするために管制室から勇気を振り絞って飛び出したのだろう。だが、今の状況を全く分かっていない。正体不明のISと交戦している、つまりここではスポーツ競技をしているのではない。ここでは、IS同士で()()をしているのだから。そこへ何も身を守るもの持っていない人がやってきたらどうなるだろうか。

 

 

 黒いISはその声に反応し、体を篠ノ之のいるピットへ向ける。あれの注目を集めてしまった。

 

 私は彼女を助けるべくピットから走り出し、すぐさまアリーナ内へ飛び込む。体全身に冷たい風浴びながら、重力に身を任せて降りている空中でサンドロックを完全に展開させる。

 

 黒いISは両腕を篠ノ之箒へ向ける。ハイパーセンサからはその両腕から熱源を感知した。

 

「まずい…!箒、逃げろ!」

 

 織斑は大声で叫ぶが、篠ノ之は恐怖で怯み身動きが取れていなかった。私はマシンガンをコールし、黒いISへ全速力で近づきながら撃つ。

 

 少し射程距離外ではあるがマシンガンの弾がヤツへ命中しているものの、私へ興味を引くことはなかった。

 

「くっ、それならば…!」

 

 マシンガンをしまい、ヒートショーテルをコールした時だった。突如ヤツの目の前に白い物体が現れた。白式だった。瞬時加速(イグニッション・ブースト)で近づいた白式はその勢いを殺さずに雪片Ⅱ型で上段から斬り付ける。

 

 その攻撃に対抗しようと、ヤツは熱源の発射をやめ、右腕を白式へ振りかざす。だが、その攻撃は白式には当たらず空を切る。そして雪片Ⅱ型の刃はその右腕を斬り裂いた。

 

 ヤツの斬られた右腕からは何か赤い液体が噴き出す。だがそんな事なんて気にしないのか、すぐさま体をひねり左腕で白式を思いっ切り殴りつけた。

 

 

 

 ヤツの斬り裂かれた右腕からはISの装備を伝わり、赤い液体がまだぽたぽたと地球の重力に逆らえずに地面へと吸い込まれていく。そして切り離された右腕からもまだ残っていたのであろう赤い液体が地面を赤い水たまりへと変えていっていた。

 

 

 

 何て痛々しいのだろう。脳裏に何かがちらつく。私の視界が揺らぎ、その赤くドロッとした液体へ目を奪われた。見るからに、ISの絶対防御を貫通した攻撃をヤツは受けている。零落白夜が発動しても操縦者の身は守られるはずだ。だがそんな事なんてどうでもいい。ヤツはそんな事なんて気にせずにすぐに左腕を使って対処をしていた。

 

 痛くないのだろうか。

 

 辛くないのだろうか。

 

 恐怖を感じないのだろうか。

 

 右手首から先がなくなっているのに。それに動揺せずにいられるなんて。

 

 慣れているのだろうか。それ相応の覚悟を決めて戦っているのだろうか。

 

 それとも…?

 

 

 

 

 何だろう。いつのまにか忘れ去られてしまった、自分にとって大切な気持ちが私の中からこみあげ、全身を駆け巡り、私の体を優しく包み込む。何なのだろう。悲しい気持ち?楽しい気持ち?思わず、手に握る物に力が入る。

 

 

 私にとってぽわぽわと懐かしく心地良い気持ちに浸っていた時だった。

 

「譁�ュ、怜喧縺代ヱ繧ソ繝シ繝ウ?」

 

 何かの声が聞こえてくる。誰だろう、なんて言っているかが良く分からないや。視線を下に向けるとそいつはいた。そうか、あれが敵か。

 

「Fiend…」

 

 敵…敵。私の敵。その敵は右手首から先がなく、赤い液体をばらまきながら白いISへとゆっくりと近づいていた。

 

 

 そっか…アレは私がやってもいいものなのだね。なら私も…斬っちゃおうか。

 

 

 

 

 

 両手に持ったヒートショーテルを私は投擲する。それは、私の思い描くように飛んでいき敵の左腕、手の甲と腕の関節辺りに深く貫く。

 

 

 やっぱりそうだ。アレはシールドバリアが発動していない。

 

 

 すぐさまマシンガンを呼び出し、ヒートショーテルへ撃つ。

 

 

