―洛陽
信、曹操、孫策、劉備の四人全員がそれぞれに正式な辞令と印を受け取り、明日には任地に赴く。という事で洛陽にある曹家の屋敷では大宴会になっていた。それを抜け出す信。
「・・・・」
無言で赴いたのは擁州太守董卓の屋敷、知り合ったのは半年程前、まだ王虎の名が売れる前の話。
「夜分遅くに失礼、某李厳と申す者。董卓殿にお会いしたい」
門前にて、あまり大きな声では無いが中に十分聞こえるであろう声で名乗りをあげる。
「・・・・信」
門扉を開けて現れたのはかつて董卓軍に手を貸した時、共に轡を並べ友と認め会った少女。
「恋か、半年ぶりだなー元気か?」
「・・・・ん(コクリ)」
聞いて驚くなかれ彼女は呂布、字を奉先、真名を恋・・・・そう、あの飛将軍だ。前世では暴虐だ不実だなどと汚名ばかりの武力バカ、何て批評しかされていないがこの世界の呂布は純粋で誠実な食欲魔人だ。
「月は起きているか?」
「ん、案内する」
恋に案内されて屋敷の一室と通される。
「月、お客さん」
「え?あ・・・・信さん」
「何でアンタがここにいるのよ」
室内には更に二人の少女、ここでも驚き。儚げな花のような印象を受ける少女がかの暴虐で有名な董卓、字を仲穎、真名を
そしてその隣にいるメガネっ娘でツンデレ要素たっぷりな少女が賈駆、字を文和、真名を詠。腹黒軍師代表みたいな印象だったのだがそんな事は無い、ただの正統派ツンデレだ。
「黄巾の乱で将五人を討った戦功で江陵太守に任命されてな、暫しの間気軽に会いにこれねーから挨拶に来た」
「そうなんですか?おめでとうございます」
「へぇ、結構出世したじゃない。おめでと」
「後はまぁ・・・・忠告かな」
『忠告?』
自らが莉乃に探らせて掴んだ情報、そして前世の知識、この二つから導き出される出来事は否定する事の出来ない事実。
「どれぐらい先になるかは分からんが中央が荒れる、出来る限り巻き込まれないように動け」
「・・・・具体的には?」
「十常侍が皇帝を使って何かしでかす、どれぐらいの事かは定かでは無いが・・・・」
「分かったわ、巻き込まれないように注意しておけばいいかしら?」
「どうせなら適当な理由をつけて擁州に戻れ、そんぐらいしてても不安なぐらいだ」
それから少しの間、互の近況報告を続ける。
「んじゃま、そろそろ戻るさ」
「あの・・・・信さん」
「?」
「何で、わざわざ忠告をしに・・・・」
「んー」
少しばかり、考え込む素振りを見せる信。
「月も詠も、恋も大事な友達だ。その友達に無事で居て欲しいから来た・・・・じゃダメか?」
「・・・・いえ、ありがとうございます」
「ん、じゃあな」
ヒラヒラと手を振りながら部屋を出る信。屋敷の入口には恋ともう一人、小柄な少女。
「おぅ音々、元気してたか?」
「恋殿が元気であれば音々も元気なのです!」
陳宮、字を公台、真名を音々音。史実でも呂布に最後まで尽くし、共に死した忠臣として有名であるのだが・・・・何だろう、この世界の彼女は忠臣というより『忠犬』な気がする。まぁ言ったら蹴られるから言わないけど。
「月と詠の事、頼むぞ」
「・・・・(コクリ)」
「あのダメガネの事は知りませんが月の事は任せるのです」
そんな事は言っているがなんでかんでで助けてくれるんだろう、音々音は良い子だから。
「任せた」
笑いながら、屋敷を後にする信。フラフラと夜の大通りを歩く、中天に瞬き煌々と輝く月を見ながら。
「・・・・何者だ」
気配、と視線を感じ振り向く事無く、言葉を発する。
「流石は傭兵将軍」
「まさか見つかるとは思いもよらず」
通りの両側から現れる二人の女性、そして信を包囲するように数十人、覆面で顔は分からないが現れる。
「何者だ、っつってんだ」
「私は趙雲」
「自分は鄧艾」
