P4 天田の強くてニューゲーム   作:エルデスト

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此処まで筋肉痛を引っ張ったかいがあったぜ・・・。

最近、天田君の為にあるような曲を見つけた。

スキマスイッチ『雫』

って奴です。他のアニメのOPだけど、何処は気にしない方向で(ぇ



再び

 今日は目覚ましが鳴る前に目が覚めてしまった。しかし今は二度寝できるような時間帯ではないし、だからといってぼーっとしているのも勿体ないのでのそのそとベットから這い出る。そういえば今日は日直だからいつもより早く目覚ましを設定したはずだが、それより早く起きてしまうとは。だからか少し寝不足気味だ。少し早く起きた分余ってしまった時間を、案の定悪化した筋肉痛のケアにあてる。大分悪化していたようで念入りにマッサージをしている内に早起きした分の時間がもう無くなってしまった。十分とまでは行かないが、生活する分には問題ないので、マッサージを切り上げて学校へと行く準備をし家を出る。

 

 朝食は仕方ないから前に行ったパン屋で買うとしよう。堂島家のポストに家を出る前に用意しておいた『今日は日直の為、早く登校します』という旨を書いた紙を入れて登校する。これで悠さんが気付くといいんだけど。

 買うパンは予め決めておいたので、また目移りして時間が無くなるという事はなかった。

 

 自席についてパンを食べた後は日直の仕事をする。その仕事も難なく終わらせ、生徒たちが登校してきた。今日も早く登校してきた有里と雑談をしているといつの間にか生徒が全員登校していたようで、HRの始まりを告げるチャイムが鳴る。それと同時に先生が教室に入ってきて、

 

「おーい、静かに。今日は臨時集会があります。てなわけで廊下に並んだ並んだ」

 

と気怠そうに生徒に伝える。臨時集会? 臨時という事なら何かあったという事だ。・・・昔、至ってどうでもいいことで集まったって先輩に聞いたことがあったな。確か桐条さんの演説に対抗心を燃やした校長が、臨時集会までやって話をしていたって・・・。そんな阿保みたいなことで集まるんじゃないといいけど。でも今の時期だ、真面目な話をする確率が高い。事件の事で集まるより、どうでもいい理由で集まった方がずっといいか・・・。

 講堂に集合した生徒たちはひそひそと何があったのかと推測を話しあっている。ある人は山野アナウンサーを殺した犯人がうちの学校から出たんじゃないか? ある人は新しいイケメンの先生が来たんじゃない? などと根も葉もない予測が飛び交うが、なにも情報がない中では仕方ないことだろう。そしてついに校長が舞台の上に立ちマイクを持って生徒に伝える。

 

「えー、お隣の八十神高校の生徒が何者かによって殺されてしまいました。名前は小西早紀さんです。先の事件との関連性を警察が調べています。死因はいまだに分かっておりません。まだまだ未来があったというのに、このようなところで道半ばでその歩を止めてしまうとは本当に嘆かわしいこと・・・」

 

 小西・・・早紀? 小西って僕の運命の人としてテレビに映ったあの小西さんか? なんでだ? もしそうなら死にはしないはずなのに。僕の運命の人というのは皆死んでしまうのか? 校長が未だに長々と話しているが一切耳に入ってこない。僕は呆然として静かに立っていた。

 

「・・・という事なのです。では最後に、小西早紀さんに黙祷を捧げましょう。では、黙祷」

 

 周囲の人が俯き黙祷を捧げる中、僕は静かに悲しんでいた。ほとんど関わり合いがなかったが、それでも知ってしまっている以上同情はあった。僕でさえこうなのだから想いを寄せていた花村さんは一体どういう心境なのだろう。

 そういえば、人がああも不可解に、しかも連続で死んでいるというのはどこかおかしい。まるで影時間の中で死んだ人の死因が現実の人々の記憶に補正が掛かるように・・・。死因が分からないというのもだ。今の時代、科学の力が進んでいるからまずそれはあり得ないに等しい。

 という事は何か特殊な殺され方をした? 僕たちは最近どころか昨日、あり得ない体験をした。若しかしたらきっとテレビの世界が関わっているかもしれない。その答えに至った。

 

 この僕でさえそこにたどり着いたんだから、きっと悠さんたちもそう思うだろう。なにせあんな不可思議な体験をした後にこんなことになったのだから。逆に結び付けられない方がおかしい。だがテレビの中は危険だ。僕の直観がそう言っている。若しかしたらタルタロスに似た空気のせいかもしれないが。

