攻殻機動隊 -北端の亡霊-   作:変わり種

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第9話

凍てつく寒さの中、積み上げた段ボールの中で眠っていたサイトーは目を覚ました。ここは札幌の都心からやや離れた市街地の一角、先の大戦で荒廃したエリアの中であった。崩れかけたコンクリートの隙間からこぼれる微かな光が、周囲を薄明るく照らしている。周りには古びたコートを着たホームレスたちが、廃材を集めて各々でつくり上げた“住処”で眠っている。

 

彼がいるのは、戦前に通っていた地下鉄のトンネルの中だった。空爆で深刻な被害を受けて放棄され、今では彼らのような()()()()()()の路上生活者たちの住処となっている。地下空間ということもありトンネル内部は外気より暖かく、また風雪もしのげるのでここなしでは彼らは暮らしていけないだろう。

 

サイトーは必要最小限の物だけを詰めたバックパックを背負うと、トンネルの奥へ向かって歩き出す。やがて廃墟と化した地下鉄駅に行き着くと、ホームによじ登ったのち階段を上がり、地上へと出た。

 

《サイトーさん、おはようございます。いやぁ、昨日は寒かったですね。バッテリーの消耗が激しくて、途中で倒れるかと思いましたもん。サイトーさんは大丈夫ですか?》

 

タチコマから電通が入る。今の時刻は午前6時半。昨日のタチコマと別れてから、あらかじめこの時間に連絡をよこすように言ってあったのだ。

 

《ああ、大丈夫だ。それより、周囲に変わった動きはないな》

 

《はい!特に目立った動きはないです》

 

《分かった。そうしたら、昨日と同じ流れで行く。以上だ》

 

サイトーは素っ気なくそう返すと電通を切った。昨日、札幌に着いた彼は荷物を隠したのち、さっそくこの廃墟を回ってそれらしい勧誘がないか調べていたのだ。日が落ちる頃まで、仕事を探したり、都心から出たゴミを漁ったりして怪しまれないよう注意しつつ探ってみたものの、さすがに1日目では見つからなかった。

 

一方、タチコマの方も終始姿を隠しながら、通りで勧誘活動をしている怪しい人間がいないか、監視に当たっていた。そちらも特に該当者はなく、あまりの寒さにタチコマは文句ばかり言っていたようだったが。

 

結局、何の成果も得られなかった昨日は、そのままサイトーはホームレスが寝泊まりするトンネルで段ボールを積み上げて一夜を過ごし、タチコマは外で電線から電気を拝借しながら夜を明かしたのだった。

 

今日ももちろん街を歩いてそれらしい人物がいないか確かめるものの、それだけでは仕方ないので、パチンコ店などの店内でも探ってみることにしていた。道警からそういった店でも勧誘が頻繁に行われているという情報を、出発前に掴んでいたからだ。

 

(そろそろ引き当てられるといいんだがな…)

 

そうつぶやいた彼は、一人街を歩き始める。表通りの方では数台のワゴン車が駐められ、降りた男たちがテントを簡易なテントを組み立てていた。同時進行で調理器具なども車から積み下ろされる。慈善団体による炊き出しだろう。早くも周りには炊き出しを目当てに、行く当てもない路上生活者が集まっていた。

 

空腹を満たすにはちょうど良さそうだ。それに、ここら辺の人間に溶け込むためのカムフラージュにもなる。そう考えたサイトーは周りの者たちと同じように、ふらふらとそこに歩み寄ると、街灯の脇に腰を下ろす。さすがに冬の北海道の朝は凍えつきそうなほどで、厳しい訓練を受けてきたサイトーも丸くなって体を温めようとする。天気は雲一つないほどの快晴だが、雪の舞っていた昨日よりも明らかに寒い。いわゆる放射冷却現象というやつだろう。

 

すると、気づいた慈善団体の人間が近づいてきた。40代半ばで人の良さそうな、もの柔らかい表情の男だ。彼は寒さに縮こまっているサイトーの顔を見るや、さりげなく毛布を差し出した。押し黙ったままそれを受け取ったサイトーは、軽く会釈したのち頭からそれを被る。

 

「あんた、軍人さんかい」

 

