NARUTO ―― 外伝 ――   星空のバルゴ   作:さとしんV3

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忍者、異国を駆ける 3

 それは今からおよそ四ヶ月前に遡る。

 里の長、『火影』から緊急の召集を受け、執務室へ向かう回廊で見慣れた顔と出くわした。

 うちは ミゾレ。かつて一族が犯した過ちを払拭すべく、その咎を一身に背負い、『火影』になる事で、うちはの名に染み付いた汚名を返上すると豪語している忍。

 その能力はずばぬけて高く、遂行不可能とされたS級の任務を数多くこなしている、優秀な上忍である。

 彼女との付き合いが長いバルゴは、目を合わせた瞬間その異変に気付いた。

「また振られたのか?」

 無言で射殺すような視線を平然と受け流せるのは、里広しといえどバルゴだけであろう。

 雰囲気を察して、あえて触れない、もしくは友人として慰める等、そういった配慮がまったく無い相変わらずの朴念仁っぷりに深いため息が出る。

「はぁ。あたしの事より、バルゴも呼ばれたの?」

「ああ」

 ミゾレも呼ばれたという事は十中八九、新たな任務に関する事であり、上忍が、二人も呼ばれる事から、その特務性は極めて高い事が予想される。

 木製の扉を開く。入り口から真正面に迎えた机に、褐色肌に、右目に眼帯、白い髪の男が鎮座していた。

 木ノ葉の里、第十三代目火影<流氷 ヒョウガ>

「星空 バルゴ、並びにうちは ミゾレ、参上致しました」

「うちは ミゾレ、並びに星空 バルゴ、参上致しました」

 互いが自らの名前を先頭に出し、到着を告げる。

 相変わらずの不協和音に里一番の忍者にして、里の目標であるその男は人懐っこい微笑で二人を出迎えた。

「急な知らせで悪かったね。楽にしてくれ」

 言われなくても楽にしている、変わらない二人の姿に安堵の表情が伺える。

 かつてスリーマンセルを組んだ、第二十五班<ヒョウガ組>の姿がそこにあった。

「バルゴ、前回の任務の怪我はもういいのかい?」

「はい」

 昔から多くを語らず、冷静に沈着に任務をこなすバルゴ。

「ミゾレ。彼氏とは上手くいっているのかい?」

「はえ?もう別れましたけど?」

 炎のような情熱と、氷のような冷酷さを併せ持つミゾレ。

 仲間想いで、里から絶対の信頼を得ていたヒョウガ。彼の率いる二十五班は名実ともに最強の部隊として里の内外に知れ渡っていた。

 おそらくここに来る前に一悶着あったのだろう。

 ジト目で見詰め合う凸凹コンビに苦笑しながら机に設置された装置を操作する。

 室内が急に真っ暗になり、部屋の中央に赤、青、黄の三原色から成る球を象った立体映像が音も無く浮かび上がった。

 部屋の雰囲気が変わった事を受け、話が本題に入る事を察したのか、じゃれ合うのを止め本来の忍の表情を火影に向ける。

「近年の西洋からの『文明開化』の影響は知ってるね。この光学装置もその恩恵の一つだ。そのおかげで火の国はもちろん、各国で文化水準が大幅に上がり、僕たちの暮らしは稀に見る成長を遂げた。これは一重に西洋貿易の賜物だ」