 

 彼らだけで行かせるのは危険だと思い、何とか着いていく方法を考える。そもそもその考えに至ってない可能性もあるし、あり得ないとかおもってその可能性を考えもしなかったり、怖気づいたりしていたら空振りになる可能性もある。それでも、テレビの世界を疑うという可能性がある以上なんとかせねば。

 

 

 

 いろいろと考察しているうちに集会は終わり、教室に戻っていた。そのことさえ気づいていなかった僕は、考えすぎたら周りが見えなくなる欠点を何とかしなきゃと思いつつ授業の準備をしていく。

 何かと物騒なことが起こっているので今日は午前中で学校が終わるらしい。クラスの皆はやったーとはしゃいで、先生に外に出たら意味ないだろうと窘められて、それに対し大ブーイングを鳴らす。それが普通の学生の感性なんだろうな。僕みたいにいろいろと悩んでいる人はいるはずがない。ましてや娯楽の少ない田舎だ、逆にワクワクしている人もいることだろう。他人事であるはずがないのに。

 授業が全て終わり、生徒が一斉に帰っていく。僕は悠さんたちの行動を見張るため、八十神高校の玄関が見えて、影になる場所に隠れた。ついでに今朝買ったパンの残りを昼飯代わりにして。

 

 暫くするとすごい勢いで皆さんが出てきた。中でも花村さんがとても感情が高ぶっていて、大声で喋っていた。

 

「だから! テレビの中に絶対何かあるはずなんだよ! お前らもあの中見ただろ、ぜってー何かあるって俺の勘がそう言ってる! 今からでも確かめに行こうぜ、なんかヒントでもあるかもしれねーしよ! そうだ鳴上、お前も一緒に来てくれないか!?」

 

「落ち着け、花村。まだあるとは決まったわけじゃないだろう。でもその気持ちは分かる。俺も何か引っかかっていたんだ。一緒に行こう」

 

「ねえ、やめとこうよ。危ないよ、ねえ!」

 

「いや、前も戻れたんだ。次もいけるさ。弱腰じゃあなんも起きねえよ!」

 

 やはり僕の予想はあっていたようで、テレビに何かあると結論が出たらしい。この後は一旦家に戻って、荷物を置いてからテレビの世界に向かうらしい。どこのテレビから入るかと思ったが、この様子ではきっとジュネスだろう。

 そのまま意見を交換しながら歩いて行った悠さんたちを後ろからついていく。長い道のりなのでばれる可能性もあったが、シャドウに奇襲をかけるため身に着けた気配を消す能力を活用し進む。周囲には特に気に掛けていないようで、僕には気付かず各々の家に帰っていった。

 

 僕はそれを見届けると家に駆けこむ。制服を着替える時間も惜しく、荷物をその辺に捨て置きすぐに家を出ようとするが、嫌な予感が頭をよぎり急いで部屋に戻り隅の方に仕舞われていた『アルモノ』を手に取る。そして近くに置いておいた暫く使っていなかった特殊な鞄に入れて肩に掛ける。予定より時間を食っていまい、悠さんが家を出る前に家を出ねばいけないので自然に焦りがでてきた。準備が終わり、玄関から視線だけを外に覗かせる。堂島家から悠さんが丁度出てくる。進む方向を確認したのちに、音を立てずに家を出、施錠。自転車に跨り悠さんの後を追っていく。その先には案の定ジュネスがあった。

 

 少し遠回りしながらも、悠さんに見つからないように全速力で走り、何とか先回りに成功した。そして、電化製品売り場にある前回入ったテレビから死角になるテレビの影に体を隠す。さっき筋肉を余計に酷使したので筋肉痛で筋肉が痛む。彼らを待っている間それを揉み解していると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。耳を澄ましてみると、

 

「鳴上! 来てくれたのか、良かった。早速だがコレ鳴上の分な。一応の護身としてのゴルフクラブと傷薬」

 

「分かった。護身用か、確かにあった方がいいな」

 

「ねえ、本当に言っちゃうの? 止めなよ」

 

「何で里中まで来てんだよ。俺はいくら止められても行くからな。そうだ、だったら里中は俺たちに結び付けた縄をもって待っていてくれ。じゃあ行くぞ鳴上!」

 

「ああ!」

 

