LIBERAL TAIL   作:タマタ

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第04話: 親愛なるカービィへの手紙

「火竜の翼撃!!!」

 

 

大声がエバルー公爵邸の大広間に轟き、爆音の様な音が鳴り響いた。その後、比べれば小さな音がボスッと音を立てた。男、二人が床に落ちた音だった。

 

 

「ふぅ…なんだったんだ…。コイツら…」

 

「傭兵っす…」

 

 

気絶寸前に言った言葉。

ナツは両手の指を絡め、後頭部で組むと、暇そうに歩いた。

 

 

「!!?」

 

 

ナツの目つき、口元、鼻、表情が変わった。驚愕。

振り向けば、巨体の腕が襲い掛かってきていた。

 

 

「うぉわぁッ!!」

 

 

ナツは態勢を崩しながらもその巨腕を避けた。遠くから見れば、それはかなりの大きさであった。巨人の腕を見ているみたいだ。その大きさはナツの身長くらいだった。

振るわれた巨腕は振り抜くことなくピタッと止まった。その時、またこちら目掛けて襲い掛かって来た。

空中にいるナツは身動きがとれない。

 

 

 

ゴッ!!!

 

 

 

ナツが腕を交差し、なんとか、ガードするが、その威力はかなりのもので轟音とともにナツは吹っ飛んだ。

 

 

「うぐぅッ!!!」

 

 

右目を閉じ、苦しい表情になる。

その表情のナツを不意打ちした何者かが追撃を狙おうと、疾駆していた。その腕はその体に少し合わず、でかい。というか、でかすぎる。

だが、ナツの口は膨らんだ。そして、唇の僅かな隙間から炎がちらっと見えた。

気づいた。

少なからず見えたのか、不意打ちをしてきた男は制止しかけた。だが、ナツの方が速い!

 

 

「火竜のォ…咆哮!!!」

 

 

ナツの放った業火は男に真っすぐ向かった。そして爆発する様な威力で煙を上げた。

砂塵がナツの両手を追う。ナツは床に手をついて踏ん張り、なんとか壁に当たるのを防いだ。

 

 

「んだよ!この野郎!!不意打ちなんてせこいぞ!!!」

 

 

怒っているのか、ナツは片足を床に何度も踏みつけ、とにかく怒る。

 

 

「よくあの状態から反撃をしたな…。さすが、妖精の尻尾の魔道士だ。火竜(サラマンダー)だっけか?」

 

「誰だよ…」

 

 

砂塵から出て来たのは巨体の男。その白髪の上に全部伸びている髪型。前髪はなく、顔が余計に大きく見える。

 

 

「退けよ、邪魔すんな」

 

「退くかよ、仕事だからな、と言ったら?」

 

「黒コゲにしてやんよ!!」

 

「上等だ!!」

 

 

二人の口論が終わり、構える。

 

 

 

ダッ!!!ダッ!!!

 

 

 

ほぼ同時に床を蹴り、凄まじい速度で飛び出した。弾丸の様に飛び出した二人は拳を握り締める。だが、巨体の男の腕は断然に大きい。ナツの全身と同じくらいだ。その腕だけが大きく体に変化はない。腕だけが巨人。

 

 

「うおらぁああッ!!!」

 

「どりゃああッ!!!」

 

 

二人の拳がぶつかり、砂塵が舞い上がる。

二人はそれぞれ、衝撃により、後方に5メートル程度、滑るが、すぐに踏ん張ってから飛び出した。ナツが反撃に出る。

 

 

「いっくぞぉお!!!火竜の…鉤爪!!!」

 

 

ナツが蹴り上げた脚には炎が纏われていて燃え上がる。だが、その蹴りは空だけを裂き、相手には掠りもしない。

 

 

巨腕(ジャイアント)!!!食らえやァ!!」

 

 

大きくなった腕がナツの全身にぶち当たった。

 

 

「ぐぅぁッ!!」

 

 

ナツが吹っ飛ばされる。そのまま、壁にぶち当たり、砂ぼこりが舞う。その中から数秒後、直ぐに砂ぼこりを円状に風だけで退かし、飛び出してきた。

 

 

「ふっ…!」

 

 

微笑んだ巨体の男の腕はすでに戻っている。

 

 

「笑ってんじゃねぇぞ!!こらぁ!!」

 

