NARUTO ―― 外伝 ―― 星空のバルゴ 作:さとしんV3
うちは。
木ノ葉の里において、この名を知らぬ者は居ない。
一族の者は総じて黒い髪、黒い瞳を携える。
取り分け黒い瞳の奥には、一族の最大の特徴である血継限界(紅い瞳)が秘められている。
写輪眼と呼ばれるその瞳は、うちはの一族に科せられた呪い。
戦乱の時代より始まる自らの祖が、大切な者の『死』を忘れんとする呪い。
悲しみを体現したかのような、紅。
怒りを表したかのような、紅。
それは忌むべき呪いでありながら、同時にうちはの誇りでもあった。
ふと、ミゾレは思う。
先刻の夢に出てきた少年はどうだったろうか。
瞳は黒。
間違いなくうちはの血統である血継限界が隠されているのだろう。
だが、髪はどうだっただろうか。
夢の中の少年の髪は金。
バルゴと同じ、太陽のような金髪。
可笑しくなる。
うちはの血(呪い)が呪い少しずつ薄れていると感じた。
血みどろで、真っ暗な夜のような一族の歴史に射した光明。
文字通り日の光が、頭上から降り注いでいたかのようだった。
もしかしたら、闇に捕らわれ続けたうちはの一族の呪いは、この子の代で、ようやく終われるのかもしれない。
そんな事を思いながら、ミゾレは人の気配で目を醒ました。
「……人の寝顔を除き見るなんて、イイ趣味してるじゃない?狢(むじな)」
「おはようございます。ミゾレ様。今は『夜鷹』と、改めました」
ふん、といいながら髪を掻き分け身体を起こす。
眠りたくもないのに強制的に眠らされ、あからさまに不機嫌である事が伺える。
夜鷹が付けている面を見て絶句する。
見覚えのある狐の面。
それは……。
夜鷹の視界からベットから身体を起こしたばかりのミゾレが消える。
あまりにも咄嗟に消えたミゾレに対して身体が反応しない。
前面から強い力で押さえつけられ、その勢いのまま壁に全身をぶつけられる。
首にクナイをあてがわれ、思わずごくりと唾を飲む。
まるで大きな壁が目の前にあるかのようだった。
殺気という重圧は突き刺すように夜鷹の全身を覆う。
呼吸もままならないまま、慎重にゆっくりと視線をクナイからミゾレに移す。
ミゾレの瞳は、真っ赤に燃えていた。
写輪眼だ。
「どうしてアンタがその面を付けているのかしらね。それはバルゴの……!」
「……その星空 バルゴから頂戴した」
「信用できないわね」
「おれと議論を交わす余裕があるのか。こうしている間にもあの人は交戦中なんだぞ」
真正面から正論を言われ、苦虫を噛み潰したような表情でクナイを仕舞う。
「ちッ」という声が静かな部屋に響く。
「信じられないなら勝手にしろ」
夜鷹が俯きながら呟く。
「なら、行動で示してもらいましょうか。早くバルゴの所に案内しな。ぶっ飛ばしてやるんだから。でも、その前に……」
夜鷹の腹部に強烈な一撃が入る。
「……あが……っ!?」
ミゾレの右の拳が深々と突き刺さっていた。
あまりに強烈な一撃に膝から崩れ落ちる。
「先日、あたしを気絶させた一件はこれでチャラにしてあげる。バルゴに感謝しなさい。バルゴがあんたを認めていなければ、八つ裂きにするところだったんだから」
ミゾレは嘘を言っていない。
そうはっきりと取れる程の強烈な殺気を纏っていた。
夜鷹は忍である。常、いかなる状況下においても咄嗟に行動できる訓練を積んでいる。
しかし、先ほどのミゾレの一撃はどうだろう。
それはまさしく電光石火。
速くて、速すぎて反応が出来なかったという方が正しい。
これで本当に妊娠し、能力が落ちているというのだから恐ろしい。夜鷹には、ミゾレが依然として上忍クラスの力を有していると思えた。
突如腹の底から響くような地鳴りが辺りを支配する。
何事かと窓を開け、倫敦大学の方向を見渡す。
何か、光る黒い柱のようなモノが曇天の夜空をを穿っているように見えた。
そこから溢れ出る醜悪なチャクラに凶事が脳裏をかすめる。
一度だけ見た記憶がある。
それは以前の任務で戦った尾獣もどきが放った光線。尾獣玉と呼ばれるチャクラの圧縮体。
完全な尾獣でなかったとしても山一つが跡形も無く消し飛んだ光景を思い出しゾッとする。
あの場にはバルゴとギムレットがいるはずだ。
だが、今こうして邪悪なチャクラが空間全体を支配しているという事は。
「バルゴ……、しくじったわね……」
咎める相手がいないストレスが背中越しに夜鷹に突き刺さるように伝わる。
「狢……、じゃなかった。夜鷹。あたしが先行する。あんたは後方から支援をしなさい」
「信用するのか? ……おれを」
「その面が証拠でしょ。あたし達は本来三人一組(スリーマンセル)なのよ。班長が信用するなら、あたしはそれに従うわ」
三人一組。何とも嬉しい言葉を残し、雷遁を纏ったミゾレの姿が消える。
自分は今、あの伝説の忍たちと一緒に戦っている。
そんな自分を誇らしく思い、割れた空を見つめる。
一陣の風が吹き、木の葉が舞ったかと思うと、夜鷹の姿もまた、消えていた。