曹操と共に軍を進めて二日、今は冀州平原へと来ていた。
「こっからもうちょい東に行くと黄巾の本隊か」
「ええ、南の皇甫将軍、東の盧植、北の朱儁が官軍、義勇軍を使って包囲を縮めているところね。私たちは此処に向かう二軍と共に西を防ぐ事になるわ」
「・・・・二軍?」
「ええ、劉備と孫策。この二人が合流するわ」
「兵数は?」
「私の二千と貴方の千、孫策が千五百で劉備が五百だから・・・・五千ね」
「・・・・何倍までなら行けると思う?」
「そうね、両軍の練度にも寄るでしょうが・・・・二軍が私たちと同じ働きが出来るならば十倍までは対応しきれるわね」
五千でも五万を相手に出来るとおっしゃいますか、まぁ自信家と言いますか・・・・
「後は将の質だが・・・・」
「それこそ心配無用よ、私のところだって新人ばかりだけど実力は十分よ」
正直曹操軍の陣容を聞いて驚いた。荀彧に曹休、楽進、李典、于禁と曹休以外はここ数ヶ月で麾下に加えたばかりの将だけ。曹休がそれなりに使える将だというのは身に纏う雰囲気で察せたが残る三将はどうなんだろうと思う。歴史上に有名な人物ばかりではあるのだが・・・・
「ほら、そろそろ見えて来たわよ」
クルリと、両側を見渡す。手製だろうか、深緑の劉旗を掲げる義勇兵たちと、真紅の孫旗を掲げる正規兵たち。
「遅れてごめんなさいね」
「お、遅れてしまいましたぁ~」
現れた二人の女性。褐色の健康的な肌に桃色の長髪、パッと見では分からないだろう武威、恐らくこちらが小覇王孫策だろう。という事は・・・・
「私が孫策よ」
「あ、私が劉備です。宜しくお願いしますね」
ほんわりとした雰囲気、そして何より・・・・デカイ!!何がとは言わない。
「待ってくれよ桃香!!俺を置いていくなって!」
そして少し離れたところから走ってくる青年・・・・その身に纏う服はこの世界の物では無い、十六年という月日が間にあろうが忘れ用も無い生前の。現代日本の衣装。
「ご、ごめんご主人様」
「あー劉備殿、その御仁は」
「ああー、ごめんごめん。俺は北郷一刀、天の御使い・・・・何て呼ばれてる」
成程、平行世界である以上紛れ込む異分子は自分だけでは無かった、ということだ。というか于吉が「やっちまったぜ」とか言いながら笑っている気がする。なんとなくだ。
「私が曹操よ、それでこっちが・・・・」
「李厳だ、宜しく頼む」
『傭兵将軍!?』
なんか安直でわかり易い異名みたいなのが叫ばれた。
「・・・・何それ?」
「あら?知らなかったの?李厳、貴方につけられた異名よ」
「はぁ?」
「奇抜な軍略、心理の裏をかく戦術、鬼神の如き武、傭兵でありながら世間の将軍よりも気品、人格が格上。ゆえにつけられたのが傭兵将軍、という異名よ」
「んな過大評価な」
ただ俺は人の嫌がる軍略を立て、有り得ないであろう戦術を行い、目の前の奴をぶっ飛ばして、自然体で人と接しているだけだ。
まぁともかく、それから暫くの話し合いの結果。此処に陣を張り皇甫嵩、盧植、朱儁が進軍を再開出来るまでの間、滞陣することになった。
―夜―李厳軍本営
カリカリと刀筆を走らせる音だけが響く、竹簡に記すは行軍記録。こういう細かな事がのちのちに役立つのだ。
「大将」
外から聞こえてきたのは大我の声だ。
「何だ」
「劉備軍の北郷が面会を求めて来てます」
「分った、通せ。ついでに人払いも頼む」
「うっす」
走り去っていく大我、そして周囲を警戒していた兵士たちが遠巻きになった頃。
「で?いるんだろ伏羲」
「バレてたか」
「バレいでか」
「えーっと?入っていいのか?」
「おう、入れ入れ」
陣幕を開けて入ってきた北郷は驚いた様子で于吉を見る。
「アンタあの時の!?」
「やぁやぁ久し振りだね北郷君、まぁ座りたまえよ」
「さて、始めましてだな北郷一刀」
「えっと・・・・李」
「斯波信」
「え?」
「俺の生前の名前なんだ」
「生前って・・・・」
「それは僕が説明しようか」
それから伏羲が説明を始める。信が元々は北郷と同じ未来の日本で生きていた人間だったと言う事。不慮の事故で亡くなった後にこの世界に転生した事、そして・・・・伏羲の手違いで信と北郷、二つの不確定要素がこの世界に揃ってしまったという事。
「なんか・・・・アンタも大変なんだな」
「分かってくれるか北郷」
「一刀で良いよ」
「んじゃ俺も信でいい」
「一応真名なんだろ?」
「それでも、だ。まぁこの世界においては俺が先輩なんだ、黄巾の乱が終わるまでは手ぇ貸してやるよ」
「ホントか?!」
