ちなみに私はアニメとOVAと映画と少しの知識しかありません。
間違っている事も多々あると思いますが、よろしくお願いします。
彼は目の前で起きている事に驚愕と言った表情を隠せなかった。
いや、誰でもこんなことが身に起これば、驚く事は間違いない。
起きたら見知らぬ世界で、しかも戦争中。
そして空を飛んでいる少女。
その少女は彼の目の前で墜落した。そして数十メートル先に身を横たえている。
彼は走った。
初めは自分の好奇心の為。
墜落してきた少女が何者なのかを確かめるため。
墜落地点へと向かったのだ。
「はぁはぁ……。やっぱり……」
そして一つの事を認識する。
まず少女の近くに近づくと目に付いたのは謎の機械。
第二次世界大戦中の戦闘機を一部切り取って作った様なその機械は、間違いなく彼の知っている『アニメ』のものだった。
「ストライカーユニット……。カールスラントのbf109か」
彼は一つの単語を呟く。
もはやボロボロで直す事も不可能なまでに壊れていたが、形が残っていたためすぐに何かが分かった。
好奇心を押しとどめて、倒れている少女の近くへと向かう。
そして首筋に指を当てると、確かに鼓動が感じ取れた。
彼女はまだ死んでいない。
しかしそれは通常の人間では考え難い事だった。
「これを履いていたと言う事は、この子はウィッチ……。と言う事はあの攻撃は……ネウロイ」
彼は自らがよく知ってい単語を呟きながら、意識失っている少女の状態を調べ始めた。
どうやら、不時着した時に腕を折ってしまったらしい。
なるべく動かさない様に、折れているであろう右腕をまっすぐに治す。
そして、何か固定出来るものが無いかと彼は調べ始めた。
「んっ?これ、いけるか……?」
地面に転がっている壊れたストライカーユニットに目を付ける。
片方はボロボロになりながらも形を残しているが、もう片方は骨組みが弾け飛んで辺りに散らばっている。
彼はそれに目を付けたのだ。
地面に転がっているちょうどいい金属の棒を手に取ると、再び彼女の前へと戻ってくる。
「後は包帯……はないよな……」
辺りを見回してもそれに代用出来そうなものは落ちていない。
もちろんこんな場所には医療用の道具なんか落ちている訳が無い。
「……しゃあない」
苦渋の決断と言った表情で、自ら着ている服の上着を脱ぎ始めた。
こんな状態なのだから仕方が無い。
布が無いなら作るしか無いのだ。
彼は服の縫い目を渾身の力で引き破る。
先ほど吹き飛ばされた時に、何処かに引っ掛けていたのか、縫い糸はすぐに綻んで破る事が出来た。
「こうして……こう固定して……」
あとはどうにか上手く、服だった布を細長く引き裂くと、金属の棒を使いながら彼女の腕を固定していく。
驚くぐらいの器用な手つきで、しっかりと固定された腕。
数分後、医者も顔負けな程の応急処置が完成していた。
「これでよし」
「んっ……っ……」
彼が応急処置を終えると同時に、少女が目を覚ました。
覚醒したばかりの虚ろな青い瞳で彼の顔を見つめる少女。
「大丈夫か? しっかりしろ」
「お前……は? っ!」
彼は少女に声をかけると、少女は驚いた表情で彼を見つめる。
少女は逃げろと言い放った相手が、今ここに居る事に驚きの表情を隠せなかった。
「逃げろっ! こんな所に居たら、奴らが来る!」
「まて、落ち着け。幸いお前の足は折れてない。腕の方も応急処置を済ませた。一緒に逃げよう」
彼は錯乱した様な少女に向けて、冷静に言葉をかける。
少女は自分の腕と、身体の状態を確信する様にして、また彼に視線を合わせた。
「……扶桑人か?」
「そうか……。ここはやっぱり……」
その単語に完全に彼は確信した。
この世界は彼が何時も見ていたアニメの世界。
ストライクウィッチーズ———
彼がなぜか迷い込んでしまった世界は、ストライクウィッチーズの世界だったのだ。
ファンタジーの様な状況に、彼は少しめまいを感じた。
「おい、扶桑人。大丈夫か……?」