 そういって二人はテレビの中に入ったらしい。気配が消えたから分かった。隠れていたところから身を出すと、里中さんが縄を引っ張っていた。手応えがないらしく、するすると簡単に引っ張られた縄はテレビからいとも簡単に抜け出た。やはりというべきか縄の先には人は繋がっておらず、先端に千切れた跡が残っているだけだった。

 

「やっぱダメじゃん・・・。鳴上君、花村ぁー!」

 

 里中さんはそのままへたり込んでしまった。僕もテレビに入りたいのだがこれは強行突破するか、里中さんを説得するしかないだろう。取りあえず里中さんの元へ向かい、説得を開始する。

 

「里中さん、一部始終は見ていました。僕が悠さんたちを連れ戻してくるので、里中さんは少し横で休んでいてください」

 

「天田・・・君? 君も危ないよ。ねえ、やめとこうよ」

 

「僕はちっとやそっとじゃ怖気づきはしませんよ。それに女性をよくわからないところに行かせるわけにはいきませんから。僕は大丈夫です。これでも武道は嗜んでいますからね」

 

 武道というか、我流の戦い方だけど。

 

「本当に大丈夫なの・・・?」

 

「大丈夫です。では行ってきますね」

 

「あっ!」

 

 僕はテレビの中に体を突っ込む。多分あのまま里中さんと一緒にいると止めさせられると思うから、何か言われる前にテレビに入ってしまおうと行動した。今回も無事にテレビに入ることができ、白黒のゲートを通り過ぎる。やがて着いたのは前と何も変わらないスタジオのようなところだった。そこにはクマと対峙する花村さんと悠さんの姿があった。

 

「だーかーらー! 俺がやったわけねえだろ! 逆にお前がやったんじゃねえのかぁ!」

 

「クマがそんなことする理由はないクマ! クマは、クマはただ此処が平穏になって欲しいだけクマよ・・・」

 

「花村、それぐらいにしとけ。無暗に疑っても見つかる訳がない。小西先輩がテレビの中に入れられたってことだけでも分かっただけいいじゃないか」

 

 小西さんがテレビに入れられた? やっぱり死因と関係があるのか。でもいったいそれはなんなんだ? すると漸くクマが僕の存在に気が付いたらしい。というか、悠さんたちが僕に背を向けている状態なので見つけられない方が可笑しいのだが。

 

「キミタチ、あの子はキミタチの知り合い?」

 

「いったいどいつのこと言って・・・って天田ぁ!?」

 

「ッ! 何でまた天田が此処にいるんだ!」

 

「小西さんの死因について考えたら、テレビに何かあると思いましたからね。僕なんかでも気付いたのだから悠さんたちもそう考えると思って一応学校から見張っていましたが、やっぱり悠さんもその答えにたどり着いていたようなので尾行させてもらいました」

 

「尾行!? 俺ちっとも気付かなかったぞ!」

 

「当たり前です。気配を消してましたから」

 

「天田・・・やっぱりお前は何者だ?」

 

「いつになっても僕は言う気にはなりませんよ。自分で考えてください。それでテレビに入れられたって何ですか?」

 

「いや、それがよくわかってねーんだよ。これからそれを調べに行くんだけど、お前はどうするんだ?」

 

「勿論ついていくに決まっています。異論は認めませんよ、悠さん」

 

「・・・天田が決めたことだ。俺からは何も言わない」

 

「わかりました。では何処に行く予定ですか?」

 

「その、小西って人の気配がなくなった場所があるクマ。これからそこに案内するクマよ!」

 

 そういう事でクマの後をついていく。悠さんが僕のことを懐疑的な視線で見てくるが、涼しい顔でそれを受け流す。花村さんはどうしてこうなったんだ!? みたいな顔をしているが何も言ってこない。そのうち稲羽中央商店街にとても似た、しかし雰囲気が全く違う場所に辿り着いた。

 

「このあたりで小西って人の気配が消えたクマ。細かいところは流石にクマでも分からないクマね」

 

「ここって商店街!? なんでテレビの中に稲羽中央商店街があるんだよ! しかも人がちっともいねえしよ!」

 

「そんなのクマが知ってるわけないクマ! キミタチにとってはここはキミタチのところと同じ何でしょうけど、クマにとってはここが現実なの!」

 

「ここが俺たちの知っている商店街なら小西先輩の家族が経営している酒屋があるはずだ。まずはそこに行ってみよう」

 

