「オレの邪魔ばっかしやがって…!!クソ野郎がぁ…!撃て!!打ち殺せ!」
男の命令により、また、強力な魔力の塊の砲撃が開始された。
だが、屋根の上でその砲撃をすべて全身で受け止めるエルザの想いは揺るがない。ずっと仁王立ちで耐えている。
五発。撃たれただろうか。エルザは膝もつかず、息をすることも忘れ、ただその砲撃に耐えていた。急に砲撃は止んだ。
「すいません!砲撃の魔力切れです!!」
「なんだとっ!?」
「私達が行きます…!それでかまいませんよね?」
「十分だ…。待っているぞ…」
男はそう命令を下した。
一人の男と二人の女はこの要塞を出、ギルドに襲撃を開始した。
「ハッピー!」
「あいさー!!」
ナツの一声でハッピーはその意味を理解した。ハッピーはナツの襟をつかみ、翼を出して、ナツごと飛んだ。
そして、要塞の上に辿り着き、ハッピーはナツを降ろさずに滞空した。
「俺達のギルドに攻撃すんじゃねぇえええええ!!!!」
ナツの渾身の一撃が要塞に激突した。だが、一発では終わらない。二発、三発、四発と加えていく。
ナツの拳が要塞を僅かに揺るがした。それに気づいた巨体の男が出て行く。
そのことに気づかずにナツは思い切り殴り続けた。炎を纏った拳が要塞の一部を焦がした。薄く黒くなった。
ナツの動きが一瞬、止まってからナツは叫ぶ。
「ハッピー!降りるぞ!!」
「あ…あい!!」
訳が分からず、とにかくナツのその言い方に戸惑いながらも要塞から離れて、地に降り立った。
「よく、気づいたな…。
「へっ、またおめぇか…。燃えて来たぞ!!!」
「行くゼェ!!」
一方、ギルドの中では。
「痛てててて…!」
「だ、大丈夫!?」
「こっちにも負傷者だ!」
「ちっくしょぉ!一応、砲撃は止んだようだな…」
ギルドのメンバーは愚痴や悲鳴を上げていた。その時――
―――ズガァァアアアァン!!!
正面出入り口のドアが打ち破かれ、破片が舞い散った。その爆発の様な威力で舞い散ったドアに驚き、皆の視線が移る。
「脆いドアだなぁ…」
「ガジルさん…十分ですよ?」
「キャッキャッキャ!十分ね~。楽勝じゃん!」
皆の視線が移されたその砂塵の中からは一人の黒髪長の男と黄髪のツインテールの少女。その後ろには青い髪をして、両側の髪の先端がくるっと回っている女。
いかにも強そうな威圧感を放ち、三人は現れた。
「リーナという人を渡してください…」
「ちっ、ぜってぇに渡すかよ!」
「行くゼェ!鉄竜の…咆哮!!!」
ガジルが放った砂鉄みたいな鉄が凄まじい速度で回転する竜巻を口から放つ。
「こ…こいつ…!?
「な…なんでこいつが!?」
ガジルの放った咆哮が大勢の人に向かって襲い掛かる。
ズガガガガガガガァァァァ!!!
「ギヒッ…。あん?」
「テメェ等…」
「ほぅ…」
「俺が相手だ!!!」
グレイが三人全員を怒り溢れる眼で睨んだ。
「面白れぇ!!!ぶち壊してやる!!」
「ジュビア急いでいるので…容赦はしません…!!」
「キャッキャ!!もう一度、吹き飛びな!!!」
言い合いが終わった刹那、ほぼ同時に弾丸の様に飛び出した。
「だぁありゃああぁッ!!!」
ナツが雄叫びを上げて、殴りつける。だが、相手の腕は巨大化されており、なんのダメージもない。男は口の端をつり上げて見せると、巨大な腕を振るった。
「おっと…!」
ナツはそれをいとも簡単に避けると、大きく飛び退いた。
「変わってねぇなぁ!!
「うっせぇ!!オレはお前を超える!!!」
「やってみろォ!!クズが!」
ナツは大きく飛び退いた後、体を大きく反って上半身を思い切り、後ろに倒すと、そこから前に体全体を押し倒すように火を噴いた。
「火竜の咆哮ォ!!」
ナツの吐いた火は大きな塊となり、ラルドを襲った。だが、ラルドは巨大な二つの剛腕で守り抜く。だが、ナツの咆哮は止まらない。
「火竜の咆哮!!咆哮!!!咆哮!!!………咆哮ォォォオオオオ!!!!」
がむしゃらに吐きまくるナツの火は全く通用しているようには見えない。
「やっぱり、そうやって適当に攻撃するんじゃねぇかよォ!!
