真・恋姫✝無双 李厳伝   作:カンベエ

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第二十話:曹操来訪

―江陵城太守府―

この日の江陵城は何時もと違った、何というか慌ただしかった。

 

「大将!!飯の手配はどうなってんです!?」

「生半可な腕だと凹まされる!俺と朱里、月、涼紀、珠月で料理は担当する。基本的な方は稟と白夜、倫成を中心に考えてくれ」

 

曹操の訪問、その使者が訪れたのが一週間程前。恐らく目的は同盟か、不可侵条約か。曹操は袁紹、陶謙、張燕、公孫賛、劉備など様々な勢力に囲まれている、進出するにも後顧の憂いをなくす必要がある、そうなった場合有効な手段は?

答えは周辺勢力の背後を突ける同盟相手を作る事だ、この場合劉表と組んでいる信たちなのだろう。南陽の袁術と揚州の孫策、この二人の牽制と妨害があちらから求められるもの。

となれば並々ならぬ労力を消費するのだからそれ相応の対価を求める必要性も出てくるわけで。

 

「斥!奴さんあと距離はどんぐらいだ!!」

「北北東十二里、通常行軍の七割程で進行中」

「分った、んじゃあ準備急がせろ!俺はそろそろ正門に向かう、月、すまんが奏を連れて来てくれるか?」

「はい、分かりました」

 

足早に信の家へと向かう月を見送る。

 

「大我!星!住民たちへの説明は!?」

「はっ、ほぼ完了です」

「何か手伝えることは?と逆に問われましたが・・・・気持ちだけ受け取っておく、と答えておきました」

「ならば良し、お前らは先に正門に向かえ!」

『御意!』

 

馬を飛ばして正門へと向かう星と、それに追走して駆ける大我。

 

「霞」

「ん?」

「戒音と斥連れて曹操を迎えに行け、その際に戒音の手綱を握るのを忘れるな」

「せやけど信、それやったら最初から連れていかなけりゃええんとちゃう?」

 

霞の言葉も最もだ、一番粗相をしそうなのは戒音なんだが・・・・

 

「正式な外交の使者を迎える挨拶を出来るのは戒音だけ何だ、なんなら骨の一本や二本へし折っても構わん!」

「お願いです!黙って仕事しますからそこはかまって下さい!!」

 

何時の間にか来ていた戒音がその場で土下座をしている。

 

「なら四の五の言わずに働いてこい!因みに・・・・」

「因みに?」

「曹操とその周囲にいる将や軍師たちは美少女揃いだ、ビシッと仕事してキリッとした表情していたら好印象になって・・・・」

「なって?」

「『好きです』とか言われるかも知れんぞ」

 

その言葉が紡がれた瞬間、未だかつてない程真面目な表情になりビシッ、と敬礼をしつつ。

 

「では不肖王国山!陳留太守曹操殿の迎え入れのため行ってまいります!!」

 

そう言って大我並の速さでダッシュしていく。

 

「なんや・・・・扱い方上手いなぁ」

「戒音は基本欲望に忠実だからなぁ・・・・餌ぁチラつかせればまともに働くさ」

「ほぇー・・・・まぁええ、ウチも行くわ。斥!!行くで!!」

「うーっす!!」

 

ひらりと馬にまたがって駆け出していく霞と斥。

 

―半刻後―江陵城北門

 

「虎牢関以来、か・・・・その節は世話になった」

「構わないわ、こちらにも実益はあったもの。張繍に高順、李儒と掘り出し物だったわ・・・・まぁ最も最大級の人材は全て貴方に持っていかれたけどね」

「よく言う、元董卓軍の大半を吸収しといて」

「ふふふふふ」

「ははははは」

 

握手をしながら黒く乾いた笑いを浮かべる信と曹操。

 

「先ずはともあれ、歓迎するよ曹陳留太守殿」

「ええ、三日程だけれども世話になるわ李江陵太守殿」

 

両雄並ぶ、傭兵将軍と中原の勇が並び歩く姿を一目見ようと街中の人たちが集まってきている。

 

「人気者なのね」

「まさか、中原の勇、曹操を見ようと皆集まっているのさ」

「煽てても何も出ないわよ」

「それは残念だ」

 

ケラケラと笑う二人。

 

「おとーさーん!!」

 

真っ向からパタパタと手を振りながら奏が走ってくる、その少し後から涼しい顔の恋と汗だくで追いかけてくる月、詠、音々の姿が確認出来る。

 

「おぉ、来たな奏」

 

とぅ、と抱き上げて肩に載せる。

 

「あら、その娘は?」

「ああ・・・・紹介する、ほら奏。お父さんのお友達だ」

 

今のやり取りに既に曹操軍側の人間(曹操、曹休、荀彧、李典、楽進、于禁)が驚きを隠せない表情になっている。

 

「えっと・・・・李豊、って言います!えと、えと・・・・宜しくお願いします!」

 

わたわたと慌てふためきながら頭をピョコン、と下げて挨拶をする奏。

 

「李厳、少し話があるわ・・・・先ずは落ち着いて話の出来るところへと行きましょう」

「?ああ・・・・」

 

そのまま先ずは曹操たちに貸し出す予定だった宿舎へと案内する。

 

「・・・・李厳」

「んぉ!?」

 

がしっ、と両肩を掴まれる。外見から想像出来ないぐらい力強くだ。

 

「李豊ちゃんを私に頂戴、大事にするわ」

「・・・・・・・・・・は?」

 

疑問符しか浮かばない。

 

「貴方にあんなにあんなにあんなに可憐な娘がいたなんて知らなかったわ、お願い、大事にするから私の嫁に・・・・(スパァンッ!!)痛い!?」

 

明らかに暴走していた曹操の頭を曹休が思いっきり叩く。

 

「曹操様、自重下さいませ」

「文烈、貴方ねぇ・・・・」

「あーその、なんだ?娘はまだ六歳だ、悪いが嫁にはやれんぞ」

「ケチ」

「お前なぁ・・・・大体、俺は親としてこの子にはしっかりとした相手と結ばれて欲しい」

「あら?私では不満なの?容姿端麗、頭脳明晰、将来性抜群よ」

「お前はその前に性別の壁がある事を自覚してくれ」

「愛の前にそんなものは無いのよ!!」

 

やばい、この陳留太守が壊れ始めて来た。

 

結局、曹休が「私が責任をとります!力づくで抑えますよ!!」という掛け声を出すと共に取り押さえられた曹操が官舎の中へと連行されていく。

 

「いやはや、誠に申し訳ありませんでした」

「いや・・・・まぁ新たな一面を垣間見れて良かったよ」

「そう言っていただけると幸いです、本来ならば既に本題に入っていなければならないのですが・・・・明日、でも構わないでしょうか?」

「問題ない、案内役としてこの馬忠と張翼を付けておく。何かあればこの二人を通じて連絡してくれ」

「何から何まで・・・・ご厚誼に感謝します」

 

頭を下げながら、本当に申し訳なさそうにする曹休、長い付き合いになりそうだな、と感じた日だった。




暴走華琳さん登場でした。奏たんの可愛さは世界を包む可愛さなんです。次回はようやく本格外交・・・・のはず。

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