 小西さんの家族は商店街で酒屋を経営しているみたいなので、その酒屋まで行こうとその方向を見ると、黒い何かが地面から染み出てきた。それは少しずつ浮かび上がりその醜き容貌を僕たちの目の前に現す。その瞬間、クマの表情は一気に怯えにと変わり警告を発する。

 

「シャ、シャドウクマー! に、逃げるクマよ! キミタチじゃ勝てないクマ!」

 

 

 

シャドウ。

 

 かつて僕たちSEESが戦っていた異形の怪物たちの総称。そいつらは母なるニュクスの復活の為、僕たちに襲い掛かってきた。しかし、そいつらはニュクスが封印され、影時間が消えたと同時に居なくなったはずなのに。

 いや、僕は可能性としてシャドウが現れる可能性を考慮していた。でも、やはりその考えが外れてほしいと願っていた。なのに目の前に現れて僕たちに襲い掛かろうとしている。その事実が信じられなかった。

 僕が驚愕している間、悠さんが手に持っていたゴルフクラブで異形の敵(シャドウ)に攻撃を仕掛けた。しかし、攻撃は通らず弾き飛ばされてしまった。でもそれは当たり前の事。一般の何も力を持たない人間が異能の力であるシャドウを倒すことはおろか、傷つけることさえできない。

 この中で唯一応戦できる力を持っているのにこのまま何もしない訳にはいかず、鞄に手を伸ばす。しかし、この時に限って筋肉痛が僕の体を蝕む。一瞬のタイムラグが生まれたせいで、シャドウが反撃しようと悠さんに近づく。また僕は人を助けることができないのか。そう思った刹那―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――ペ・・・ル・・・ソ・・・ナぁぁぁぁぁ!!!

 

 

 

悠さんの前に伸ばした手が青く輝く。その手は何かを握りつぶしていた。一瞬見えたそれは

 

 

 

 

 

アルカナカード―――――

 

 

アルカナカードはこの場合は己の力が目覚めたことを示す。

 

悠さんの背後には人型の、それでも異形の何かが虚空から現れた。

 

 

 

 

それは己の心の力の体現

 

 

それは仮面の鎧

 

 

それは己を映す鏡

 

 

それは己の心の海より出でし者

 

 

それを僕たちはこう呼ぶのだ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                ―――――ペルソナ、と

 

 

悠さんから現れたそれは威風堂々としていて、とても悠さんに似合うものだった。

 

 

そして、一瞬だけだがその姿が鈴とオルフェウスの姿に重なって見えた・・・。

 

 

 

「イザナギッ! ジオ!」

 

 そのペルソナ・・・イザナギは命じられた通り雷をシャドウに向けて発する。威力はまだ弱かったが、それでもあのシャドウどもを倒すには十分な威力だった。その力をそのまま避けもせず身に受けたシャドウは黒い霧へと姿を変えて消えていった。現れたシャドウは全て先ほどの雷に駆逐され、敵が消滅し仕事を終えたイザナギは虚空へと、悠さんの中へと還っていった。

 そのまま再びシャドウが現れるなどという事もなく、静寂が訪れる。それを打ち破ったのはやはりというべきか、花村さんだった。

 

「お、おおおおい! あれは何なんだ!? しかも鳴上も変なの出してたしよお!」

 

 花村さんは腰が抜けていたらしく、へたり込んでいた。声も震えている。クマは驚いてフリーズしていたが、僕が肩を揺らしていると今の出来事に漸く脳(?)が動き出したのか説明をする。

 

「あ、あれはシャドウクマ! 襲われたらもうダメクマなのに、センセイが倒してくれたクマ!」

 

「おい、センセイってなんだよ」

 

「ヨースケもセンセイに助けてもらったんだクマよ。感謝するクマね」

 

「しかも俺は呼び捨てかよ!」

 

「天田、大丈夫か?」

 

 悠さんが僕が黙っていたので何かあったのかと聞いてくる。

 

「あ、いえ、何でもないです。ただこれが必要だなと思って」

 

 そういって家を出るとき持ってきた『アルモノ』を鞄から取り出す。それは召喚器。念のためにともってきたが、まさか必要になるとは。だが悠さんや花村さんは反応が違うようで、

 

「じゅ、銃!? きゅ、急になに出してんだよ! あぶねーだろ!」

 

「天田!? なんで銃なんて持っているんだ!? まさかお前殺し屋とかじゃないだろうな」

 