「適当?なにを惚けてんだお前は…」
「なっ!!?いつの間に!?」
ナツはいつの間にか炎を潜り抜け、ラルドの懐にいて、拳を構えている。その拳には燃え盛る炎が纏われている。
(目くらましだったのか!!)
「いくぞ!!火竜の……鉄拳!!!」
ナツは思い切り腹部に拳をぶち当てた。
「あがっ!!!がはぁッ…!!!」
「アイスメイク・
「当たらねぇな!!」
ガジルはグレイの放つ氷の槍を上手く避け、腕を鉄の棍棒へと変える。
「鉄竜棍!!!」
「アイスメイク…
グレイの造り出す盾がガジルの魔法を防ぎ抜く。ガジルは力をいっぱいに入れたようだが、突き破れない、と判断したのか手を元に戻す。
「ジュビア、負けない!!!」
「三人相手はさすがにキツイぜ!!」
グレイはそう言いながらも互角ほどではないが、まともに闘えている。
「鬱陶しい奴だ!!!鉄竜の……」
「アイスメイク・
「なっ!?間に合わねぇ!!」
ガジルの魔法よりも先にグレイの魔法が先手を取る。
グレイの魔法により、造り出されたハンマーは急にガジルの真上で造り出されており、振り下ろされた。
ガジルはハンマーの下敷きにはあと一歩というところでならなかった。
しかし、
「アイスメイク・
グレイの次なる魔法がまたしても、ガジルに襲い掛かる。氷が床から凄まじい威力でまるで、噴水の様に噴き出した。その氷の先端はかなり尖っている。それが、今、ガジルを襲った。
「いぎぎっ!?」
ガジルも連続の追撃に耐えきれず、グレイの魔法をモロに食らう。
「
ジュビアが放つ、水はカッター状になり、グレイ目掛けて飛ぶ。だが、グレイはそれを跳んで避け、反撃を狙う。
「アイスメイク…」
「おっそ~い。エア・バンド!!」
後方からの急襲にグレイは襲われる。
「遅いのはどっちだよ!!!」
グレイはくるりと、空中で回ってジュビアに向かって放とうとしていた魔法を少女に放った。
「…
大砲を造り出し、砲撃。
風の旋風はまるで、そよ風の様にいとも簡単に裂かれ、消え失せる。そして、勢いを止めない巨大な弾は少女を襲う。
「うっ!!」
「
グレイの全身が入る大きさの水塊がグレイを包み込んだ。全身拘束されたグレイは動かなくなり、口から激しく泡を出す。苦しそうに。
「ジュリアの水は強い!!」
(ぐぅッ!!こんなモン!!!)
グレイの全身に力と魔力が集まる。
「あああぁぁっ!!!」
「え!?ジュビアの水が!!?」
グレイを拘束していた水塊は氷となって砕け、破片は飛び散った。床に突き刺さっていく。グレイは拘束された身から脱出した。
「あなたはジュビアたちには勝てない!今なら退いても構わないわ」
「ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ。オレは全力で戦うぞ…!!!来るなら来やがれ!!!」
「鉄竜棍っ!!」
ガジルの腕は鋼鉄の棍棒となり、グレイの腹部に向かって飛んでいく。
「うぐぅッ!!!」
グレイはそれを腹と腕で受け止め、足で踏ん張って耐える。だが、仲間がいる壁の方にどんどんと滑らせていき、やがて、壁に激突した。
「ぐあぁぁああっ!!!」
「冷っ…なっ!?」
鋼鉄の棍棒の先端が妙に冷たいと思えば、どんどんと凍り付いていた。
「凍りつけぇぇッ!!!」
グレイは魔力を大いに使ってガジルの全身を凍らせた。冷たい空気が漂う。
「ハァ…ハァ、ハァ…ハァ」
バキィィィイイン!!!