 マシンガンから放たれた弾丸は、ヤツの周辺に着弾して、遂にヒートショーテルへと届くと爆発を起こした。

 

 

 その衝撃に耐えられなかったのか敵は、よろめきその場で立ち止まる。そして敵は私の方へと振り向く。

 

 

 そして初めてロックオンの警告がされた。

 

 

 やっとだ。やっと私の事を見てくれた。私の事に気づいてくれた。これほど嬉しいことはない。

 

 

 やっと私の事をあなたの敵だと思ってくれた。そうじゃないとお互いに楽しくないからね。これから私と一緒に遊ぶのだから。

 

 

 私は再びヒートショーテルを持つと全身のブーストを切り、自由落下をして上空から地面へと近づく。

 

 

 敵は両肩部から拡散ビーム砲を私にめがけて放つ。その攻撃を私は左手の盾で防ぐ。

 

 

 地面へと降りると私はヒートショーテルの刃の部分に熱を放たせる。

 

 

 私も斬りたい。斬りたい。斬りたい。斬りたい。アレのように斬り裂きたい。もっとあの赤い液体を見ていたい。全身に浴びたい。

 

 

 

 

 

 ヒートショーテルを構えると、敵に向かってホバー移動で白いISがしたように近づく。

 

 

 斬り裂かれた相手の表情を見たい。声を聴きたい。どんな顔をするのかな?どんな歌を聞かせてくれるのかな?でも…

 

 

 

 

 

 目の前から拡散ビームが撃たれる中、通常の二回分のエネルギーで直線加速をしたスピードに乗せ、敵の脚部を斬り裂いた。

 

 全身装甲(フルスキン)だし、さっきも何も動じなかったし楽しめられないなぁ。残念。

 

 

 

 

 

 何か大きな金属音が聞こえる。振り返ると、バランスを崩した敵はその場で倒れていた。斬り裂かれた左足からは赤い液体が染み出ており、自分の体にも赤い液体が付着していた。思わず笑みがこぼれる。

 

 ふとロックオンがまだ続いていることに気づく。

 

 まだ、生きているなんてタフだね。

 

 私は敵へと飛び、仰向けになっている敵に馬乗りする。まだ熱のこもっているヒートショーテルで相手の両肩部の拡散ビーム砲の発射口へ刃の先をねじ込む。ぐりぐりと差し込んでいるとバチバチと発射口から煙が上がった。

 

 ふと、両手が動き出しそうであったのですぐさま拡散ビーム砲に刺していたヒートショーテルから手を放し、同じものをコール。

 

 刃から熱を発生させ、敵の両腕を同時に斬りつける。さらに敵が起き上がろうとするので、ブーストを全力でふかし、刃で斬りつけながら抑え込む。

 

 熱のこもった刃に耐えられなかったのか敵の両腕は切断され、そしてまたしても赤い液体が飛び出てきた。白かった私の腕や胴体に新たな赤い模様を作り出す。

 

 無駄な抵抗をしなければ切断しなかったのに。

 

 活動時間の限界なのだろうか、敵の抵抗がだんだんと弱まってくる。すると、顔のあたりにあるランダムに配置されている赤い光がなくなり、輝きを失っていった。

 

 敵の動きが止まり、ヒートショーテルから手を放す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 敵を斬った腕の切り口を見てみると、中には人のようなものはなく、何かの配線や金属の部品が目に飛び込んできた。そして、赤い液体に染まった手をよくよく見ると、機械で使われるような油のような液体であった。

 

 

 どうやら、このISには人が操縦しない、無人機であるようだ。

 

 敵の殲滅が終わり、どっと体から力が抜け、疲れが押し寄せてくる。さらに、何だがとても吐き気を催すような不愉快な気分が私を襲ってきた。

 

「クリスタ…大丈夫?」

 

 ふと後ろから声をかけられる。

 

 後ろを振り向くと、鈴、そしていつの間にかアリーナへ入ってきていたセシリア・オルコットがISに身を包みこちらを見ていた。そして、私はこう答える。

 

 

「皆さん大丈夫ですか?助けに来ましたよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は気が付くと、右半分の視界には白い天井が見え、左半分の視界には鈴の顔が見えた。鈴は俺に気が付いたのか、すぐさま視界からいなくなる。体を起こし、左側を見ると鈴が椅子に座っていた。

 

「何しているの、お前?」

 

 寝ていた俺の顔に何かついていたのだろうか?

