目が覚めるとウィッチでした。   作:華山

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迎撃に出るは、一筋の彗星

これに出てくるストライカーはだいぶ性能を盛ってます。ご了承下さい。
原型機は1940年には出来てるし「カールスラントの技術は世界一ぃぃ!」と思って許してくだせぇ。


5min -crime 50angel-

基地は戦場に変わっていた。

ウルカは建物から出た時に、一瞬にしてそう感じた。

惨状と言う言葉では足りない程に、事態は混迷を極めていた。

既に到達したネウロイは、基地の上空で悠々と舞っている。

襲撃にいち早く気づいた部隊が既に上がっているらしく、一進一退の空中戦が繰り返されていた。

 

「ハンガーは無事だ! あそこまで走るぞ!」

「おう……!」

 

一旦物陰に身体を隠していた二人。

高射砲がネウロイを退けている事を好機と思い走り出す。

ハンガーまでは目立った遮蔽物は無く、たった数十メートルのその距離が、ウルカには永遠の様に感じられた。

高射砲のお陰か捕捉される事なく、飛び込む様にハンガーへと入り込んだ。

中では整備兵達が慌ただしく、ストライカーの発進準備を続けている。

こんな状況でも、誰一人逃げる事無く自らの作業を続けている。

ウルカはカールスラント軍の士気の高さを感じていた。

 

「グラティア中尉!」

「ベルントか! 機体の用意は出来てるだろうな」

 

ベルントと呼ばれた整備兵らしき男が、グラティアへと駆け寄る。

 

「ガランド大尉は既に上がっています! この基地をよろしくお願いします……!」

「分かってる。ベルントすまないが、こいつを頼めるか?」

 

グラティアはウルカを引っ張り、ベルントの前へ突き出した。

ベルントもそれを見て、きょとんとした表情を浮かべる。

 

「この……扶桑人をですか?」

「あぁ、そうだ。フィニーのお気に入りだから、死なすんじゃないぞ」

「ちょ、グラティア中尉!?」

「それと、こいつにも通信機を渡しといてくれ。こいつ心配性だからな」

 

グラティアは、少し乱暴にウルカの頭を撫でる。

 

「心配性とはなんだ……。俺はただ……」

「私がちゃんと、お前を守れるって事を証明したいってだけだよ」

「中尉、あの独断で軍人以外の者に機材を渡すのは……」

 

ウルカの顔をちらとみながら、ベルントは渋った様な表情を見せる。

言い換えれば、貴重な機材をこんな奴に渡せるかと言った表情だ。

 

「こいつはもう仲間だよ。これからきっと一緒に戦う事になる」

「は、はぁ……?」

「頼んだぞベルント。それじゃ行ってくる」

 

グラティアは、ポカンとしているベルントの肩を叩くと、用意されたストライカーユニットへと駆けていく。

それにつられて、ウルカもグラティアへと駆け寄った。

 

「グラティア! 帰り待ってるからな!」

「ふっ」

 

グラティアは優し微笑むと、ぐっとサムズアップを見せて、ストライカーユニットを穿いた。

そしてエンジン出力を最大へと持っていく。

 

「中尉!」

 

ベルントは近づいていくと、グラティアに武器を手渡す。

カールスラント製のMG34。この時期の主力装備の一つだ。

それと同時に、いくつかの弾倉を身体に装備する。

 

「グラティア・レーデル! 出るぞ!」

 

けたたましい音を出して、グラティアはハンガーの外へと飛び立っていく。

外の光りに眩惑されるウルカは、その姿を最後まで追う事は出来なかった。

 

「よしっ、次だ! おい嬢ちゃん! 少し待ってな。全員送り出したら撤退する」

「……ベルントとか言ったよな。俺に何か出来る事はあるか?」

「無い! じっとしてろ!」

 

強い口調でベルントは言い放つ。

彼の心情としては、余計な者に動かれても困ると言った所なのだろう。

 

「嬢ちゃんはこれでもつけてじっとしてな」

 

ベルントはウルカに通信機を手渡す。

ウルカはその装置を耳へと装備して、一旦深呼吸をして言葉を続けた。

 

「……雑用でも良いから! その方が早く終わるだろうが!」

 

子供扱いされた事が癪に触ったのか、ウルカはベルントを怒鳴りつけた。

見た目大人しそうな少女から怒鳴られた事に、ベルントは目を丸くして驚く。

 

