目が覚めるとウィッチでした。   作:華山

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ウィッチになりたくて書き始めてしまいました。
駄文で申し訳ないですが、お付き合いいただけたら幸いです。
誤字脱字ありましたら、気軽に教えて下さいね。

※加筆する可能性有り。


プロローグ
プロローグ


何処までも続く蒼と白の世界。

遮るものは何も無く、ただ風の音と、日差しが差し込む世界。

そんな世界を自由に飛ぶ事が出来たら。

重力に縛られたもの達は、そんな幻想を抱きながら空を見上げる。

彼もそんな世界に憧れた一人だった……。

 

——————

1940年3月

オストマルク トランシルバニア近郊

——————

 

「うっ……、なんだ———」

 

突然何が起きたかも理解出来ずに、彼はただ床へと寝そべっていた。

彼は大理石で出来ている床に手をついて、うめきながらも鉛の様に重い身体を引きずる様に立ち上がる。

 

「何が起きて……声が……?」

 

全くと言って状況を理解出来ていなかった彼は、自らの声が可笑しい事に気づきながらも、首に手を当てながら辺りを見回した。

視覚に入ってくるのは、メチャクチャになっている部屋。

まるで地震のような災害が起きてしまったかの様な有様だった。

部屋にある大量の本棚は倒れて、建物の構造を保つ為の柱すら大きくヒビが入ってしまっている。

 

「どこだよここ?」

 

彼もそんな光景を見れば、焦りの籠った声を上げる。

彼はこの場所に見覚えが無かった。

それも無理は無い。

彼は今さっきまで自分の家で寝ていたのだ。

少なくとも、彼の部屋の床は大理石では出来ていなかった。

それに大量に倒れている木製の本棚なんかも、彼の部屋には無かった。

 

「焦げ臭い……」

 

そして鼻孔をさす様な香りは『何か』が焼けこげた匂いである事は間違いなかった。

彼は立ち上がってゆっくりと辺りを見回した。

 

「んっ? えっ?」

 

そして彼は、部屋やおかしな自らの声以外の違和感に気づく。

 

「視線が低い……」

 

彼の身長は170cm程だった。

それは彼の年齢からすれば少しだけ低いと言われる程だったが、今はどうだろうか。

彼は立ち上がったにもかかわらず、辺りが大きく見える。

かろうじて形を保っている部屋と比較しても視線が低過ぎる。

彼はゆっくりと視線を下にさげる。

 

「……ふむ、夢か夢なんだな」

 

視線は地面に届く事は無く、何故か盛り上がった胸に遮られてしまった。

男である筈の彼にこんな胸なんてある筈が無い。

もう十分覚醒している筈なのだが、彼は今夢の中であると判断してしまっていた。

自らの手をゆっくりと胸に持ってきて、服の上から触ってみる。

 

「んっ……感覚がある……やわらかい……おっぱい……?」

 

自分の身体をゆっくりと確かめる様に恐る恐る胸を揉みしだいた。

生まれてこのかた、女性の胸なんて触った事が無かったため、彼はその柔らかい感覚に驚きの声を上げていた。

 

「いややいやいや! 何やってんだ俺は!」

 

可愛らしい声で、頭を抱えながら邪念を吹き飛ばす様に、頭を左右にぶんぶんと振った。

そして大きく深呼吸。

 

「っ! げほっ、げほっ! なっ、なんだよこれ……!」

 

大きく息を吸い込むと、あまりの煙たさに咳き込んでしまった。

もう一度辺りをよく見ると、部屋の入り口から煙が流れ込んでいた。

咄嗟に彼は煙を吸い込まない様にと姿勢を低くした。

 

「火事かっ? この部屋といい、俺の今の状態といい……、意味わかんねぇな畜生!」

 

ただでさえ混乱しているのに、次から次へと起こるイベントに、彼は叩き付ける様な声で叫んだ。

そんな言葉を叫んだ瞬間だった。

 

ドーーーーーーン

 

空気を裂く様な音が耳に聞こえたと思ったら、地面が揺れて天井から埃がぱらぱらと彼の頭上に落ちる。

 

「爆発!?」

 