「これには弾は入っていませんし、そもそも使えません。それと悠さん、それは流石にないですよ。どうしてその答えに行きついたんですか」

 

 カチカチと、軽くトリガーを引き何も起こらないことを見せる。というか僕が殺し屋って・・・まあ、なんとなくそうなった予想は付くけど。

 大人びている、非日常に動じない、過去を話そうとしない、異形の怪物に襲われても悲鳴一つ上げない、そして最後に銃を持っている。うん、自分のことながら確かに殺し屋みたいだな。

 

「じゃあ、使えないのに何で持ってるんだよ。しかもこの場じゃ意味ねえし」

 

「意味はありますよ。自分を射殺す為にあるんですから」

 

「え、でも今使えねえって・・・って自分を射殺すぅ!? 自殺でもすんのか!? あ、でも弾でねえから死なないし・・・ああもうよくわかんねえ!」

 

「逆に分かったらすごいですよ。そして分からなくていいんです。これは僕が勝手にやってることだから。矛盾してるけどこれが僕にとって正しいんです」

 

「どういう事なんだ、天田。だけどそれよりも今の力はなんなんだ・・・?」

 

「その力はペル・・・」

 

 別に教える分には何の問題もないので、その力について説明しようと思ったが、僕の言葉を遮る声があった。

 

『ジュネスなんて潰れちゃえばいいのに・・・』

 

「! 誰だっ!」

 

 その声は野次馬な中年のおばさんの声だった。微かに憎しみの籠った声。僕は先ほどのシャドウが現れてからというもの、周囲を警戒していたのでどこから響いてきたのかもわからない声に向かって怒鳴った。それでもさっきとはまた違う別の中年のおばさんらしい声が響く。

 

『ねぇ、知ってる? ここの娘さんってば酒屋の娘の癖にジュネスでアルバイトなんて・・・』

 

『この商店街を潰す気なのかしら? 恥知らずよねぇ・・・!』

 

『親御さんもあんな娘を持って大変よねぇ・・・』

 

「今の声は一体・・・?」

 

「この世界がここの住民にとってはここが現実クマ。多分ここは小西って人の現実クマ。この声も小西って人の現実で聞いた声クマ」

 

「くそ! どいつもこいつも小西先輩の悪口言いやがって! ジュネスだって別に商店街を潰す気はねえのに!」

 

「つまり小西さんはこんなことを言われていたのに、それでもバイトをしていたってこと?」

 

「それほどジュネスにでバイトをする理由があるいう事になるけど、一体どんな理由で・・・?」

 

 先ほど響いた小西さんの現実の声に花村さんは憤り、僕たちは色々と考えてみる。するとまた、声が響いた。しかし、その声は先ほどとは打って変わって若く聞き覚えのある女性の声だった。

 

『私・・・陽介くんのこと・・・』

 

 その声は小西さんのものだった。花村さんはその言葉の続きを思い浮かべて、こんな時だというのに色めき立っていたが、

 

『ずっと・・・ウザいって思ってた』

 

「・・・え?」

 

『店長の息子だからって仲良くしてあげたら勘違いして・・・盛り上がって・・・ホント、ウザい。あーあ、酒屋も商店街もジュネスも全部面倒・・・ウザい』

 

「う、ウソだろ・・・。ははは、小西先輩がこんなこと思ってる訳がねえ・・・。違う、そうだ違うんだ・・・」

 

 小西さんの本当に心底諦めたような本音に花村さんは動揺、いや拒絶していた。目の焦点はあっていなくて、あまりにも様子がおかしい。すると、

 

『可哀想だなぁ、悲しいなぁ・・・そうだろ? 俺・・・』

 

 背後から花村さんの声が聞こえてきた。花村さんは今目の前にいるので、何者だと速攻で声の主を見る。ソイツは花村さんと全く同じ姿形をしていて、先ほどの事から声も同じなのだろう。ただ、あえて相違点を挙げるなら目が不気味な金色に輝き、そしてその顔には歪な笑みが浮かんでいた。

 

『てかさ、何もかもウザいって思ってんのは自分の方だってのにさ・・・』

 

 自分と全く同じ姿だからなのか、はたまた図星だったのか花村さんは否定する。

 

「お、俺は、俺はそんなこと思ってねえ!」

 

