劉表の提案を受け襄陽を訪れている信、朱里、優衣。人選理由としては君主である信は当然として正軍師である朱里も当然である。優衣は生真面目であるが故に客観的な人物評を下せるため連れてきたのだ。
「さて・・・・と」
先ずは受験者名簿を見る、こういう時ぐらい前世の知識を使ったところで罰は当たらないはずだ。名の売れていた人物がいたならば直ぐに見るべきだ、と判断しよう。
「どれどれ」
王甫、郭嘉、賈充、陳羣、法正、まぁ中々・・・・・・・ん?チョットマテヨ?とするするとカ行まで視線を戻す。
「・・・・( Д ) ゚ ゚」
「ご、ご主人様!?」
「主様!目!目が飛び出ております!」
「おぉう、すまんすまん・・・・」
あまりの出来事に思わず目が飛び出ていたようだ、郭嘉。史実で魏の曹操に仕えた軍師。神速の軍師と呼ばれ張遼と共に烏丸討伐に功を成した希代の名軍師。後年若くして病没し曹操をして『我が半身』、郭嘉がいれば赤壁の敗戦も無かったとまで言われる程だ。
それが何故襄陽にいるんだろう?と考え始めたがよく考えたらここは史実とはほぼ無縁のパラレルワールド、歴史にそぐわぬ事も平然と起こるのだろう。
「朱里、この五人の筆記試験の結果を見せてもらえるように手配してくれ。面接もこの五人だけで良いと伝えてくれ」
「分かりました」
タッタッと駆けて行く朱里を見送ると優衣が首を傾げている。
「何故この五人と?」
「まー・・・・勘みたいなもんかな」
「はぁ・・・・」
しばらくして朱里が試験官であった韓嵩を引き連れて戻ってきた。
「ご無沙汰しとりますなぁ、李厳さん」
エセ大阪弁のこの女性こそ劉表軍の文官筆頭、韓嵩である。
「ども、その節は世話になりました」
「そないに気にせんでもええんよ」
カラカラと笑いながらパサッと竹簡を渡してくる。
「それ、頼まれた子たちの筆記の結果や。いやーホンマええところばかり引き抜きますなぁ」
「そこはお目溢ししてもられると助かります」
「ま、ええでっしゃろ」
ヒラヒラと手を振りながら部屋を出て行く韓嵩。
「・・・・ふむ、まぁ読み通りか」
五人とも成績は良好である。と言うか筆記の成績が上位五位だ。
「優衣、スマンが一人づつこの部屋に呼んでくれ。残りの四人は隣の部屋に待機させておいてくれ」
「分かりました」
―一人目―王甫
先ず部屋に入ってきたのは王甫。史実でも目立った活躍は無かったが内政官としては優秀な人物だったと記憶している。今まさに欲しい人材である。
「お初にお目にかかります、王甫と申します」
自分と同じぐらいの青年、腰ほどまである長い髪と中性的な容姿、言われなければ男性だと分からないだろう。
「李厳だ」
「・・・・成程、貴殿が傭兵将軍」
少しの間、荊北の治安、内政などについて話をしたのだがそれだけでもかなり優秀だという事は分った。治水などに関して色々と学んでいる最中らしい。
「よかったらうちにこねぇか王甫、内政官も足りんがお前さんの治水の知識を貸して欲しいんだ」
「・・・・珍しいお方だ、他の領主様は皆『お前が働きたければ使ってやる』程度でしたのに」
「思ってる事を言ってるだけだぜ?」
「ふふっ・・・・分かりました、及ばずながらこの王国山、お力添えさせて頂きます」
―二人目―郭嘉
部屋に入ってきたのは眼鏡をかけた知的な印象を与える少女。
「郭嘉です」
「李厳だ、わざわざ来てくれて感謝する」
「傭兵将軍、ですか」
やっぱりその呼び名ってついて回るか、とか考えながら暫し軍略、戦術の話に没頭する。矢張り非凡だ、幾つかの自分独自の戦術を説明するとその穴をそらで言い当てて見せる。
「郭嘉殿、アンタさえ良けりゃ俺のところで働かないか?」
「私が、李厳殿の下で、ですか?」
