NARUTO ―― 外伝 ―― 星空のバルゴ 作:さとしんV3
「ミゾレ。大問題だ。この店にもラーメンが無い」
道幅の広い石畳の路上にテーブルを並んでいる。
大きな道に面したレストランは食事している客自体が街の一部分であるかのようだ。
馬車や赤い二階建てのバス、黒塗りのタクシーが行き交う姿は里ではお目に掛かれない光景で、不謹慎であるが観光気分に浸ってしまう。
近くの店からヴァイオリンの生演奏が風と共に流れてくる情緒溢れるランチタイムに真顔でトンチンカンな事を大事のように言う忍が一人。
確かに脂っこいフィッシュアンドチップスや肉ばかりでは飽きてもくるが、それでも西洋の異国に来てラーメンはないだろうと、頭が痛くなる。
「ならスパゲッティとかにすれば?あたしはサラダだけでいいから。好きなの食べなよ」
「むぅ」
メニューを睨むように見ている姿は幼く見え、とても同い年には見えない。
思えばアカデミーに居た時から、この歳まで友人として付き合っている人間は少ない。
多くは部下となってしまっているか、または殉死したかに分けられる。
幼馴染とも言えなくもない相棒は、現在書類上ではミゾレの夫となっているが、その事実をバルゴは知らない。
婚姻届が受理されたと連絡を受けたのは偶然を装った必然だった。長期任務の為、役所で手続きをしていると部下の中忍が「おめでとうございます」と花束を手渡してきた。
この時初めて事の顛末を知る事となる。
火影が重要書類に押印する際に使用される印鑑で押された届け出用紙は、火影でないと破棄できないという悪質なモノで、当の本人は砂隠れの里へ出向いており、これが計画された確信犯である事は間違いなかった。
ちなみに花束を渡した中忍も、当然火影の仕込みであった事は言うまでもない。
一体どんな意図があるのだろうか。昔から火影の言う事は自分の想像を及ばない。
いっそ考えるだけ時間の無駄というものだ。ならば任務を無事終え、本人に直接聞くとしよう。
その為には、異国で果てる事など絶対に許されない。そう決意を固める。
しかし、ここで一つの疑問が沸いてくる。
自分と形式上夫婦となった事を知ったバルゴはどういう反応を示すのだろうか。
「考えたくないわ……」
思わず思考が言葉に出る。
「んん……」
好みの物が無い為か、ずいぶん長い時間悩んでいる。知らぬが仏。人の気も知らないで暢気なものである。
「この店ならマルゲリータピザがお勧めだよ」
いつの間にかそこには深い帽子を被り、汚れたオーバーオールを着た先ほどのスリの少女が得意げな顔でそこに居た。背の高いテーブルに手と顔を出す姿はまるで猫がこちらを見ているかのようである。
「じゃぁ、それにしようかな」
「そうしなよー」
尻尾があれば振ってそうな勢いで身を乗り出す。
「ここのピザはねぇ、最高の自家製のトマトソースにコクの深いモッツァレラチーズを使っててね、とぉーっても美味しいんだよ!」
「そうか。それは楽しみだ」
突然沸いて出てきた少女の登場に、まったく違和感無く進めるバルゴのやり取りに、もはや突っ込む気力すら失くしてしまった。
突然の少女の登場に驚いている自分が馬鹿馬鹿しくなる。
「ミゾレは、サラダだけでいいのか?」
「うん……」
脱力のあまり、俯き力なく手を振って答えるミゾレ。
「じゃぁサラダと、丸刈りーたピザを頼もうか。二人分な」
子供らしく両手を上げて喜ぶ少女と、書類上の夫。
……何だか、むしょうにラーメンが食べたくなってきた。