緊張の所為で心臓が大きく脈打っている。

少なくともこの場所に留まるのは得策とは言えない。

彼はそう判断したのか、低い姿勢のまま、部屋からゆっくりと出て行った。

 

——————

 

彼は今にも崩れそうな建物の正面玄関であろう場所から、這い出す様に外へと出た。

やっとの思いでこの場所に出てきた彼は、数歩進むとその場所に座り込んでしまう。

 

「くそっ! なんなんだ! ここはよっ!」

 

彼の口からこんな言葉が出るのも無理は無い。

部屋から出るとそこは廊下だった。

天井の一部が落ちていたのか、部屋の中より惨状であったのは言うまでもない。

そして彼は見てしまったのだ。

落ちてきた天井の破片の下から、深紅の液体が流れている事に。

そしてその近くに、火事の所為で燃えてしまっている何かに。

初めは何か分からなかったが、思考がクリアになるとそれも理解出来た。

それは人だったもの。

 

「意味わかんねぇって……」

 

辺りで爆発音や、何かしらのエンジン音が響く中、彼は薄暗く曇った空を見上げながら呟いた。

起きたら見知らぬ土地で女になってるし、まるで戦争でも起きている様な所に投げ出された。

理解し難い状況に投げ出されながら、次に何をすべきかを考えた。

 

「ここは危険だよな……」

 

気力を振り絞りながら立ち上がって辺りを見回す。

背後には今にも崩れそうな立派だったであろう建物。

前方には大きな通りがあり、その向こうには瓦礫になっているが、建物だったものがある。

所々で火災が発生している。

誰がどう見てもここがセーフゾーンで無い事は確かだった。

 

「風下……このままでは火に巻かれる……」

 

所々で起こっている火災は、確実にその範囲を広めて彼の方へと迫っていた。

そして彼は身体に吹き付ける風の感覚に自分が風下に居る事を感じとった。

彼は次の行動を考える。

状況が分からない今、とりあえずとれる最善の方法を選ぶ事にした。

 

「何処か広い場所に……風上に逃げよう」

 

大きく肩を揺らしながら、荒く熱い息を吐いた。

全ての疑問を投げ捨てて、彼はまず逃げる事を選んだ。

開けた所に行けば、救助を待つ人に出会えるかもしれない。

そして火より風上に行けば、火に巻かれる心配も消えるだろう。

 

「となれば……っ!?」

 

行動をとろうとしたその時だった。

耳を劈く様な轟音と共に、背後から爆風に吹き飛ばされる。

『軽い』彼の身体は、その爆風に飲み込まれて地面に転げる。

 

「うっぐ……げほっ、なにが……」

 

肌に伝わる熱い風は、近くで何かしらの爆発が起きた事を彼に理解させた。

大きく露出している太もも部分に擦り傷がつく。

痛む身体をゆっくりと起こし、辺りを見回した。

煙が視界を遮って、何が起こっているか分からないが、それも次第に晴れていく。

 

「っ!?」

 

その瞬間、彼は瞳を見開きながらある光景を目にしたのだった。

少女が。

少女が飛んでいるのだ。

どう考えても通常理解し難い状況だろう。

 

「アレって……。まるであのアニメの……」

 

年端も行かない少女が、確かに彼の頭上をかすめていく様に通り過ぎた。

飛び去って行く少女を視線で追う。

 

「ウィッチ……?」

 

驚きと困惑と言った声で彼は呟く。

それと同時に彼は、飛び去って行った少女のある事を見つけた。

 

「煙吹いてる……墜ちるぞっ!」

 

少女の足についているモノから煙が吹き出ていた。

そして徐々に少女は高度をさげていく。

彼は考えもしないまま、その少女の後を走って追っていく。

 

「っ!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

少女が墜ちる瞬間、彼女は彼と咄嗟に目が合った。

 

「来るなっ! 逃げろっ!!」

 

そして少女は、彼に向けて何かを叫んだ後に、地面に身体をこすりつける様に不時着する。

少女が何を叫んだか、彼の耳には届いていなかった。

少女の身体は地面を転げる様にして、やがて止まる。

普通の人間ならひとたまりも無いだろう。

彼は全速力で彼女が墜ちた地点へと向かった。

 


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