彼が突然黙り込んでしまった所為で、少女は逆に心配の視線を向けた。
「あっ、いや、大丈夫だ。とにかく逃げよう。手を貸す」
「……すまない」
状況を考えて、彼らは少ない言葉を交わすと、この場所からいち早く逃げる事を選択した。
彼は少女の折れていない方の手を取って立ち上がらせる。
「っ!」
「おっと……! 大丈夫か?」
「足を捻ったらしいな……」
力なく寄りかかってくる少女を受け止めると、彼は足の方へと視線を向けた。
足を捻ってしまっては、上手く動く事も出来ない。
「お前だけで逃げろ……。これじゃ無理だ」
「バカ言うな。折角助かったんだろ?」
少女は決死の思いで彼に伝えたが、いとも容易く却下されてしまった。
「何故だ、お前だけなら……」
「生憎、この辺りの土地勘が無いんでな。俺一人じゃ何処に居るかさえわからん」
少女に肩を貸して、彼は歩きだそうとする。
殆どの体重が伸し掛かってくる感覚に、彼の足取りも重くなる。
彼女の足はそれほどに深刻なダメージを受けていたのだ。
「なぜ……助ける……?」
「理由がほしいなら、道案内がほしかっただけの事だ。あとは逃げた後だ」
少女は思った。
異国の地で。
異国人であるこの者が。
何故こんなにも献身的に助けてくれるのか。
裏があるのかと疑うが、こんな状況じゃそんな事はあり得ない。
少なくともそんな事をする奴は、一目散に逃げてしまうからだ。
助けたいと言うただ一心。
自分よりも年下であろう相手の励まされている事に気付いた。
「なにか車を探そうトラックでも普通車でもいい。そしたらこの場所から逃げるんだ」
絶望的な状況で、彼は少女にこれから間違いなく逃げれると言った口調でこれからの展望について語る。
「ここは欧州なんだろ。ユニットを見るに、お前はカールスラント軍人か?」
「……あぁ」
ヨロヨロと、しかし確りとした足取りで、前へ進んでいく。
「俺、まだ本場のヴルストを食べた事が無くてさ。帰れたら奢ってくれ」
「……あぁ」
少女は相手の一生懸命に励ます言葉に目頭が熱くなってくる。
もう諦めていた命だが、この言葉にまだ生きたいと言う意思が湧き出してきた。
涙を我慢する様に、少女は短い言葉で返した。
「美味いんだろ? ヴルスト。やくそくしっ!?」
「くっ!?」
突然の事だった。
絶望の音。
目の前の建物が崩れ去ったと思うと、現れたのは真っ黒な絶望。
黒光りする金属の様な身体を持ったそれは、蜘蛛のようにも見える。
「ネウロイ……っ!」
彼が担いでいる少女は、歯を食いしばって目の前の敵の名前を呟く。
絶望が現れた。
もはや考える時間はない。
少女は分かっていた。
奴らには慈悲は無い。
補足されたと言う事は、間違いなく攻撃を繰り出してくる。
生きる希望を与えてくれた、この子だけでも助けられないかと、短い時間で少女は思考を巡らせる。
しかし、それも終わりを迎える。
ネウロイの表面の一点に光りが集まってくる。
「これって……!」
「もういいっ! お前だけでも逃げろっ!」
彼は足がすくんで動けなくなっていた。
初めて対陣する相手に、絶望と恐怖と逃げられない現実に、気丈という彼の鎧もここで崩れさる。
光りが一転に集まりきる。
刹那——————
光が放たれる。
彼は思わず逃げる様に片手を光りに突き出した。
死んだ——————
俺は死んだ——————
痛みも感じる前にその身を灼かれて——————
しかし、身体の感覚はまだある。
そして聞こえてくる声。
「お前……ウィッチだったのか……?」
耳元で聞こえてくる声に、彼は瞳を見開いて状況を把握する。
ビームは彼らに届く事は無く、手の前で展開されている『壁』に弾かれていた。
「シールド……?」
そう、ウィッチの能力。
ネウロイと言う絶望に対抗しえる一つの能力。
透明でいかにも頼りなさそうな魔法陣で構成されるシールドは、確かに彼らを守っていた。
「っ! でも無理だ! 私たちには武器が無い!」