『よく言うぜ・・・いつまでそうやってカッコつけてるつもりだよ? ジュネスも、商店街も、こんな田舎暮らしも全部退屈でウザったいだけ。小西先輩のために来たぁ? その気持ちもあんだろうが、何か面白い物があるかもしれない、ってのが一番の本心だもんなぁ? 認めろよ・・・この町で殺人事件が起きた時、面白くなったって思っただろ? 俺はお前だからぜーんぶ知ってんだからさぁ』

 

 本当に図星だったようで、花村さんに似たナニカに暴露された自分の本心を、必死に否定する。

 

「違う! こんなの、こんなヤツ俺じゃない! 黙りやがれよっ!」

 

 花村さんはそのナニカを自分と認識したのか、ナニカ自身の存在自体を否定した。その言葉を聞いた瞬間、花村さんに似たナニカの口が三日月のように歪んだ。

 

『そうさ、俺はもうお前なんかじゃない・・・! 俺は俺だぁ!』

 

 そう叫んだ花村さんのナニカは黒い影のような炎に包まれる。姿は炎によって見えなくなっているのに、その金色の双眸だけはくっきりと影の中に存在していた。その影の炎は揺らめき、蠢き、徐々にその形を変えていく。どんどん大きくなったそれはやがて一つに纏まった。色づいたその風貌は恐ろしく奇怪で、とてもではないが花村さんに似たナニカから現れたとは到底思えないような姿だった。

 下半身はカエルのような四足が生えていて、そのカエルの頭に当たる部分にはⅤの形をした触角のような口があった。足の中心点から下半身とはちぐはぐなイメージを与える、人間の上半身が生えていた。そもそも上半身の人型は人間と言っていいのか疑問だが。全体的に見れば、正にどこか地方の方にありそうな安っぽい『ヒーロー』の出で立ちで、それを強調するように赤いマフラーが首に巻かれていた。

 

『我は影、真なる我・・・。ウザいものは全部、なにもかもぶっ壊してやるッ!』

 

「う、うわわぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 カエルと人の異形はまるで自分の存在がここにあることを示すかのように声を上げる。花村さんはただ悲鳴を上げるだけで、座り込んで動かなくなってしまった。

 

「あれはヨースケの中に抑圧された存在クマ! それが具現化してシャドウになったんだクマ!」

 

「つまりあれが花村の本音という事か・・・。天田は花村を運んでくれ! イザナギ!」

 

 悠さんがこちらを向き指示をする。そうしている間に何処からともなくアルカナカードが出てきて、悠さんはペルソナの名を叫びながらそのカードを握りつぶす。しかし僕はその指示には従わない。あの時は悠さんがペルソナ能力に覚醒したからよかったものの、あのままだったら悠さんが助からなかった可能性が高かった。母さんのように家族を目の前で死なせるわけにはいかない。そう思ったからこそ、僕は戦いに身を投じるんだ。

 

「僕も手伝います! 花村さんはクマ、頼みました!」

 

「無理クマ! シャドウには普通の攻撃は効かないクマ! センセイはペルソナがあるから戦えるんだクマ!」

 

「そういうことだ、天田! 危ないから天田も非難してくれ!」

 

「僕は大丈夫です。僕には・・・力がありますから」

 

 そう静かにいい、召喚器を自らの心臓に向ける。悠さんの焦るような静止の声が聞こえるが、今の僕には届かない。

 

『いつまでゴチャゴチャ喋ってんだよ!』

 

「カーラ・ネミ!」

 

 シャドウが痺れを切らして声を上げるのと同時に、僕の相棒の名を呼び引き金を引く。あたりにガラスが割れたような澄んだ音が響き、青い燐光が舞い散る。僕の背後にペルソナが現れるのと同時に、花村さんのシャドウが攻撃を仕掛けてきた。

 

『ガルッ』

 

「天田!」

 

 悠さんの声が聞こえる。でもこの程度の攻撃でやられるほど僕は弱くなったつもりはない。攻撃の直撃を受けたが僕には微風程度にしか感じない。

 

「なんだ、この程度か・・・。これなら悠さんでも倒せる。僕はずっとずっと苦しい戦いの中にいた! この程度の敵、タルタロスにはゴロゴロといたし、もっと強い奴も死ぬほど倒してきた!」

 

『な、なんなんだよ、お前は!とっとと消えやがれ! 忘却の風ッ』

 