そこで男が訊いてきた。左眼の眼帯に短く刈り上げた頭。彼の鋭い視線も相まって、軍人には見えても到底カタギには見えなかったのだろう。サイトーは相手の顔をじっと見返すと、落ち着いた声で答える。

 

「“元”、軍人だ。いまじゃ、このザマだ」

 

「そうか…。そういう人間はこの辺には多いんだ。国のために戦い、命をかけたのに、帰ってきたら殺人鬼呼ばわり。おまけに金も行く当てもない。私自身もかつてそうだったが、まったく、この国ときたら」

 

渡してきたときとは違う険しい表情を浮かべながら、男はサイトーにそう言った。そうして、懐から一枚の名刺ほどの大きさのカードを取り出すと、静かに彼に渡す。

 

「炊き出しの曜日とメニューだ。だいたいが雑炊だが、月に一度は豚汁も出す。あと、生活保護や仕事の斡旋もやってる。ここだ。一度来てみてくれ」

 

カードには献立表のほか、その事務所の場所を示す地図が載っている。ここからそれほど遠くないところにあるようだ。また、それ以外にも彼の言っていた生活保護や就職の斡旋、それに低額宿泊所の案内も書かれていた。

 

「ああ。機会があれば、行ってみる」

 

サイトーはそう答えると、カードをポケットにしまい込んだ。男は軽く頷くと、準備へと戻っていく。

 

もしかすると、カードをくれたあの男は本当の慈善活動家であることも否定できない。しかし十中八九、何らかの宗教団体か生活困窮者向けビジネスで荒稼ぎしているろくでもない業者の人間だろう。サイトーはそう予想していた。近頃のニュースでも取り上げられているが、そうした業者は斡旋費や宿泊所の経費などと称して、生活困窮者に受給させた保護金のほとんどを巻き上げるという。警察も摘発に動いているが、根絶には至らないのが現状だった。

 

しかし同時に、気になる点もあった。これはサイトーだからこそ気づけたのかもしれないが、毛布を渡しに近づいてくる前から、あの男の視線はずっとサイトーだけに向けられていたのである。まるで、狙いをつけていたかのようなあの鋭い視線。あれが意味するものは何なのか。

 

その事務所に行くのは、それを突き止めてからの方が良さそうだ。そう考えたサイトーは、毛布を背中に掛けると立ち上がり、間もなくできつつあった順番待ちの列に加わる。ぐつぐつとガスコンロで煮立てられる鍋からは湯気が上がり、どこまでも透き通るような晴天の空へと昇っていく。

 

やがて出来上がった雑炊を、給仕係がせっせとプラスチック製の小さなお椀に入れ、並んでいる人々に配っていく。サイトーもそれを受け取ると、脇に置いてあったスプーンも取って食べ始めた。味はほぼないに等しく、また米も原型を留めておらずほぼ液体のようになっている。質の悪い低級米か混合米を使っているのか、しばしば黒っぽい粒や固いものも混ざっていた。

 

それでも、この気が狂いそうな寒さの中では温かいというだけで、何もかもが美味しく感じてしまう。並んでいた路上生活者の中には食べ終えた後、再び並び直して2杯目や3杯目を食べるものもいた。サイトーも2杯食べると、お椀を回収カゴの中に重ねておいた。

 

「あんた、あの連中からカードをもらったのか?」

 

食べ終えたサイトーが歩き始めたとき、不意に後ろから声を掛けられた。振り返ると立っていたのは、50~60代と思われる路上生活者の男。灰色の髪はぼさぼさで、髭も生やし放題だった。

 

「そうだが、それが?」

 

「悪いことは言わん。やめておけ」

 

答えたサイトーに、枯れたようなガラガラの声で男はそう忠告してきた。

 

「何でだ?何かヤバイことでもあるのか」

 

「連中、宗教だ。ああやって若い者に声を掛けては、事務所に連れ込んで勧誘してるんだと。まあ、カネと飯が当たるのは本当だから、そのまま入信してく奴も多いけどよぉ。お前さんも気を付けな」

 

男はそう言うと片足を引き摺るようにしながら歩き去っていった。様子を見る限り、ここに長いこと暮らしている者なのだろう。そんな男が話した言葉ならば、かなり信憑性は高い。