「……あー、もう! じゃあこれを隣のハンガーのJG52に渡してこい!」

「おっとと……! あぁ、分かった!」

 

あまりの重さに一旦体勢を崩しかけながらも、ウルカは弾倉の入った箱をしっかりと受け取る。

 

「終わったら戻ってこい。それまでに出撃を終わらせとく」

「分かった!」

 

ベルントが指差す隣のハンガーへとウルカは走りだした。

まだこの一角は、高射砲や先遣隊の必死の防衛で、ほぼ無傷のまま保たれていた。

しかし、それも長く続かないであろうと、ウルカにもよく分かっていた。

通信機から聞こえてくる状況は、好ましいものではなかった。

突然の襲撃。

寄せ集められた複数の部隊。

空の上でそれを再編しなくてはいけない。

それを指揮していたのは、ウルカには聞き覚えがあるミーナの声だった。

 

(ミーナ隊長ですら……、こんなに指揮に苦戦してる……)

 

それだけ複雑に入り組んだ状況だったのだ。

ネウロイはこの基地に到達する前に、大きく三つに分かれて攻撃を行っている。

東西。そしてこの基地に到達しているネウロイ。

この三種類の戦場に対応しなくてはならない司令部の心情はきっと最悪に違いない。

そんな事を考えているうちに、ウルカは隣のハンガーへと到達した。

 

「JG52……どこだ……!」

 

慌ただしく動いている整備兵に声をかける訳にも行かず、キョロキョロと周辺を見渡すウルカ。

 

「あー! ウルカだっ! おーい、こっちこっちー!」

 

これもまた聞き覚えのある声がウルカの耳に届いた。

その方向を見ると、ストライカーを穿いて、今にも出撃しそうなエーリカの姿があった。

 

「エーリカ! と、バルクホルンさん!」

 

顔見知りにあえてほっとしたウルカは、その二人が居る方へと駆け寄った。

 

「ウルカ。なんでこんな所に居るんだ?」

「整備兵を手伝ってました。JG52は確かバルクホルンさんの部隊でしたよね?」

「あぁ、その通りだが?」

「それ弾倉? ウルカが届けてくれたの?」

 

箱を覗き込むエーリカ。

どうやら届け先は間違っていない様だと、ウルカは箱を地面に下ろす。

その中から弾倉をいくつか取り出して二人に渡した。

 

「頑張ってください……!」

「あぁ、これ以上好き勝手にはさせれないさ!」

「トゥルーデやる気だねぇ」

「中尉と呼べ! 中尉と! それが無理ならせめて名前で呼べ!」

 

出撃前でも軽口を忘れない二人に、ウルカは安堵を覚える。

 

「はいはい、分かりましたよ中尉殿!」

「ウルカもちゃんと逃げるんだぞ」

「それじゃウルカ。私たちは東方面の防衛だから! 行ってくるね!」

 

そう言い残すと、二人はハンガーから外へと出て行った。

 

「おい! あれでウィッチは全部だ! 撤退するぞ!」

 

ハンガー内がさらに慌ただしくなる。

それと同時にウルカの耳にも通信が入り込んできた。

外の対空砲が沈黙したとの事。

 

(さっきから対空砲の音が消えたと思ったら……。不味い……)

 

こんな所に居ては不味いと、元の場所に戻ろうとウルカは走り出した。

実戦を経験した事が無かったウルカは焦る。

早くここから撤退しなくては、元の場所に戻る寸前の所だった。

 

「えっ……!?」

 

目の前が一瞬、光ったと思うと、爆風に包まれて地面に転げる。

何度目か分からない似た様な状況に、すぐさま身体を起こすと、ウルカは姿勢を低くしたまま状況を確認する。

戻ろうとしていたハンガーに直撃を受けたらしい。

 

「ベルント!」

 

先ほどグラティアと親しく話していた整備兵の事を思い出し、直撃を受けたハンガーへと走り出す。

屋根は完全に吹き飛んでおり、外壁も一部を残すだけになっていた。

それは隣のハンガーにも及んでおり、外壁の一部が損傷していた。

 

「ベルント! 何処に居る!」

 

辺りを見回すと異様な光景。

転がっているのは瓦礫だけではなかった。

 

人。

瓦礫。

人。

瓦礫。

人。

 

怪我をしている者や、既に息絶えた者達。

生者と死者が入り交じる状況に、ウルカは顔を歪めた。

 