白を基調とした衣装を身に纏う方が趙雲と名乗った。趙雲、劉備に仕えた名将でありその子劉禅を曹操軍数万の中から単騎で救いだした胆勇を誇る。
藍色を基調とした衣装を身に纏う方が鄧艾と名乗った。鄧艾、魏末期のこちらも名将であり蜀侵攻において険路を進み成都を陥落へと導いた知将。
「趙雲に鄧艾・・・・成程、『雪花』か」
王虎の名が売れ始めた頃に聞いた事がある。北の公孫賛を助け烏丸撃退に功を挙げた『雪花』を名乗る傭兵部隊がいたと聞く。
「然り」
「その雪花が何用だね」
『・・・・』
互いに顔を見合わせる趙雲と鄧艾。
「少しばかり」
「お手合せを」
槍を鏡合わせに構える趙雲と鄧艾、それを真っ向から見据えながら風雅を構える。
「どっからでも来い」
「二対一でも構わないと?」
「そうでなけりゃ納得出来ねー何かがあるんだろ?」
無言で頷いた二人が、同時に地を蹴る。
『せぁっ!!』
趙雲が喉を、鄧艾が水月を狙って突きを繰り出してくる。
「ぬんっ!」
風雅を回転させる動作で二撃を同時に打ち払う。と同時に右足を大きく振り上げて・・・・
「っ!!!」
日本の古武術で震脚と呼ばれる技法、を模した単純な脚力任せの震脚。ただ一つおかしいところと言えば振動の割に音がほとんど無かったぐらいなものだ。
「なっ!?」
「これは・・・・」
ぐらり、と体幹を崩す二人。
「勝負有り、だな」
二人の中間地点に、風雅を掲げる信。
「・・・・成程」
「少なくとも、どちらかは殺されますか」
カラン、と槍を取り落とす二人。それを見れば風雅を下ろす。
「見たいもんは見れたか?」
「ええ、存分に」
「一つ、お聞きしてよろしいか?」
「構わんが」
今の手合せで若干、乱れた髪を手ぐしで整えながら二人を見る。
「李厳殿は何のために戦われる?」
「最近良く聞かれるなぁ・・・・」
苦笑しながら頭をボリボリとかく。
「俺はただ日々を精一杯生き抜きたいだけさ、自分に悔いだけは残さないように、さ・・・・大義とか理想とかそんな大層なもんはねぇし?本当なら太守とかそんなのは勘弁ってところだが・・・・俺が生きるために戦って着いてきた結果なら受け止めるっつーだけで」
ケラケラと笑いながら語るその姿を見て、二人は唖然とした表情で顔を見合わせる。
「今まで世で名の知れた領主たちにも同じ事を聞いて参りましたが・・・・」
「斯様な事を仰られたは李厳殿が始めてだ」
「他の連中に比べて異端だって自覚はあるがな、それでも俺はこの主張を変えるつもりは無い」
うん、と頷き合う二人。の合図を受けて囲んでいたメンツが二人の後で片膝をつく。
「李厳殿、何卒我らを」
「貴殿の部下としていただけませんか?」
「ヤダ」
『えぇええええええ!?』
即答された事に驚きを隠せない様子。
「俺のところの連中にも言ってるんだけどよ?部下は要らん、欲しいのは仲間だ。肩を組み共に歩む事が出来る仲間が・・・・さ、だから・・・・」
趙雲と、鄧艾の前へと歩み寄り、手を差し伸べて。
「仲間としてならば俺はおおいに歓迎する、趙雲、鄧艾」
「・・・・星、とお呼び下され」
「自分の事は優衣と」
「星に優衣だな、俺は信だ。宜しく頼むぜ」
差し伸べた手を星と優衣がガッシリと握り締める。
「宜しくお願いしまする、主」
「お、お願い致します・・・・ご主人、様」
何か女性比率高いよなぁ、とか思いながら再び空に舞う満月を見る信。そして同時に思い浮かべるは幼馴染の顔。どうやって説明しようか、と。そして確実に感じているのはあの殺気に再び晒されるのだろうなという事だった。
張遼に蒋欽、呉懿、諸葛亮、郭淮、趙雲、鄧艾・・・・敢えて言います、完全に作者の趣味で集められたメンバーです。とは言えしばらくはこれ以上増やす予定もありません、前回はそれで失敗していますしね。
次回からは暫し江陵移転後のお話になります。