目が覚めるとウィッチでした。   作:華山

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連続更新。
書き溜めはここまでだから、次回更新は少し遅れます。


小ビフレスト作戦1

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1940年月5月

 

オーデル川東 最前線

 

――――――――

 

硝煙が立ち上り、戦火が空をも焦がす戦場。

悠々と空を支配するかのように飛び回る影は、倒すべき宿敵。

息も詰まりそうな。

いや、息をすることを忘れる程の緊張。

瞬間、ウルカはネウロイの背後を取り、手に持っているマシンガンの照門にネウロイの中心を抑えた。

敵は小型だけあり、ビュンビュンと何度も軌道を変えて逃れようとする。

しかしそれを許さない。

敵が逃げようとする方向に、二、三発の銃弾を浴びせる。

すると、それを避ける様に逆側に機体をロールする。

そうなれば運の尽きだ。

ウルカは思いっきりトリガーを引く。

衝撃と共に放たれた弾丸は、ネウロイの表面を削り、露出したコアを砕く。

 

「3機目……!」

 

ウルカは撃墜した数を口に出すと、不敵な笑みを浮かべる。

 

「ウルカ様!!」

 

ウルカは後方から聞こえた声に視線を移す。

その声の主は、二週間前に出会ったポリーヌと呼ばれるウィッチだった。

彼女は、時々不注意からのヘマを起こすものの、戦闘の才能は間違いなく高いものであった。

今、ウルカがネウロイを撃墜できたのも、ポリーヌが十分にネウロイを追い込んでくれたおかげである。

ポリーヌはウルカの左にぴったりと寄り添う。

 

「助かったポリーヌ! 東に一個編隊残ってる! ティア達は別のネウロイに対応してる! 俺たちでインターセプトするぞ!」

 

この戦域をカバーするには、明らかに数が足りない。

ウルカは残弾を確認すると、カラになった弾倉を捨て、予備の弾倉と入れ替える。

この戦域に来てもう数時間。

別戦域で大規模な作戦が行われているらしく、増援の見込みはなかった。

ストライカーも、ウルカが全力で吹かし続けているせいか、不調を訴える異音が鳴り始めている。

 

「限界ですわウルカ様! いったん撤退を!」

「無理だ! 今俺たちが居なくなったら、地上の連中が死ぬ!」

 

地上では散発的に爆発音が響いている。

ウルカの約1500m下でも、泥沼の戦いが行われている。

この空域の航空優勢を取られてしまえば、戦線は崩壊し、オーデル川以西まで撤退しなければいけないのは明白だ。

そうなればどうなるか。

そんなことは分かり切っていた。

ベルリンへの道を、ネウロイに明け渡すことになる。

それだけは避けなければいけなかった。

 

「今来てる一波を防げば、一旦は侵攻も止まる! だから、力を貸してくれポリーヌ!」

 

ウルカは、銃のグリップを強く握りしめて、強くポリーヌに伝える。

実際、ネウロイの数は最初の時より減っている。

増援も確認できていないため、おそらくはここさえ凌げれば、防衛という観点では成功となる。

この防衛の是非は、この戦域に展開しているウィッチたちの手に委ねられている。

ウルカは、ここで退くわけにはいかなかった。

 

「頼む……!」

「……」

 

ポリーヌはウルカに渋い顔を見せるも、最終的には諦めたようにため息を吐いた。

 

「無茶はしないと約束してくださいね……?」

 

ウルカは一度だけ強く頷き、不調を訴えるストライカーに再び力を込める。

ただ一点に敵を見据える様に突き進んでいった。

 

………………

…………

……

 

ウルカは視線の先に大編隊をとらえた。

機数で言えば、見えるだけでも十二機以上。

もはや数で物量で押しつぶそうとしてるようにしか見えない。

この空域で、対応に当たっているウィッチは飛行隊規模でしかなく、このままでは敗走することは確実だった。

ウルカは、そんな状況を見ても躊躇することはしない。

 

「行くぞポリーヌ!」

「えぇ!」

 

入り乱れるビームの中に、ウルカはそれを縫うように突っ込んでいく。

ポリーヌもそれに遅れないように、まるで牽引されるかのように、ウルカにぴったりとついていく。

ウルカは前方に、二機のネウロイに補足されているウィッチを見つけた。

ストライカーからは、煙が吹き上がり、おそらく掠る範囲での被弾をしているようであった。

ウルカは轟音の中でも分かるように、ポリーヌにハンドサインを見せた。

彼女は頷くと、編隊を離れていく。

 