 

「おお、起きたの!?」

 

 とても動揺しながら答える。全く俺の目を見ていなかった。

「何そんなに焦っているのだ?」

 

「焦ってなんかいないわよ。勝手な事を言わないでよ、馬鹿!」

 

 そっか、と一言ぼやく。まあ、特には気にしないが。でも、ちょっとだけ俺の顔に手を当てて何かないかを探した。結局何もなかったが。

 

「あのISはどうなった?」

 

 ふと、俺はそういえば変な無人機のISと戦っていたのだと思い出し、何が起こっていたのかを鈴に聞く。

 

「あの後ね、動かなくなったわ。心配しなくてもいいわよ」

 

「そうか…」

 

 どうやらあの後はどうにかなったらしい。とにかく安心した。

 

 ふとベッドから見える外を眺めると空は茜色に染まっていた。そして俺はあることを思い出した。

 

「なあ、小学校の時、酢豚の話をしたのもこんな夕方だったよな」

 

 そう、小学校の時のことを思い出した。

 

「えっ?」

 

 当の言いだしっぺの本人は驚きを隠せなかった様だ。

 

 そして、酢豚のことの本当の意味を問い質してみたがはぐらかされてしまった。まあ、本人がそれで良いなら気にしないでおこう。そして、同じ酢豚で思い出したのが鈴の親父さんのことだ。親父さんの作ってくれた酢豚はもう格別で、自分が作ってもあの味はまねできないくらいだ。またあの味を食べてみたいな、と鈴へ話を振ると、鈴は先程とは打って変わって表情が暗くなり下をうつむく。

 

「私の両親離婚しちゃったから。もうその願いは叶わないよ」

 

「…」

 

「…これから言うのは単なる独り言ね」

 

 そう鈴は空元気に笑って話し始める。

 

「国に戻った後ね、うちの母親と二人で暮らしていたのだけれど、母親はまだその時まだ職に就くほどの元気がなくてさ…。だからね、私がこのどうしようもないこの空気を打開したかったのよね。また、元気な母親が見たくてさ…」

 

 鈴は俺に目を向けず、窓の外の流れゆく雲の流れをじっと見ていた。

 

「でね、そんなときにISの代表候補生の募集を見かけたのよね!代表候補生になれば、母親が頑張っている私を見て元気になってくれるのかなって。それに、その時貯金を切り崩す生活していてさ、代表候補生はIS操縦の他にもモデルとかタレントとして働いたりして結構稼ぐっていうのも聞いていたからなおさらやってみる価値はあると思ったの。家を助けるためにも」

 

「その考えが思い立ったのが中学3年の時だったかな。その時は千冬さんがIS乗っているとか、ニュースでISを見かけるとか、それくらいの知識しかなかったわ。でも、そりゃ猛勉強したわよ。私の願いを叶えるためにね」

 

「だから…」

「それで、無事に試験は合格。IS適正も「A」。んで、晴れて一年目で専用機をもらえるほどの優等生になったのでしたっ」

 

 鈴はそう言い切ると、座っていた椅子から立ち上がる。俺に表情が見えないように。

 

「ふぅ、すっきりした。やっぱ、どこかで吐き出すものは吐き出しておかないとだめよね!」

 

 そして、鈴は何時ものような元気な顔をしてこちらを向く。

 

 そうだよな、自分の中で悩んでいることをたまにはどこかで発散させないとな。

 

「なあ鈴」

 

「何よ」

 

「今度どっかに遊びに行かないか?」

 

 例えば友達と遊んだりしてさ。

 

「え…それって、でー」

 

 

 

「一夏さーん、具合はいかがですか~?私が看護に…あ、あら」

 

 鈴が何かを言いかけた時、セシリアが俺たちのいる部屋へ入ってきた。そして、入ってきたと同時に身体を止め、口を閉じる。

 

「どうしてあなたが…。一夏さんが起きるまでは抜け駆けは無しだと!」

 

 つかつかと音を立てずにセシリアが鈴の所へ近づいていく。

 

「そういうお前も、一旦自分の部屋に戻ると言いながら、こそこそと抜け駆けしようとしたな…!」

 

