洛陽を包囲する連合軍、その輪から離脱する李厳軍。表向きの理由としては信の傷の悪化であり、袁紹も快く(?)承諾、劉備、一刀、曹操、孫策らも事情を知っているが故に擁護してくれた。
―五日後―荊州城
劉表の居城の荊州城、劉埼、伊籍を送り届けるためにここまで来ていた。
「怪我をした、と聞き心配したが・・・・存外元気そうで何よりよ」
先ずは自分の事を心配してくれたようだ。
「幸い傷も浅かったんで」
「うむ、次に・・・・このバカ娘が!!」
「ひぅっ!」
「ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ」
怒鳴られて竦む劉埼と全力で謝る伊籍。
「劉表殿」
「む?」
しばらく続いた説教、そろそろかわいそうだと思って差込を入れる。
「此度の月の救出、劉埼と伊籍の協力無くば成し得ませんでした。ここは俺の顔も立てて許してはいただけないだろうか」
「・・・・そうじゃな、李厳殿のお顔も立てるとしよう・・・・さて、月ちゃん」
人垣をかき分けて現れた月、それを優しく抱きしめる劉表。
「よく無事だったなぁ・・・・」
親友の娘、後の事を頼むと言われたのに自分は荊州刺史に指名されてしまったところでの今回の事、もし月が亡くなるような事があったならば命を絶つ覚悟すらあったのだ。
「李厳殿、此度の事、私からも礼を言わせて欲しい」
「そいつはいいっこなしだ、劉表殿。俺は友達を助けに行っただけだぜ」
「ふむ、そうか。それもそうだな」
互いに顔を見合わせ笑い合う信と劉表。
「月ちゃんは今後どうするつもりだね」
「月に関しては名を変えて貰うつもりです、幸い元中央官僚である曹操すら顔を覚えていない有様でしたので」
「成程なぁ・・・・ならば・・・・馬良、字を季常と名乗ってはどうだろうか?」
「馬良・・・・はい、良い名だと思います」
劉表殿が何を思いその名を提示したかは分からない。
馬良季常、伊籍の推挙により劉備に仕えた才人。関羽、張飛が討たれた後に劉備に随行して夷陵戦役に参軍し身をていして劉備を撤退させ戦死した。諸葛亮も信頼した人物として知れ渡っている。
「んじゃあ改めて馬良、宜しくな」
「はい」
―更に二日後―江陵城
大我、白夜、莉乃、戒音、珠月、六夏の留守番組も併せて久し振りに集合した江陵軍首脳陣。
「先ずは留守居の大任、ご苦労だった」
その言葉に、留守居の責任者である白夜が前へと出る。
「大将におかれましては怪我こそあったものの無事に戻られて良かった、留守も特に異変もなく、大我や他文官勢の助力もありつつがなく終える事適いました」
「ああ、ご苦労さんだった・・・・」
それから月、詠、恋、音々音の新規参入組の紹介をしてから、居住まいを正す。
「江陵軍も大所帯になってきた、そこで全体の再編を行う事にした・・・・組織的な動きも出来るようにならねばならないからな」
「確かにそうですね、文武の人材が揃ってくればこそ、ハッキリとさせなければならないところです」
朱里がそれを肯定すると、信が懐から竹簡を取り出す。
「つーわけで既に出来ているので発表する」
『今!?』
ほぼ全員からのツッコミ。
「無論だ、こういうのは早めに動かにゃならん」
他にも様々に異論が出たのだが全てを却下しつつ発表を始める。
「先ずは軍部、筆頭武官・・・・張遼!」
「へ・・・・ウチ!?」
「ああ、経験、力量共に筆頭を張るに申し分無い。コレを機に少しづつ政務も学んでくれ」
ちょっとだけ不満げな霞。
「次に筆頭武官補佐官として武官側より張翼を副将に昇進、郭淮を文官側の補佐とする!」
突然名を呼ばれた張翼は驚きまくっている。
「ちょっ、ちょっと待って下さい!!アタシなんかで良いんですか!?」
「ああ、お前も王虎時代から部隊長を務めている。功績も十分だ・・・・やってくれるな?
「が、頑張ります!!」
「主命と有らば全力にて」
莉乃は否応も無いようなので次に移る。
「次に俺の補佐だが・・・・武官側より・・・・」
星が眼を輝かせる、自分に違いないと。
「馬忠を副将に昇格させ任命、また文官側より法正を指名する!」
「過分な大抜擢とは存じ上げますが・・・・与えられた職責を全う致します」
「義兄上の補佐か、まぁのんべんだらりとやらせて貰おうか」
「期待してるぜ
あ、星が判り易くガックリしている。
「また蒋欽を江陵守備の責任者としその補佐を賈充が、趙雲、呉懿を領内を警戒する遊軍としその補佐として陳羣、王甫を付ける」
あ、なんか大我と戒音がもめている。が、無視しよう。「男と組んだ仕事なんて楽しくない!」と戒音が喚いているのは聞こえない事にする。
「次に筆頭文官に諸葛亮、その補佐に郭嘉だ。特に文官側が手が足りていないからいざとなればお前ら二人の権限で人材を引き上げても構わない」
「は、ひゃい!」
「はっ!!」
「馬良、賈駆の両名もしばらくは文官として働いて貰う」
「はい、分かりました」
「仕方無いわね、引き受けてあげるわ」
「呂布、陳宮の両名は江陵城の警備を任せる。気づいた事があれば蒋欽、賈充と相談して自由にやってくれ。結果さえこちらまで上がって来れば良い」
「・・・・ん(コクリ)」
「了解なのです」
カラカラと竹簡を丸めて卓に置く。
「さて、新生江陵軍の始動だ。気合入れていくぜ!!」
『応!!!』
新たなる江陵軍の始まりであった・・・・・
「あ、ご主人様は怪我が治るまでお仕事禁止です」
「何でよ!?」
「ご自分の胸に手を当てて見て下さい」
尚、朱里他数名により信はしばらく自室での謹慎となるのだった。