「雑魚が…!」

 

「んだと!!!ゴラァア!!!」

 

 

ナツがキレた。

思い切り拳を振るう。だが、巨体の男には届かない。バックステップされていた。だが、ナツは直ぐに追いつく。

 

 

「バカみてぇに追って来てんじゃねぇよ!巨拳(ジャイアント)!!」

 

 

巨大な拳がナツを襲う。

 

 

「あがっ!!!」

 

 

ナツはまたしても吹っ飛び、床に何度も強打した。そして、踏ん張って止まる。

 

 

「なんだよその魔法!!!」

 

巨体(ジャイアント)…体の一部分を巨大化させる魔法だ。その威力もあげることができるが、制限もあるがな。魔力を大きく消耗するが、体全体を大きくすることだってできる」

 

「へぇ…面白いな」

 

「こちらも訊きたいことがある。貴様の名前はなんだ?」

 

「ナツ…ナツ・ドラグニル…おめぇは?」

 

「ラルド…だ」

 

 

互いに名前を言い合った後、また構えだした。

 

 

「さて…少し本気で行くぜェ!」

 

「燃えて来たぞ!!」

 

 

ナツの口癖が発せられた。直後、巨大なラルドの拳がナツに襲い掛かる。だが、ナツは跳躍して躱した。それから、数秒くらい滞空してから床に降り立ち、炎の拳を振るう。

 

 

「オラァ!!」

 

 

ナツが振るった拳がラルドの腹に直撃する。ラルドは少し後退するが、直ぐに態勢が立て直った。

 

 

「いい拳だ。だが、効かねぇな…」

 

 

口の右端をつり上げて見せ、不気味に微笑んだ。拳が振るわれ、ナツは大きく躍る。

 

 

「逃げんなよ!!!」

 

「逃げかっよ!!火竜の咆哮!!!」

 

 

炎の塊がラルドに襲いかかる。炎の中からなにごともなかったかの様にラルドは巨大な腕を盾に向かってきた。

ナツは驚愕しながらも巨大な脚や拳、腕を、全身を使って避ける。バク転からの側転、さらに右に飛んで後ろに後退してからくるっと回って着地した。

 

 

「逃げてるじゃねぇか…よ!!!」

 

 

ラルドが振るった巨大な拳をナツは両手受け止める。稲妻の様な痛みが全身を後ろ目掛けて駆け巡る。

 

 

「うぐぅ…!」

 

 

だが、耐えている。というよりギリギリ、堪えている。踏ん張る脚が地道にじりじりと下がっていく。床が少しだけ浅く削れる。

 

 

「喰らいやがれ!!!」

 

 

巨大な拳が真っ直ぐナツ目掛けて振るわれた。その巨拳はナツを押し退け、轟音を轟かせた。大広間に轟音が何度も響く。

ナツはガードしているが、大きく吹っ飛ぶ。半端なものではない速度でナツは吹っ飛んで行く。

ナツは止まろうと、体を反転させる。

天地が逆転した。床を手でなんとか、触り、勢いを殺す。その時、手がなにかに当たった。思わず掴んだ。

刹那、目の前が真っ白になった。

 

 

「消えた…?」

 

 

ラルドは驚愕し、唖然とその光景を見つめ続けた。ただ一人だけのこの大きく広い大広間で。

 

 

 

 

「ナツ!!!」

 

「お!!?」

 

 

ナツはいつの間にか下水道に瞬間的に移動していた。

 

 

「なぜ貴様がバルゴと!!!」

 

「あんた…どうやって!!?」

 

「ラルドはどこだ!!?ん!?おめぇかぁ!!!」

 

ナツが掴んでいる正体はバルゴ。先程、掴んだのはバルゴの服だったのだ。だが、今、ナツはバルゴのことをラルドだと勘違いしている。

 

 

「こんの野郎!!!ラルドぉぉぉおおおお!!!」

 

 

掴んでいる左手で服をぐいっと強引に引っ張り、炎を纏った右拳で思い切り、頬を殴った。地面に叩きつけられたバルゴは瞬殺。地面は大きく割れ、砂ぼこりが舞い、地面の破片が飛ぶ。

 

 

「ルーシィ!!!行くよ!!」

 

「うん!!」

 

「エビ!!」

 