 続いて現れたのは、箒だった。いつものようなむすっとした表情でセシリアに続き箒も部屋へと入ってくると三つどもえで喧嘩が始まってしまった。何でそんなに喧嘩をしているのだろうか。お見舞いなら同時に来ればいいのに。なんだか、幼馴染が、とか二組だから、とか良く分からない因縁をつけて三人はいがみ合っていた。どうしたものか…と思ったその時だった。

 

「あ…」

 

「どうした、一夏」

 

「ああ、いやあの変なISと戦っていた時さ、途中でハーゼンバインさんが出てきたじゃん。もしかして、ハーゼンバインさんと一緒にあのISと戦っていたのかなって」

 

 そうだった。あいつに殴られて意識が飛ぶさなか、あのサンドロックとかいうISに乗った彼女が現れていたのだ。

 

「ああ、そのことか。確かにそうだな。あいつがやったよ、全部な」

 

「一人で!?あのIS相手に?」

 

 まさか、と俺は思わず声を上げてしまう。

 

「そうですわ。彼女が一人で…」

 

「そうね。あいつがやったのよ。私が加勢しようにも全く反応してくれないし、そういう雰囲気じゃあなかったわ…。逆に邪魔になると思ってね。私と戦ったときよりも何だか凶悪じみた動きだったからちょっと不気味だったわ。相手が無人機って最初から知っていたのかしら。」

 

「…もしかして、あのISに何か…」

 

 何だかあまり乗り気ではないという表情をする三人に俺は引っかかった。

 

 

 

 

 

 

 鈴とハーゼンバインさんとの模擬戦を見終わり、管制室から出ていこうとしてときだ。

 

「実はお前たちを呼び出したのは、中井先生から頼まれていな。代表候補生と初のIS男性操縦者、そして篠ノ之箒に提言しておきたいと。中井先生はきつく言っているが、クリスタ・ハーゼンバインの使うISにはきちんと調査を終えているからお前たちが心配する必要はない。何せ、最後に起きた事故はVTシステムの時だけで5年も前の事だ。まあ、彼女は国際IS委員会から派遣された人でな、警戒しているのは仕方ない」

 

 千冬姉はそう、俺たちに説明をしてくれたのだ。彼女とそのISは安全だと。ただの見かけ上の行動だと。

 

 

 

「彼女の事は心配いりませんわ」

 

「クリスタは、ISを外した後はいつも通りだったし、先生方に事情聴取をされたけれど私たちも受けたわ。それに既に解放されていたから大丈夫よ」

 

「そっか…。ならよかった」

 

 俺はほっと安堵に着く。

 

「なぜお前はそこまで、あいつのことを気にするのだ?」

 

 ふと箒が、少し不機嫌な顔をして俺に聞いてくる。気にしない訳ないだろう。当たり前じゃないか

 

「だってよ。折角楽しい学園生活を送っているのだぜ。それなのに、危険だのなんだのっていう理由で特別視されて逆の意味で人目置かれるのだぞ。安全だって言われているのに理不尽すぎないか?そんな理由で彼女が迫害されてみろ。俺は絶対に許さない。だからできるなら助けてやりたい。あの子は大丈夫ですって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこは暗い部屋だった。

 平らな壁はなく、部屋のあちこちには機械類が置かれていた。そんな開放的な部屋の中心には、黒く、大きなISが置かれそこには強く光が灯されていた。

 

「やはり無人機ですね。登録されていないコアでした」

 

「…そうか」

 

 3台のコンピュータの画面を注視する山田真耶の問いに織斑千冬は一言だけで答える。

 

「お前の方でもダメか」

 

 ふと千冬はそう言うと後ろを振り返る。

 

 その後ろには黄色いネクタイをし、右手に扇子を持つIS学園の生徒がいた。

 

「全然だめですね。私の所で調べてみても全くあのISは一致しませんでした。それに使われていた装甲も特注です。見たこともない素材でした。世界に一つだけのものですね。いや、正確には()()かしら?」

 

 右手に持つ扇子を広げるとそこには『お手上げ』と書かれていた

 

「ふん、そうか」

 

 千冬は報告を聞き終わると、再び、強い光に照らされているコアが登録のされていない不思議なIS()()を見つめていた。

 

 

 

 


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