「なんで、朝田さんがここに?」
そう言った戸塚に注目が集まる。朝田は知っているのかと思い声を質問する
「二人とも知り合いなのか?」
少し待っても返事がない、
「朝田?」
振り返り顔を向けると朝田の顔はこわばったていた気がした。しかし、それも一瞬だったので恐らく勘違いだろう
「いいえ、私は知らないわ」
どういうことだ?戸塚を見ると答えが飛んできた。
「あっ、え〜と、朝田さんってテニスの大会で前に見たことがあって、僕が勝手に知ってただけだよ」
「へぇ、上手いのか?」
横目で朝田を見ながら戸塚に問いかける。
「うん、シングルスで、相手のボールをどんな時も冷静に、正確に返すことから、氷の機械とか、氷のスナイパーって呼ばれてるんだよ!」
思いがけづ戸塚に熱弁された。朝田の方を見ると俺達に背を向け、窓の方を見ていた。
さも、興味が無いような態度だ。この程度は言われ慣れているということなのだろうか。
まさか俺のように褒められなれていなく、照れているだけだという訳でもあるまいし。
そんなやり取りを静観していた雪ノ下が「パンッ」と手を叩いた。
「朝田さん、戸塚くん、盛り上がるのは結構だけども、何をしにここへ来たのかしら?」
戸塚が来たことが嬉しすぎて忘れていた。見れば戸塚もはしゃいでいたことを反省しているようだった。
ふう、と息を吐き、雪ノ下が問いかける。
「ふう、それで、戸塚君は何故ここに?」
モジモジしながら戸塚が答える。
「え、え〜と、またテニスの練習に付き合ってもらいたくて……」
「それなら、朝田に頼んだ方がいいんじゃないのか?」
「確かにそうね、私達よりよっぽどいいわ」
雪ノ下の賛同も得られたので朝田に確認する。
「朝田、頼めないか?」
俺達の視線がいっせいに向けられる、少し居心地の悪そうに、目を泳がせた朝田は小さく頷いた。
「私で良ければ教えさせてもらうわ」
戸塚は太陽のような笑顔で、朝田は照れたように少しだけ笑っていた。
テニスコートには俺、戸塚、朝田だけが集まった。雪ノ下は
「用事があるからここは朝田さんに任せるわ」
そう言って帰って行ってしまった。
まぁ、今回教えるのは朝田だし大丈夫だろう。朝田の肩を叩き問いかける。
「今日は何の練習をするんだ?」
「え、え〜と」
朝田には練習メニューを聞いたのだが帰ってきたのは慌てた声だった。
流れ的に練習メニューを聞くのは正しいと思ったのだが。
まさか頼られたことが嬉しすぎて、そんな事考えていなかったという訳でもあるまいし、友達がいないとはいえ頼られそうな奴ではあるし。何故だ?
その疑問はすぐに解消された。
「とりあえず、どの程度の実力か私が知りたいからミニゲームをしましょうか」
朝田は俺から離れそう戸塚に告げていた。
そこで俺は理解した。俺に話しかけられたのが嫌だったんだ……。
別に泣いてなんかない、外は暑いから目から汗が流れただけだ。
うん、何も上手くないな……。
もう帰ってしまおうかと思ったが戸塚が八幡、と心細げな目で見るからやめた。
だって戸塚、スッゲー可愛いんだもん。守って上げたくなるというか、
俺が戸塚について考えていると試合が始まろうとしていた。
戸塚のサーブは俺から見るとなかなかに速くいいサーブだったのだが朝田は難なく返した。
しばらくラリーが続く。
しかし、2人が互角だったかというとそうでは無かった。
朝田はボールをコーナーギリギリにうちわけて戸塚を走らせていた。
戸塚は必死に走って打ち返していたが、どちらが有利かは明白だった。
はじめは追いつけていたボールも走らされたことによりスタミナが減り、追いつけなくなって、1ゲーム目は朝田が取った。
2ゲーム目は朝田のサーブからだ。このサーブを強く返すことが出来れば朝田もコントロールが難しくなるので勝機はあるのでは?と、考えていたが、朝田のサーブはとても速く鋭くしかもコントロールも良く、返す事すら難しかった。
だが、それでも諦めない戸塚、頬が上気して、紅く染まり、ジャケットもはだけて妙に色っぽかった。
戸塚は男だ、戸塚は男だ……
そう念仏を唱え今度は朝田の方を見る。
見れば朝田は戸塚と同じくらい一生懸命だった。綺麗なフォームでボールを打つ。その洗練された無駄のない動きに少しだけ心を奪われた。
俺が抱いていた印象と違ったので驚いた。普段はクールな朝田とスポーツの時のホットな朝田。
何かの本で読んだことがある。確かこういうのをギャップ萌えと言うのだ。その本の内容だと、普段の学校ではツンツンした冷たい態度を取るのだが、それは仮の姿で夜になると猫耳メイドになり、デレデレしてくれるのだ!
材木座義輝の最強設定集より
ってあの中二病の設定集かよ!Σ\(゚Д゚;)
俺の脳内に出てきてギャップ萌えについて語ろうとした材木座をゲシゲシ蹴って退場させる。
試合に集中しようとするが、戸塚は現在進行形でなんかエロいし、朝田は猫耳メイドを想像してしまう。
結果、どちらもまともに見ることが出来なくなったのでボールだけを見ることにした。
ボール、君は思いっ切り叩かれているけど俺の友達だ。
十数分後、ゲームを終えた2人が駆け寄って来た。用意しておいたペットボトルとタオルを渡す。「ありがとう」そう言って受け取る2人に軽い感動を覚える。だって雪ノ下はこういうことを全然言わないからだ。
体が冷えても良くないし、最終下校時刻もあるので、講評を何処かのファミレスかなんかでやることにしてとりあえず下校することになった。
その後、俺達があんなことになるなんて……。
俺達はまだ、楽しく笑っていられたんだ。
でも俺達は気付かなかった。
まさかあの場所であんなことが起ころうとは…。
その時は誰も思ってもいなかったんだ。
まさかあんな 事件が起こるなんて誰も想像すらしていなかったんだ……。
雪ノ下side
コツコツ……。静かな廊下に足音が響く。
目的地にたどり着き扉を開ける。
探していた人物は幸いにも1人でそこにいた。いや、待ち構えているようでもあった。
「やあ、雪ノ下、何のようかな?」
どこか楽しそうな声の平塚先生、私が来た理由をわかっていない筈がないのでからかっているだけなのだろうが、今は時間が勿体無いので素直に用件を話す。
「朝田 詩乃、彼女についてです」
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