ウルカはMGを構えると、ウィッチ後方のネウロイに向かって、数発の銃弾を放つ。

数発が掠ったが、浅い損傷しか与えることができていない。

二機のネウロイのうち、一機が別方向に逸れる。

おそらくは、ウルカの後ろを取るつもりなのだろう。

しかし、回避行動をとることはなしない。

ウルカは、ウィッチに付きっぱなしのネウロイを狙い続ける。

ウィッチに射線が被らないように、掠るような射撃を何度か行い、ネウロイを引き剥がす。

やがて、ネウロイが大きく回避の機動を取る。

ウルカはそれを見逃さない。

トリガーを思いっきり引き、フルオートで射撃を行う。

金属が砕けるような音を発し、ネウロイが崩れていく。

そして、コアに直撃したのか、ネウロイは砕け散った。

 

「っ!」

 

そしてその刹那、ウルカの後方からビームが数発飛んでくる。

それに対応するために、ウルカは後方にシールドを張った。

先ほど、ウィッチから離れたネウロイの一機だろう。

回避機動を取りながら、シールドでビームを防ぐ。

しかし大きくは避けない。引き付ける様に、左右にゆらり、ゆらりと身体を振って見せる。

後方を確認すると、ネウロイのさらに奥に影が見える。

ウルカは、にやりと笑みを浮かべると、体を思いっきり切って、鋭い回避機動を行う。

 

その瞬間。

 

ズトンッ! と大きな音が響き渡る。

ウルカの後方でネウロイが爆散する。

大口径のライフルから放たれた弾丸がネウロイを屠ったのだ。

射撃を行ったのはポリーヌだった。

正確な照準で、弾丸はネウロイのコアを一撃で吹き飛ばしていた。

 

「ウルカ様! 流石の機動ですわ!」

「一撃か……。今度射撃教えてくれよ」

 

あまりに正確な射撃に、ウルカはそんな冗談を飛ばしつつ、被弾しているウィッチの元へと急行する。

そして、左側に身体を寄せると、状態を確認した。

 

「大丈夫か!」

「はいっ……。助かりました……。貴女は?」

 

ウィッチは精神的にも疲れ果てたような声で、ウルカに問いかけた。

 

「第一独立戦闘飛行隊だ!」

「第一独立戦闘飛行隊……! コメットですか!?」

 

ウィッチ……。少女は言葉を聞いて、放つ言葉に活力が戻ったかのようだった。

ウルカを見つめるその表情は、窮地に現れた騎士を見ているかのようだ。

 

「あ、あぁ、そうだ」

 

ウルカは少女の言葉を聞いて、恥ずかしさを覚えながらも、それを肯定した。

彼女に最も必要な物、それは希望であると考えたからだ。

どうやら知らぬ間に、ウルカの話は、結構遠くまで響き渡っていることが、少女の反応から見て取れた。

 

「ということは、あ、あなたは彗星の姫君……! 大丈夫です! 私はまだ戦えます!」

 

少し前まで、もはや風前の灯に思えた少女の瞳に光が灯る。

戦意喪失したように思えたが、ウルカの登場に奮い起こされたかのように、闘志を見せる。

ウルカは少女のストライカーに目をやる。

外装の一部が吹き飛んでいる。

異音も聞こえ、もはや戦闘機動は行いえないほどに壊れていた。

これでは囮にもなることは出来ない。

 

「駄目だ! お前がここで散っても意味はない。この戦場は『コメット』が受け持つ!」

「そんなっ、私!」

 

少女は食い下がる。

 

「俺に任せてくれ。君にはまだ死んでほしくない」

 

ウルカは、少女の肩を掴んで、言い聞かせるように優しく笑みを浮かべて語り掛けた。

パイロットの損失は、この先の戦況にも大きく影響が出る。

生きてさえいれば、この先いくらでもチャンスはある。

ウルカは少女に撤退を促す。

 

「あ……ぅ……。分かりました……」

 

少女は少々頬を染めながら、小さく頷いた。

 

「いい子だ!」

 

ウルカは少女の頭を優しく撫でた。

 

「ここから数キロ離れればフロントラインを抜ける。護衛はいるか?」

「いえ! 大丈夫です!」

「よし、なら生きて帰れよ!」

「はいっ!」

 