その言葉を聞いてか分からないが、ネウロイはさらにビームの威力を増して放ち続ける。
対抗手段が無い彼らには、防御は出来ても攻撃は出来ない。
防戦一方。
彼の魔法力が尽きれば、焼き尽くされる事は必至だった。
「私の事はもういいっ! 逃げろ! もう十分希望は貰った……!」
彼は威力を増すビームに対抗する為に、少女を地面に下ろすと集中する様に両手を前方に突き出す。
少女はその姿に、彼が逃げると言う選択肢を捨てた事を感じ取った。
「ありがとう。もういいから……。私の為に死なないでくれっ……!」
この戦闘で部下を何人も失った。
地上部隊も守れなかった。
それに加えて目の前の少女でさえ守れない。
精神的に限界を迎えていた少女は、その瞳に涙を浮かべていた。
「逃げて……」
「いやだっ!!!」
「へっ……」
叫ぶ様な否定の言葉に、少女は彼を見つめ返した。
必死に戦っている。
守ろうとして戦っている。
その姿に少し前の自分を重ねていた。
「ウィッチに不可能は無いっ!」
ハッとする——————
少女はその言葉に、心が震える感覚に陥る。
逃げようとしていた。
絶望から。
恐怖から。
しかし目の前の者は、それに立ち向かっている。
戦っている。
「ばれ……」
『ウィッチに不可能は無い』
少女はその言葉に突き動かされた。
「がん……れ……」
呟く様な言葉はやがて大きな感情の滝になって流れ出す。
「がんばれ……!」
しかし無情にもネウロイはさらにビームの威力を増していく。
流石に耐久力を失ってきたのか、シールドにヒビが入ってきた。
このままでは、彼らは灼かれてしまうだろう。
「頑張ってくれっ!!!」
少女の叫びに答える様に、彼は集中力が増していくのを感じた。
「おぉぉぉぉぉぉ!」
彼は雄叫びを上げる。
すると割れかかっているシールドが見る見るうちに修復していく。
彼は顔を後ろで応援している少女に向けると、汗を浮かべながらも笑顔を見せる。
ウィッチに不可能は無い————
彼は目の前でそれを体現して見せたのだ。
「隊長ぉぉぉぉ!!!」
さらに希望の福音が聞こえた。
地上型ネウロイの遥か頭上から、銃弾の雨が降り注ぐ。
そう、散開した僚機が援護に来たのだった。
降り注いだ銃弾は、やがてネウロイのコアを撃ち抜いて——————
崩れる様に爆散した。
「はぁ、はぁ……」
「たすかったのか……」
彼は息を荒げて、手を下ろしてシールドを解いた。
そして、振り返って少女を見つめると。
「なっ……? ウィッチに不可能はなぃ……」
彼はまるで力が抜けたかの様に、その場に倒れ込んだ。
「お前っ! しっかりしろ!」
少女は這い寄る様にして、彼に近づいて様子を伺う。
幸い脈が取れた。
少女には、惜しげも無く魔法力を使った所為で、彼が意識を失った事が分かった。
「隊長! 無事みたいだね……!」
近寄ってくる僚機の少女、ストライカーユニットを外すと、グラティアの元へと駆け寄った。
「ごめんね隊長。もう飛ぶ程の魔法力が残ってなくてさ……」
僚機の少女は、自分の脱ぎ捨てたユニットを見つめる。
「それはいい、それより逃げるぞ」
グラティアは手を貸せと言った様に、僚機の少女に手を向けた。
「隊長立てないの……? と言うかこの娘は?」
「そんな事は後だ。連れて行ってくれ、まずは移動手段の確保だ」
僚機の少女は頷いてみせると、その小さい身体から出るとは思えない程の力で、二人を担ぎ上げる。
彼女は身体強化系の固有魔法を有しているのだ。
「恩人だ。丁重に扱ってくれ」
グラティアはこの幸運な出会いに感謝した。
この出会いに疑問に思う事も多々あったが。
そんな事どうでも良くなっていた。
生きている事を思えば、そんな事些細な事だったのだ。
「今度は私が助けてやる……」
たった十数分一緒に居ただけなのに……。
隣に担がれている者は、グラティアの戦友の一人となっていたのだった。
続く——————
気になる事は何でも質問下さいね。