「だから言ったじゃないですか。その程度の攻撃じゃ何の意味もなさないって! これぐらいの力がないと傷さえつけることさえできませんよ。そう、このぐらいの力がないとね! ジオダイン!」

 

 花村さんのシャドウの攻撃が突風なら、僕のカーラ・ネミの攻撃は天災並だろう。そのような攻撃を避けれるほどの回避力があるはずもなく、何もできないまま直撃を受けた。真っ黒に焦げたその巨体は崩れ落ち、黒い霧となって霧散する。しかしシャドウがいた場所には人型の花村さんのシャドウがいて、虚ろな顔をして突っ立ていた。あれでもまだ倒せていなかったのかと思い、再度攻撃を仕掛けようとすると慌てた様子のクマが割って入った。

 

「あわわ、あれは倒しちゃダメクマ! あれはヨースケの心の一つクマ! あれはヨースケが認めてあげないといけないんだクマよ」

 

 花村さんの方を見ると、シャドウが消えたのがよかったのか覚束ない足取りだが、それでも立っていた。でも、目の焦点はいまだにあっておらず、首を横に力なく振っていた。

 

「違う! あいつは俺じゃない! 俺は・・・!」

 

「あれは元々ヨースケの中に居たモノクマ・・・ヨースケが認めなかったら、さっきみたいに暴走するしかないクマよ・・・。だからヨースケが認めてあげるなきゃダメなんだクマ」

 

「い、いやだ。俺はそんなこと思ってねえんだ! あんな奴が俺のわけねえ!」

 

 未だに自分自身を否定する花村さんにペルソナを仕舞った悠さんが近づく。そして悠さんは花村さんを・・・ぶん殴った。その行動にここにいる全員が驚く。しかしそんなことに構いはせず、花村さんの胸ぐらを掴んで、

 

「陽介! いつまで否定しつづけるつもりだ! どんなに目をそらしたって、否定したってあの陽介は消えないんだ! 本当は分かっているんだろう? あとは認めてやるだけだ。人間、誰にでも負の一面はある。それを恥じる必要はない。少しは自分を認めてやれよ・・・」

 

 そういって花村さんを離す。そのまま地面に落ちた花村さんは暫く項垂れていたが、やがて立ち上がると花村さんのシャドウの前に行った。

 

「俺はお前で・・・お前は俺、か・・・。全部ひっくるめて俺ってことだよな・・・。分かってたよ、分かってたさ。ただ認めんのが怖かっただけなんだ。ごめんな、今まで認めてやれなくてよ・・・。もう俺はお前から目を反らさねえから」

 

 そう決意に満ちた声色で言うと、花村さんのシャドウは満足そうに笑い、暖かな光になって宙に昇る。そしてその光は形を変え、ネズミのような耳に、白いライダースーツのようなものを着、胸には特徴的なV字の飾りが着いていた。そして首にはあの特徴的な赤いマフラーがあった。

 その異形の人型―――――ペルソナ『ジライヤ』はアルカナカードに形を変えて花村さんの中に溶け込む。花村さんも静かに笑うと、体力の限界も来たのかふらりとよろめき、座り込む。

 

「陽介!」

 

 悠さんが駆け寄るのを、僕は後ろから見守る。僕も一瞬悠さんに続こうと足を踏み出したが、思い留まったからだ。あそこには僕は入れない。僕はもう・・・失ったものだから。

 

「クマ、僕は一足先に帰ります。そう悠さんに伝えておいて下さい」

 

「何でクマ? でも分かったクマね! センセーイ、ヨースケ~!」

 

 そういってクマは彼らの元に向かう。心配された花村さんは苦笑いしながらも楽しそうに悠さんやクマと軽口を叩いている。なんだかその様子が眩しくて、逃げるように僕はテレビの外へ帰っていった。

 

 




恒例?ペルソナ紹介コーナー!(ヒューヒュー(棒読み))
皆様お待たせしました!(誰も待ってねえよ)

悪魔・ベルゼブブ 耐以外のステータス・Lv MAX

スキル
マハジオダイン・マハガルダイン・勝利の雄たけび・電撃ハイブースター・電撃ブースター・ハイパーカウンター・氷結吸収・火炎吸収

備考
お気に入りペルソナ・その二
耐性がMAXではないのはインセンスカードじゃないとMAXにできないからです。
電撃係として活躍中。マハガルダインを覚えているのはガル系が居なかったから。只今ノルンを育てています orz。

※セトのスキルを修正。

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