「嬢ちゃん! 生きてたか……!」

 

ウルカはかけられた声の方を見つめた。

そこには、瓦礫に寄りかかって座っているベルントの姿があった。

体中に傷を受けているのか、痛みに耐える様に肩を大きく揺らして息をしている。

 

「ベルント! 大丈夫か! 動けるか!?」

「無理だ……。多分これ、足折れちまってる……」

「くそっ、何か担架でも……」

「お嬢ちゃんガランド大尉のお気に入りなんだってな……」

「だったらなんだ。逃げろとか言ったらその口縫い合わすぞ」

 

先に釘を刺されたせいで、苦情を浮かべるベルント。

 

「何か方法を考える! 待ってろ!」

 

——————

 

もう既に小型のネウロイを3機以上撃墜しながらも、グラティアは焦っていた。

敵は正直それほど強くはない。

しかし、敵は味方を分散する様に戦域を広げている。

そして、この基地上空にも、強くもなく弱くもない規模に展開している。

 

「フィニー、可笑しいと思わないか」

「あぁ、これは何か裏がありそうだ」

 

グラティアはガランドの隣について、疑問を投げかける。

ガランドも気付いていたのか、その意見に同意した様に呟いた。

 

「これは敵の後詰めが居るだろうね」

「見えないのか?」

「方位が分からないからね」

「レーダーの反応待ちか……」

 

勝っているのか負けているのか分からない状況に、グラティアは歯を噛み締めた。

 

<<対空砲沈黙!>>

 

部隊全員に絶望の声が響く。

 

「グラティア中尉!」

 

そしてそれから一拍おいて、聞き馴染んだ声が聞こえてきた。

 

「カミラか!」

「もうヤバいよ! ハンガーが!」

「不味いな……」

 

三人が下を見下ろすと、既に一体のネウロイがハンガー上空へ到達していた。

 

「くぅっ!」

 

凄まじい勢いで反転してグラティアはそのネウロイに向けて急降下を始める。

 

「ティア!」

「中尉!」

 

髪が風にはためく。

落下に近い様な速度で、ハンガーを狙うネウロイに近づいていく。

 

「間に合えぇぇぇ!」

 

有効射程外にもかかわらず、グラティアはネウロイに銃弾の雨を降らせる。

当たり前の様にそれは届く事は無かった。

まるで叫ぶ様なネウロイの声が聞こえた、一瞬後、放たれた閃光はハンガーを貫いた。

 

「クソぉぉぉぉぉぉ!」

 

それから一瞬後の事だった。ネウロイはグラティアの銃弾により粉々に砕けた。

身体を引き起こし、一定の高度までグラティアは駆け上がる。

 

<<司令部より全部隊。新手のネウロイを確認。大型ネウロイが一。北より真っ直ぐこちらに向かってくる。基地接近まで七分>>

 

「くそっ、こんな時に!」

「落ち着けティア。今確認する」

 

ガランドはグラティアの隣につけると、首からさげている小銃用照準眼鏡を覗き込む。

ガランドの瞳が輝く。

彼女の固有魔法は魔眼。

ネウロイのコアさえ見えてしまう、対ネウロイに特化した様な固有魔法だ。

暫く見つめて、ガランドは小さくため息を吐いた。

 

「どうした?」

「……あれは無理だ」

「はっ?」

 

全てを悟った様なあきらめの言葉に、グラティアは言葉を失う。

 

「無理ってどういう事だよ!」

「15000m」

「っ……!」

bf109(こいつ)の上昇限界はせいぜい11000mそこら。まともに戦えるわけがない」

 

澄み渡っている空を見上げて、グラティアは血がにじむ程に下唇を噛み締める。

 

<<司令部。大型ネウロイは迎撃困難。直ちに撤退せよ>>

 

——————

 

「……」

 

その無線の声はウルカにも届いていた。

あまりの事に、その場に沈黙して立ち尽くす。

 

「どうした嬢ちゃん……。悪い知らせか……」

「いや、確かに悪い知らせだが、最悪ではない……」

 

どう伝えたら良いか分からず、ウルカは曖昧な返事をベルントに返す。

 

(……こんな状況、どうしようも)

 

まずは生き残らなければいけない。

ウルカはベルントだけでも運び出そうと、使える物はないかと辺りを見渡す。

辺りには負傷した人と、瓦礫。

そして丈夫な外壁の近くにあった為、無事ないくつかの機材。

 