「我、魔力を糧に…力を与えよ!!!ブースト!!!」

 

 

リーナが魔法を唱えると魔力が高まり、ルーシィを赤いオーラが包んだ。更に、リーナは続ける。

ルーシィの力が全身の芯から湧き上がる。

 

 

「なにコレ!?」

 

「力、増幅の魔法よ!!!」

 

「アリガト!!」

 

 

鞭を持ったルーシィは鞭を器用に振るい、エバルーの首に巻き付けた。苦しそうにするエバルーに容赦なく鞭を思い切り上にあげる。

 

 

「あんたなんか…」

 

 

キャンサーとルーシィが滞空しているエバルーを前と後ろの両方から挟み込んで狙う。

 

 

「ワキ役で十分なのよっ!!!」

 

 

ルーシィは見事、鞭を振るい、着地した。キャンサーも鋏を使い、切り刻んだ。

 

 

「ハデにやったな。ルーシィ!!……あ!!ラルドの野郎!!!」

 

 

「「…ラルド?」」

 

 

この後、ナツがエバルー公爵邸の中を走り回ってラルドを探すハメになってしまったのであった。

 

 

 

 

カービィ・メロンは過去のことをすべて語った。

父は腕を自ら切り落とし、作家を辞めたこと。そして、その後、すぐに自殺したことを。

 

 

 

「私が…私があんなことを言わなければ…父は死ななかったかもしれない…。それがそれが、なんとも悔しくて私の一番の後悔なんです…」

 

 

ナツはその言葉を納得しない様子で聞いていた。ちょっとだけ首をかしげている。リーナは同情している表情で静かに聞いていた。

 

 

「だからね、せめてもの償いに父の遺作となったこの駄作を…父の名誉のためこの世から消し去りたいと思ったんです」

 

 

カービィはマッチを擦って火をつけた。

 

 

「これで父もきっと…」

 

「待って!!」

 

 

ルーシィの言葉がまるで、それを解いたかのように本は輝きだした。

 

 

「な…なんだコレは!!!」

 

 

本の題名、DAY BREAKは浮き上がり、急に入れ替わり始めた。そして、できた言葉は、

 

 

DEAR(ディア)KABY(カービィ)!!?」

 

 

移り変わった文字はそう書かれていた。本当に不思議で感動的な瞬間だった。

 

 

「彼がかけた魔法は文字が入れ替わる魔法です…」

 

「凄いわね。三十年間もずっと魔法がその本に生き続けるなんて…。相当な魔導士だわ…」

 

 

リーナがあまりの驚きに感激している。

本は自ら開いてまた光り出した。

そして、本から出た無数の文字は空へと舞い上がり、踊り始めた。絶景と言えるほどの光景を目の当たりにし、皆は見惚れ、幸せな心弾むような感情へと変わった。この魔法は人を幸せにしたのであった。

文字は竜巻という風に乗るように舞い、その範囲を広げた。

 

 

「わぁー!!!」

 

 

リーナが感激。

 

 

「きれー!」

 

 

ハッピーが喜ぶ。

 

 

「おおっ!!!」

 

 

ナツの好奇心が上昇。

 

 

「彼が…作家を辞めた理由は…最低な本を書いてしまった他に……」

 

 

ルーシィが微笑みながらまた、その文字が踊る絶景を眺めた。

 

 

「最高の本を書いてしまったことかもしれません…カービィさんへの手紙という最高の本を」

 

 

無数の文字は何かに従うかの様に列を成し、本の中へと戻り、閉じられた。それと同時にあの光り輝く本は普通の本へと戻った。

カービィの目からは涙が流れた。

そして、頭の中を父のいつも言っていた言葉が過ぎていった。

 

 

 

『いつもお前のことを想っていたよ…』

 

 

 

「私は父を…理解できていなかったようですね…」

 

この出来事は皆に幸せという感情を捧げ、喜び、笑顔を与えた。

ケム・ザレオンの遺作はただ見れば、ただの駄作。だが、見方を変えれば、それは幸せで世界一の本になったのであった。

 

 

 

あの後、カービィとその妻はナツに言われた通り、報酬は払わず、実家に帰り、この世界一の最高の本をじっくりと読んだのであった。 




ラルドさん…新しいオリキャラですね。次回の次回ほどにまた登場するかな?多分ですが…。

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