 初めて見る不思議な光の幻惑にじっと見入る。まったく同じ反応を見せる忍二人。

「今回の五影会議でも協議された事だが、各里においても華やかな文化交流の裏で忍の秘術が流出しているらしい。無論それは木ノ葉とて例外では無い」

 手元の装置を操作すると、立体映像が球体から長方形の形へと変化した。よく見ると書物のようで、忍術による封印がなされているのが判る。

「今映しているのは先日地下書庫より盗み出された封印指定書だ」

 封印指定書。それは過去様々な忍術による人体実験の成果を書き記した、解体記録ともいうべき書物で、その成果の一部は暗部の抜け忍処理などにも流用されている。

 だが、狂乱じみた実験の成果の全容を知る事は里として禁止し、厳重な管理と強固な結界を施された地下書庫に、忘れさられる事を目的として封印されてた。

 そしてそのうちの一冊が、先日堅牢な看視を抜け持ち出されるという事件が発生した。

「盗んだ実行犯は捕まったんですか?」

「もちろん拘束した。が、すでに書物は無く、拷問の末吐き出した情報によると、水の国より船にて西洋の大陸へ運び出したそうだ」

 ミゾレの問い掛けに視線を移動させ答える。

「そこまで話した直後、舌を噛み切って自死したそうだ。ついさっき検死結果が僕のところに来てね。賊は木ノ葉の抜け忍だったらしい」

 立体映像が書物から一人の男を映した平面の写真に切り替わる。

「名は小魚 メザシ。五年前に殉死した事になっていた。現在当時の任務内容や部隊の事などを早急に調べさせている」

 それはにわかには信じられない事だった。忍が任務中の怪我が元で、引退するという事はよくある。その際は里から莫大な慰謝料が支払われ、その者の一生を保障する。

 だが、任務中の裏切りなどによる『抜け忍』となった者には、木ノ葉を影で支える暗殺戦術特殊部隊、通称暗部が派遣され、その者を秘密裏に処理をする。

 忍者の存在自体がその里特有の秘密を保持し、万が一敵の手に落ち、里の秘術を研究、暴露される結果となれば、戦略的に大きな損害となる。

 それを避ける為、選抜された精鋭が事に当たる。達成率は常に100パーセントを保ち、また任務失敗は絶対に許される事はなく、それは過去に暗部に従事していた二人も重々に承知するところだった。

「……ですが信じられません。任務中の殉死ならその死体を持ち帰る、もしくは焼却し証拠の処分が原則のはずです。そういった理由からもスリーマンセル、フォーマンセルという制度を採っているのですから」

「そうだね。五年前と言えば、僕はまだ一介の忍だったから、その理由は判らないけど、もし今回の事件がその頃から周到に計画されていたとなると、敵は木ノ葉内部にまだ存在するという事になる。また数ある禁術書の中で、それだけを選んだもの何か意図しての事なのかもしれない」

 つまり、根は深いという事であり、それに同意したミゾレが言葉を失う。

「盗み出された書物は、正式名称、<甲第一級禁術封印指定書> 名を『大蛇丸の書』という」

 大蛇丸。

 確か三代目火影暗殺の実行犯として悪名高い伝説の忍。

 バルゴたちにとっては歴史の教科書や御伽話に出てくる空想上の怪物、怪人のような魔物といったイメージが強く、およそ一世紀近く経過した今日においても、その名は恐怖と畏怖の代名詞として、口にする事すら憚られる禁忌中の禁忌である。

「里の内部は僕が調べさせるとして、だ。君たちにはこの書物を追ってほしい。任務は禁術書の可能な限りの奪還。ただし、回収不可能と判断した場合は、『完全なる封印』をする事。方法は問わない。現地での判断に任せる」

 最高の忍から最上の信頼を得る誉れ。

 それはけっして讃えられる事の無い闇の世界を生きる者たちにとって至上の喜び。

「班長はバルゴ、君がやれ」

「はい」

 表情を表に出す事なく短い返事で了解する。反面、隣のミゾレは不服そうにバルゴの顔を睨んでいる。

「あと、もう一人パックアップとして暗部の人間を付ける。名を狢(むじな)という。スリーマンセルではあるが、君たちは基本的にツーマンセルで行動しろ。その方が怪しまれないだろう」

 火影の含みを持った言い方にイヤな悪寒がする。それはバルゴも感じるところであったようで、悪巧みを思い付いた、かつての部隊長の子供じみた視線を背け、隣で同じような表情をしているミゾレと目を合わす。

「つまり、君たちはこれから夫婦だ」

 

 後日、恐ろしい事に当人たちの与り知らぬところで、本当に婚姻が受理されていた事を知ることとなる。


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