「嬢ちゃん……もう……」

「俺が言ったんだ。ウィッチに不可能は無いって」

「嬢ちゃん……」

「まだ諦めずに上で戦ってる奴らも居る。地を這ってでも生き残る為に足掻いてる奴も居る」

 

ウルカは空を見上げて、強く一つ一つの言葉を紡ぐ。

 

「だからまだ、終わりじゃない。何か手を……?」

 

ウルカは視線を地に戻すと、偶然なにかが目にとまった。

それは牽引車両の荷台に載せられており、カバーの被った何かだった。

それに吸い寄せられる様に近づくと、カバーをはぎ取る。

 

「これは……。ストライカーなのか……?」

「それは……、駄目だ。撤退時に他部隊が持ってきた試作機さ」

 

流線型のそれは、翼も他のストライカーよりも大きく、どことなく未来的なフォルムを持っていた。

インティークも見当たらない、卵の様な丸い胴体を持ったストライカー。

 

「これ、なんなんだ?」

「Me163。ロケットストライカー。使い物にならないじゃじゃ馬だ」

「……こいつの限界高度は?」

「おい……嬢ちゃんまさか……!」

 

ベルントにウルカは満面の笑みを返してみせた。

 

「止めとけ! 無理だ!」

「こいつは15000mまで上がれるか?」

「っ……スペック上は問題ない……が、離陸の為には、一瞬で爆発的な魔法力をストライカーに送らないといけないんだ」

「ふっ」

 

ウルカは苦笑を返す。

ウルカにはその言葉が、このストライカーは自分に持ってこい言っている様に聞こえた。

 

「じゃあ俺しか居ないな」

「本気で上がるのか……?」

「まぁ、ストライカーを穿くのは初めてだが!」

 

意を決して、ウルカはMe163へと飛び込む様に足を差し入れる。

まるで機体に足を接続される様な感覚を感じる。

それと同時に羽耳と尾羽が生えてくる。

 

(何故だろう……。懐かしい気がする……)

 

<<ウルカっ! 聞こえるか!>>

 

ウルカはそんな気分に酔いしれていると、通信機からグラティアの焦った声が聞こえてきた。

 

<<グラティア。今から俺が上がる>>

<<!?>>

<<通信聞いてた。15000mの敵を倒せば良いんだな>>

<<バカ言うな! そんなストライカーある訳無いだろう!>>

 

怒鳴りつける様な声が通信機から聞こえる。

ウルカは一旦通信機を切ると、暫く置いてもう一度通信を繋いだ。

 

<<ここの負傷者を逃がすのは無理だ。だったら奴を墜とすしかない>>

<<お前……。策はあるのか……?>>

<<幸い、ロケットストライカーの試作がある>>

 

ウルカは穿いているストライカーを撫でながらグラティアに返す。

 

<<時間がない。グラティア達は小型中型の相手をしてくれ>>

<<……>>

 

暫くの沈黙の後、考えた様なため息の後に言葉が聞こえる。

 

<<援護する。月並な言葉だが、今はお前しか居ない。責任は私が持つ>>

<<決断が速くて助かるよ……。グラティア……、いや、ティア? 帰ったら必ずヴルスト奢れよ>>

<<だったら死ぬな。初陣だろう? 派手にかましてこい>>

 

そう言って通信が途切れる。

これから、よく分からない異形の敵と一戦交えると言うのに、ウルカの表情は穏やかだった。

 

「嬢ちゃん。敵は大型なのか?」

「あぁ、高高度の大型ネウロイだ」

「だったら嬢ちゃん! それ使え。持てるかい?」

 

気付けばベルントは足が折れているにもかかわらず、這い寄る様に近くに来ていた。

そして指差す先には、普通の武装とは比べ物にならない砲が一基。

ストライカーの隣に備え付けられていた。

 

「これは……。うぐっ、重っ!?」

「試作の30mmだ。残ってて効きそうな武装はこれしか無い。弾は十五発しかないが……」

「チャンスは数回も無しか」

 

危機的な状況なのに、ウルカは心が躍る感覚を覚える。

か細い腕で30mmの砲をしっかりと持ち上げると、不敵な笑みを浮かべる。

 