「おう、武術から戦術、軍略・・・・色々と仕込んでやる。生き抜くにも力が要るからな」
「ありがとう!」
何だろう、一刀は子犬っぽいな。世話は焼けそうだが叩けば伸びるかも知れない。ともかく、北郷一刀という弟子をこの乱の期間で育てなけりゃならない。いろいろと大変そうだなー
―同刻―劉備軍本営
劉備たちの幕舎には朱里が訪っていた。
「ご無沙汰しております、劉備さん」
「孔明ちゃん、李厳さんのところにいたんだね」
「はい」
「元気でやってる?病気とかしてない?」
「おかげさまで」
『朱里ちゃんっ!?』
ちょっと沈み気味な空気に駆け込んで来たツインテールな魔女っ子と黒髪ロングのゴスロリ少女。
「雛里ちゃん!灯里ちゃん!」
駆け寄って抱き合う三人。鳳統士元、真名を雛里と言い水鏡塾での朱里の同窓生。徐庶元直、真名を灯里、同じく同窓生であり仲良しの三人組だった。のだが仕える相手に対しての意見の相違が生まれ別々の道を歩む事になった。
「李厳さんってどんな人なのかな?」
暫く四人でわいわいと騒ぎながら話をしていた時に、劉備がそんな事を言う。
「ご主人様は優しいお人ですよ、何時も皆の事を気遣ってて最大限仲間が傷つかない戦い方を選んで、その・・・・頭も撫でてくれますし・・・・///」
「成程、孔明ちゃんにとっての理想のご主人様だったんだ」
「え、えへへ・・・・///」
「私たちも今ご主人様につかえてるんだ?」
「え?と言うと・・・・天の御使い、北郷さんですか?」
「うん」
「ほら、旗印は少しでも名が売れやすい方が良いでしょ?だったら中山靖王の末裔よりも天の御使いの方がーって話なわけよ」
「幸い、関羽さんや張飛ちゃんも理由を説明したら納得してくれましたし・・・・ご主人様は優しいですし///」
ガールズトークに華が咲く劉備軍本営。
―更に同刻―孫策軍本営
孫策、周瑜、孫権に囲まれ中央に座するのが白夜だ。
「ご無沙汰していますね、お三方」
「ビックリしたわよ、ホントに」
「うむ、あの白夜がまさか王虎にいるとはな」
「ええ、本当に」
「今は蒋欽と名乗ってます」
白夜は元は江東のとある豪商の息子であり、孫権の幼馴染でもあった。のだが数年前に出奔、以後行方知れずとなっていたのだ。
「江東に戻る気は無いの?」
「申し訳ありませんが」
「我々としても白夜の力は必要なのだが・・・・」
「ご好意だけ受け取ります」
「白夜・・・・」
「すまないな蓮華、だが私は・・・・」
孫権仲謀、真名を蓮華。白夜の幼馴染でありそれこそ兄妹同然に育った仲。
「私は、あの方に夢を託した。ならば黙って付き従うのがその定めと思っています」
「昔っから律儀よねー、まぁ?そうでも無ければ困るんだけどね」
「?」
「こちらの話だよ、ともかくだ・・・・白夜。ここからが本題なのだが黄巾の乱が終わったら王虎と契約を結びたいのだ」
「・・・・内容は」
「恐らく李厳殿はこの乱の後太守ぐらいにはなれるのではないかな?その時に同盟を結んで貰いたい」
「領地が遠かったらどうするつもりです?」
「それは無いな、恐らく荊州か揚州方面になる」
「根拠は?」
「北部は名門連中の縄張りだからな、叩き上げの李厳は南に追いやられるだろうと。そして益州は劉焉の縄張りで朝廷とて迂闊に手は出せない。だから荊州か揚州だ」
周瑜による鋭い読み、白夜は知らぬことだが実際に皇甫嵩から信が提示された領地は江夏。ドンピシャでこの予想はあたっているわけで。
「・・・・その読みの成否はともかく大将には話を通しておきます」
「ああ、助かる」
それから少しばかり、昔話に花を咲かせるのだ。
―同刻―曹操軍本営
一人、微笑みながら机に向かう曹操。
「李厳、張遼、諸葛亮、呉懿、蒋欽、孫策、孫権、周瑜、黄蓋、程普、劉備、関羽、張飛、鳳統、徐庶・・・・・・・・・・ふふふふふ・・・・欲しいわ、全員。それに孫策の本拠にも人材はいるでしょうね・・・・ふふふふふふ」
その外から、中を伺うのは曹休、荀彧の両名。
「・・・・入れ、ませんねぇ・・・・」
「と言うか、入り難い・・・・わね」
「愉快な事でもあったんですかね」
「分からないわ・・・・」
曹操軍には曹操自身が任命した文武七官がいる。ここにいる曹休、荀彧も含め夏侯惇、夏侯淵、曹仁、曹洪、荀攸の七名である。この七名と曹操の付き合いは長く、それこそ私事では兄妹同然である。そのうちの二人をもってしても、正直近寄りがたい雰囲気だったそうな。
ちなみにこの作品に出てくる桂花たんは桂花たんであって桂花たんではありません。華琳ラヴでは無く曹休ラヴです。