『司空董卓は私腹を肥やし朝廷を我が物かのように操り、更に先帝陛下、少帝陛下を殺害した。これは許されざる事か?否。漢に住まう者として我袁紹はこの暴挙を許す事は出来ない。故に四海の諸侯にこの義挙を呼びかける。心有る漢の忠臣達よ、今こそこの袁紹と共に大義を取り戻すのだ』
そんな檄文が大陸全土へと散蒔かれた。
―江陵城
例に漏れず信の下にも届けられた檄文だったが、それを読むうちにプルプルとその手が震えだす。
「・・・・・・あるか」
この事態に霞、朱里を筆頭として大我、白夜、莉乃、星、優衣、戒音(王甫)、稟(郭嘉)、涼紀(法正)、珠月(賈充)、六夏(陳羣)の全主要文武官が集められていた。
静かに、主君の言葉を待っていたところ響いてきた声に全員が首を傾げる・・・・霞以外は、だ。
そして霞は直感した、今信はキレかけていると。
「んなわけがあるかぁああああああああ!!!」
建物の柱すら揺るがすような大声に、思わず全員が耳を塞ぐ。
「董卓が!月が先帝、少帝を殺害し朝廷の実権を握るだと!!?あの娘はそこまでしたたかでは無いし、そこまで私欲塗れでは無い!!!」
何度かこの光景を目撃している霞と、飄々とした態度でそれを眺めている星と涼紀以外は恐々としている。
「・・・・ハァ、ハァ・・・・」
「気はすんだか?ご主君」
そこで涼紀が前へと歩み出る。
「どうやらご主君と董卓殿は真名を預け合う程の旧知のご様子、それ故に今回の事に立腹するのも当然だ」
この語りかけは信にだけでは無い、他の者たちにも落ち着かせるために聞かせている。
「だが憤慨するだけでは何も変わらぬ、董卓殿を援護するなら援護する、他の方策を立てるならば立てるで動きたいと思うが・・・・どうだろうか?」
「・・・・そう、だな・・・・すまん、涼紀」
「いやいや、これも軍師の努めってやつで」
「皆もすまん、みっともなく取り乱した」
頭を下げて謝る信。
「いえ、むしろ珍しいものを見れました」
笑いながらそういうのは星だ。
「どういうこった?」
「幼馴染である霞はともかく他の者から主は雲の上の存在のように見られていた事、ご存知ですかな?」
「え?そうなの?」
周囲を見渡す、皆言葉にはしないがそれに同意しているようだ。
「ですが今の事で、主も我々と同じ人なのだと感じる事が出来ました」
「喜んで良いのか?それは」
「少なくとも私は、主から離れる気がしなくなりました」
『!?』
その言葉に少なくとも霞、朱里が動揺を見せる。
『妬ましや』
そして気のせいか白夜と戒音から殺意がむき出しになる。
「ともかくだ、ここからの指針を決めようと思う。皆の意見を聞かせて欲しい」
信が皆を見回すと、先ずは涼紀が前へと歩み出る。
「愚考ながら、先ず現状を整理しましょうや」
「現状?」
「はい、俺たちの勢力は今のところ安全圏にあります。周囲に驚異となる大勢力は無く、近しい同盟者に劉表殿もいます・・・・まぁ連合を敵に回しても攻撃される事ぁねーでしょう」
「ふむ」
「ですが万に一つ、連合が軍を割ってくると非常に危険になる。俺らだけなら逃げ出しても良いですが劉表殿が先ず矢面に立たされます、しかも噂通りの御仁ならばこちらを見捨てず迷わずに立ち向かうでしょう。そいつは上手く無いし宜しく無い」
「そうですね」
今度は稟が涼紀の隣へと歩み出る。
「それに信様は確かに董卓殿がどういうお方かを知っていらっしゃいますが世間はそうではありません、袁紹の戯言を間に受けるでしょう。その場合、連合に反旗を翻せば『李厳は天子に弓引く謀反人』とされてしまいます」
「それは・・・・私たちにとっても、先に涼紀さんが言った通り劉表さんにも莫大な不利益を被る事になります」
今度は朱里が口を挟む。
「ねーねー」
議論が困窮してきた中、六夏の呑気な声が聞こえてくる。
「ちょっと思ったんだけどさー?」
「どうした?」
「董卓様の顔知ってる人って連合参加者にどれぐらいいるのー?」
「?多分知ってても曹操ぐらいか・・・・!!」
「んふふふふー」
「そうか、その手が・・・・!!」
時々、六夏は普段の言動から想定出来ないぐらい奇抜な案を出す時がある。
『?』
六夏以外・・・・いや、涼紀だけは想像がついたようだ。
「連合には参加する、が・・・・月たちは助け出すぞ!」
『・・・・・!え、えぇえええええええええ!!?』
僅かな間、の後に叫ぶ一同。
「ちょっ!そんなのバレたらどうするんすか!?」
「劉表さんにも事情を説明して手を組めば良いさ」
「無茶です!どうやって連合の目を出し抜いてそんな真似を!!」
「曹操、孫策、劉備に事情を話して手伝って貰う」
「さり気なく他力本願じゃないですか!?」
「いんや?俺ら主導だ」
『董卓って可愛いですか?』
「メッチャ可愛いぞ」
『み・な・ぎ・っ・てキタ――(゚∀゚)――!!』
次々と抗議する一同、最後は違かったが。
「上手くやれるさ、俺らなら」
最初の動じまくってたのとは違い、自信に満ちあふれた眼差しで語り掛ける。
「異論が無けりゃ編成を発表する」
全員が、無言で頷いたので・・・・
「朱里、涼紀、稟、珠月、莉乃。編成の相談をする、付いてこい。他は待機」
信が軍師五人を引き連れて別部屋で相談を開始して僅か四半刻。
「編成が決まったから発表する!」
「先ずは兵数だが守備に二万を残し残る一万五千で出陣する!」
江陵軍の兵数は三万五千、その気になれば六万は集められたが今はその時では無い、との信の判断でこの規模に収まっている。
「次に遠征軍に随行する者を呼ぶ」
竹簡を取り出す信。
「先ずは軍師、諸葛亮、法正、郭嘉」
「は、ひゃい!」
「おいーっす」
「はっ!」
「将は張遼、趙雲、鄧艾!」
「おっしゃ、任しとき!」
「ふむ、ご期待に答えましょう」
「誠心誠意、努めさせて頂きます!」
「次に留守居、責任者は蒋欽!」
「しかと留守を護ります」
「内政責任者、王甫、陳羣」
「次につなげるようにしておきましょう」
「はーーい」
「軍師に郭淮、賈充」
「お任せあれ」
「・・・・(頑張る)」
「将に呉懿」
「武官俺一人っすか・・・・まー頑張るっす!」
くるくると竹簡を丸めて卓に置く。
「これまで以上に厳しい状況になってくるだろうが・・・・皆がいりゃ何とでも出来らぁ!!気合入れてけ!!」
『応!!!』
反董卓連合、前世の知識と今世の現実、その狭間に苦しみながらも出陣を決意した信。向かうは国門虎狼関、一体何が待ち受けているのだろうか・・・・