「お嬢ちゃん。これだけは守ってくれ。そのストライカーは15000mまで四分で上がる」

「迎撃には間に合いそうだな」

「ただし、航続時間は五分しか無い」

「戦闘時間は一分か。十分な気がする」

「それ以上だと、全ての魔法力を吸い尽くされる、エンジン停止の気を失って地面にキスだ」

 

止めるなら今のうちだと言わんばかりの口調に、ウルカは鋭い表情を見せた。

死と言う言葉を聞きながらも、決意は固く、揺らぐ事は無い。

 

「それでも行くんだな……?」

 

言葉で返す事はせずに、ウルカは硬く頷いた。

 

「……頼んだぞ」

「あぁ、空自のパイロットがすげぇってこと教えてやる!」

 

ウルカはエンジンを始動して、ゆっくりと荷台から下りる。

出力を高めながら、滑走路へと移動していく。

 

<<滑走路上空クリアだ! ウルカっ!>>

 

 

【挿絵表示】

 

 

滑走路に到達した直後、無線機から聞こえる声。

その声の通り、滑走路上空にはネウロイ一匹見えない青空が広がっていた。

舞台は整った。

 

「うごけっ!」

 

ウルカはストライカーにシールドを使った時の様な感覚で魔法力を流していく。

 

「もっとだ! もっとだ! 濁流の様に! 滝の様に!」

 

破裂音が響き渡る。

 

「動きやがれええええええええええええええ!」

 

叫ぶと同時に、爆発したかの様な光。

身体が引き付けられる感覚。

 

<<飛べっ! ウルカっ!>>

 

ジェット戦闘機の離陸時とよく似た感覚。

違うのはスロットルもレバーも無い事。

しかしウルカは知っていた。

どうやったら飛ぶ事が出来るかを。

 

「飛べぇぇぇ!」

 

おもいっきり身体を引き起こす。

ほぼ九十度。

垂直に機体が上昇していく。

重力が名残惜しむ様にウルカを引きつける。

 

(懐かしい……。G。ハイレートクライム……)

 

ウルカは満面の笑みを浮かべながら、機体の振動、重力、加速力。全てを楽しんでいた。

 

<<ウルカ聞こえるか? こちらからも離陸を確認した>>

<<ガランドさんですか? これ最高だ!!>>

<<君って奴は……。とにかくだ、コレから敵ネウロイについて教える>>

 

まるで子供の様にはしゃぐウルカに、流石のガランドもため息をついた。

ネウロイと会敵まで後二分を切っている。

 

<<整備兵からお前は30mmを持っていると聞いている>>

<<重いけど使えない事は無い>>

<<頼もしいね。ネウロイのコアは中央部にある。その速度なら接敵出来るのは一瞬だ>>

<<あぁ、嘘に聞こえるかもしれないが、俺はこの速度に慣れてるんだ>>

 

その言葉を言った瞬間、通信機からはまた深いため息が零れる。

 

<<いまは本当として受け取っておく。とにかく頼んだよ>>

<<あぁ!>>

 

空に来ればこっちの物だ。

一矢報いてやると意気込んで上空へと駆け上がっていく。

彗星という名前に恥じない上昇能力。

戦場のあちこちからは、きっと空に舞い上がる彗星に見えたに違いない。

ウルカは大きく深呼吸をする。

その一瞬後の事だった。

視界に黒い物体を捕らえる。

 

<<ネウロイ確認! これより会敵する!>>

 

ウルカは身体を大きく切って、ネウロイよりも少し高い高度に位置づけた。

大きな無尾翼爆撃機形状のネウロイは、当然ウルカを確認したかビームを撃ってくる。

 

「当たる訳ないだろ!」

 

ビームは自分の遥か後方に飛び抜けていく。

あまりの速さに照準が追いついていない様だった。

上昇に既に四分。

航続時間もあと一分を切っていた。

ネウロイとヘッドオン状態。

迫り来る黒い驚異に、ウルカは30mmで狙いを定める。

 

「墜ちろぉ!」

 

引き金を引くと、腕を砕く様な衝撃が伝わってくる。

一瞬にして放たれる八発の弾は、最初の二発を外して、ネウロイの胴体へと着弾する。

金切り声を上げて、ネウロイの身体は崩れる。

 

「っ!」

 

その一瞬後にネウロイの上をウルカは通り過ぎる。

 

<<コア健在!>>

 

ウルカは知っていた。

見てしまっていた。

通り抜ける瞬間に赤く光り輝くコアの存在を。

ガランドの声に、一瞬気が遠くなる感覚を覚える。

 

<<限界だウルカ! もう止めろ!>>

 

そしてティアの声がウルカに届く。

 

(失敗……? もう終わり……?)