「ちっ…もう出られたのかよ…」
「大気観測!!」
黄髪の少女がそう魔法を唱えると、大気が一瞬だけ震える様な感じがした。だが、体には何の異常もない。
「な、なんだ!?」
「見~つけた…」
「どこですか?」
「いっくよ~。向こうだぁー」
そう言って少女はギルドを出て行く。
「な!?逃げんのか!?オイっ!!!」
「今度会ったら潰すぞ…!!!最後に一発お礼だ!」
ガジルはそう言ってギルドを出る次いでに振り向くと、大きく体を反った。
「鉄竜のォ………」
「ヤベッ!!?全員、下がれぇぇええっ!!」
グレイが警告した直後、右拳を左の手のひらに乗せ、叫ぶ。
「咆哮ォォォォォォォオオオオオオオオオッ!!!!!」
「アイスメイク…
ほぼ同時に叫ばれた。
ギルドに轟いた刹那、大きな爆発が起きた。
大きな城壁に鉄竜の咆哮が激突したのだった。
分厚い城壁は貫通することはなく、完全にガジルの全力の咆哮を受けとめた。
「なっ!?ふっ、まぁ良い…。また、今度会ったらぶっ潰してやる!!!」
そう言い残し、ガジルはギルドを出て行った。
「ハァー…ハァー……ハァー…フゥー。ヤベッ……」
グレイはその場で倒れた。
「どういうこと!?」
「なんなのコレ…!」
「リーナ!?」
「アイツがリーナか…。
「リーナ、今すぐ逃げろっ!!!」
ナツはラルドの言葉に即座に反応して、リーナを逃がすことにする。
「させるかよ!!!」
「行かせるかぁッ!!!リーナは…俺が守る!!!」
ナツはリーナに向かって走るラルドを殴りつけた。
ラルドはその衝撃に耐えることができず、壁に吹っ飛ぶ。壁の一部が砕け、破片が飛ぶ。
「なんだが良く分からないけど…だけど、私だけ逃げるのは嫌!!!私も戦う!!!」
「逃げるわけじゃねぇよ…!俺達が守るんだ!!!」
「ナツ…あたしはどうすればいい!?」
「リーナを…頼む!!」
「分かった…!ナツは!?」
「オレは…ここで食い止める!!!」
ルーシィはずっとナツの背中を見つめてから、言った。
「死なないでね…!ナツ…」
「おう!任せろ!!」
ルーシィはリーナを連れてこの場を去って行った。どんどんと遠くなるその後ろを姿を見つめた後、ナツは向き直る。
すると、前からはラルド、だけではなく、他の四人が堂々と吹き荒れる砂塵の中から現れた。
「
「そこを退いてはくれませんか?」
「死んでも通さねぇ…!!!」
「キャッキャ!!この数を相手にするわけ~?」
「ここはオレが守るッ!!!!」
ナツは堂々と立ちはだかり、天に向かって大きく叫んだ。
* * *
「ハァ…フゥー…ここは……通さ…ね…え…。がふっ、がはっ、ハァ…ハァー!」
「ナツぅ!!」
血を口から下に向かって吐き、ふらふらと立ち上がる。動きはヨロヨロとしていて、また今にでも転倒しそうな態勢だ。
(まだ立つのか!!?)
「ジュビア驚き!!」
「フン、熱い男だ…」
「ボロボロじゃ~ん」
だが、その身体はボロボロ。服も破け、額から血が流れ、体の所々に傷がある。
「オレが…リ……ナ…まも…」
ナツがそう言いかけた時、とうとう、気が薄くなり、次第に遠退いていった。
「やっと沈んだな…
少女が両手を思い切り開けて、大気に伝わる感覚を体の脳に伝える。リーナが大気と当たる空間を探し出し、リーナの所在地を見つけてしまう魔法だ。
「大気観測!……こっち~!」
と、言ってリーナの方に迫っていくのであった。
「捕獲完了…しんしんと……」
空の運命の五人の中のジュビアがそう呟いた。その横には水塊があり、その中にはリーナが入っていた。その口からは息が漏れ、気絶しているようだ。身動きもとれないその状況の中、必死にもがいていたみたいだった。その証拠にリーナには傷がある。
そして、その五人の後ろには傷だらけのルーシィの姿があった。
* * *
「遅ぇじゃねぇか…」
「すいません…少々、手こずってしまいました…。ですが、妖精の尻尾は全滅…させました」
「まぁ、良い…。今はいい気分だ…。行くぞ…終焉の遺跡だ……」
男はそう言って、煙草を投げ捨てた。
男の言った通り、マグノリアの街では所々に身体がボロボロで倒れている妖精の尻尾の紋章を刻む者達がいた。