 

そういえば、宗教というのは探している例の団体にも当てはまることだった。もっとも今の段階では何とも言えないものの、あの連中が目的の組織に通じているという可能性も十分にある。今日一日、他に怪しい動きがないあの団体について軽く触れ回ったら、行ってみるのもいいかもしれない。サイトーはそう考えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ターボプロップエンジンの唸りが響く機内。しばしば小刻みな揺れが起こる中、少佐は早くも軍服姿に着替え終えていた。バトーもネクタイにジャケットと、普段とはかけ離れた身なりをしている。彼らが向かっている国際兵器見本市で出入り可能なのは軍関係者のみであるため、会場内に溶け込んで密かに警備に当たる彼らもそのような身分を偽る必要があったのだ。

 

一方、他の隊員たちは突入用スーツを着込むなど、重装備で臨んでいた。連れてきた4体のタチコマにも7.62mm小銃弾と50mmグレネードなど、フル装備の態勢を取らせている。現場に潜んでいるとされるロシア工作員と、何らかのテロを目論んでいる可能性のある例のテロリスト。警戒しなければならない相手が特に多い今回の作戦では、万全の態勢で臨むに越したことはなかったのだ。

 

「現場に到着したら、私とバトーは会場内で警戒に当たる。他のメンバーはタチコマに搭乗の上、何かあったらすぐに突入できるようにしておけ」

 

「了解」

 

改めて作戦を確認する少佐。今回の作戦では、そもそもテロリスト側がどういった行動を起こすのか、情報があまりにも少なかった。そのため、会場内に警備を集中させるわけにもいかず、少佐とバトーの2名で屋内、残ったメンバーとタチコマで屋外の警備を行うという形となったのだった。事件が起こった際は各自が現場に急行し、応戦することになっている。

 

もちろん、それだけではカバーしきれない範囲もあるため、県警公安部にも要請を出し、捜査官を要所に配置している。また主催者側にも警備員を増員させ、厳重な警備体制を敷いていた。工作員の方も、外事が要員を付けているという。

 

これで一応は、銃による襲撃や爆弾テロなど、ごく一般的なテロ対策の態勢は整った。しかし、この世界に絶対はない。どれほど徹底しようとも完璧に守ることは困難であり、どこかに綻びがある可能性は否定できない。それは少佐自身が、過去の経験として痛いほどに理解していることだった。

 

「少佐、例のログの解析が終わった」

 

そんな中、ダイブ装置のシートに座っていたイシカワがそう言った。彼は機内でも例のゲームサーバー内で少佐が出会った疑似人格に関するログの解析を続けていたのだ。

 

「そう、何か分かったかしら?」

 

「データの損傷が著しいもんで、誰の物か特定することはできなかった。だが、人数と性別は掴めた。3人で、いずれも男だ」

 

「なるほど…」

 

軽く頷いた少佐は、そのまま考え込む。自分たちの主張を代弁させていた疑似人格に組み込まれるということは、その3人というのは組織の中でも中心的な人物に他ならないだろう。そのうちの1人は確実にこれほどの偽装空間と疑似人格を組み上げるだけのスキルを有している。しかし、それ以外の2人については、絞り込めるものが少ないのは事実だった。

 

だが、本部では今ごろ課長が軍情報部から手に入れた諜報員とそのOBの要注意人物リストの解析を始めている。今回のウイルステロの手口と、あの偽装空間の中で話していた連中の主張も踏まえた犯罪者プロファイリングの結果との照合が行われ、特に疑わしい人物がリストアップされるはずだ。

 

「あと、ウイルスのトリガーの方なんだが、どうも感染者に起因する条件は関係なく、外部から起動されるタイプだったようだ」

 

「つまり、攻撃者が任意のタイミングでウイルスを起動したということね」

 

「ああ。もう一つ問題なのが、例のサーバーで感染した可能性のある人間は242人いることだ。そのうち、今回の事件で発症した人間は30人あまり。大多数の人間は潜伏している状態のままかもしれない」

 

続いて報告するイシカワ。それも懸案事項の一つであった。発症因子が犯人側の命令によるものだとすれば、その発症タイミングを予測することは極めて難しい。もちろん犯人さえ押さえられれば一気に無力化できるが、それを突き止められていない今の状況ではそれは不可能だった。

