NARUTO ―― 外伝 ―― 星空のバルゴ 作:さとしんV3
今から五ヶ月程前に遡る。
第十三代目火影より召集を受けた私は西の異国『倫敦』へ、ある書物を追う任務を受けた。
名を『甲第一級禁術封印指定書』。
通称、大蛇丸の書と呼ばれ、長い木ノ葉の歴史に中でもその異質性、異常性は群を抜き、最悪の術を記した禁忌中の禁忌として、忘れ去られる事を目的として地下深くに封印していた書である。
実行犯は拷問中に自死。
協力者は目下捜索中。
目的も不明。
ただし、他の暗部の情報によると、西洋の貿易船により海を渡ったという所まで判明したらしい。
忍の任務は基本三人一組で行われる。
理由は後人の育成、生還率の向上などが上げられる。
今回、私の他に、<星空 バルゴ>そして<うちは ミゾレ>の両名がチームとして加わるらしい。
訂正。
加わるのは私の方だ。
彼らは現火影の元チームメイトであり、火影が任務を行う立場から指示する立場に変わったこの数年、ほとんどの任務を二人一組で行っていたらしい。
暗部でも無い忍が三人以下で任務を行うのは異例という程でもないが、珍しい事例であり、現在百を超える小隊が木ノ葉に存在するが、二人一組で行動しているのは、彼らだけであり、それが火影の信頼を得ているという証でもある。
つまり、この二人の上忍は、私なんかでは及ばないほどの凄腕、歴戦のベテランという事になる。
特に星空 バルゴの名前は昔から知っていた。
いや、星空の一族についてと言った方が正しい。
星空の一族は、その名が示す通り木ノ葉に根付いた者ではなく、衰退し滅亡した他の里から流れて来た流浪の一族である。
既に半世紀が過ぎようとしている今でも『新参者』『異邦人』『野蛮人』等の影口を叩かれている。
しかし、出身者は総じて有能、優秀な者が多く、今まで一族の名前にあぐらを掻き、保身しか考えぬ一部の無能な者たちが吐く戯言に過ぎない。
有無を言わさぬ高い実績は、確実に里全体の信頼を得ている。
更に次期当主であるバルゴが、十三代目火影が率いていた小隊に在籍していたという事実もその要因となっている。
古くから木ノ葉を守護し続けてきた『日向』の一族が、良くも悪くも興味を示したのは、一族に名を連ねる私ですら意外な事であった。
星空一族の優秀さに目を付けた本家の当主が、当時まだ十二、三歳だったバルゴと同い年の次女、日向 ヒヨリとの婚儀を申し出たのだ。
日向一族としても有能な新しい血を欲し、星空一族としても里で最も力のある一族の仲間入りを果たせるという両者の利が一致。
それは早急に執り行われたと聞く。
だが、結納直前にそれは破談となる。
日向 ヒヨリの急死。
そこには権威の傀儡と成り果てた古参の者たちの思惑があった。
実行犯、腰掛 キンシ。
三代目火影を輩出した猿飛一族の分家筋にあたり、懐古主義者であり、保守派の筆頭でもあった男。
のちに、『枯れ葉事件』と呼ばれ処理される事となる。
初め、バルゴを標的としたキンシは就寝中のバルゴを襲撃。直前に気付かれ失敗。
この時、弟の星空 レオが彼を庇い意識不明の重症。現在は回復したが、忍としての生命線は断たれる事となった。
バルゴ暗殺未遂を聞きつけた日向一族が総力を挙げ犯人を特定。
追い詰められたキンシは特攻覚悟で再度バルゴを襲撃するも失敗。
一件落着と思われたが、キンシが謎の獄死を遂げる事で事態は急転する。
食事に毒を盛られた明らかな他殺であり、検死の結果、その毒はある一族が呪印を施す際に使用される薬を用いて作られた、極めて珍しい薬物である事が判明した。
それは日向一族が白眼の秘密を守るため、分家筋の者に施す呪印。
繁栄しすぎた日向の意思は一つではなくなってしまった事の証明でもあった。
犯人は日向 カイコ。
日向の分家の人間で、キンシと同じく懐古主義者で、今回の婚儀の件を『本家の暴走』とし、拘束された際、仲間は他にもいると洩らしたという。
これを知った本家次女、ヒヨリは自らが死ぬ事でバルゴを護れると思い、同じ毒で服毒自殺を図る事となり、最悪の結末を迎える事となった。
バルゴは眠っているかのようなヒヨリの亡骸に、声を上げ、大粒の涙を流し、妻となる筈だった少女の死を悲しんだという。
その後、暗部へ配属されたバルゴはその秘匿性ゆえ活躍は公開される事が無いが、名声は噂として、私のような後輩にも伝説として語り継がれる事となる。
だから私は、星空 バルゴという人物に憧れ、会ってみたいと思っていた。
そして話した。
結論は、流石というべきか、私が日向の一族の者である事は見抜かれていたようだ。
『狢』というコードネームはあからさま過ぎなのかもしれない。
同時に、ヒヨリを死に追いやった『日向』を憎んでいるとも感じだ。
それで良い。
彼はヒヨリの死を忘れてはならない。今の彼があるのは我が姉、日向 ヒヨリの犠牲の上にある事を、彼は忘れてはならない。
メメントモリ。死を想え。忘れるな。それは自身へ向けられた言葉なのだと。
狢。『同じ穴の狢』という言葉が示す意は、『結局は同類である』という例え。
狢。化け狸の別称。
狢。それが私の今の名前。
狢。化かすのは、敵か味方か。