少女は強く頷くと、戦域を離脱していく。

ウルカはその様子を軽く見送ると、再び戦線に戻ろうと切り返した。

 

「ずいぶんと優しいんですのね?」

 

ウルカの隣につくポリーヌは、まるで不満そうに頬を膨らましている。

ウルカはその理由がよくわかった。

彼女と一緒になって、二週間ほどではあったが、ポリーヌはウルカに並々ならない感情を寄せている。

他のウィッチ(グラティアやカミラは除く)と話している時に、ポリーヌは決まってこういった表情をする。

ウルカはため息を吐いて、ポリーヌの頭に手を伸ばす。

 

「満足か?」

「ふふっ、えぇ!」

 

援護に支障が出ては困る為、ウルカは、さっきのウィッチにしたように、ポリーヌの頭を優しく撫でた。

これは毎回の嫉妬を回避する手段だ。

ポリーヌは上機嫌で微笑む。

過激な要求こそしてこないものの、毎回こうでは思いやられると、ウルカはもう一度ため息を吐いた。

 

「弾はまだあるか?」

「予備弾倉が二つ……。銃には二発ですわ」

「ギリギリだな……。俺はこの弾倉で最後だ」

 

ウルカは首を振りながら、銃を見せつける。

 

「戦域には十機以上いるしな。助けを求めてるウィッチもたくさん」

「増援の見込みはなしですものね……」

「しかし泣き言も言ってられないからな……。突っ込むぞ!」

 

ネウロイが大量に飛び回る場所に飛び込む。

ウルカは自分が正気じゃなくなったのではないかと思いながらも、銃のグリップを強く握りしめて、速度を上げていく。

ウルカが乱戦の中に飛び込もうとしたその時だった。

 

《ウルカ! 今どこに居る!》

 

短距離無線に、グラティアの声が響き渡った。

その声色からは、少し怒った雰囲気を感じ取れる

 

「ティアか! 今は東側の防衛ラインに居る。えっと、位置は……E3!」

《無線ぐらいよこせ! 心配したぞ!》

「すまない! こっちも必死だったんだ!」

《まぁいい! こっちはある程度片付いた! そっち向かうから、戦線を維持しろ!》

「あぁ、了解だ!!」

 

ウルカは、グラティアの声にほっと胸を撫で下ろした。

 

「少尉ですの?」

「あぁ、こっちに来るらしい」

「それは朗報ですわね!」

 

無線機は全員に行き渡っていなかったため、ウルカは聞いた内容をポリーヌに話した。

ネウロイの数は確実に減ってきている。一筋の光が見える。

 

「それまで戦線を維持するぞ!」

 

ウルカは気合を入れなおす様に、言い放つ。

ポリーヌは力ずよく頷いて見せるのだった。

 

………………

…………

……

 

結果を言えば、作戦は大成功だった。

数多くのウィッチを助けることもでき、戦線の維持も成功した。

そう、作戦は成功なのである。

少なくとも今回の作戦は。

 

「ダメだ。帰還できるだけの魔法力が残ってない」

 

ウルカは体の疲労を感じながら、もはや虫の息で、かろうじて動いているストライカーを見る。

無理やり振り回した結果、黒い煙を吐きながら、何とか動いている状態。

 

「ストライカーもダメそうだな……。よし、一番近い前線基地に不時着しよう」

 

グラティアは、懐から地図を取り出して、ウルカに示す。

オーデル川沿いに作られた、最終防衛線沿いの前線基地だった。

 

「ウルカー。少尉の予備機をこんなにしちゃってー」

 

カミラはウルカに対して、軽口を飛ばす。

ウルカはカミラのストライカーを見た。

外装が一部剥がれていた。他人の言える状態じゃないだろうと、ジト目で見つめる。

 

「仕方がないですわ! ウルカ様は身を張って戦線を維持して……」

 

ウルカより先に反論したのはポリーヌだった。

 

「ほら、その辺にしておけ!」

 

そして、グラティアがそれを止める。

数回の出撃で出来上がった毎回の会話だった。

ウルカはこの瞬間、最も安心することができた。

今日も一人もかけることなく、帰還することができるんだと。

 

「持つといいな……」

「持たなかったときは、地上を歩くことになるさ」

 

ウルカは、異音を立てるストライカーを気遣いながら、グラティアの先導についていくのだった。




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