 

やはり、プロファイルとの照合結果を待つしかない。それがなければ、手の打ちようがないのだ。そんな中、ちょうど本部から電通が入る。

 

「軍情報部から受信したリスト記載の41名との照合が終わりました」

 

「すぐに詳細結果を転送して」

 

「了解しました」

 

間もなくオペレーターから照合結果の詳細を記したファイルが転送されてきた。まるで図っていたかのような絶妙なタイミングである。少佐は簡易なウイルスチェックののちファイルを開き、すぐに中身に目を通す。

 

「そういうことね…」

 

そこには特にマッチングした2名についてのレポートが載っていた。

 

「1人目は宇津見晴仁。1990年陸上自衛軍入隊。旧特殊作戦群など渡ったのち1998年より情報部にて特殊工作活動に従事。射撃、格闘戦ともに優秀な成績を収める。2人目は風間拓真。陸上自衛軍情報部所属、部内ではシギント、および電子諜報活動に従事。電脳戦スキルは飛び抜けて高く、民間のエンジニアから引き抜かれた過去を持つ」

 

ファイルには入隊時の顔写真も載せられていた。宇津見の方はいかにも肉体派という感じで、長方形のゴツゴツとした無骨な顔が映っている。対照的なのは風間で、肩まで伸びた黒髪に時代遅れの丸眼鏡を掛けていた。眼鏡越しに見える眼には独特のたるみがあり、瞼が酷く垂れ下がっていて目つきが悪い。

 

あくまでも顔写真は参考程度に捉えた方が良さそうだった。この写真が撮られたのは1990年代前半。当時は義体技術も未発達で顔を変えることなど整形手術でもしなければ不可能だったが、今では顔はおろか下手をすれば体まで変えることができる世界だ。むしろ、顔を変えていない方がおかしいだろう。

 

「相手は筋金入りのプロじゃねえか。こいつは苦労しそうだな」

 

「文句は聞かないわ。各自、この2人を見つけたら最優先で捕らえろ。顔は変わっていても、動きでそれと分かるはずよ」

 

少佐はそう言った。これほどのプロが相手なら、こちらとしても加減する必要はない。むしろ、下手に気を抜いたら最後、命取りになるかもしれないのだ。それに彼女の推測だと、いくら相手が相手でも単独で来るとは考えられない。練度に多少の差はあれ、それなりに訓練された連中を引き連れてくるに違いないのだ。

 

しかし、気掛かりなことも一つある。イシカワの報告だと疑似記憶に組み込まれていたのは3人の人格だと言っていた。しかし、リストと突き合わせて出てきたのは2人のみ。残る1人は何者なのか、それがもっとも気掛かりなのだ。

 

《間もなく会場に到着します》

 

コックピットにいるオペレーターから電通が入った。それを考えるのは後にしよう。今は、目の前の任務に集中しなければならない。少佐は軽く目を閉じると大きく息を吸い込み、心を落ち着かせる。

 

間もなく開かれたドアからは、上方に向けられたプロペラからの暴風が吹きこんできていた。ホバリングするティルト機は、ゆっくりと高度を下げて会場からやや離れた駐車場に着陸しようとしている。エンジンの回転数が徐々に落ち、甲高い駆動音が徐々に低い唸りへと変わっていく。やがて車輪が地面を捉え、巨大な金属の鳥はついに地上へと降り立った。

 

《私とバトーは以降別行動で会場に潜入。他のメンバーも作戦通り、タチコマと配置に着け》

 

《了解》

 

一足先に降りた少佐は、指示を下すと前方に目をやる。駐車場を分け隔てる木々の先に見える白いドーム。あの中で、見本市が行われるという。ティルト機の方では後部ハッチが開き、中からタチコマが光学迷彩を起動させて次々と飛び降り、そのまま辺りの景色に溶け込んでいく。

 

今度こそ、テロという凶行を食い止めなくてはならない。相手がたとえ元諜報員というプロフェッショナルだとしても、関係はない。犯罪の芽を事前に摘み取り、阻止する。これこそが、公安9課の仕事であり自分自身の職務なのだ。

 