 

ぼやけた思考でそんな事を考える。

 

(いや……俺は……)

 

限界が近いのはウルカにも分かっていた。

しかし、最後の気力を振り絞って大きく身体を切って、ネウロイの後方へとつく。

 

<<あと30秒! それならいける!>>

<<ウルカっ!>>

 

止める様な叫び声にも動じる事は無く、ウルカの視線は再びネウロイを捕らえる。

 

「俺は守れる! 託されたんだ!」

 

真っ直ぐ。

ただ真っ直ぐに。

ネウロイへと接近していく。

 

「コアの位置は分かってんだよ!」

 

砲身はネウロイの身体を捉える。

 

あと百メートル。

 

ビームが雨の様に降り注ぐ。しかしウルカを捕らえる事は出来ない。

 

あと五十メートル。

 

射抜く視線で狙いを定める。

 

あと二十五メートル。

 

引き金に指をかける。

 

「お前なんかな!」

 

あと十メートル。

 

「これで十分なんだよっ!」

 

放たれた一撃の砲弾。

全ての思いを込めた一撃は、黒い装甲を突き抜けてコアに到達する。

 

一瞬後。

 

ウルカは崩れ落ちていくネウロイの姿を後方に捉える。

そして、意識を失いかけたとき。

 

<<ウルカっ! エンジンカット!>>

<<っ!>>

 

ティアの声にウルカは引き戻される。

言われた通りに咄嗟に魔法力の供給を止めた。

身体が滑空。もといゆっくりな墜落に移行する。

 

「はぁ、はぁ……ふぅ……」

 

疲労感と興奮で火照った体を冷やす様に大きく息をする。

ウルカは上空を見上げる。結晶状になったネウロイが崩れている。

 

「ウィッチを侮るからそうなるんだ……。ざまぁみろ……」

 

破壊されたネウロイに向けて、ウルカは勝ち誇った笑みを見せた。

 

<<ウルカ! 返事しろっ!>>

<<ティア……。どうだ空自のパイロットは凄いだろう……>>

<<あぁ、そうだな! 今はどうでも良い! 受け止めてやる!>> 

 

ウルカはその言葉に、ずいぶんと高度が落ちている事に気づいた。

そして、ぼーっとしながらも、自分を受け止める為に接近してくるティアの姿を確認する。

 

「ウルカっ!」

「ティア……!」

 

短い言葉に、互いが無事である事を確認した二人。

ティアはウルカをその身体に抱き寄せた。

 

「扶桑の魔女は……馬鹿だな……」

 

今にも泣き出しそうな震える声で呟き、強くウルカを抱きしめるティア。

 

「今頃気付いたのかよ……。それよりネウロイは片付いたのか……?」

 

それを安心させる様に、冗談の様な口調でウルかは返す。

 

「基地上空はクリアだ。東西の戦線も退ける事に成功したらしい……」

「それは何より……」

 

ウルカはしばし、ティアの身体の温もりに身体を預ける。

安心しきったのか、ウルカは疲労感が全身に充満したかの様な感覚を覚える。

 

「今回も助けられてる……。情けないな私は……」

「でも、いち早く受け止めてくれただろ……? このまま行けば地面とキスだ……」

「それは……」

「助けられたよ……。やっぱり良い相棒が居ないとな……」

 

ウルカは手を伸ばし、ティアの頭を何時もされているお返しとばかりに撫で回す。

ティアはどう反応すれば良いか分からず、困った反応を見せる。

 

「それよりティア……。あれだ……」

「どうした……?」

「腹……減ったな……」

「ぷっ!」

 

あまりにも深刻そうな声で呟くウルカに、ティアは思わず吹出す。

 

「あぁ、いくらでも食わせてやる!」

「そりゃ楽しみだ……」

 

言葉を交わしながら、二人は基地へと降下していく。

 

<<敵ネウロイ撃破。迎撃へ向かったウィッチ健在。これより帰投する!>>

 

全周波の無線に、声が響き渡る。

それと同時に、歓声がこの空に響き渡った。




いろいろ原作キャラは絡めていきたい今日この頃。

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