LIBERAL TAIL   作:タマタ

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第23話: 覚醒、秘められた真の力

今宵、夜空に星は無く、孤独な月が幻想的に光っていた。月が照らす巨大な水晶は綺麗に反射し、輝く。その頂上に点在する黒い点。2つの点の前に1つの点、それとそこから少し離れたところにまた1つの点が散開している。その周囲は煙に囲まれ、まるで、煙幕の様であった。その黒い点は見え隠れし、その状況を詳しく覗える事はできなかった。やがて、徐々に煙が晴れた。そこには両手を広げ、大きな背中を見せた男、シモンの姿があった。一同はその光景に言葉を失っていた。束の間、シモンはその場に力無く横臥した。

 

「……エル…ザ…」

 

倒れるシモンに駆け寄るエルザ。その左目には涙が浮かべられていた。突如として現れたシモンは2人を庇い、自らの命を投げ出した。そして、そのシモンを軽蔑し、あざ笑うのはジェラールだった。

 

「まだうろうろしてやがったのか、虫ケラが」

 

「…………」

 

ナツはその光景をただ呆然と見届けていた。エルザがシモンに駆け寄り、その首に腕を回して、頭を上げる。だが、その首に力は無く、重々しいままである。

 

「なんでお前が!!!逃げなかったのかシモン!!!」

 

必死に声を掛けるが、返って来る声はない。シモンの顔に生気は消え失せはじめ、力無い声が薄々と聞こえる。覚束ない目は焦点が合っていなかった。

 

「よ…よかった。はぁ……はぁ。いつか…おまえの役…に立ちたか――ゲホッ、ガファ!」

 

その力無き声は激しく咳き込み、途絶えられた。エルザが心配そうに涙を流しながら必死に声を掛ける。まるで、生きろ、そう語りかける様に。

 

「分かった!!!いいからもう喋るな!!!」

 

そんなエルザの声が瀕死状態の為、聞こえていないのか、それとも自分はもう死ぬと覚悟し、言葉を残そうとしているのか、シモンの言葉は続いていた。

 

「お前は…いつも…いつも…優しくて…優しくて……はぁ…ウグゥ、ガハッ!!」

 

その呼吸は荒く困難になっている。声も細く、弱弱しい。既に彼は死を覚悟している。エルザはそれを受け止める事が出来ず、全身を震わせていた。

 

「………………」

 

その後、シモンが声を出す事は無い。

 

「シモン…」

 

ふと、シモンは少年期だったころのエルザの微笑ましい笑顔を脳裏に浮かべた。その笑顔に現在の自分も微笑み、これが走馬灯であることを察した。そして、眼帯の逆の眼から大粒の涙を流し―――

 

(大好き…だった……)

 

静かにその息を引き取った。まるで、最大の幸せをつかみ取った表情でろうそくの火が消える様に目を閉じた。その目はもう2度と永遠に――――開かない。

 

「イヤァァァアアアァ!!!」

 

エルザの凄まじい絶叫が響く。シモンの死がまるで、エルザの声となり、感情となった様であった。

 

「くだらん!!!実にくだらんよ!!!そういうのを無駄死にっていうんだぜ!!!」

 

「シィモォォオオォン!!!」

 

ジェラールの高笑い、嘲笑いがこの頂上に反響し、儚い命を無駄死にと言い付けた。その声は夜空へと舞い上がり、そして、ある男の耳に大いに刺激を与える。そして、その男が束の間、足跡を残して―――消えた。

 

「大局は変わらん!!!どの道、誰も生きてこの塔は出られんのだからなァ!!!」

 

ジェラールの嘲笑う声が有頂天に達する、まさにその刹那。

 

「黙れぇぇ!!!!」

 

燃え盛る炎を拳に纏ったナツが思い切り感情を拳に――ジェラールの頬へとぶつけた。

 

「ごはァ!!」

 

ジェラールは逆らうことなく、吹っ飛び、床を滑る。その口から大量の血が噴き出していた。だが、直ぐに立ち上がり、愕きの光景を目にする。

 

「バキ、ガブ…もしゃもしゃ」

 

喰っていた。食べ物でも炎でもない―――魔水晶《エーテリオン》のカケラであった。

 

「お…お前…何を…」

 

(コイツ…!!!エーテリオンを喰ってやがる!!!)

