真・恋姫✝無双 李厳伝   作:カンベエ

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第十六話:双龍の契

結局、呂布の他に高順、張繍の二将と呂布救出のためにうって出てきた陳宮の四名の捕縛に成功、更にその間隙を突いて曹操、孫策の両雄が虎牢関を陥落させ董卓軍を洛陽まで後退させる事に成功した。

 

―先鋒幕舎―

既に治療を受けた信は霞、朱里、星、優衣、稟から説教を受けた後に何故か曹操にまで説教を受けてからこの幕舎へと戻ってきていた。そして今現在その目の前には恋と音々が座っている。

 

「つまり・・・・月を救出する手立てとして虎牢関突破を図った、と言う事なのです?」

「ああ、だって間者出してもお前と詠が防衛網張ったらすり抜けられねぇし」

「むむむ・・・・仕方無いのですね」

 

最初は「裏切り者!」とか言っていた音々に事情を説明すると、落ち着いて状況を把握、整理してくれている。

 

「でだ、出来れば俺に協力して欲しいんだが・・・・月と詠に関しても救出後はこっちで保護するつもりだし」

「む・・・・あのダメガネが一緒なのは気に食わないのですが・・・・恋殿はどうなされます?」

 

ここでようやく、音々が恋へと意見を求めた。普段は自分が表立ってギャーギャー喚くもののこういう時は主である恋をしっかり立てる。

 

「・・・・(コクリ)、信と一緒に、行く」

「と、言うわけなのです!」

「おっし、話はまとまったな。今夜は時間も遅いから明日皆を紹介するぜ」

「・・・・ん」

「分かったのです」

 

―翌朝―

信の幕舎の前に数人の影、霞に朱里、星の三人が集まっていた。

 

『あ・・・・』

「・・・・何や、皆考えとる事は同じ・・・・か?」

「はわわ・・・・わ、私はその・・・・」

「ふふふ、良いではないか。花も恥じらう乙女三人が一人の男に好意を寄せるというのも」

 

バッ、と星が陣幕を振り払い中を見る。

 

「zzzzz・・・・・・」

 

寝台には爆睡している信・・・・なんだが・・・・

 

「あれ・・・・何だか・・・・」

「せやな、一人分にしちゃ・・・・」

「うむ、大きすぎるな」

 

ソロリソロリと歩み寄る三人、互いに眼を合わせてから、コクリと肯く。バサッとかけられていた布を払うと・・・・

 

「むにゃ・・・・んー」

「くひゅー・・・・すぴー・・・・」

 

信に抱きついて眠る恋と信の上に子猫のように乗っかって眠る音々の姿。

 

『・・・・・(スチャ)』

 

霞が応龍を、星が龍牙を、朱里が硯を構え・・・・振り下ろした。

 

「ッギャアアアアアアアアアアアス!!!」

 

―四半刻後―

優衣と凛に治療される信、の前には正座させられた霞、星、朱里。

 

「で?何でイキナリ殴ってきた?」

「・・・・」

「・・・・」

「何となくイラッときたのでやりました、後悔はしておりませぬ」

「一番タチが悪いっ!!」

 

それから暫し、説教をした後に恋と音々を呼び寄せる。

 

「と、言うわけで呂布と陳宮だ。これから共に戦う仲間だからな、仲良くやってくれ・・・・ほら、二人共自己紹介」

「・・・・呂布奉先・・・・恋、で良い」

「ちょっ恋殿!?そんな簡単に真名を!?」

 

恋がイキナリ真名を明かした事に驚き抗議する音々。

 

「・・・・大丈夫」

「へ?」

「皆、良い人。それに信の仲間は恋の仲間」

 

恋は、野性的な勘みたいなモノを持ち合わせているのか多少の嘘ぐらいならば簡単に見破り、人の悪意にも敏感なのだ・・・・故にだろうか。善意に対しての感度も良く、一度信頼すれば絶対的なものとするのだ。

 

「むむむ・・・・恋殿がそう仰るのでしたら・・・・ゴホン、私は陳宮公台、真名は音々音ですぞ!皆宜しく頼むのです!!」

「うちは張遼、真名は霞や。宜しゅうな」

「趙雲、真名は星だ。宜しく」

「自分は鄧艾、真名を優衣です」

「諸葛亮、真名は朱里れしゅ・・・・はぅう、噛んじゃいましたぁ・・・・」

「俺は法正、真名を涼紀だ」

「郭嘉、真名を稟と申します」

 

皆がひとしきり自己紹介を済ませてそのまま談話に移っている、特に霞と恋、音々と優衣が既に打ち解けている。

 

「・・・・読みどおり、というところですか?ご主君」

 

傍らに立つ涼紀がニヤリと笑いながら問いかけてくる。

 

「まぁな・・・・」

 

ゆっくりと立ち上がれば、皆に気づかれないように幕舎の外へと出る。当然のように、涼紀も付いてくる。

 

「思いのほかお前には助けられてばかりだな」

「?」

「俺が恋に斬られた後、混乱が少ないように上手く動いてくれたんだろ?」

 

振り返り、苦笑しながら問いかけてみる。

 

「・・・・俺は、確かに武術の心得はある。だが・・・・霞や星ほど素早くないし、アンタほど力があるわけでも無い」

 

フラフラと、信の前に出るように歩く涼紀。

 

「・・・・正直ね、アンタに憧れてんですよ俺は。・・・・傭兵将軍として名を売り、軍師以上の戦術と武将以上の武力を持つ・・・・それでいて聖人君子みたいな綺麗事を言うわけでも無い」

「買いかぶり過ぎだろ」

「少なくとも俺はアンタを目指している、とは言え・・・・武力は追いつけないから軍略で、ですがね。その中でできうる限りの対処をした・・・・それだけです」

 

少し、涼紀の意外な一面を見た気分だった。普段は飄々としていて誰かを意識しているふうには見えず、それでいて正味な話他の軍師たちよりも確実な仕事をして見せる。

 

「なぁ涼紀、少なくともお前がいなけりゃあの時江陵軍は恐慌を起こして壊滅させられていたかもしれん・・・・そしてその収束はお前だけがあの時出来た」

「・・・・」

「俺には出来ない事だ、だからこそ俺はお前に支えて欲しい」

「・・・・ご主君・・・・」

 

ニヘラ、と笑いながら涼紀へと手を差し伸べる。

 

「そうだ、お前俺の義弟になれよ」

「・・・・は?俺が・・・・?」

「ああ、俺と一緒に前に出れる軍師はお前だけだ。つまりは戦場で俺を直ぐに抑えてくれるのもお前だけだ、だからと言うのもあるが何より・・・・俺はお前が気に入った・・・・お前はどうだ?涼紀」

「・・・・今よりも親密な関係であるならば・・・・アンタの強さの秘密が分かるかもしれない」

 

差し出された手を、涼紀が握り返す。

 

「宜しく頼むよ、義兄上(あにうえ)

「こっちこそ頼んだぜ、義弟(おとうと)

 

洛陽での決戦を前に結ばれた義兄弟の契、荊楚の双龍と呼ばれる事になる二人の序章がここに始まる・・・・


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