―襄陽城
洛陽方面へと向かうにあたり、最も警戒しなければならないのは荊南の豪族連合の存在である。白夜に莉乃、珠月がついていれば先ず憂いはさほど無いのだがもしもの場合も考えねばならないわけで。
「と、言うわけで申し訳無いんですが俺が留守の間の事をお願いしたいんです」
同盟勢力である劉表へと事情を説明し、また留守中の事も任せる事にしたのだ。
「よいよい、ワシも董卓ちゃんの事は気にかけておったのじゃ。しっかり助け出して来てくれ」
意外だったのは劉表が月と面識があったという事、どうやら月の父と親交があったらしいのだ。
「あ、正方だ」
山吹色のポニーテールを靡かせながら、廊下から駆け込んで来た少女。
「お、劉埼ちゃんじゃねーの。元気してたか?」
劉埼、劉表の娘。史実では聡明だが病弱であったが故に早死してしまったらしいのだが・・・・ものすんごい元気っ娘だった。
「元気よー?何でここにいるの?」
「実はな」
事情説明中。
「ふーん・・・・」
「?」
妙な言葉の間に、多少嫌な予感はしたものの面倒な事は無いだろうと・・・・ここで思ってしまったのが間違いだった。
―三日後―宛城近郊
「ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ」
ふてくされた面をする劉埼の隣で土下座をしながら全力で謝る女性、名を伊籍。劉埼の教育係・・・・もとい遊び相手。劉埼に振り回されっぱなしの苦労人である。
「あー・・・・ったく、仕方ねぇな・・・・星、スマンが二人の護衛を任せる。張翼と高翔を付ける」
「承知しました、任されましょう」
ここから戻らせるわけにもいかないので伝令を出して劉表にこの事を伝え、劉埼と伊籍を星に護衛させる事にしたのだ。
「星、兵一千を任せる」
「御意」
遊撃、の名目で上手く安全に動き回る事が出来るのが趙雲という将だ。上手く立ち回ってくれるだろう。
「主様」
不意に、優衣から声をかけられた。
「どした?」
「孫の旗が近づいております」
「孫策か・・・・良し、合流するように行軍しよう」
―四半刻後
「ひっさしぶりねー♪元気そうじゃない」
「互いにな、まぁお前は殺しても死ななそうだが」
「言ってくれるじゃない?」
「っつーかわざわざ宛城周りで来る必要はねーだろうが」
孫策の居城は秣陵、連合の集合地点である中牟の地には寿春を経由し陳留を通過すると一番近いのだ。が宛城に回ってくるというのはちょっとした遠回りになっているわけで・・・・
「貴方に会いに来たのよ、李厳」
「あ?何でよ」
「同盟を結んで欲しいの、私たち秣陵軍と貴方たち江陵軍で」
「成程ね、長江を通しての相互援護も可、俺たちは荊南を取るつもりだしお前さんらは揚州を取るつもりだから連携も後々組み易い、と」
「流石だな、傭兵将軍は。一を聞いて十を知るとはこの事だ」
不敵な笑みを貼り付けて現れた女性。
「周瑜か、俺をそこにいる
「ふむ、確かにそうだな。失礼した」
「ねぇ?私バカにされてるの?」
ケラケラと笑う信と周瑜。
「まぁ返事は応諾しておこう、こちらにも利益がある。後日文書にまとめよう、留意事項もあるだろうしな」
「うむ、では後日に」
「・・・・なぁ周瑜、こんかいの連合をお前さんはどう思うよ?」
「実を取る戦いだと心得ている」
「成程・・・・ちょいと話があるんだ、そっちにも損はさせねぇ」
「聞かせて貰おう」
信、事情説明中。
「ふむ、ならば乗らせて貰おう。そちらの策に乗りながらならばこちらの目的も達し易い」
「そうね、何より袁紹のアホを出し抜いて、って言うのが良いわね。」
「おっしゃ、交渉成立だ。諸葛亮に担当させるから二人で話して条件なんかを突き詰めてくれ。」
「分った、宜しく頼むぞ諸葛亮」
「は、ひゃい!?こちらこそ宜しくお願いしましゅ!」
荊揚同盟、のちのちの事を考えるならば確実に結ぶべきだとかんがえていたのだ。それをあちらから話を持ちかけてきてくれるならば願ったり叶ったりというところだ。
「出来れば曹操と劉備も引きずりこんで置きたいところだな」
「あら、選別理由は?」
「北を制するのは遅かれ早かれ曹操だろうからな、ならば後方に憂いが無いと腰を据えて貰えればこちらも猶予が出来る」
「劉備の方は?」
「将来性、かな・・・・うちの諸葛亮と本人曰く同等な鳳統に徐庶、そして関羽、張飛の剛勇・・・・何より劉備と一刀の持つ
『成程』
関心した顔で・・・・気がついたら囲まれている。
「こちらは?」
「あ、紹介するわ。陸遜と呂蒙、甘寧に周泰よ」
「ほう、新顔を並べて来たか。孫権とか黄蓋は留守と」
「ええ、何時までも古株が頑張ってちゃダメだから新人組で固めたわ」
「うちも似たようなもんだしな、まー・・・・行くか」
「そうねー」
轡を並べ馬を歩かせる信と孫策、虎狼関にて待ち受けるは・・・・?
次回から本格的な虎狼関編です。