 

ジェラールの表情が驚愕に染まる。その信じられない光景に驚愕と恐怖を同時に感じ取るジェラール。

 

「オオオオォォォオオォオ!!!!」

 

ナツの雄叫びが木霊する。凄まじい炎が噴き上がり、魔力が衝撃波を撒き散らす。床が砕け、気が震え、水晶を焼く。

 

「アァアッ!!!」

 

叫び声の様な絶叫の様な声がナツの口から吐き出される。ナツは大量の炎を噴出しながら、水晶の床に両腕を思い切りたたきつけた。まるで、衝動的にしている様にも見える。その衝撃が瞬く間にジェラールを襲う。

 

「ごはぁ!!!」

 

「何てバカな事を!!エーテルナノには炎以外の属性も融合されているんだぞ!!!」

 

「がっ…ぐはぁああぁ」

 

ナツの絶叫が鳴り渡る。明らかに苦しみ、明らかに自滅である。それを内心、恐怖から解かれたように嘲笑うのはジェラールである。だが、ナツは一同の予想を超越していた。

 

「なっ!!?」

 

(まさか…ドラゴン!!?)

 

エルザが叫び、ジェラールが内心で驚愕する。

 

「オォオオォォオォオオ!!!!」

 

ナツの体から天に向かって高々と噴出したのはドラゴンの形をした魔力であった。その凄まじい勢いと迫力に皆が言葉を失う。ナツの咆哮はやがて、治まり魔力の暴走も止んだ。束の間、沈黙が流れる。

 

「こいつ…エーテリオンをとり込んで―――ぐほぉぉ!!!」

 

ナツは一瞬で距離を詰め、膝蹴りを放つ。顔面に放ったナツはそのままの状態から片腕を振り落し、ジェラールの腹部へと炸裂させる。そのまま、全力を腕へと乗せ、床を砕く。そのまま、勢いを止めず、大音声を放ちながら、下の階、下の階へと床を砕きながら、降りていく。

 

「お前がいるからァァア!!エルザは涙を流すんだァァア!!!」

 

床を突き破り、段々と勢いよく下っていく。床は粉々に砕け散り、その原型を留めてはいない。魔力の漏洩も更に激しくなっていた。

 

「オレは約束したんだ」

 

そして、ナツは全力の勢いを静めること無く、そういう。そして、もう2度と見ることできない筈のあの太陽に様に明るく温かいシモンの笑顔を脳裏に閃かせた。

 

 

 

 

 

 

『ナツ。エルザを頼む』

 

 

 

 

 

 

まるで、天からの声であった。

 

「約束したんだぁあぁあっ!!!!」

 

その叫び声から更に勢いが強くなっていた。すると、ジェラールが反抗の意思を見せ、叫ぶ。

 

「こざかしい!!!流星(ミーティア)!!」

 

そういうと、ナツの拳から逃れ、空へと逃げていく。その高速を誇り、見下ろしながら軽蔑の笑みを浮かべる。

 

「この速さにはついてこれまい!!!」

 

だが、粉々になった中で人一倍、大きい床の破片を見つけ、その間に入り込む。そして、両脚で両側の大破した床に足を預け、力強く踏ん張る。一瞬、ナツの落下が止まった、と思った刹那―――けたたましい破裂音が聞こえた。

 

「がはぁっ」

 

一瞬の間、ナツはジェラールの腹部へと到達し、その勢いを充分に発揮した一撃を腹部へと炸裂させた。拳がジェラールの腹部へと食い込む。ナツは束の間、あの場所から超速で大破した床を蹴って、上昇し、ジェラールに追いつくという超絶な技を見せたのだ。

 

「バ…バカなっ!!!」

 

再び、頂上の床を突き破り、頂点の階へと到達する。その光景を驚きながら見つめるのはエルザであった。

 

「オレは負けられない!!自由の国をつくるのだ!!!」

 

そう言い放ちながら、ナツの拳から逃れる。その脳裏には酷く辛かったあの少年期の頃の苦しい情景が浮かばれていた。

 

「痛みと恐怖の中でゼレフはオレに囁いた。真の自由が欲しいかと呟いた!!!そうさ…オレにしか感じる事ができない!!!」

 

そう言うと、皮肉で邪悪な笑みを浮かべながら、闇に染まった雰囲気で訴える。ジェラールはただならぬ異常な優越感に浸っていた。

 

「オレは選ばれし者だ!!!オレがゼレフと共に真の自由国家を作るのだ!!!」

 