彼女は自分にそう言い聞かせると、静かに会場の方に向かって歩き出した。

 

駐車場を抜け、県道に入る彼女。つくば市の中でも外れにあるためか、見回すと周囲には田園地帯が広がっていた。前世紀中ごろ、東京への一極集中を問題視した当時の政府により整備されたこの研究学園都市には、国立の研究機関を中心に数多くの組織が移転し、現在の播磨研究学園都市を凌ぐ発展を遂げていたという。

 

しかし、前世紀終わりの核攻撃で東京が壊滅してからは、関東圏全体が低迷の一途をたどってしまった。研究機関のほとんどは播磨など関西に移転し、また東京からの避難民などで混乱の時代を迎えたのだ。だが、戦争も終結した現在になると、状況は少しずつだが改善されつつある。

 

歩き続ける少佐。やがて、会場の大型ホールが目に入ってくる。近くには団体で訪れた関係者の大型バスが所狭しと並び、賑わいを見せていた。それでも、一般のイベントとはまた違った雰囲気もある。重い空気とでも言うのだろうか、とにかく妙な緊張感が辺りを包んでいたのだ。

 

それはもちろん、これが軍関係者のみを対象にしたイベントだということもあるだろう。しかし、さりげなく周囲に目をやればすぐに分かる。会場ゲートには金属探知機と警備員が配置され、さらにその近くを固めるのはSMGを提げた武装要員4名。加えて、見晴らしの良い建物の屋外デッキなどにも動こうとしない私服の男が何人かいる。上空には警備用のドローンが旋回しており、おそらくは搭載された高解像度カメラで周囲の人物の顔認証を行っていると思われる。

 

また、姿は見えないが自分と同じく来場者を装って警備する者も何人かいるだろう。これだけ厳重な警備体制を敷いていれば、普通の人間なら何も心配はいらないようにも思えてしまう。

 

しかし彼女は違った。屋外にも展示された商品を見たり、資料を取ったりしていかにも関係者を装いながらも、さりげなく周囲に目をやり、挙動不審な人物がいないか探し続ける。途中でメーカーの担当者に話し掛けられても、注意を怠ることはなかった。それはもちろん、バトーも同じであろう。

 

時間が経つにつれ、徐々に来場者の数が多くなってきていた。それもそのはず、この見本市は今日がその初日であり、オープニングセレモニーも開催されることから最も多くの来場が予想されていたのだ。課長はそれも踏まえて、少佐たちを即座に送り込んだのだった。

 

そんな中、少佐は考え込む。元々、テロというのは自分たちの主義主張を行動で表すものだ。その性格上、もっとも効果を発揮できるのはより大勢の人間がいる場所になる。その点についてはアマチュアだろうとプロだろうと、変わることはないのだ。連中がテロを起こすとしたら、今日のオープニングイベントの最中。それがもっとも濃厚だろう。

 

オープニングセレモニーまではあと20分ほど。来場者が続々とゲートから建物内へと入っていく。その様子を見ながら、少佐はバトーに電通を繋げた。

 

《バトー、聞こえてる?》

 

《ああ。聞こえるぜ》

 

《私は先に建物内に入るわ。あなたも適当なタイミングで内部の監視に移って》

 

《分かった》

 

バトーの返事が脳内に響く。その声に微かなノイズが混ざっているのに、少佐は気づいていた。周囲を飛んでいるドローンによるノイズなのか、それとも会場内の人々によって輻輳が発生しているのか。それは分からないものの、どうも嫌な予感がする。

 

改めて周囲を確認した彼女は、ゲートへと向かった。警戒に当たる武装警備員に身分証を見せると、携行していたセブロM5をホルスターから抜き出し、予備弾倉とともにトレイの上に置く。ボディスキャナーを使って義体内に怪しい仕掛けがないか調べ終わると、彼女はセブロを受け取って建物内へと足を踏み入れた。

 




2018/10/17 一部修正

どうも、変わり種です。
不定期な投稿となってしまい申し訳ありません。
次回の投稿日時についても確定できないですが、できる限り更新ペースを維持したいと考えております。2月を過ぎれば以前のペース程度にはなると思いますので、何卒ご了承ください。今後ともよろしくお願いします。

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