目が覚めるとウィッチでした。   作:華山

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戦果の中、二人は出会う。

※僚機の子の性格を少し改編


プロローグ2

——————

1940年3月 

オストマルク トランシルバニア近郊

少女が墜落する数十分前———

——————

 

その少女の名はグラティアと言う。

カールスラント軍に所属しているウィッチで、JG27と言う部隊に所属していた。

部隊の撤退を支援する為に、彼女はこの激戦地へと派遣されていた。

通常なら、ただ撤退を支援すればいいだけの任務だったのだが、敵の侵攻が思ったよりも早かった。

そのため「ご覧の有様」となった。

グラティアはブロンドの髪を靡かせながら、戦火に飲まれた地を飛ぶ。

 

「隊長! もう無理だって!」

「無駄口を叩くぐらいなら、一機でも多く落とせ」

 

グラティアは隣についてくる僚機に向けて、こんな状況にもかかわらず冷静に言い放った。

しかし表情は焦りを隠せなくなっていた。

撤退を支援する筈の地上部隊は殆ど壊滅。

八機いた彼女の部隊は、散り散りになりその殆どが墜落したと思われる。

別に彼女の責任では無かった。

お世辞にもメンテナンスが行き届いてると言えない脚は、離陸時に二度もの不調を訴えた事。

彼女達が援軍として到達した時には、もはや持直す事が出来ない程に戦線が壊滅していた。

 

「撤退しようって! 誰も責めはしないよ!」

「地上部隊が撤退するまでは持ち場を離れられない。お前は散開して左翼の敵を叩け」

 

眼下には、未だに交戦を続けている部隊が存在しているのか、時折砲火の光が見える。

二人では完全に守りきる事は出来ないと分かっていても、撤退する気にはなれなかった。

まだ下では戦っている部隊が居る。

自分たちだけ逃げ帰ると言う発想になれなかったのだ。

 

「でもっ!」

「聞こえなかったのか?」

 

グラティアは隣に居るもう一人の少女を睨みつける。

 

「っ……了解! あぁー、最悪の日だよ!」

 

流石の少女も、グラティアの眼光にそれ以上言い返す事は出来なかった。

貧乏くじを引いたと思いながらも、少女は一度深呼吸をすると、編隊を離れていく。

 

(長くは持たないだろうな……。敵の数が多過ぎる。地上部隊も殆ど包囲されている)

 

援軍でもない限り、この状況を打開出来る術は無かった。

しかし援軍等来る筈は無い。

司令部との通信は途切れたのは十数分前の事。

<<地上部隊を支援せよ>>との命令を後にブツっと無線が途絶えた。

地上部隊の動きを見るに、命令が与えられずに、動くに動けなくなっている事も空の上の彼女からは分かっていた。

それならば、低空を飛んで支援すればいいのだが……。

言わずもがな、そんな事をすれば地上の『奴ら』に狙い撃ちされる事は間違いない。

 

「四面楚歌とでも言うのか……。むしろ背水の陣か」

 

グラティアは手に持っている武器の残弾数を確認する。

MG34が一丁。弾は75発のドラムマガジンが残り一つ。もう既に装弾されている50発マガジンが一つ。

出撃した時とは比べ物にならない軽装になっていた彼女。

小さくため息を吐いて、大きく身体を右に切った。

 

「せめて一匹でも……!」

 

高高度に上がっていた彼女は、対空砲火に狙われない高度まで一機に急降下する。

その間に悠々と飛んでいる中型ネウロイへと狙いを定めた。

ネウロイはまだ気づいていないのか、こちらへ向けて攻撃をする様なそぶりは無い。

 

(もう少しっ……!)

 

彼女は、少ない弾数で相手を仕留めなければいけなかった。

それだけではない。

もはや部隊は存在しない。

バックアップをしてくれる支援者も居ない。

その為、一撃与えては離脱する様な戦法をとる他無かった。

一撃離脱は中型以上のネウロイには、あまり効果のない戦法だと言う事は彼女も知っていた。

ネウロイはコアを撃ち抜かない限り再生を繰り返す。

十分な弾数を持っている場合には、ありったけの弾を散蒔いて離脱すればいいのだが、今の彼女にはそんな余裕は無い。

もちろんコアを見つける目も持ってはいない。

なので弾を無駄にしないため、出来るだけ近寄って、勘を頼りに銃撃を行って離脱する。

無謀にも思える戦法だが、彼女はこの戦法で十機のスコアをたたき出していたのだから、勘も馬鹿には出来ない。

幸運にもめぐまれていたのだが……。

 

(っ!?)

 

そんな幸運の女神も、最後の最後で彼女を裏切ったのだった。

突然ユニットが大きな音を立てて出力が低下する。

彼女がいくら魔法力を送り込んでも、エンジンが再スタートする事は無い。

さらには煙を噴いてしまっている最悪な状況だ。

 

「くそっ! 動けこん畜生!」

 

今まで駆ってきた彼女の相棒も、度重なる出撃と劣悪な整備環境の所為で、とうとう悲鳴を上げたのだ。

どんどんと高度が下がっていく。

 

「あっ……」

 

そして、状況はさらに悪化していく。

ユニットに気を取られていた彼女は、眼前のネウロイから意識がそれてしまっていた。

敵もそれを見逃す事はしない。

ネウロイの上方の装甲がまばゆい光を見せる。

ネウロイが撃ってくる。

ウィッチにはシールドと言う対抗手段があるのだが、気づいた時にはもう遅かった。

シールドを展開している時間はなかった。

 

「クソおおおおおお!」

 

必死の思いで思いっきり身体のバランスを崩してスレスレの所でネウロイのビームを躱す。

右足のユニットが若干ビームに擦ったのか、破片が飛び散った。

 

「あっ、これ……墜ちる……」

 

もはやあきらめともとれる様な声で、小さく呟いた。

不思議な事にネウロイは第二射を撃ってこない。

 

(馬鹿にして……)

 

慈悲の心を持っていたのか。

それとも、もはや墜ちる相手に攻撃するのは無駄な事だと判断したのか。

おそらくは後者だろう。

地上には地上型のネウロイが存在する。

後始末はそいつらに任せると言った事だったのだろう。

馬鹿にされたようでグラティアはあきらめの中でも腹がたった。

願う事なら相手に一矢報いたかったが、回避の時にMGを落としてしまった彼女には、それすら叶わない。

地面が近くなっていく。

 

「墜ちるぞっ!」

「っ!?」

 

突然聞こえた声に、空耳と疑いそうになりながら、少女は後方に視線を向ける。

そこに立っていたのは年端も行かない少女。グラティアより年齢はいくつか若い様に見える。

漆黒の黒髪は、この地方の人間ではないと言う事を意味していた。

 

「来るなっ! 逃げろっ!!」

 

グラティアは墜ちる直前、聞こえているかも分からないが、少女に向けて叫ぶ。

思いっきり場をかき回した自分への注目は、だいぶ高まっている筈だ。

近くに居ると、地上型ネウロイに襲われる可能性が高い。

あの少女が襲われる可能性は十分にあった。

そんな事はあってはならない。自分は護る側の人間なのにと。

グラティアは必死に叫ぶ。

しかし直後。

 

 

 

地面に身体が打ち付けられる感覚

 

 

 

 

そして——————

 

 

 

 

 

彼女は意識を失った。




グラティアは元ネタがあったりします。当てれた人は凄い。
気軽に感想お待ちしています。

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