「それは人の自由を奪ってつくるものなのかァアァアア!!!」

 

そんなナツとジェラールの言葉の競り合いが続く中、床に立ち上がるリーナの影があった。先程までは意識を手放し、気絶していた筈のリーナが気力で吹き返したのだ。そして、そんなリーナは空を見上げ、状況を把握すると、よろよろと歩きながら、エルザへと話しかける。

 

「エルザ…さん。私をあそこまで…飛ばせますか?」

 

「な…リーナか!?大丈夫なのか!!?」

 

「そんな事…言っている場合じゃないんです!!!お願いします!!!エルザさん!!!」

 

が、そんな意志も虚しくリーナがその場に力無く倒れ込む。それに動じてエルザが駆け寄ろうとするのをリーナが手で静止させた。そして、立ち上がる。

 

「私だって…シモンさんと…約束したんだ!!!絶対、守らなきゃいけない!!!」

 

決して揺るがないその瞳。真っ向からその瞳とぶつかるエルザ。そう訴えかけるリーナに圧倒されたエルザは別空間から巨大な剣をとりだした。そして、それを両手で持ち、その先端を床に突き刺す。

 

「分かった!!!私がやろう!!!」

 

と言い放ったのであった。

 

 

 

「くっ」

 

エルザにやられた時の傷が痛みだし、発動し掛けていた煉獄砕破(アビスブレイク)を停止させた。いや、強制的に停止した。

 

「クソォ!!!まだだァア!!!」

 

と、必死に叫びながら、再び詠唱を唱え、がむしゃらに魔力を高めだす。が。

 

「うぎっ…!!?」

 

突如、全身の骨が軋む様な激痛を覚え、体が硬直する。そして、ジェラールが脳裏に浮かべたのはリーナの強大な魔法、星月夜の秘劔(スターライトセイバー)であった。あの時のダメージが今になってジェラールの体に痛感させたのだ。

 

「有り得んのだ!!!こんな事が…こんな事が起こるなど!!!オレはゼレフと共にっ!!自由の国を…!!!!」

 

その時、突如、下から襲い掛かる様な声が聞こえたのだった。

 

「いけぇええ!!!」

 

その声の直後、リーナが超速で上昇し、ジェラールの頭上まで到達した。下を見れば、大剣を振り切った後のエルザがいた。あの大剣に乗せたリーナをここまで飛ばしたというのだ。

 

「有り得なくない!!!ナツとエルザが生きているのもシモンさんの想いが繋がっているから!!!私達がここまで来れたのも仲間の想いが繋がっているから!!!さっきアンタが魔法を発動できなかったのも、私とエルザさんの想いが繋がっているから!!!」

 

そうやって、訴えかけるリーナの声は魔力と同様に増していく。その奥ではナツが水晶を蹴り、此方へと接近していた。

 

「仲間の想いは繋がっているんだ!!!!」

 

「お前は自由になんかなれねぇ!!!亡霊に縛られてる奴なんかに自由はねぇんだよ!!!」

 

その時、ジェラールの目には映っていた。古代、永遠の眠り付いたと記される決して現れる筈のない“竜”を。そして、それを光で包み込み、優しく支える天空の“神”を。

 

「ナツ!!!受け取って!!!!」

 

そう言うと、リーナは手を翳し、ナツへと向ける。その手は少しずつ耀きだし、やがて、大きな光となった。そして、それは偉大な耀きを放ち、別れ、小さな光の魂と化した。

 

「私の全てを込める!!!!天穹の魂抱擁(スピリット・レイ)!!!!」

 

眩い光の魂が其々、展開し、躍動感溢れながら、ナツの周囲を踊り回る。まるで、光の魂は暗澹と横たわる大気を射貫く様に耀きを増した。その光跡は如何にもナツの周りを躍っていた。やがて、光の魂がナツへと染み込み、ナツを光輝させ、筋骨隆々たる腕を伝い、紅焔を纏った隕石の様な握り拳へと蒐集する。紅焔が耀き、黄金となり、金塊の様な揺らめく凄まじい力を秘めた光焔が――――振り落された。

 

「自由を解放しろォォォオオォオオオ!!!!ジェラァアァアアル!!!!」

 