「ああ、力のある人材ってのは幾らいても困らねぇもんよ」
「一つ、宜しいでしょうか」
「?何だ」
さて、郭嘉の問だ。
「既に李厳殿の下には諸葛亮殿がおります、私を引き入れた場合、頭脳が二つになった事で混乱が生じる・・・・とは思いませんか?」
「ふむ、それは凡庸な事だ。その混乱を生じさせず取りまとめるのが俺の、ひいては軍を率いる将の仕事だろう?少なくともその程度で混乱するような奴は俺のところにはいねぇ」
霞にしろ、白夜も、大我も、星も優衣の事も信じている。
「貴方のような方は初めてです」
「?」
「同じ質問を他の、私を召抱えたいという方にもしたところ『無論、郭嘉殿の意見を取る』と仰ってました」
「愚行だな、先任者を蔑ろにするのも悪し、新参を蔑ろにするも悪し、両者の顔を立てながら扱う事こそ器量だろう」
「はい、貴方にはその器量があります、故に仕えたいと考えます」
「お、じゃあ・・・・」
「はい、この郭嘉。誠心誠意、務めさせて頂きます」
―三人目―賈充
賈充、司馬昭の腹心であり魏帝廃位なども賈充が裏で様々に画策していたと言われている、どんな腹黒が現れるのだろうかと思った・・・・のだがポニーテールで小動物を思わせるような少女が現れた。
「・・・・(ぺこり)」
「珠月ちゃん!?」
現れた少女に驚いたのは朱里だ、話を聞くと賈充―――珠月は朱里の所属していた私塾での後輩らしい。朱里や鳳統、徐庶らが既に世間に出て活躍しているのを聞き自分も、と思って塾頭から許可を得て襄陽まで来ていたのだそうだ。
「・・・・(ごにょごにょ)」
「うん、うん・・・・ご主人様、珠月ちゃん。一緒に来てくれるそうです」
「あ、そうなの?んっと・・・・宜しくな賈充」
スっ、と手を差し出すとおずおずと手を握って来る。
―四人目―陳羣
陳羣、九品官人法を制定した魏きっての文官として有名な人物だ。
現れた女性は切れ長の眼、くせっ毛、童顔なのに出るところ出てる。のだが・・・・
「いーですよー」
一緒に働いてみないか?とのっけから訪ねてみてもそんな感じ、大丈夫だろうかこの娘。とも思ったのだが筆記の成績を信用してみる事にした。
―五人目―法正
法正。張松、孟達と共に劉備に蜀獲りを進めた人物。諸葛亮からもその智謀を深く買われており魏の郭嘉に比肩するとまで言われた賢人。こちらも郭嘉と同じく若くして病を得て没しており諸葛亮も鳳統か法正が生きていたならば関羽も死なず、関羽が死んでいたとしても夷陵の敗戦も無かったとの事だ。
「アンタが李厳か」
現れたのはオールバックに無精ひげ、サングラスと絵に書いたような不良だ。
「ああ、俺が李厳だ」
「俺が法正だ」
だがただの不良にあの成績が弾き出せる訳が無い、と戦術論を交わしてみる・・・・と矢張りただの不良では無い、先に話をした郭嘉や朱里に迫るものがある。
「なぁ法正、俺と一緒に来ないか?」
「実に魅力的な誘いだ・・・・が、俺に利点が無い」
「利点、ねぇ・・・・俺と一緒に戦える、ってのじゃダメか?」
キョトン、とした表情をした法正。
「っ・・・・ふっはははははははは!!!イイねぇ、そういうの嫌いじゃねぇや」
ゲラゲラと笑い出す法正が、スっ、と手を差し出して来る。
「改めて、俺は法正、真名を涼紀。アンタになら預けられるぜ」
「じゃあこちらも改めて、李厳。真名を信だ・・・・宜しく頼むぜ相棒」
「相棒、か・・・・悪くねぇ響きだ」
後に、『荊楚の双龍』と呼ばれる李厳と法正の出会いであった。
修正前から読んでいる方には懐かしいでしょう涼紀の登場です。後々信の義兄弟になるという設定はありませんが性格は180度変わってしまいました。優等生タイプが不良タイプになりました。