NARUTO ―― 外伝 ――   星空のバルゴ   作:さとしんV3

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幕間   狢―むじな― うちは

 うちは ミゾレ。

 

 木ノ葉の里の住民で『うちは』の名を知らない者はまずいないだろう。

 木ノ葉の里における最も優秀な一族として。

 木ノ葉の里を度々壊滅に追いやった黒幕の名として。

 

 その名声と悪名は今やアカデミーの教科書にまで載っている程で、木ノ葉創世記においても登場する古き血脈。

 有能すぎるからこそ悪意を心中に携え、有能すぎるからこそ悪意の姦計に巻き込まれた、

 見方を変えれば悲劇の一族となるのだろう。

 実際、何代か前の火影の代に遂に途絶える事となる。

 

 しかし私、いや、『おれ』がアカデミーに在籍しているころから噂としてまことしやかに囁かれるようになる。

『うちはの一族はまだ生きている』

 それは悲劇として完了した物語に対する蛇足。

 ご都合主義もいいところだ。

 実際に彼女、うちは ミゾレを見るまではそう思っていた。

 彼らうちは一族は名を変え、姿を隠し、されど一族としての誇りは失わずに今日まで生きながらえていた。

 もはや一族は彼女の家族、ミゾレとその両親のみを残すだけとなってしまったらしいが、ミゾレはそれまでの名前を捨て、『うちは』と名乗り火影を目指すと周囲に豪語していた。

 当然のように、歴然のように、その道は困難を極める事になる。

 なまじ優秀なだけ、恨み、妬み、嫉みなど、人間独特の粘りつくような負の感情に絡め取られ、がんじがらめになった事は容易に想像できる。

 ミゾレが木ノ葉きっての上忍となれたのも、天才的な感性と、元来気が強く、生真面目な性格が要因している。

 だがしかし、そこには現在の相棒 星空 バルゴの存在が大きく関わっているのだろう。

 互いに切磋し、互いに琢磨しあう関係。

 ライバルとも好敵手とも言う関係。

 正直、羨ましいとさえ思う。

 アカデミー時代、すでに中忍となっていたミゾレだが一度だけ大喧嘩をした事があるらしい。

 

 無論、相手はバルゴではない。

 

 訂正しよう。それは大喧嘩というレベルではない。

 一方的な暴力、であったと聞く。

 相手が二度と刃向かう気すら殺(そ)ぐに十二分に値する圧倒的な暴力。

 理由は一つ。

 

『うちは』の名を汚されたから。

 

『そいつ等』がミゾレに対して一体何を言ったかは不明。

 しかし、ミゾレの怒りを買った代償として、そいつ等は忍としての生命線を完全に断たれ、現在もその時の恐怖が頭から離れないのだという。

 おれにとっては、名前も覚えられない程の取るに足らない連中だが、実際にミゾレと対峙した立場から言わせてもらうと、少しだけ同情する。

 とはいえ、それだけの事件を起こしたミゾレは中忍の役職を剥奪。下忍へと降格となる。

 だがそれがきっかけで、後の火影、<流氷 ヒョウガ>とチームを組む事となる。

 第二十五班<ヒョウガ組>。

 現在となっては名実ともに最強と名高く、伝説に近い小隊であるが、結成当時はメンバー全員がいつ死んでもよい、いや、『そういう』難易度の任務ばかりを押し付けられるような、『そういう』人員が集められた小隊だったのである。

 

 日向の本家の次女を間接的に死なせた星空 バルゴ。

 里の仲間を再起不能にしたうちは ミゾレ。

 そして、過去に自分が率いた小隊を全滅させてしまった経歴を持つ流氷 ヒョウガ。

 

 彼らの共通点は、『過去に対する重すぎる責任』。

 

 懺悔か、償いか。

 その胸中を知るものは、本人たち以外にいない。

 彼らに『科せられた』任務は熾烈にして過酷。

 生存確率は10%を切るような内容ばかりだったらしい。

 その中で生き残り、その中で成果をあげた彼らが小隊として機能した期間は、実際のところ短い。

 

 およそ1年である。

 

 その期間内で功績を認められた流氷 ヒョウガは次期火影へと推薦され、バルゴとミゾレは暗部へと配属される。

 出来すぎの話だ。

 誰かが裏で糸を引いているように思えてならない。

 ……上等だ。

 誰であろうと構わない。

 おれは、おれの『目的』を達するだけだ。

 おれは、狢(むじな)だ。

 人を化かし、自分をも化かす。

 そうして必ず『本当』へと辿りつく。

 真実すらも化かして……。


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