刹那、塔を覆う程の大量の風塵が重々しい響きと共に爆発したのだった。ありとあらゆる物が砕け散り、爆発的な被害を及ぼす。頂上の階はほぼ大破し、無数の瓦礫が飛来し、轟音が鳴り響く。ジェラールは凄まじい速度で塔の芯部分を突き破りながら、塔の中間辺りで大きな爆発を生じさせた。塔の半分は崩壊し、瓦礫の山が残る。風塵により、状況はあまり詳しく覗えない。だが、これだけは確信していたのがある。これはこの光景を目の当たりにしている者全てが悟ったことである――――妖精の尻尾(フェアリーテイル)が勝利したのだ。

 

 

 

 

 

 

『これが滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)天空神(ゼウス)!!!!!』

 

 

 

 

 

 

立っていたのはナツとリーナであった。

 

 

 

――こうして、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の勝利により―――“終わろう”としていたのだった。

 

 

 

 

 

 

第23話

§覚醒、秘められた真の力§

 

 

 

 

 

 

この全ての元凶であるジェラールが崩れ落ちた。そして、ここに妖精の尻尾(フェアリーテイル)の勝利で終わった合図の様にナツとリーナが見合わせ、笑みを浮かべる。すると、突如、ナツは笑みを浮かべながら、倒れ込んだ。

 

「ナツ!!」

 

リーナがしっかりとナツを支えるとエルザが急速に駆け寄って来る。

 

「お前たちはすごい奴だ。本当に」

 

そういいながら、エルザは2人を両腕で包み込み、嬉しさのあまり少しの涙を左目から流した。突然、塔の魔力の漏洩が急速に促される。

 

「!!」

 

「な、なに!!?」

 

エルザが愕き、リーナが言葉を上げる時、既に塔の崩壊が促進していた。

 

 

 

塔の頂きから段々と下に降りていく様に魔力があらゆる方向に噴出しはじめる。

 

「塔が…!!」

 

「何アレ!!?」

 

「ま…まさかエーテリオンが暴走してるのか!?」

 

グレイがそう予測でしかない声を放つ。だが、その予測は明瞭していた。確かに魔力が暴れはじめる様に荒々しく噴き出している。

 

「暴走!?」

 

「元々、あれだけの大魔力を一ヵ所に留めとくこと自体が不安定なんだ」

 

ハッピーが付け足す。その付け足しに更に納得した総員は更なる不安を積もらせた。中の人物達はどうなった、次々に不安が脳裏を飛来した。

 

「誰が助かるとか助からねぇとか以前の話だ。オレ達を含めて………全滅だ」

 

と、グレイが言うと共に塔の崩壊がすぐそこに迫っていた。

 

 

 

「くっ、はぁ…はぁ…」

 

「うぅっ!」

 

エルザはナツを背負い、リーナは瓦礫を跳んで懸命に落下する水晶を避け回った。しかし、互いに息が荒くなり始め、速度も段々と遅くなっていった。

 

「アレ…!?シモンさんは!?」

 

「………中だ」

 

そのエルザの表情には慟哭と罪悪感が混じられていた。助けたかったはずだ。だが、現実を理解し、必死に衝動的な感情を押し殺し、自ら背を向けた。その辛さがリーナには充分過ぎる程に分かっていた。だから、左目を潤わすエルザを盗み見るだけで何も口にはしなかった。

 

「あっ…うわっ!」

 

「リーナ!!うあっ」

 

魔力の爆発的に噴出したせいか、2人の足元が揺らぎ、体勢を崩されて転ぶ。エルザは背負っていたナツを放ってしまっていた。曲がり曲がるほぼ液体状となった水晶を見、エルザが思考する。

 

(器…魔水晶(ラクリマ)をも変形させるほどの魔力か……。想像以上の破壊力を秘めているだな。これでは外に出ても爆発に巻き込まてしまう)

 

エルザは思考の末、怒りを床へとぶつけた。拳を振り上げ、思い切り床へと叩き付ける。

 

「くそ!!!ここまでか!!!」

 

と、叫びながら、放られた安らかに目を閉じるナツの顔を眺めた。すると、後ろから訴えかける様に叫ぶリーナがいた。

 

「諦めちゃ駄目です!!まだ…まだ手はある筈です!!!」

 

「…そうだな。諦めるものか…」

 

と、呟きながらエルザはすくっと立ち上がる。その背中には勇ましいまるで、その姿を見ている者を魅了する何かがあった。

 

(私とエーテリオンを融合できれば、この魔力を操り爆発を止められるか!!?)

 

激しい思考の末、エルザの表情、眼差しが覚悟へと変わった。

 

(これにかけるしかない!!!)

