真・恋姫✝無双 李厳伝   作:カンベエ

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第十九話:奏

執務禁止令が出された信だが放置しておいて信が大人しくしているなど誰も思っていない、であるが故に・・・・

 

「休日に見張り付きってどうよ?」

 

江陵の街を歩く信の両隣には倫成と斥が付き添っている。

 

「いやー、霞の姐様から厳命されまして」

「筆頭文官様(朱里)、並びに次席文官様(稟)及び防衛守将様(白夜)、遊軍主将の御両名(星、大我)他多数の方々(優衣、月、詠、恋、音々、莉乃)より厳しく仰せつかっておりますので」

 

心配性だな、とは思うが口には出さない。不謹慎な事ではあるかもしれないが単純に心配されているということは嬉しいのだ。

 

「まぁしゃあねぇか・・・・取り敢えず二人とも飯にしようぜ」

「奢りっすか?」

「主命とあらば」

「んじゃあ飯だ、奢ってやるから安心しろ」

 

いつもの行きつけの店にでも行こうか、そう思って歩いていた時だった・・・・

 

「・・・・?」

「どうかしたんです?」

「何か?」

「声、しねぇか?」

 

首を傾げる斥と倫成、だが信の耳にはしっかりと声が聞こえてくる。

 

「・・・・こっちだ!」

「ちょっ!待ってくださいよ!!」

「待たれよご主君!!」

 

路地裏へと駆け出した信を全力で追いかける斥と倫成。

 

「ってか足速っ!?」

「むぅ・・・・桁外れとは思っていたがここまでとは・・・・先ずは追い縋るぞ斥!」

「分かってますって!!」

 

二人を置き去りに駆けた信、そこには倒れ付す一人の少女。歳の頃は6歳ぐらいだろうか、よほど遠い距離でも歩いたのだろうか泥に塗れやつれている。

 

「っ・・・・斥!倫成!」

『は、はいっ!?』

「倫成は太守府に行って医者の手配を!斥は俺の屋敷に行って寝床を一箇所整えとけ!」

「御意!!」

「わ、分かりました!」

 

急いで走っていった二人を見送りながら、少女を抱き上げる。

 

「何で、なんだろうな・・・・他人の気がしねぇんだよ・・・・」

 

見捨ててはいけない、そんな気がしたのだ。

 

―夜―信の自宅

寝台で静かに寝息を立てる少女、その傍らで椅子に座って盃に酒を注ぐ信。盃は二つ。

 

「・・・・やっぱりお前が関わってんのか、伏羲」

「分かってて盃二つ用意したんだろ?」

 

暗闇から現れた伏羲が、もう一つの盃を取って注がれていた酒をグイッと飲み干す。

 

「この娘ぁ何者だ?」

「君はこの娘を見て何か感じなかったかい?」

「・・・・他人じゃ無い気はした」

 

ニヤリ、と嗤う伏羲。

 

「この娘はね、平行世界での君の娘さ」

「・・・・・・・・・・は?」

「君の血を継いだ娘だよ、まごう事なきね」

 

寝台で寝る少女の顔をまじまじと見る。

 

「元いた世界でね、この娘は死ぬ運命にあった・・・・流行病でね」

「・・・・それが何故ここにいる?」

「元いた世界では治らない病だった、だが・・・・この世界だと治療方法があるんだ」

「治ったなら帰してやれば良いだろ」

 

突然いなくなったならばあちらの世界の自分も、見知らぬ妻も心配している事だろう。

 

「それは出来ない」

「何故」

「制約だよ、因みに言うなら君も二度と別世界へと渡ることは出来ない」

「・・・・たった一度の回数制限か」

「そういう事だよ、複数回別世界を移動してしまうとそのものの存在座標が薄れ、最悪消えてしまう」

 

タイムパラドックス、とかに近い状態なのだろう。そう言われれば納得が行く。

 

「そこでお願いがあるんだけどね」

「俺に面倒見ろってんだろ?当たり前だ、別世界とは言え俺の娘には違いねーんだからな」

「良かった、ならその娘のことは任せるよ。一つ言うならばその娘に以前の記憶は無い」

「・・・・まぁ今更何も言わんさ」

「その娘の名は『(かなで)』」

 

さらさらとしたその髪の毛を撫でながら、気がつくと笑みを浮かべていた・・・・

 

―翌朝―太守府

朝早くから集められた一同、ほとんどが事情を知らない中、事情を知るのは斥と倫成だけだ。

 

「すまんな、朝早くから集まって貰って」

 

奏を連れた信が、現れた。

 

「なぁ信、その女の子はどないしたん?」

「ああ・・・・この子を紹介するために集まって貰った」

『?』

「さ、奏。自己紹介を」

「はい、えっと・・・・李豊、です。真名は奏って言います・・・・宜しくお願いします」

 

ペコリ、と頭を下げた奏。

 

「礼儀正しい子ですねー」

「イイねぇ、後十年したらお兄さんと付き合わない?」

「戒音」

「へ?」

 

ニッコリと、明らかに笑っていない目で笑いながら戒音の肩を掴む、ミシミシと軋む音が響く。

 

「俺の娘だ、手ぇ出したら・・・・わかるな?」

『・・・・・・・・は?』

 

一瞬の静寂、そして・・・・

 

『ぇええええええええええええええええええっ!!!!?』

 

この後、多少揉めはしたものの最終的に皆が納得してくれて、奏がこの城に馴染むまではさほど時間はかからなかったらしい。




やっと登場しました通称『華琳キラー』、娘の奏ちゃん。次回外交のために訪れた華琳は・・・・?

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