 

「あぐっ」

 

「エルザさん!!?何をっ!!!」

 

リーナは這いながらもエルザの方へと必死に近寄る。だが、水晶が揺らぎ、リーナを転がらせてそれを阻止する。構わず、リーナは力一杯に立ち上がるが、直ぐにその場に膝を折る。そして、リーナの声に気が付いたナツが静かに目を開ける。

 

「うう…ぐぅ。リーナ…スマン」

 

水晶へと手を突っ込んだエルザは痛みをこらえながらも僅かに心にもない歓喜をする。リーナは必死に這い、エルザに死に物狂いで訴える。

 

「エルザ…」

 

「ナツ!!?」

 

「な…何してんだ…お前……体が水晶に…」

 

「ナツっ!!!お願い、エルザさんを止めてぇっ!!!」

 

リーナは涙を浮かべながら、そう叫び、必死に体を這わせる。エルザはその姿を横目で見つつ、ナツへと目を向ける。そのナツは驚愕としていた。明瞭な表情である。

 

「エーテリオンを止めるにはこれしかない」

 

「どういう事だ?エーテリオンを止める?―――っ!!」

 

その瞬間、ナツは辺りが膨大な魔力によって荒れ狂っているという事を初めて理解した。動揺のあまり気が付いていなかったらしい。

 

「じきにこの塔はエーテリオンの暴走により、大爆発を起こす。しかし、私がエーテリオンと融合して抑える事ができれば」

 

「バカヤロウ!!!そんな事したら…お前が!!!」

 

「エルザさん止めてっ!!!嫌っ!!!」

 

「うあっ」

 

必死に痛みに堪えながらもじりじりと体を水晶へと入れていく。その度にエルザは短い悲鳴を上げる。だが、その闘志は揺るがない。

 

「エルザ!!」

 

「お願いだから…やめて!!!」

 

「何も心配しなくていい。必ず止めてみせる…」

 

「ああぁぁあ」

 

エルザの悲鳴がやがて、少しずつ少しずつ大きな悲鳴へと変わる。尋常ではない痛みだと考えられる。

 

「お願いだから……お願い…だから…」

 

リーナはその場に泣き崩れ、顔を両手で覆う。その指の隙間からは涙が零れ落ちていた。

 

「ナツ…リーナ…」

 

すると、半分体を埋め込んだエルザが手を伸ばす。這い動くナツの頬に、泣き崩れるリーナの頬に優しく当てた。

 

「私は妖精の尻尾(フェアリーテイル)なしでは生きていけない。仲間のいない世界など考えられない」

 

優しい言葉を2人は沈黙しながら、聴いていた。這っていたナツは動きを止め、泣いていたリーナは顔を上げた。

 

「私にとって、お前たちはそれほどの大きな存在なのだ」

 

「エルザ…」

 

「嫌ぁっ!!」

 

泣き崩れ、必死に手を伸ばすが、その指に絡まることなく、虚しく離れていく。ナツの手がリーナの手が、エルザの手から離れていく。エルザがこの世から静かに去ろう、としている。

 

「私が皆を救えるのなら何も迷う事はない。この体など…」

 

エルザは親愛なる仲間たちの顔を想起していた。ナツ、リーナ、ハッピー、ルーシィ、グレイ、ジュビア、ウォーリー、ミリアーナ、ショウ、フェアリーテイル………それを最期にし、覚悟と共にエルザは―――水晶の中へと全身を入れ込んだ。

 

「くれてやる!!!」

 

手を大きく広げ、水晶の中へと入り込む。

 

「いやぁああ!!!」

 

「エルザ!!!出てこい、エルザ!!!」

 

リーナが泣き叫びながら、水晶を叩き、ナツが怒り叫びながら、水晶を叩く。だが、エルザは既に水晶の中―――もう死んでしまう運命。

 

「ナツ、リーナ…皆の事は頼んだぞ」

 

そう言うと、エルザは優しくその左目だけに涙を浮かべながら…

 

 

 

 

 

 

『私はいつもおまえたちのそばにいるから』

 

 

 

 

 

 

「エルザ…」

 

「エルザさん…」

 

二人が呟き、大粒の涙を流し、水晶の中で段々と消えそうになるエルザへと潤った眼を向け、叫んだ。

 

「「エルザァァァアァァァアア!!!!」」

 

刹那―――全ては“終わった”


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